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72. 夢の中で

第四章、始まります!

※ 2018/01/05 挿し絵挿入。

※ 2018/01/07 さらに挿絵挿入。

 夜の暗い森の中、オレはたき火の前に座っていた。

 たき火の揺らめく灯りが、その周りに生い茂っている草木をぼんやりと照らしている。


 オレは、横に置いてあった小枝をへし折り、たき火に放り込んだ。

 パチパチッと音がして、今放り込んだ小枝に火がつき、燃え出すのが見える。


 ――あれ? なんでオレはこんなところにいるんだっけ?


 そう思いながらも、オレは仲間の名前を口にしていた。


「ファム」

「……はい」


 暗闇の中から一歩進み出てきたファムの姿が、たき火の灯りで浮かび上がる。


 ファムは少し伏目がちで、なんとなくいつもと違い、少しおとなしいというか、しおらしい態度のように思える。


 っていうか、今オレ、自分の意思とは関係なくファムを呼んだ気がする。


 なんだろう。

 ひどく違和感がする。


 なんか、おかしくないか、これ……


「ファム。君に重要な任務を与える」


 オレはファムを見上げながら、そうセリフを口にしていた。


 まただ。何勝手にしゃべっているんだ、オレの口は。


 一体どうしたっていうんだ?

 それに、何だ?

 重要な任務って?


「……は、はい」


 それに、ファムのこんな従順な顔って初めて見た気がするぞ。

 どうしたっていうんだ?


「これは、とっても大切ことなんだ。心して聞いてほしい」

「はい」


 オレの口がまた勝手に言葉を発していた。

 そして素直に頷くファム。


 ありえない……


 こんな状況、ありえないだろう。


 だがそれと同時に、オレは今から自分がファムに何をさせようとしているのかが、何故か分かった。


 バカな……そんなこと……絶対ありえない……


 ――あっ!?


 オレは、分かってしまった。


 そうか……これ……


 夢だ。


 オレは今、夢を見ているんだ。

 確か、明晰夢めいせきむってやつだ、これ。


 そんなオレの思考とは全く関係が無いかのように、オレの口は勝手に言葉を続けている。


「まず、そこに両手と両膝を付いて、四つん這いになってくれ」

「え? 四つん這い……はい、分かりました」


 ファムの頬がほのかに赤みを帯びたようだ。


 おいおい、ちょっと待てよ。

 いいのか、これ。

 ホントにこのまま続けてしまっていいのか?


 ホントに?


 でも、口は勝手に動いているんだし……

 オレの意思じゃ止められないみたいだし……

 それに、これは夢なんだし……


 いいのかも?


 でも、ホントに? ホントに?


 ゴクリ……


 ファムは恥らいながらも、オレに言われた通り、両手と両膝を地面に付け、お尻をオレのほうに向けて四つん這いになる。


 ファムにも分かったのだろうか、これから何が起きるのか。

 オレが何をしようとしているのか、何をさせようとしているのか。


 でも、止めることはできない。


 だって、オレの体が……口が勝手に動いているのだから。

 うん。止められないんだ。

 だから、これは仕方がないんだ。


 仕方がないんだよ、うん。


 ファムの尻尾も力なく下げられているのを見ながら、オレの口が勝手に指示を出し続ける。


「そうだ。そして横向きに、少しこちらを向くように……そう、そうだ。そして右手を握り締め、こぶしを頬のあたりに……そうだ、いいぞ。少し上目使いにオレを見ろ。そうだ」


 ――ゴクッ


「そこで一言、『にゃあ』と言ってくれ」

「……にゃあ」


 ――ぐはっ!?


 な、なんという破壊力だ!

 お、恐るべし、ファム!

 恐るべし、本物のネコ耳娘!


 オレのハートを完全に撃ち抜いた!

 オレの意識はもう悶えまくりだ。


 ちょっ、ちょっと待ってくれよ。


 ハァ……、ハァ……、ハァ……


 これ、夢……なんだよね?


 ってことは、何?


 もしかして、これって、オレの願望なのか?

 オレは、これを望んでいるっていうのか?

 いや、もちろん嬉しくないわけじゃないんだけどさ。


 写真が撮れないのが残念……って、そうじゃなくって!


 そんなオレの意識とは裏腹に、さらにオレの口は、もう一人の獣耳娘の名を呼んだ。


「ラヴィ」

「……はい」


 先程のファム同様、暗闇の中からラヴィが一歩進み出てきた。

 その姿が、たき火のオレンジ色にゆらめく灯りで浮かび上がる。


 ラヴィの姿を見て、オレは驚愕した。


 ――なっ!?


 そんな……


 ありえない……


 バ、バニーガールだとっ!


 そ、そのまるでビスチェのような、肩ひもも無い腕出し足出しの黒のレオタードのような服はどっから持ってきたんだ!

 そんなのがこの世界にもあるとでも……


 あ、いや、オレの夢だからか。そうなのか?


 じゃあ、その蝶ネクタイ付きの付け襟も、両手首の白いカフスも、濃い紫色の網タイツも、さらにはその黒いハイヒールも、全てはオレの願望が紡ぎだした産物だというのか!


 ラヴィがにっこりと笑ってオレに向かって一歩踏み出す。


 頭の上で揺れているその白いウサ耳は、ヘアバンドなんかじゃない、本物の耳。


 ――ゴクッ


 ラヴィがゆっくりとした動作で、もう一歩足を踏み出す。


 ――ま、待て!


 さらに一歩。


 ――よ、よせ。やめろ。それ以上近付くな。


 オレの意思は声にはならず、彼女ラヴィには届かない。


 しかも、ラヴィの隣でファムが四つん這いのまま、同じようにゆっくりとオレに近付いてくるのが見えた。


 ダメだ。お、お前たちは大切な仲間なんだ。

 なのに、それ以上近寄られたら、オレは……オレは……オレは……


「ダメだ!」

「……何がダメなんです?」


 その声に、オレはハッと目を覚ました。

 そこへ覗き込んでくるラヴィの顔。


「う、うわあ――! でっ!?」


 オレは思わず後退りしようとして、大木に後頭部をぶつけてしまった。

 思ったより痛くは無かったが、つい頭を押さえてしまう。


 そうだ、忘れてた。

 オレは大木の根元で木漏れ日を感じながら昼寝をしていたんだった。


「何やってるの、トーヤ。まだ寝ぼけてるの?」


 ぶつけた頭の後ろをさすりながら声のした方に視線を向けると、そこではファムが腕を組んであきれたような顔をしている姿が見えた。


「トーヤさん? 今、アタシの顔を見て、逃げませんでした?」

「……え?」


 再びラヴィに目を向けると、彼女はヴァルグニールを抱えて、ちょっとむっとした顔をオレに向けていた。


 いや、その、逃げたというか……ダメだ。うまく説明なんかできん。


「ふふふ。よっぽど怖かったのですね。何がとは申しませんが」


 そう言ったのは、ラヴィの向こうにいるユオンだった。

 右手で口元を抑え、笑いをこらえているようだ。


「……ユオン、何か言った?」

「いいえ、ラヴィ様。何も。空耳でございましょう」


 左目をぴくぴくさせたラヴィに睨まれて、ユオンが完璧メイドの仮面をかぶり直したかのように、すまし顔に戻った。


 ここ最近のいつもの光景だ。


 やっぱり、アレは夢だった。

 夢だったんだ……


 オレは思わず大きく息を吐き出していた。


 こんな夢を見るなんて……

 やっぱりオレの願望なんだろうか……


「トーヤ様。お水はいかがでしょうか?」

「ああ、ありがとうユオン。いただくよ」


 そう言ってオレはユオンから水の入ったコップを受け取った。


 水を一口、口に含みながら思わず夢の内容を反芻はんすうしてしまう。


 確かに、ファムの《にゃあ》も、ラヴィのバニーガールも、とんでもない破壊力だった。


 ホント、写真や動画で残せなかったのが悔やまれ……って、そうじゃなくって!


 気を付けよう。オレがこんな願望を抱えているなんて知られた日には、二人にどんな目で見られてしまうか……


「ところで、トーヤさん」

「ん?」

「ばーにーがーるーって何ですか?」


 ――ゴホッ


 思わずオレは口に含んでいた水を吹き出しそうになった。

 その際、吹き出すのをこらえようとしたのが悪かったらしく、水が気管に入ってしまったのか、思いっきりむせてしまった。


「ゲホッ……な、何……ゲホッ、ゲホッ」

「大丈夫ですか? 実はさっき、トーヤさんが寝言で言っていたんですよ。『ラヴィ、ばーにーがーるー』って。アタシが夢に出てきたんですよね?」


 や、やばい! マジか!

 そんなことを口走っていたのか、オレは!


「いや、そ……ゲホッ……れは……ゲホッ、ゲホッ」


 ダメだ。むせるのが収まらない。

 うまく言葉が出せない。


 そこへ青い悪魔リオが舞い降りてきた。


「ボクが説明してあげるよ、ラヴィ」

「あ、リオちゃん」


 やめろ、リオ!


 ダメだ。一番説明を任せちゃいけないヤツだ!


 だが、オレの口は咳ばかりで、まともな言葉が全く出せない。


「バニーガールっていうのはね。ウサ耳のヘアバンドを頭に付けて、身体からだのラインがしっかり分かるような衣装を身に纏った女性のことだよ」

「……ライン? 何ソレ、そんな人達が向こうの世界にはいるの?」


 ファムの目がスッと細まって、冷ややかになったように見えるのは気のせいだろうか……?


「普段着というわけではないよ。まあ、言ってみれば仕事着の一種かな。一部の接客業や何らかのショーのアシスタント用などのね。……ごく一部には、そういう趣味を持っている人もいるかもしれないけど」

「接客業? まさか、今度はワタシ達にそんな恰好させる気じゃ?」

「ち、ちが……ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」


 ファムが両手で自分の身体を抱きしめながら一歩後退りしたのが見えて、オレは否定しようとしたが、まだうまくしゃべれない。


 や、止めてくれ、リオ。頼むから……


 むせるのが止まらない。

 まだ止まらない。何故だ?

 咳ばかりで、だんだんとのどが痛くなってきた。


「まあ、まあ、ファム。そう言わないの。トーヤさんだってお年頃なんだからさ」


 ラヴィのとんでもないフォローに、ユオンまでが頷いているのが見えた。


 ――おい!


 ――おいっ! おいっ! ちょっと待てぇ!


 だが、オレの口は咳ばかりで言葉を発することができない。

 なんだコレ。まるでさっき見てた夢みたいじゃんか!


「ウサ耳ってことは、アタシの出番ですよね? 別にいいですよ?」


 ……はい? 何が、いいですって?


「トーヤさんが望むなら、そのばーにーがーるーって恰好、アタシはしても、いいですよ?」


 ……マジですか?


 そのショックでか、いつの間にかむせるのが止まっていた。


 ……ゴクッ


 もし……

 もし本当にしてくれたなら、本物のウサ耳美少女によるバニーガールだよ?

 しかも、写真に撮れちゃう。

 なんなら、動画でも残せちゃう。


 い、いいのかな? ホントに?


 あ、衣装が無い?


 いやいや、そんなのはバスカルに相談すればなんとかなるんじゃないだろうか。


 ファムの《にゃあ》も捨てがたいが、ラヴィのバニーガールだけでも、オレにとっては十分お宝だよ!


 ……ゴクッ


「ラ、ラヴィ……」

「はい? どうしました、トーヤさん?」


 オレは、その声で目を覚ました・・・・・・

 ラヴィが不思議そうにオレの顔を覗き込んでいる姿が視界に入る。


 ……えっ? あれ?


 寝ていた体を起こして、周りを見渡す。


 ユオンから手渡された水を飲んでいるクロ、その肩に止まっているリオ、何かを話しているファムとシロ、そしてオレを見ているラヴィ。


 その様子を見て思い出した。


 そうだ。鍛錬に行くというファムとラヴィに付き合ってここまで来て、でもあまりの心地よさに負けてオレは寝ちゃったんだ。


 ってことはだ。


 多重夢という言葉が頭を過る。


 つまり、今のも、夢……だったのかよ。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


い、いいのだろうか。第四章、こんな始まりで(苦笑

楽しんで頂ければ嬉しいです。

ぜひ感想など、お聞かせください。

ブクマ登録やレヴューなども作者の励みになっています。


次話「73. ハンター資格」

お楽しみに!


引き続きどうぞよろしくお願いします。


2018/01/05 追記

sbnbさんにFAを頂きました!

なんと! ファムの「にゃあ」が!!!

 挿絵(By みてみん)


2018/01/07 追記

さらにsbnbさんにFAを頂きました!

今度はなんと! ラヴィだ! ウサ耳娘のバニーガール!!!

挿絵(By みてみん)


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