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81. 野干との戦闘

「リオ!」


 オレは相棒バディの名を呼び、剣を抜いた。

 その途端、いつものように支援魔法をかけられた感覚が体を駆け巡る。


 オレは剣を構え、駆け寄って来る五頭の野干やかんを待ち受ける。


 迫って来る五頭を見て、そこでオレは少し誤解していたことに気付いた。


 体の大きさが、思っていたよりもずっと大きい。

 およそ中型犬くらいかと思っていた。

 とんでもない。


 体高で一メートル以上はあるんじゃないか?

 ちょっとした馬並みの大きさだ。

 砂ばかりの場所で周りに比較対象も無かったからか、それともジャッカルに近いと言われたからか、完全に誤解していた。


 先頭を走っていた野干が大きく跳び上がる。


 牙をむき出しにしてオレに襲い掛かってくる。


 オレはタイミングを合わせ、その野干に向かって剣を斬り上げようと構えた。


 ――っ!?


 だが、次の瞬間、他の野干が直線的にオレに飛び掛かってきた姿を視界に捉え、反射的に体を横にずらして避けた。


 ――危なかった!


 もし上から飛び掛かってきた野干を相手にしていたら、次の野干の攻撃を避けられずにまともに喰らってしまうところだった。


 背筋にヒヤリとするものを感じる。


 五頭一組……再びその単語が頭をよぎる。


 タイミングを合わせ、連携を取りながら攻撃してくるのか。

 なんてやっかいな。


 しかもこっちの間合いが分かっているかのように、剣の届かない距離を保ちつつ、五頭がオレの周りを取り囲んだ。


 背後の一頭がオレに飛び掛かって来る。


 オレがそちらに振り向くと同時に、さらにオレの死角から別の一頭が飛び込んでくる気配を感じ、オレは剣を振うことをせずに飛び退いた。


 だが、もちろんそれで終わるわけもない。


 次々とオレの死角から、高く跳び上がってきたり、直線的に突っ込んで来たり、近くからオレに噛みつこうとしたり、こちらから攻撃をさせないようなタイミングを計ってヒットアンドアウェイを仕掛けてくる。


 足場も悪い。


 もし砂地じゃなかったら、もしかしたらもう少しは余裕を持って対応できたかもしれない。


 だが今は、気を許せば、砂に足を撮られて体勢を崩してしまうかもしれない。

 もしそうなったら、きっと一気に押し込まれてしまう。


 二人は?

 ラヴィとファムは大丈夫だろうか?


 だが、オレもそちらを気にしている余裕は無かった。

 リオが何も言ってこないならば、少なくともまだ大丈夫ということなんだろう。

 今はそう信じるしかない。


 目まぐるしく襲い掛かって来る野干の攻撃をなんとか避けながら、オレは自分の周りにいる野干に視線を巡らせた。


 どれも体格は同じようなものだ。

 個体差はあまりないように見える。


 もしリーダーが判れば、そいつを潰せばとも思ったのだが、そんな単純な話ではないみたいだ。


 そもそも、一頭一頭を確実に仕留めていくことはできない。

 そんなことをしていたら、他の奴に背中から攻撃されてやられてしまう。


 ――なら! 全体まとめて、削っていく!


 オレは一旦剣を横に構え、そして飛び掛かってきた野干を避けながら、その体に剣を滑らせた。


 野干の鮮血が舞う。


 次に飛び掛かってきた個体にも、同様に避けながら剣をすべらせ、その脚を傷つけた。


 オレの方はスピード強化に身体強化の魔法チートを受けているんだ。

 野干のスピードには付いていけているし、そう簡単に疲労でそれが衰えることもない。


 多少時間がかかっても、こうして削っていけば……


 何度か傷つけられた一頭が着地に失敗して倒れた姿が視界に入った。

 オレは体を回転させ、他の個体からの攻撃を避けながら、倒れた個体の首を狙って、高周波振動を有効にした剣を降り下ろし、その首を刎ねた。


 ……隙ができるんだ!


 次に飛び込んできたヤツにも避けながら剣を滑らせるように傷を付けてやる。

 偶然にも鼻先を傷付けたようだ。


 グルルゥと呻きながらうずくまってしまったその個体に向かって踏み込んだ時、他の個体がオレに向かって直線的に飛び掛かってきた。


 オレは体を回転させてその攻撃を避け、そしてもう一回転しながら、蹲っている個体の首を刎ねた。


 ――残り三匹!


 先程まで止めどなく続けられていた野干からの波状攻撃が止まった。


 二体を倒されたことで怖じ気付いたのか、それとも慎重になったのか。

 もし前者で、逃げてくれるなら追いかけるつもりはないんだが……


 そう思った時、背後から再びオレに向かって飛び掛かってきた。

 だが、他の個体との連携が取れていない。

 振り返ったオレの背後から狙って来る個体はいない。


 ――なら!


 オレは飛び掛かってきた個体の爪を避けながら一歩踏み込み、相手の腹部を目掛け、高周波振動を有効にしながら剣を左下から斜め上に向かって斬り上げた。


 斬られた個体が着地に失敗し、砂地の上をすべる。


 すぐに立ち上がろうとしているが、うまく力が入らないのだろう。

 一旦上半身だけ起こしたが、そのまま倒れてしまった。


 絶命まではしていないようだが、あの個体はもう動けないだろう。


 ――残り、二匹。


 五頭一組は確かに厄介だったが、それは五頭揃って素早い動作で連携されていたからだ。

 残りは二体で、しかも傷ついていて、最初のような素早い動きもできない。

 多少の連携は取れても、もうそこに初めのような厄介さはなかった。


 逃げてくれればよかったのに……


 オレはそう思いながらも、向かって来た残り二頭の首を、危なげなく刎ねることができた。


「リオ。二人の方はどうだ?」


 オレはファムとラヴィが向かった方に視線を向けながら、リオに二人の様子を尋ねた。


 もちろんあの二人なら大丈夫だとは思っている。

 リオも何も言って来なかった。

 だから、きっと何も問題は無いハズだ。

 大丈夫なハズだ。


 そう思っていても、それでもやはり、確認して安心したい。


「うん。大丈夫。あっちもちょうど今、終わったところだね」


 砂丘の上で、二人の立っている姿が見える。

 ここから見た限りでは、野干達の姿も無い。

 それを見てオレはホッとした。


 どうやら、リオの言う通り、二人の方も無事に終わったようだ。


 野干の死骸が散らばっている中、二人の傍まで歩いて行き、オレは声を掛けた。


「二人とも、大丈夫か? ケガとかないか?」

「問題ない」

「もちろんですよ。余裕です」


 どうやらそのようだな。

 見た限りでも特にケガなんかもなさそうだ。


 二人の無事な姿を見て安心したのだが、次に気になったのは、二人が一体何をしているのかだ。


 二人は野干二頭の死骸の傍で、その死骸を見ながら何かを話しているようだ。


「……どう思う?」

「うーん。分かんない。アタシ、野干って初めてだから」

「ワタシも。挑戦してみる?」

「うーん」


 ……なんの話だ?


「どうした? 何か問題でも?」

「問題というわけではなくてですね。あ、リオちゃんなら知っているかな?」

「ん? 何?」

「野干って、食べれるの?」


 ……はい?


「ああ、そういうことか。一応食べられるよ。特に毒とかは無いし。でも、お勧めはしないかな」

「美味しくない……とか?」

「そうだね。まだ紅鎧の方が何倍も美味しいと思うな」


 その言い方から察するに、リオ、お前食べたことあるんだな?

 チャレンジャーだなぁ……


 しかし、あの・・紅鎧のほうがまだ美味しいのか……

 じゃあ、オレはちょっと遠慮しとこうかな。


「どう? トーヤ、挑戦してみる?」


 ……リオ。お前やっぱりオレの思考が読めているんじゃないだろうな?


「……遠慮しておくよ」

「うん。その方がいいだろうね。野干の死骸は、譲ってあげようよ」

「ん? 譲る?」

「うん。見てごらんよ」


 リオがラヴィの肩に止まりながら、上を見上げた。

 オレ達三人も言われるまま視線を上に向けた。


 そこでは、三匹の鳥が大きく円を描くように旋回していた。


「あれはヒゲワシだね。野干の死骸を狙っているんだと思う。血の匂いも風に乗って拡散しているようだし、すぐに他の獣たちも寄って来るだろうね。早々に移動したほうがいいと思うよ」


 オレはファムとラヴィを見た。

 二人ともオレを見ながら頷いた。


 オレ達は砂漠地帯の中心部へ向かって歩き始めた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「82. 砂漠での水魔法」

どうぞお楽しみに!

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