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84. 転送

「えっ!? うそっ! なんで……そんなはずは……」


 リオがオレ達の頭の上でそう声を上げたのは、逃げ出した大砂蛇を追いかけておよそ十分程度した頃だった。


 太陽は完全に沈んでおり、辺りは真っ暗だ。

 月明りだけを頼りに、リオの指示に従って走っていたのだが、そのリオの進みが突然止まり、オレの肩に降りてきた。


「リオ? どうしたんだ?」


 そう尋ねながらも、止まってくれたこと自体は、実は非常にありがたかったりする。夜の砂地の上を走り続けることは、これが結構辛いんだ。


 本当はその場に座り込みたいところだが、それはなんとか思い止まり、息を大きく吸いながら呼吸を整える。


 ファムとラヴィは、やはりというべきか、全然呼吸が乱れていないようだ。

 ただ何事か分からず、二人で顔を見合わせながらオレ達の方に寄ってきた。


「……消えた」


 リオがそうぽつりと呟いた。


 ん? 消えた?

 それって、大砂蛇が消えたってことか?


「逃げられたのか?」

「そんなハズないよ! そんなハズ……ないんだけど……」


 一旦は大きくなったリオの声が、だんだんと小さくなっていった。


 こんなリオは初めて見るかも。

 いつもの自信満々な態度が、すっかり鳴りをひそめてしまった感じだ。


 オレは思わずファムやラヴィに視線を向けた。

 二人とも顔を見合わせ、それから首を横に振った。


 どうやら二人も大砂蛇の気配は感じないということだろう。


 オレとしては、正直、あんな巨大なヤツをわざわざ相手しなくても、新たに普通サイズの大砂蛇を見付けて狩れば問題無いと思うのだが、リオとしてはまだ納得がいかないようだ。


「あんなに大きい個体がいきなり消えてしまうなんて……」

「逃げ足が速くて、索敵範囲から外れたわけでは……」

「それは無い」


 オレの問いかけに、リオはきっぱりと即答した。


「完全に索敵範囲内だった。でも、なのに、突然消えた。こんなの、初めてだよ……」


 リオにここまで言わせるとは。

 あの巨大大砂蛇は、図体だけでなく、その行動も十分に化け物だったということなんだろうか。


 それにしても、消えたというのがよく分からないな。

 どういうことなんだろう?


 まさか、転移テレポートでもしたとか?

 いやいや、まさかね。


「その消えた地点というのは? 近いのか?」

「距離は、そう離れていないよ。すぐそこの砂丘の先だね」

「とりあえず、そこまで行ってみるか」


 ファムとラヴィも頷いている。

 それを見てから、オレは歩き出した。


「ちなみに、近くに他の大砂蛇などがいたりは?」

「ううん、いないよ。少なくともボクの索敵範囲に、他の生命反応は一切無い」

「そうか」


 それを聞いて少し安心した。

 少なくとも臨戦態勢でいる必要はないってことだからな。


 同時に、ターゲットを逃してしまったことや、他にターゲットになりうる存在もいないのは少々残念でもあるけど。


 満月に近い形の月明りとリオのナビゲーションを頼りに、オレ達は砂丘のように盛り上がっているところを登った。頂上と思われるところに立ってから気付いたが、そこは砂の丘というよりも、真ん中がへこんだ大きなすり鉢状の縁だった。


 ぐるりとその形状を見て、一瞬イヤな予感がした。

 アニメなんかではよくありそうな、アリ地獄のようなものが頭に浮かんだんだ。


「リオ?」

「うん?」

「生命反応は、無いんだな?」


 この状況を見てしまうと、どうしても確認したくなる。

 巨大な蛇の次は巨大なアリ地獄なんて、考えただけでぞっとするからな。


「うん。無いよ。アリ一匹いないね」


 ……オレの考えていることが分かって、わざわざアリを持ってきたのか?

 それともただの偶然?


 まあ、いいや。それはちょっと置いておこう。


「……この大きなすり鉢状の中心にある、あの黒いのは、ただの岩?」

「みたいだね」


 とりあえず、ホントに危険は無いみたいだ。


 オレがそう安心したところで、ファムがリオに尋ねてきた。


「で、大砂蛇が消えたのはどの辺なの?」

「ちょうど、今言っていたあの黒い岩の下辺りだね」

「そう」


 リオの返答を聞くやいなやファムとラヴィはすり鉢状の傾斜を降り始めた。


「お、おい! 危ないぞ」

「何が危ないの? 生物は何もいないんでしょ?」

「そうですよ。全然問題無いですよ!」


 オレの言葉に対し、ファムとラヴィは斜面を滑りながらそう返してきた。


 確かにそうかもなんだけど……


 さらに、オレの肩に止まっているリオも、二人と同意見のようだ。


「トーヤ、心配のしすぎだよ」


 うっ……

 そうかもな。


 あんな大昔の怪獣映画のような巨大蛇を目の当たりにしてしまったから、ちょっと慎重になり過ぎているのかもしれない。


 オレは一度大きく息を吐き、二人に続いて斜面を下り始めた。


 オレが下まで降りた時、ファムとラヴィは既に中心の岩のところで何かを話していた。


「どうだ? 何かあったか?」

「別に何も。砂と岩しかないわ」


 オレの問いに、ファムがそう答えた。


 そうだよなぁ。見ての通りだよなぁ……


「リオはどうだ?」

「特に変わったことは無いみたい……」


 オレはぐるりと周囲を見渡した。

 今オレ達が降りてきたところと同様、周囲は全て傾斜になっている。


 それほど角度があるわけではないが、もしかしたら戻るのはちょっと苦労するかもな。


 そんなことを考えていた時だった。


 突然、オレの目の前が暗くなった。

 月明りしかない夜の砂漠の中で、さらに暗くなったように感じたんだ。


 ――いや、違う!


 オレはすぐに自分の間違いに気付いた。


 周りが急に暗くなったんじゃない。

 むしろ逆だ。


 オレの後ろがいきなり明るくなったんだ。

 そしてオレ自身がその光を遮っているために、目の前が暗くなったように感じたんだ。


「ラヴィ!」


 突然の光にも驚いたが、むしろファムの叫びに反応してオレは振り向いた。


 ――なっ!?


 オレの目に飛び込んできたのは、岩の上に乗っていたラヴィが光に包まれて消えてしまう瞬間だった。


 一瞬、オレは目の前で起きていることが理解できなかった。


 ファムが光の眩しさに手をかざしながらラヴィの名を叫ぶ。

 リオがオレの肩から飛び立ち、岩の上に降り立つ。

 だが、それはラヴィが既にその姿を消した後だった。


「リオ、一体何が起き……」

「リオ! ラヴィはどうしたの! どうなったの!」


 ファムがオレの言葉を遮り、もの凄い勢いでリオの元に駆け寄った。


「落ち着いて、ファム。今のは転送魔法だ。ラヴィは何処かに転送させられたんだ」

「転送!? 何処に!」

「……それは分からない。少なくともボクの索敵範囲の外みたいだ」

「そんな……」


 ファムがその場に倒れ込みそうになるのを、オレは慌てて支えながらリオに問いかけた。


「リオ。魔法の痕跡を、何か辿れないのか?

 何処に飛ばされてしまったのか……」

「ちょっと待って。今解析している」


 解析?


 リオは足元の岩をじぃっと見つめている。


 もしかして、この岩が?


「……解析は済んだ……けど」

「どうなんだ? 転送場所は分かったのか?」


 ファムとオレが見つめる中、リオは首を横に振った。


「この岩に組み込まれているのは、間違いなく転送の魔法陣だよ。けど、特定の場所に転送するものじゃなく、これと対となるモノがある場所へ転送される仕組みのようなんだ。だから、それが何処にあるのかまでは、現段階では分からない」

「そんな……」


 ファムの体に力が無くなるのを感じる。

 オレは思わずファムの肩をぎゅっと抱きしめていた。


「大丈夫だ!」

「……トーヤ」


 ファムが今にも泣きそうな顔でオレを見上げてきた。

 それを見ながら、オレは同じ言葉を繰り返した。


「大丈夫だ。ラヴィがそう簡単にどうにかなるもんか。絶対に大丈夫だ」


 ファムとオレの視線が絡む。


 オレはファムを見つめながら頷いてみせた。

 そこに、絶対に大丈夫だから、という強い想いを込めて。


 根拠なんか無い。そんなもの何一つ無い。

 でも、大丈夫だ。絶対大丈夫だ。


 そう信じている!


 ファムは、涙が溢れるのをぐっと堪えるかのように下唇を噛み、そして強い視線と共に頷き返してくれた。


 それを見てから、オレはリオに視線を戻した。


「リオ。どうすればその転送魔法を作動させることができるか、分かるか?」

「それは簡単だよ。この岩の上に乗ればいい」

「なるほど。じゃあ、行こう。ラヴィを迎えに。無事に連れ戻して、あのバカに一度しっかり説教してやる。そうだろう? ファム?」

「……ええ、そうね」


 ファムの体に力が戻ったことを感じて、オレは抱きしめていた腕をほどいた。


 ファムはしっかりと自分の足で立ち、そしてその瞳にはまだ涙は残ってはいるが、力強い視線で前を見据えているのが分かった。


 リオがそんなオレ達を見ながら口を開いた。


「……転送先はどうなっているのか分からない。戦闘も含めて、すぐに対応できるように心構えを」


 オレとファムが同時に頷く。

 それと同時に、リオから支援魔法を掛けられたことを感じた。


 そしてリオが岩の上から、オレの肩に移ってきた。


「もう一つ。あちら側の状況によっては、ボクがすぐにみんなをカバーできるように、バラバラではなく、固まって転送したほうがいい。できれば、みんなが接触した状態で」


 なるほど。

 だからリオは今オレの肩に来たのか。


「分かった」


 オレはそう言うと、すぐに目の前にいたファムを抱き抱えた。

 いわゆるお姫様抱っこの形で。


 岩の上は小さく、二人同時にそこに立つことは難しい。

 だから、オレは深く考えずに自然とそう行動していた。


「……え?」


 ファムが一瞬小さく戸惑いの声を上げたが、オレはそれを聞き流して、ファムを抱き抱えたまま、リオを肩に載せたまま、黒い岩の上に飛び乗った。


「すぐに転送されるよ」


 リオの言葉が終わらないうちに、足元の岩から白い光が発され、さらに魔法陣が現れたかと思ったときには、オレ達は白い光に包まれていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


第四章、話はいよいよ佳境へ突入!

次話「85. 洞窟」

どうぞお楽しみに!

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