表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/147

73. ハンター資格

※ 2017/09/26 主に改行位置など修正。内容自体に変更無し。

「トーヤはどう思う?」


 先程まで見ていた夢のあまりの恥ずかしさに思わず身悶えしていたオレに、ファムがそう問いかけてきた。


 ん? 何の話だっけ?


「……えっ……と?」


 すみません。聞いていませんでした。

 だって、さっきまで寝ちゃってて、起き抜けなんだよ……


 そう思ってファムを見上げると、やはりというべきか、ジト目でオレのことを見つめていた。


 夢の中ではあんなに従順そうだったのに……って、いやいやいやいや。

 やっぱファムはこうでなくっちゃね、うん。


 ファムの後ろではクロが苦笑している姿が見えた。

 ついでに、クロの肩に止まっているリオがゆっくり首を横に振っている姿まで……


 ファムが一度ため息を付いてから、話の内容を教えてくれた。


「やっぱり聞いてなかったのね。だから、ワタシとラヴィのハンター資格についてよ」

「ハンター資格?」


 なんか、突然予想外の単語が出てきたように思えるのだが、どうしてそういう話になったんだろう。


 そう思っていたが、それはクロが説明してくれた。


「ああ、聞けばファムもラヴィも、現在身分を証明するものが何も無いらしい。今回王都に入ったときは、偶然にも私がその辺を省略して招き入れた形になってしまったが、これからを考えると、それでは不便だろう。そこで、ハンターの資格を得てしまってはどうかという話になってな」


 なるほど。そういうことか。


 オレは頷きながら同意する言葉を口にした。


「それは、いい考えじゃないか? オレがハンター資格を得たのも、まさにその考えからだったしな」


 そこへ、シロが両手を頭の後ろで組みながら口をはさんできた。


「そういえば、トーヤ君ってC級ハンターだっけ?」

「ん? ああ、そうだよ」

「こっちの世界に来て、まだ日も浅いんじゃなかった? C級に上がるの、随分と早くない?」

「あ、アタシもそれ思ってました。もちろんトーヤさんの強さからすれば当然なのかもしれませんけど」


 シロの疑問に、ラヴィが片手を上げながら同意してきた。


 そう言えば、セイラにも初めて会った時、その若さで……、と言われた覚えがある。

 そういうものなのか?


「オレは、運が良かったんだよ。師匠に推薦してもらえたおかげでC級になったんだ」

「トーヤさんのお師匠様ですか。そう言えば、そんな方がいると聞いた気も……。どなたなんですか? 高名な方ですか?」

「あっ」


 ラヴィの質問に答えようとしたとき、ファムが小さく声を上げた。


「そう言えば、こちらの世界に来た頃にリオと師匠に救われた、とか言っていたわね」


 オレはそれに頷きながら答えた。


「ああ。オレにとって、恩人でもあり、師匠でもある。知っているかな? ミリアという、S級ハンターなんだが」

「……へ?」


 ラヴィが一瞬固まったように見えた。


 この様子から察するに、知っているということかな。

 でも、そんなに驚くことなのか?


 ラヴィが恐る恐ると言った感じで確認してきた。


「そ、それって、あの闇虎のミリア……です……よね?」


 やはり知っているみたいだ。

 流石師匠ミリアだな。

 ま、S級ハンターなんだし、有名人なのかもな。


 そこへリオがオレの肩まで飛んできて、オレの代わりに口を開いた。


「そうだよ。こちらの世界に来てすぐの頃、ちょっとした行き違いでミリアとやりあっちゃってさ。そのときの戦闘から実力を認めて貰っちゃって、いきなりC級に推薦してもらったんだよ、トーヤは」

「ほお」


 クロは感心したような声だったが、ラヴィはその口がひくついているようだ。


「あれ? 話してなかったか?」


 ラヴィはすごい勢いで首を横に振っている。


 そうか。

 いろいろと話はしているつもりなんだが、まだまだ言っていないことは沢山あるんだな。

 それと、ラカの町ではオレの事が噂になっているようなことを聞いていたんだが、勘違いかな?


 思い返してみれば、それを知っていたのは同じくハンターだった者たちと、ラカのギルドのお得意様だというアスール商会のセイラだけだったかもしれない。

 つまり、一般に流れていた噂ではなかったという事だろうか。


「はあ……」


 何故かファムが大きくため息を付いた。


「あなたには……トーヤには驚かされてばかりよ。まさかあなたの師匠というのが、あの闇虎のミリアだったなんて。しかも、そのミリアとやり合ったって。よく生きてたわね」

「ははは。実際手も足も出なかったよ。完全に防戦一方。結局最後まで一撃も入れられなかった。完敗だったよ」

「……トーヤさんが……完敗……ですか」

「ああ」


 ファムが再び大きなため息を付いた。


「あなたは知らないかもしれないけど、ハンターのクラスはね、現在A級以上に人族はいないと言われているの。これは純粋に戦闘力の問題。つまりA級は強さも含めて超一流の人達よ。そしてさらにその上をいくS級なんて、もう化け物としか言いようがない強さを持つ連中なのよ。そんな人とやり合って、無事で生きているだけでも十分すごいわよ」


 ファムの説明にラヴィが何度も首を縦に振って頷きながら口にした。


「アタシなら、全力で逃げますね」


 オレは苦笑した。

 それを知っていたら、オレも逃げていたかもな。ははは。


「ところで、クロとシロは? ハンター資格を持っているのか? クラスは?」


 この二人なら間違いなくオレより上だと思う。

 ファムとラヴィ相手の手合わせを見て、なおさらそう思う。

 流石狼人族っていったところなんだろうな。


 だから二人ともA級、もしかしたらS級だったりして。


 そう思ったのだが、実際は少し違ったようだ。


「……ちょっと、トーヤ」

「ん?」


 ファムが咎めるような口調と共に、オレの袖を軽く引っ張った。

 クロとシロも苦笑してしまっている。


 あれ? なんか、おかしなことを言ってしまったか?


「いいんだよ、ファム。トーヤはその辺の事情を知らないのだろうから」


 ……やはり、また何か変なことを言ってしまったらしい。

 でも、一体何だろう?


 その答えを教えてくれたのはラヴィだった。


「あの、トーヤさん。狼人族は、その……ハンターになれないんです。そういう決まりらしくて……」

「……は?」


 なれない……

 ならない、じゃなく、なれない、なのか。


 もしかして、それって……


「例の戦争のせい、なのか?」

「ああ、そういうことになっているね。それも、仕方のない事だろうな」


 やはりそうなのか。

 そんなところまで影響があるものなのか……


 でも、理由は何となく察することができる気がする。


 ハンターはその性質上、色々と特権が与えられることが多い。

 クラスが上がるほどその範囲は広がる。


 そしてハンターのクラスは、本来の在り方はともかく、やはり戦闘力の強さはかなり影響する。

 簡単に言えば、弱ければ上には上がれないし、逆に強ければ上がりやすい。


 そして狼人族は総じて戦闘力が高い。

 つまり、上のほうのクラスに上がりやすいんだ。

 狼人族にハンター資格の取得を認めるいうことは、結果的に狼人族に広範囲な特権を認めるということになりかねない。


 例の戦争で、狼人族に恐怖した者たちとしては、それは回避したいということなのだろう。


 その考えは分からなくもない。

 ないんだが……


 うまく言葉で表現できない。

 ひどくもやもやした気持ちになる。


 しかし、当の本人であるクロは、オレの心情を知ってか苦笑しつつも、話を本題へと修正してきた。


「だが、今はその話は置いておこう。今はファムとラヴィのハンター資格についてだが、私が見たところ、二人の実力を考えれば、F級やE級ではあまりにももったいないと思う。そこで、私のほうから働きかけて、近衛師団からの推薦ということでD級か、可能ならC級でギルドのほうに二人を推薦しようと思う。闇虎のミリアがトーヤを推薦したようにね」

「いいのか?」

「実力に応じたクラスであるべきだよ。言ってみれば、そのために推薦という制度があるのだからね」


 それはありがたい話だ。


 クラスが上がれば、それだけ受けられる依頼の幅も広がるし、今後を考えればそのほうが何かと有用に思える。


 二人の実力なら、全く問題ないだろうしな。


「そこで相談だが、一つこちらからの依頼を受けてみないか?」

「依頼?」

「ああ。私個人の判断で彼女たちの推薦を押し通すことも可能ではあるが、他の人から見ても納得できるだけの実績があれば、なお良しだ。この依頼を無事クリアしてくれれば、実績として十分。最低でもD級以上でハンター資格が得られる様、推薦することを約束しよう」


 オレはファムとラヴィに視線を向けた。

 二人とも真剣な面持ちで、オレに頷いて見せた。

 やる気十分って感じだ。


 だが、それでも確認はしておきたいな。


「一応、内容を聞いてもいいか?」


 クロも、その辺は分かってくれているようで、一度頷いてから答えてくれた。


「大砂蛇の討伐だ」


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「74. もったいない?」

どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ