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59. マルク亭の問題

 マルクが次の料理には少し時間が欲しいと言って厨房に引っ込んだので、オレは既にある料理を楽しみつつ、アダンにいくつか質問を投げてみることにした。


「アダン。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「ん? なんだ?」


 アダンは麦酒を飲みながらオレのほうに視線を向けてくれた。


「母さんが昔、要塞を一つ潰したことがあるって聞いたんだが、ホントか?」

「ん? ……ああ、あったな、そんなことが」


 ああ、ホントにやったんだな、母さんは。

 いや、クロやリオ達がウソを言っていると思ったわけではないんだが……


「一体どんな経緯でそんなことになったんだ?」

「はて、なんだったか……リオ、お前覚えてないか?」

「シャルロアの救出の時の話だよ。覚えてないの、アダンは?」


 アダンは腕組みをして少し考えたようだが、どうやら思い出したようだ。


「おお、そうだそうだ、思い出した。いやあ、懐かしいな」


 リオのセリフに、知らない人物の名前が出ていたので、オレはフライドポテトをつまみながら聞いてみた。


「シャルロア?」

「隣国ベルダートの貴族の娘だ。今はどっかに嫁いでいるはずだが。あの頃はベルダートと揉め事が絶えなくってな。うちの国のバカ者共がシャルロアを攫ってガロの要塞に立てこもりやがったんだ。ベルダート側はもうカンカンでな。もういつ戦争になってもおかしくない状況だった」


 アダンが麦酒を一口飲んで話を続ける。


「クロとシロを国境の援軍に向かわせて、なんとか睨み合いで済んでいる間に、私とマイコとリオでガロに行って、バカ者共を説得しようと思ったんだが、私の言う事なんか誰も聞きやしない。こりゃ説得は無理だってことになって、なので、最後の手段ってことで、マイコとリオが要塞を破壊して、奴らを降伏させたんだ」

「へ、へえ……」


 なんか、想像してた以上に話がでかい気がする……


 そして、アダンの話はまだまだ続いた。


「ありゃすごかったな。要塞からの攻撃が全く届かないような遠距離から、マイコが次々と白い光の線を放ってな。それで要塞の投石台なんかを全て破壊しちまったんだ。終いには要塞の真上に巨大な岩が現れて、そのまま要塞を押し潰しちまった」

「なっ……」


 白い光の線? なんだ? レーザーかビームのようなものか?

 それに巨大な岩って。まさか……隕石落としみたいなことしたんじゃないだろうな?


 だとしたら、やりすぎだろう、お母さま・・


 いや、この場合はリオか。

 どうせ母さんがやっているように見せかけて、実はリオの魔法なんだろうし。


 全く。某赤い人が目論んだように、この星が寒冷化でもしたらどうするんだ!


「あんな魔法、他に見たことないぞ」

「さすが、トーヤさんのお母様ですね……」


 ラヴィ、お前そう言いながら、ドン引きしてないか?


「ま、おかげで戦争にはならずに済んだ。その功績でマイコを貴族にって話になって、さらにゆくゆくはオレの伴侶にって思ってたんだが……」

「……だが?」

「マイコは、いらないって言って私達の前から姿を消しちまった。それからしばらくしてマイコから手紙を受け取ってな。あっちの世界に帰るって。もう会えないかもしれないけど元気でってさ」

「ふーん。そうだったんだ」

「トーヤ。あっちに帰ったらマイコに伝えてくれ。私の隣はいつでもお前のために空けてあるぞってな」


 いやいやいやいや。

 そんなこと絶対伝えないから。

 オレのところで必ずもみ消しちゃうから。


 そこへマルクが新たな皿を運んできた。


「お待たせしました。こちらも揚げ物になります。トーヤさん、分かりますでしょうか?」

「こ、これは……天ぷらか!」


 マルクは嬉しそうに頷いた。


 大皿の上には、ざっと見て七種類ほどの具材の天ぷらが載っていた。

 ファムがそれを覗き込みながら、オレに聞いてきた。


「天ぷらって?」

「から揚げとちょっと違って、卵とかで溶いた小麦粉を衣として、食材を油で揚げたものだ。しかも、かき揚げまで……」

「どうぞ塩を軽くつけて召し上がってみてください」


 な、なかなか通な食べ方だな。

 まあ、流石に天つゆまでは無いか。


 ――だが、旨い!


 くう、まさか異世界で天ぷらを食べられるとは!

 やっぱ天ぷらやかき揚げは、揚げたてが一番だよね。


 ファムやラヴィも、そしてアダンも次々と天ぷらを口に運んだ。


「うん。旨い! やっぱここの・・・天ぷらが一番旨いな」


 うん? ここの・・・


 アダンのセリフにオレは少し引っかかった。

 この店以外でも、天ぷらを出す店があるのか?


「ありがとうございます。そしてこれが本日最後の皿でございます」


 そういってマルクは新たな大皿をテーブルの上に置いた。

 そこに載っているのは一口大の大きさで、茶色の、俵型の物体。


 もちろんオレは、一目でそれが何か分かったよ。


「……コロッケか」

「これも揚げ物?」

「ああ、衣にパン粉が入っていてサクッとするんだ」


 そう言って、オレは一つ食べてみた。

 中身はじゃがいもとひき肉が少し入ったオーソドックスなやつだ。


 久しぶりのコロッケも、やっぱり旨い。


 旨いんだが……


 流石にこう揚げ物ばかり続くのも……ねぇ?

 もちろんどれもおにぎりの米と合うんで、思わず食べてはしまうんだが。


 これらはきっと、母さんがマルクに教えたものなんだろう。

 だとすると、おにぎりと揚げ物しか教えなかったのか?


 見ると、ファムとラヴィも、最初ほど食べ物を口に運んではいないようだ。

 二人とも、もう酒の方にいってる感じだ。


 アダンはまだ天ぷらにご執心のようだが。


「トーヤさん。いかがでしょうか?」

「もちろんどれも旨いですよ。オレには故郷の懐かしい味ばかりで感激ですね。これらは全て母さんから?」

「はい。マイコさんに教わったものです。ですが、もう二十年以上前のことですし、私の作り方というか、味がおかしくなってしまってないか、ちょっと心配していたんです」

「いや、そんなことないですよ。どれも見事なものです」

「ほら。だから言ったろ? マルクの料理に問題はないんだって」


 ん? なんかアダンの言い方がちょっと気になるな。

 何か問題があるのか?


 オレがそのことを尋ねようとしたとき、先に言葉を発したのはリオだった。


「ところで、アダンとマルクは昔から知り合いだったの?」


 アダンが麦酒を飲み干しながらそれに答えた。


「いや。知り合ったのはマイコが帰った後だな。あれは、マイコからの手紙を受け取ってしばらくした頃か。マルクが広場で屋台を構えておにぎりを販売していたのを偶然見かけてな。マイコが作っていた珍しい料理のはずなのに、なんでこんなところで、と思って話を聞いてみたら、マルクもまたマイコに教わったというから驚いた」

「なるほど。それはすごい偶然だね」


 まったくだ。そんなこともあるんだな。

 おにぎりが、この世界では珍しい料理だったからこそなんだろう。


「ああ。聞けば、マイコから他にも料理を教わっているっていうから、試しに作ってもらったら、これが旨くてな。これは私だけでは勿体ない、他のやつらにも喰わせてやろうと、この店を用意してマルクに提供したわけだ」


 なるほど。つまりアダンはマルクのパトロンってわけだ。


 だが、アダンの話はまだ続いたんだ。ちょっと思わぬ方法へと。


「しばらくは順調だったよ。この店はちょっと大通りから離れているが、店に来る客はひっきりなしでな。支店を展開することも考え始めて、弟子も取って、いろいろと教え込んだ。だが、その弟子たちが他に引っ張られてしまってな。今じゃそっちの店で、揚げ物料理を提供している始末だ。マイコの料理が広まること自体は嬉しいが、おかげでこっちの店はこの有様だ」


 そうか。だからさっき、天ぷらを出す店は他にもあるような言い方をしていたのか。


 それと、この有様というのは、もしかしてオレ達以外に客がいないことを差しているのか?


「ってことは、今日はオレ達の貸し切りにしていたわけではないのか?」

「実質的には貸し切りだな。別にそんな看板を出しているわけでもないのに」


 マルクが項垂うなだれてしまっている。


 育てていた弟子に裏切られたわけだ。

 何と言ってやればいいのか、言葉が見付からないよ。


 代わりに口を開いたのは、それまで黙って聞いていたファムだった。


「その元弟子たちが提供する揚げ物の味はどうなの? 美味しいの?」

「まあまあだな。マルクが一から叩き込んだんだ。料理の腕は確かだな」


 それは、弟子を育ててたはずが、結果的には敵を、しかも強敵を育ててしまったという事か。


 うーん。弟子の見る目があったのか無かったのか……


「そこで、トーヤ。頼みがある」

「……なんだ?」

「この店が復活するための、何かアイデアは無いか? 何でもいい。マイコと同じ世界の人であるお前なら、マイコの息子であるお前なら、なんとかできないか?」


 ――はい?


 無茶ぶり過ぎるだろう、それは!


 オレはほとんど料理なんかしない。

 あちらの世界で一人暮らししていたときも、たまに気が向いたとき、料理雑誌を片手に少し作ったことがある程度だ。

 しかも、極々簡単なものばかりだ。

 基本、ほとんどは外食かコンビニだった。


 とても参考になるものでは……


 アダンがじっとオレを見つめている。

 オレは思わず視線を外してマルクに向けてしまった。

 マルクもオレのことをじっと見ている。


 うう……マルクの縋るような視線が痛い……


 オレは、さらに視線を動かし、店の中に向けた。

 広い店内。清掃も行き届いている。

 だが、そんな話を聞いてしまった後では、それがかえって痛々しく思えてくる。


 なんとかしろと言われても、オレではどうしようも……


 …………いや、そうか、もしかしたら。


「……保証はできない。けど、少し考えてみたいことがある」

「本当か!」


 アダンが思わずといった風に椅子から立ち上がった。


「繰り返すが、うまくいく保証はないぞ」

「ああ、それでもいい。なんだそれは。どういうアイデアだ?」

「それを言う前に、ちょっと確認と準備がいるな。その元弟子の店の場所を教えてくれないか? ちょっと偵察しておきたい」


 さあて、うまくいくといいんだが……


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今回入っているネタ、ちょっと古いから少し心配……


一つお知らせを。

明日、長い間更新されていなかった「異世界と座談会」を更新します!

第二回のゲストは、マイコです。

こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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