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56. 三人デート in 王都

 朝、顔を洗ってから宿の一階にある食堂に行った時、もう既にファムとラヴィは向かい合って席についていた。


「おはよう、二人とも」

「おはよう、トーヤ」


 ファムは普通に挨拶を返してくれたのだが、何故かラヴィにはそっぽを向かれてしまった。

 もしかして、昨夜ベッドに放り投げたことをまだ根に持っているのか?


 オレは宿の人から朝食が載ったプレートを受け取り、ラヴィの隣に座りながら、再度彼女に声をかけてみた。


「ラヴィ?」

「……トーヤさんはひどいです」


 やっぱりまだおかんむりの御様子だ。

 さて、どうやってご機嫌を直しもらおうか。


 いや、でも、あれは仕方ないよね? そう思うよね?


「まだ怒っているのか。あれは、お前が寝たふりなんか……」

「ファムだけずるいです」

「……は?」


 ずるい? 何がだ?


「昨日の夜だって、ファムと二人っきりでお酒なんて飲んじゃって。楽しそうに二人だけの世界も作って」


 あ、ミルクを飲んでいたファムが咳き込んでいる。


「ラ、ラヴィ、一体何を……」

「アタシ、寂しかったんですよ?」


 ……なるほど。

 つまりラヴィは、オレが抱き抱えた後に起きて寝たふりしていた訳じゃなく、最初から寝たふりをしていたわけだ。


 やっぱ、放り投げて正解か?


 ……あれ? ちょっと待てよ。ってことはだ。

 もしかして、オレが目を覚ましたあの時も実は起きていたのか?

 それって、あの時オレがなかなかベッドから出なかったことも、バレてたりするのか?


 だ、だけど、聞けない。

 そんなこと、面と向かって本人に確認できるわけがない!


 だが、オレの内心とは裏腹にラヴィの愚痴は続いていた。


「だから、トーヤさんがアタシを優しく抱き抱えてくれたことが嬉しかったのに。それを放り投げるなんて! か弱い女の子にちょっとひどいですよ、もう!」


 ――か弱い?


 何か一点だけ引っかかるところがあるが、そこは突っ込んだらダメだ。

 さらに炎上するような気がするから。

 うん。ここは華麗にスルーしておこう。


「まったく! どうしてです? 男の人なら、あそこは優しくする場面のはずでしょう?」

『フッ、坊やだからさ』


 ――っ!?


 オレ達の会話にツッコミを入れたのは、リオの念話だった。


 なんでリオがそのネタを知っている!


 って、リオはあちらの世界が長かったんだから、知ってておかしくないかもしれないけどさ!


 ファムが、今度は軽く吹き出していた。

 オレがジト目でファムを見てやると、彼女は何食わぬ顔で、再びミルクを飲みだした。


『リオか。どこにいるんだ?』

『ん? 宿の屋根の上だよ。おはよう、三人とも。今日もいい天気だよ』

『おはよう、リオちゃん。聞いてくださいよ、トーヤさんたらひどいんですよ』

『あー、言わなくてもだいたい状況は把握しているよ。許してあげてよ。トーヤはこう見えて結構恥ずかしがり屋だからさ』

『――リオ!』


 いきなり何を言い出すんだ。このバカ鳥は!


『それは知ってますけど……』


 ――なっ!?


 いやいやいや、ちょっと待てよ、ラヴィ。

 オレって、そう思われているというのか?


 オレはふとファムを見た。

 ファムはミルクを飲みながら、オレの視線に気付いたのか、上目遣いに一度オレに視線を向けたが、すぐにオレから視線を外してしまった。


 ……う、うそ……だろう?

 まさか、ファムまでそう思っているというのか?


 ここはちゃんと否定しておかねばなるまい!


『リオもラヴィも。何をバカなことを……』

『だって、同じベッドで寝るのも恥ずかしがって……』

『別にそんなんじゃないよ。オレなんかと一緒じゃ、狭くてゆっくり寝れないだろうと思っているだけだ』

『一緒の部屋すら恥ずかしがって……』

『なんでそうなる? オレは別に一緒でも構わないんだよ? ただラヴィたちは、女同士のほうがいいかと思っただけだ』


 ラヴィがなんか疑り深い目でオレを見ている。

 だが、ウサ耳はわさわさしていない。

 だから、きっと大丈夫なハズだ。


 よし!

 ラヴィの耳がわさわさし始めてしまう前に話題を変えてしまおう。


『そんなことより、今日の予定はどうする? 夕方からはアダンに会うと思うが、昼間は好きにしてて構わないぞ?』


 二人が互いに視線を交えてから、ファムが聞いてきた。


『トーヤはどうするの?』

『オレは、王都の街中をぶらつくつもりだ。特にあては無いが、いろいろと見て回るつもりだよ』

『あ、じゃあ、アタシ達も付いて行っていいですか?』

『もちろん構わないが。リオはどうする?』

『ボクはここに残るよ。三人でデートしておいで』


 デート? またバカなこと言って……

 三人で出掛けることをデートって言うのか?


『でーと? なんですか、それ?』


 おや? こっちの世界には無い言葉なのか?


『デートっていうのはね。男女で……』

『仲良く出かけておいでって意味だよ。オレの世界での言葉だ』


 危ない、危ない。

 リオに説明させると二人に何吹き込むか分からんからな。


『なるほど。分かりました。じゃあ、三人でデートしてきますね』


 ラヴィがにっこりと微笑みながら、念話でそう言った。

 デートしてきますってところに、ちょっとだけドキッとしてしまったことは、絶対に秘密だ。


 ◇


 王都は、城を中心に四方に大通りが伸びていて、その両脇に様々は店が立ち並んでいる。


 大雑把に言って、中心に近いほど貴族や裕福層向けの高級店、端に向かうほど手ごろな価格帯の庶民向けの店が並んでいるそうだ。


 オレ達には、高級店は用が無いからな。

 庶民向けの店が立ち並ぶ辺りを中心に見て回ることにした。

 もちろん全部なんかとても回れないから、ごく一部だけになるが。


 食肉、野菜、果物などの食材を扱う店や日用品を中心に雑貨を扱う店などが多いみたいだが、服や靴などを扱う店、セルフサービスの食堂カフェテリアなんかもある。


 だが、やはりというべきか、本を扱う店は見当たらない。

 こちらの世界では印刷技術がないみたいだから、そういうものなのかもしれない。


 逆にあちらの世界ではあまりお目にかかれないたぐいとしては、薬草を扱う店、武器屋、道具屋などがあった。


 そうそう。

 道具屋にはかねてから興味を持っていた魔法陣がいくつかあったよ。

 火系、水系、土系の攻撃魔法に関するものらしい。

 少なくとも立ち寄った店には風系の魔法陣は置いてなかった。


 どれもわら半紙のような紙に魔法陣が描かれている。

 なんかこう、巻物のようなものを想像していたんだけど、違ったみたいだ。

 そういえば、ミリアが使った魔法陣もペラペラの紙だった気もする。


 そのミリアが使っていた《土蜘蛛の爪槍》もあった。

 一枚銀貨二十枚だそうだ。日本円に換算するなら八万円くらいだろうか。

 結構高い気がするが、そんなもんなのか?


 つまり、あの勘違いから始まった戦闘で、ミリアはそんな高い魔法陣を使ってしまったことになるのか。

 なんか、悪いことしたなぁ。


 オレは《土蜘蛛の爪槍》を一枚、あと火系と水系を一枚ずつ購入してみることにした。火系がちょっと高くて金貨一枚と銀貨十枚、水系が銀貨十五枚。


 金貨三枚を出して、おつりが銀貨五枚だったんだが、計算合っているのかな?

 人のよさそうなおばあさんだったし、自分で検算するのが面倒だったので、信じることにした。

 仮に誤魔化されたとしても、先日のカミーリャン商会から頂戴した・・・・額からすれば、微々たるものだしね。


「魔法陣を購入してどうするの? トーヤもリオも、既に魔法を使えるのでしょう?」


 店を出たところでファムが尋ねてきた。


「リオは、たぶんこの魔法陣よりもっといい魔法を使えるだろうな。でもオレが使える魔法なんて、《放電スパーク》と飲み水を出すくらいだよ。オレの世界には魔法なんてなかったからな。興味があるんだ。後で試しに使ってみたいんだよ」

「……金貨三枚も使って、それが好奇心のためって、どういう金銭感覚しているの」


 ――うっ!


 言われてみれば、日本円にして三十万円くらいか。

 そう思われても仕方ないかも……


 オレはちょっと考えて、二人に話しておくことにしたよ。

 お金に困っていない理由について。

 やはりというべきか、二人とも目を丸くしていた。


「……呆れた。そこらの盗賊顔負けじゃない」

「ははは。まぁ、そう言うなよ。おかげでラヴィはヴァルグニールを手にすることができたんだし。少なくともオレ達の旅で路銀に困ることは無くなったんだしさ」

「そうですよね。リオちゃんグッジョブですよ!」


 ファムはジト目でオレを見ているが、ラヴィは完全に味方してくれるようだ。

 ヴァルグニールの件があるからだろうな。


「まあ、そういうわけだから、二人も何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれよ?」

「あ、じゃあ、アタシ、アレが欲しいです」


 早速ラヴィが指さした先には、大きな肉の塊が吊るされ、そこから肉をそぎ落として、焼いて提供する屋台があった。確かにいい匂いがしている。


「……ラヴィ。あなた朝食をおかわりしていなかった?」

「うん。したよ? それがどうかした?」

「あの肉が、ラヴィの腹につくかも知れんぞ?」

「そう思います? なんなら、トーヤさんがアタシのお腹を触ってチェックしてくれてもいいですよ?」


 ――っ! できるか!


 ってか、ホントにオレがやったらどうするつもりなんだ?


 ……いや、ラヴィのことだ。

 どうぞどうぞと受け入れそうだ。


 まったく。

 天然なのか、からかわれているのか、それとも余裕なのか……


「まあいい。確かにいい匂いだしな。どんなものか、オレも興味ある」

「やったー。ファムは? いらないの?」

「……いる」


 その屋台では、焼いた肉を串に刺して提供してくれるようだ。

 一本青銅貨五枚。日本円に換算して約五十円か。

 このボリュームでその値段はかなり良心的じゃないか?


 ソースは、赤いものと白いものがある。

 ファムが赤いほうを、ラヴィは白いほうを選んだ。

 オレはちょっと迷ったが、白いほうを選択してみた。


「おいしいー」

「……うん」


 ラヴィとファムは満足げだ。

 オレも早速かぶりついてみた。


 どうやらこの白いソースはヨーグルトソースみたいだ。

 焼いた肉にもなかなかマッチしていて、結構旨い。


 ラヴィは早々に完食したようだ。


「二人とも食べるの遅いですよ」

「ラヴィが早すぎるのよ」


 ファムに同意しようとラヴィの方を向いたとき、オレの目にそれが飛び込んできた。


 ――あ、あれは!?


 オレは急いで残りの肉を食べ終わり、それがあるところに駆け出した。


「トーヤ?」

「トーヤさん?」

「あ、ファムはゆっくり食べてていいから。オレはちょっとあの店のところに行くから」


 二人を置いてオレが向かったのは服を扱う店だ。

 店の前にいくつか服が飾ってある。

 そのほとんどが、黒や濃紺を基調としたロングのワンピースに白いエプロンを組み合わせたエプロンドレス。

 そう、いわゆるメイド服だ。


 この世界にもメイド服があることは知っていた。

 セイラのところでも見たことがあったからな。


 だが、セイラのところで見たメイド服も、ここに飾っているほとんどのメイド服も、日本でいうところのヴィクトリアンメイド型だ。


 オレが今興味を引かれたのはそっちじゃない。


 端のほうに一つだけ置かれた、他とはちょっと違うメイド服。

 白を基調として赤いチェックが入っていて、スカート丈も短い。

 そう、いわゆるフレンチメイド型のほうだ。


 こっちの世界にもあったのか!


「トーヤ、どうしたの?」

「これは、メイドの仕事着ですよね? 珍しいものではないと思いますけど」


 二人も店の前まで寄ってきた。


「そっちじゃない。こっちだ」

「これもメイドの服ですか? 可愛いですけど、確かにこういうのは珍しいですね。あまり見たことないです」

「メイドの仕事着としてはどうなの? 汚れとか目立ってしまいそう。……可愛いけど」

「二人とも、可愛いとは思うんだな。じゃあどうだ? 着てみないか?」

「「……え!?」」

「二人とも、絶対似合うと思うぞ。オレが保証する」


 見てみたい。

 これを着た二人を見てみたい。

 そして絶対写真に撮っておきたい。


 ネコ耳娘とウサ耳娘のメイドバージョンツーショット!

 絶対イケるって!


「……は……ははは。やだなぁ、トーヤさんってば。こんな可愛いらしい服、アタシには似合いませんよ」

「……ワタシもちょっとこれは……ねぇ……」


 二人とも後退あとずさりし始めた。


「そんなことない。絶対似合う。間違いない!」


 オレは無意識のうちに、じりじりと二人に寄って行ったみたいだ。


「ト、トーヤさん、なんか目が怖いです……」

「……却下」


 そう言って、二人は踵を返し、通りの方へ歩いて行ってしまった。


 何故だ。なんで分かってくれない!

 絶対、ぜったい、ぜえーたい、似合うと思うのに……


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

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