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65. 三つ目のアイデア

 予想はしていたのだが、マルク亭は今日も相変わらず客が入っていなかった。

 アダンが一人、真ん中の席を陣取って鶏から――正確には朝鳥のから揚げか?――をつまんでいた。


「よう、トーヤ」

「アダン一人か?」

「ああ。奥にマルクがいるがな」


 なんか、アダンの周りに哀愁がただよってないか?

 そう、まるでリストラされて茫然としているおっさんのような……

 この人、一応王族のハズだよね?


「昨日言っていたアイデアというのはどうなった?」

「ああ、そのことで話があるんだ。

 もしかしたら、なんとかなるかもしれない」

「――なんだと!」


 アダンが勢いよく立ち上がった。


「ホントか!

 一体どんなアイデアなんだ」


 アダンの大声が聞こえたのだろう、奥からマルクも出てきた。


「落ち着け、アダン。今説明するから」

「いいから勿体ぶらずに早く言え」


 アダンの目が血走っているようで、少し怖いよ。


 オレは、寄って来たマルクとアダンに向かって説明を始めた。


「まず獣耳娘、あ、いや、獣人のウエイトレスを入れる。

 今回はうまくいくかお試しということもあるから、オレの仲間、ファムとラヴィ、そしてアダンのメイドのユオン、この三人にやってもらおうと思う」

「ウエイトレスか……」


 アダンが腕組みをし始めた。


「ああ、美少女三人だ。それだけでも、それなりに集客効果はあるんじゃないかと思っている」

「それは、そうかもしれんが……」

「あ、あの、人を雇うお金は……その……」


 マルクがおずおずといった感じで、片手を上げながら口をはさんできた。

 自分の店のことなのだから、もっと堂々と意見を出してくれていいと思うんだが。


 人を雇うとなると金銭的なことが絡むからな。

 今の現状を見れば、それほど余裕があるわけじゃないってことは、オレでも容易に想像が付いている。

 だから、これについてはちゃんと考えてあるんだ。


「大丈夫です。今回はその辺は気にしないでいいです。

 まずはウエイトレスがうまくいくかどうか試してみたいので、仲間に頼んでいるわけですから。

 ただ、もしうまくいくと分かったときは、ちゃんと雇うべきでしょうね。

 その場合についても、一応考えてあります。

 ですが、それはまだ先の話なので、ここでは置いておきましょう。

 そして二つ目のアイデアなんですが」

「二つ目? なんだ?」


 オレは、ちょっとだけ勿体ぶって、ニヤッと笑って一拍置いた。


「ウエイトレスにメイド服を着せる」

「「……は?」」


 二人の間の抜けたような声がハモった。


 まあ、予想通りの反応かな。

 オレは説明を続けた。


「メイド服と言っても、今ユオンが着ているようなありふれたものじゃない。

 もっと可憐で、美少女たちの魅力を十分に引き出すものだ。

 これは、後から三人が実際に着てくるハズだ。

 それを見てくれ」


 アダンとマルクが少し首をかしげながら顔を見合わせている。

 可憐なメイド服と言って、おそらく想像ができないのだろう。


 ふっふっふ。見たらきっと驚くぞ。

 って、実物はまだオレも知らないんだがな。


「そして三つ目だが」

「まだあるのか?」

「ああ、もちろん」


 オレは再びニヤッと笑って見せた。


「料理に少し工夫をする」


 今度は目を大きく見開きながら、アダンとマルクが再び顔を見合わせた。


「マルク。ちょっと厨房を借りていいですか?」

「あ、はい。もちろん」

「アダン、その鶏からを持ってきてくれ」

「あ、ああ」


 そしてオレ達はマルクに案内されて厨房に入っていった。


 厨房の中はそれほど広いわけではないが、三人入ってもなんとか動けるだけのスペースはあるようだ。


 オレはマルクにお願いして、材料を揃えてもらった。

 コップ一杯ほどの油、朝鳥の卵が一つ、そして酢と塩。

 これだけだ。ごくありふれたものだろう?


 朝鳥の卵は、肉の味から予想はしていたが、やはりあちらの世界での鶏の卵と同じようだ。ちょっと安心したよ。


 そして道具として使うのは、ボールとホイッパー。

 これもマルクに用意してもらった。


「さて、作るか」


 オレは、腕まくりをして、材料を手に取った。


 まずは朝鳥の卵を割り、卵白ごとボールの中に入れ、ホイッパーでかき混ぜる。

 十分に混ぜたところで酢と塩を入れ再び混ぜる。


 次に油だ。これは一度に入れてはダメだと、確か雑誌に書いてあったと思う。

 何故ダメなのかは知らない。その理由も雑誌に書いてあったのかもしれないが、そこまで覚えていない。


 オレは油を少しずつ足しながらホイッパーでかき混ぜていった。


「トーヤ、それって……」


 アダンの肩に止まっていたリオが何かを言おうとしてきた。


 オレが何を作ろうとしているのか、リオはここで気付いたようだな。

 あちらの世界を知っているリオなら、当然コレも知ってておかしくはないと思っていた。


「リオ。黙っててくれよ。種明かしを先にしたら面白くないだろう?」

「そうかもしれないけど、でも……」

「なんだ? これって、もしかしてもうこの世界にあるのか?」

「え? いや、無いと思うよ……」


 おお、やっぱ無いのか。よかった。

 それならこれでアダンやマルクを喜ばせることができるかもしれない。


「じゃあ、問題ない。できるまで黙っててくれよ」

「……うん……分かった」


 オレは油を少しずつ足しながら、さらに混ぜた。

 混ぜて混ぜて混ぜて混ぜて、もったりするまで混ぜたら、よし、完成だ。


「できた!」

「……これは、何だ?」


 アダンがボールの中を覗き込んできた。

 リオがこちらの世界に無いと言っていたので、アダンも初めて見るのだろう。


 ボールの中には白濁した半固体状ドレッシング、そう、これは……


「マヨネーズだ」

「まよ?」

「マヨネーズ。

 あちらの世界では、普通の家庭にもある、ごくありふれたドレッシングだ。

 アダン。さっきの鶏からに付けて食べてみよう」


 オレとアダンは、鶏からを一つつまんで、マヨネーズを付けてから口に入れた。


 お、旨い! イケるじゃん!


「これは……旨いな」


 アダンがそう言って、再び鶏からをつまんでマヨネーズを付けて食べた。


「マルクも。どうぞ、食べてみてくれ」

「え? あ……」


 マルクが鶏からをつまんで、そしてマヨネーズに付けようとして手が止まった。


 ――ん? どうしたんだ?


 マルクがリオのほうに視線を向けた。


「うん。これは・・・大丈夫だよ。

 せっかくだから食べてごらんよ、マルク」


 そう言ったリオの言葉がちょっと引っかかった。

 どういう意味だ?


「うん。美味しいですね」


 当のマルクはマヨネーズの付いた鶏からを食べて、そう言ってくれた。


 ――よし!


 オレは心の中でガッツポーズを決めたよ。


「トーヤ」


 アダンが右手を差し出してきた。

 オレは迷わずその手を握ったよ。


「「やったな」」


 うまくいった。

 成功だ。大成功だ。


 これで、料理でも一歩抜き出すことができるはずだ。


 きっとそう簡単に真似なんかできない。これを見ただけで、もしくは食べただけで、材料を言い当てることなんか難しいはずだ。……たぶん。


 オレはさらに説明を加えた。


「マヨネーズはこれだけでももちろんいいんだが。

 もう一段階、ここからタルタルソースっていうのを作ることができる。

 それは鶏からやコロッケにはぴったりのソースなんだよ」

「おー」


 アダンが歓喜の声を上げた。


 オレはアダン、リオ、マルクと順番に視線を動かし、そして、違和感に気付いた。


 あれ? アダンは喜んでいるけど、マルクとリオの反応がにぶくないか?


「……トーヤ」

「何? どうした、リオ?」

「このマヨネーズはよくできたと思うよ。

 うん。美味しくできたと思う」


 なんだ? どうしたんだ一体?

 美味しくできたなら、もっと喜んでくれてもいいんじゃないか?


「……でもね、残念ながら、これは不採用だよ」


 ………………はい?


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


そう簡単にうまくいかさせてあげないのがグランロウクオリティ~

(なんちゃってw)


次回「66. 不採用の理由」

どうぞお見逃しなく~


引き続きどうぞよろしくお願いします。

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