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75. 九人の盗賊達

『リオ、盗賊達の人数は分かるか?』


 少なくともオレにはまだその姿は見えていない。

 でも、リオなら当然そのくらい分かるだろう。


 オレはそう思って、馬の歩行速度を落としながら念話でリオに尋ねた。

 そして予想通り、リオはすぐに念話で答えを返してくれた。


『前方十一時の方向に三人。同じく前方二時の方向二人。

 後方七時方向に二人、四時方向に二人』


 簡潔に、でも方向までも含めての十分な返答。

 さすが、チート鳥だよな。


 さて、全部で……九人か。しかも既に囲まれているらしい。

 全員雑魚なら問題ないだろうが、もし凄腕が複数いると厄介かもしれない。


 どうする?


 すぐに思いつく選択肢は三つ。

 逃げるか、何らかの交渉に持ち込むか、それとも戦うか。


 そう思った時、ラヴィから戸惑いの念話が聞こえてきた。


『あ、あの……七時とか四時って、なんですか?』


 ――へっ?


 あ、そうか。何時っていうのは、あちらの世界での言い方か。

 こっちとあっちでは時間の数え方が違うから通じないんだ。


 それに気付いたリオが、ちょっと苦笑気味に言い直してくれた。


『ごめん、ごめん。トーヤの世界の言い方だったね。

 えっとね。前方ちょっと左に三人、右側に二人。

 後方もちょっと左後ろのほうに二人、右後ろに二人だよ』

『はーい。了解でーす』


 ……リオの言い直したセリフもそうだが、ラヴィの間延びした返答に、なんか、緊張感が一気に低くなったように感じるのは、オレだけか?


 オレはちらっと二人に視線を向けてみた。


 二人とも特に焦っているとか緊張しているといった様子はない。

 落ち着いた……いや違うな。どちらかというとわくわくしているような様子で前方と後方に視線を向けている。


 そうか。そうだったな。

 ファムはともかく、ラヴィは暇を持て余していて、むしろこの状況を望んでいたんだったな。


 ごめん。オレが間違ってた。

 はなから三つも選択肢は無かったんだ。


 戦う気満々だ。逃げるとか話し合いとか、そういう発想すらないんだな。

 まあ、盗賊相手だし、いいけどね。


 だとすると、ここは先手必勝で、速攻をかけるべきか?


 オレが前方の五人を相手している間に、ファムとラヴィで後方にいる四人を何とかしてもらうか?

 強いやつが後ろの中にいなければいいのだが……


 とりあえず、そういう分担を二人に伝えようとしたとき、ファムとラヴィが馬を降りて、それぞれの手綱をオレに差し出してきた。


 ん? それをオレに差し出してどうするんだ?


「すみませんけどトーヤさん。

 アタシ達の馬、預かっといてくれますか?」


 ラヴィが念話を使わず声に出してそう言ってきたが、ごめん、意味が分からん。


「……二人の馬を預かって、オレにどうしろと?」

「端に寄って、見学でもしてて」


 ファムが半ば強引に自分の手綱をオレに押し付けながらそう言った。


 ……はい?


「ファム、どっち行く?」

「どちらでも」

「じゃあ、アタシ前の方やるから、後ろお願いね」

「ええ」


 今一状況を飲み込めていないオレを置いてきぼりに、二人は話を進めていた。


 えっと、つまり、その、なんだ。

 オレは見学? 馬の見張り番? 荷物持ち? ってこと?


「ちょっ、ちょっと待て」

「なんですか?」


 ラヴィがきょとんとした風に首をかしげてオレの方を見た。


「いや、なんですか、じゃなくって。

 なんでオレは見学なんだ?」

「だって、馬逃げちゃいますよ?

 預かってくれる人がいないと。

 まだ目的地まで結構ありますし、ここから徒歩っていうのはきついですよね?」


 ……言っていることは正論に聞こえる。


 馬って臆病とか聞くし、確かにどこかにつなぎもしないで三人で戦ったら、その間に馬は逃げちゃうだろうな。


 ついでに言えば、ざっと見渡す限りでは、あたりには戦闘の影響を受けずに馬をつないでおけるような場所もなさそうだし。


 だから、うん。それは分かる。分かるんだけど……


「というわけで、トーヤさん。お願いしますね」


 ラヴィまで、ファム同様、自分の手綱を強引にオレに押し付けた。


 でも、なんかおかしくないか、それ。


「……ラヴィ?」

「はい?」

「本音は?」

「なんのことです? 全く他意はありませんよ?」


 ヘェ、ソウナンダ。


「リオに言って、全部まとめて瞬殺という選択肢もあるんだが?」

「それじゃ面白くないじゃないですか!」


 ほら……


 ようやく本音が出たな。

 やはり、自分が暴れたいだけじゃんか!


 いや、分かってたんだけどね……

 はぁ……


「というわけで、そこにいるお兄さん達!

 あ、それともおじさん達かな?

 とにかく隠れている意味無いからさ、そろそろ出ておいでよ」

「おい、話はまだ終わって……」


 ラヴィの声に反応して物陰から男達がぞろぞろと現れた。

 前からも、後ろからも。


 ひぃ、ふぅ、みぃ……

 リオからの情報通り九人のようだ。


 剣や槍を持った男ばっかの九人。

 弓などはいないみたいだけど、盾を持っているやつがいるな。

 前に二人、後ろに一人の計三人ほど。


 でも……


 なんていうんだろう。

 油断しているつもりはないんだけど、見た感じでは、それほど強そうな連中には見えない。


 師匠ミリアをはじめ、ファムやラヴィ、それにクロやシロなど、強い人たちを今まで何人か見てきたけど、そういう強い人たちがまとっている独特な雰囲気のようなものが、彼らからは全く感じられない。


 もちろん、そういうのを隠す能力の高いやつがいるかもしれないし、そもそも、こいつらはみんな弱い、と断言できるほど自分の経験値や鑑定能力に自信があるわけじゃないんだが。


 うーん、スカウターでもあれば、強さが数値で分かるんだがなぁ。


『リオ、どう思う?』

『全員、雑魚でしょ』


 あ、そうですか。


 リオはきっぱりと断言したよ。


『人族しかいないみたいだし、全員武器を手にしている。

 ということは魔法を使う人もいないんじゃないかな。

 武器もありふれたものばかりで、弓のような飛び道具系もいない。

 まわりに伏兵もいない。

 なら、今の二人だったら全然問題無いと思うよ』

『そうよ。トーヤは心配しすぎ』


 ラヴィはともかく、ファムまで……


 まあ、リオもああ言っていることだしな。

 何かあればすぐに飛び込めるようにしておけばいいか。


 盗賊達が皆にやにやしながらこちらの方へにじり寄って来る。


 盗賊九人に対してオレ達は三人だ。

 もちろんリオはカウントされていないだろうな。

 彼らにしてみれば数の優位もあるし、さらにオレ達三人のうち、二人は獣人とはいえ女の子、簡単に勝てる獲物だと思われているんだろうな。


 しかも女の子二人とも若くてルックスはかなりいいほうだとくれば、あのにやけた顔にはスケベ成分もさぞ大量に混じっていることだろう。


「今日の獲物は楽勝だな、おい」

「男はいらねぇ。さっさと殺して、女は……ぐふふっ」

「結構上玉じゃないか? こりゃ当たりだな」


 そんな盗賊達の声が聞こえてくる。

 ああ、やっぱりね。


 オレに聞こえるくらいだ。ファムとラヴィにもそんな声は聞こえているハズだが、ちらっと見た限りでは気にしている風ではないな。こういう下種な男達には慣れてしまっているという事なんだろうか。


 だが、盗賊さん・・達よ。その後のセリフは、さすがにちょっと良くなかったと思うぞ?


「お前、どっちから行くよ」

「オレはウサギのほうだな。ネコより胸がでかそうだ」

「オレはネコのほうでもいいな。小さくても別に構わねぇ」


 ……なんて怖いもの知らずなこと言うんだ、こいつら。


 オレは、恐る恐る目だけを動かして二人の様子を見た。

 ラヴィはまだいい。問題は……


 ファムの表情は特に変わった感じはしない。


 ホッ。

 そうだよね。ファムがそんなことで怒りに我を忘れるなんて、無いよね?

 ありえないよね?

 良かった。


 ……そう思ったんだけど。

 でも、次の瞬間その考えが覆った。


 ファムがトレンチナイフの刃を舌でゆっくりと舐め始めたんだ。

 その姿を見て、オレは背筋に何か冷たいものを感じてしまった。


 ……う、うわぁ。


 やっぱりこれって、怒っているんじゃないか?

 しかも、かなり。


 い、一応、釘は刺しといたほうがいいよね?


「あー、二人とも。相手を殺すのは禁止だからな」

「……はい?」


 ファムに睨まれた。やっぱ怖ぇ。

 思わず目を反らして後退あとずさりしてしまいそうだ。


 っていうか、今オレの乗っている馬が、特に何も指示していないのに一歩後ろに下がったんだが、これは偶然?


「ゴ、ゴホン。特にラヴィ。人に《爆砕》は厳禁な」

「は? ……えぇぇぇえええ」


 ラヴィが大仰おおぎょうに驚いて、オレの方に振り向いた。


 おいおい。使う気満々だったのかよ。


 《爆砕》というのは、ヴァルグニールの突いた相手を爆散する機能のことだ。ラヴィがそう命名した。この機能は使用者の意思に応じて働くようなので、ラヴィがそう命じなければ大丈夫のはずなんだ。


「えーじゃない。危なすぎるんだよ、それは」

「でも、シロはちゃんと避けてくれましたよ」

「お前……シロとこいつらを比べるなよ……」


 っていうか、シロに《爆砕》を使ったのかよ、おい!

 しかも、それを避けるって……


 オレは支援魔法がある状態でも無理かも、そんなこと。

 やっぱシロも化け物レベルなんだな……


 しかたない。あまりこういうことは言いたくないんだが。


「ちなみに、オレは《黒蜂》の連中を一人も殺さずに壊滅させたぞ?」


 そう言って、オレは二人に向かってにやっと笑ってやった。


 それは、カミーリャン商会を壊滅させたときの話だ。


 リオとチート武器のおかげなんだけど、そこはちょっと黙っていよう。

 リオもオレの肩の上で聞いていたけど、何も言わないみたいだしな。


「……分かりました」

「いいわ、やってあげる」


 ラヴィとファムがそれぞれ同意の言葉を口にしながら頷いた。


 どうやらうまく二人のオレに対する対抗意識みたいなものを刺激してやれたみたいだ。


 じゃあ、あとはお言葉に甘えて、高みの見物をさせてもらおうかな。

 実際馬上だから、文字通り少し高いところからの見学だしね。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


楽しんで頂けていますでしょうか?

ぜひ感想など、お聞かせください。

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応援して頂けるととっても嬉しいです。


次話「76. 盗賊達への罰」

どうぞお楽しみに!

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