49. ファムの八つ当たり?
町に戻ってから、オレ達はガーウェンの元へ行き、紅鎧の頭部を三つ並べて見せてやった。
「な、なんですか、これは?」
そう言ってガーウェンは後退ってしまった。
まあ、無理もないだろうな。
目を見開いたままの獣の頭部を三つも並べられたら、オレだって気味が悪くて悪夢でも見ちゃいそうだ。
「今回あなたが依頼した怪物退治の完了の証拠ですよ」
「これが……怪物の……」
「ええ。紅鎧、もしくは紅大猩々というやつですね」
「紅鎧って、あの北方の怪物の……」
「らしいですね。何故こんなところに迷い込んでいたのかまでは分かりませんが」
ガーウェンが、一度咳払いをして逃げ腰だった姿勢を正してきた。
さすが町長。立ち直りも早いみたいだ。
「紅鎧は、かなり強い怪物だと聞いています。それをこうもたやすく討伐してきてしまうとは。流石C級ハンターというところでしょうか。同じブロンズでもD級とは、まさに次元が違うということですな。いや、まったくもって素晴らしいです。貴方達に出会えて、本当に幸運でした」
そこでガーウェンはポンッと手を鳴らした。
「そうだ。この後貴方達の功績を称え、パレードなどはいかがでしょう? その後はパーティですね。お任せください。思いっきり豪華にさせていただきますよ。ええ、貴方達の功績に恥じない、十分な……」
「ちょ、ちょっと待ってください、ガーウェンさん」
――立ち直った途端、これか!
危ない。またマシンガンが駆動し始めている。
適当に切り上げないと。
それに、パーティはともかく、パレード?
そんな恥ずかしいこと勘弁してほしい。
オレの後にいたファムとラヴィも、パレードという単語が出たとたん、顔をしかめて後退りしていた。たぶん、オレと同感なんだと思う。
だから、そんなこと絶対阻止だ。さっさと退散するとしよう。
「どうしました? あ、もしかして服装などを懸念されておりますか? それならばご心配にはおよびません。貴方様の服も、こちらのお嬢さん達の服も、当方で全てご用意させていただきます。もちろん主賓に相応しいものをちゃんと用意させていただきます。ああ、女性にはお好みというものもございましょう。特に装飾品などはそうですよね。でも大丈夫です。お任せください。これからちょっとお時間をいただきまして、選んでいただくこと……」
――ぐっ! マシンガンの連射性能が今朝よりパワーアップしていないか?
それでも何とか隙を見付けて割り込んだ。
「いえ、ガーウェンさん。そうではなくてですね。申し訳ないが、我々にも都合がありまして。この町の懸念もこれで払拭できたことですし、ならば我々としてはちょっと先を急ぎたいと考えておりまして。今日、この後すぐにでもこの町を出立しようと考えているのです」
「え、そうなのですか? もっとゆっくりしていかれてはいかがですか? パーティは色々と趣向を凝らして三日くらいやろうかと考えているのですよ。それにこの町もぜひ色々とご案内させていただこうかと……」
「お申し出は大変ありがたいのですが、申し訳ありません。今回は遠慮させてください。次の機会がありましたら、その時にはぜひ」
「そうですか……残念です。本当に」
「申し訳ありません」
ようやく納得してくれたらしい。助かった。
なお、オレ達は今回の依頼に関する報酬についても、全て辞退することにした。
もしここで報酬を貰ってしまうと、実態はどうあれ、他のハンターの仕事を横取りしたことになってしまい、言い訳が通じなくなってしまうかもしれない。
山を下りたときに、リオにそう忠告されたんだ。
言われて気付いたよ。確かにそうかもしれない。
お金が絡むとたいてい話がややこしくなるからな。
もっとも、今度はハンターの仕事をタダでやってしまったことを咎められることになるかもしれない。今回のような危険な仕事をタダ働きする悪しき前例を作ったとか言われて。だが、貰ってしまった場合に比べれば、まだマシな気がする。
どっちにしろ面倒事にはなるのかもしれないが、とりあえずマシなほうを選択しておくことにしたんだ。
話が終わった後、オレ達はガーウェンに見送られて、屋敷を出たのだが、そこには厄介なやつがオレ達を出待ちをしてくれていた。
「待ってたぞ、てめえら」
「……どちら様でしょう?」
とりあえず、オレはとぼけてしまおうと思ったのだが、やはりそううまくはいかないよね。残念。
「ふざけるな。忘れたとは言わせねえぞ。人の仕事を横取りしやがって。へへへ。ギルドに報告してやる。そうすりゃてめえのハンター資格が取り消されるんだ。ざまーみろだ!」
こいつ、今回のことが全て公になれば、自分だって大恥かいて、しかも受けた依頼を直前になって渋ったことが咎められると分からないのか?
そう言ってやろうと思ったが、先に口を開いたのはガーウェンだった。
「いいえ、そうはならないでしょう。少なくとも何か問題になれば、私のほうで全て詳細に説明させていただきますので。もちろんその際には、あなたがこちらのお嬢さん達にこてんぱんにやられて、いじけて、依頼を放棄したことも、何人もの証人とともに公言させていただくことになりますね」
「うぐっ」
「いかがいたします? このまま引いていただければ、今回のことは不問にさせていただきますが? もし公になれば、ギルドから咎められるのはあなたのほうでしょうね」
男がすごい形相でオレ達を睨んでいる。
そう言えば、この男の名前はなんだっけ?
確かにガーウェンから聞いたハズなんだが……
「こ、このままおとなしく引けるか。俺だってハンターの端くれだ。女にやられっぱなしで終われるか! もう一度俺と勝負しやがれ!」
なんか、妙なことになってきたな……
これに応じようと一歩進みだしたのはラヴィだった。
「いいですよ? アタシが相手してあげます」
そういってラヴィがヴァルグニールを構えだした。
「ちょ、ちょっと待て!」
オレは慌てて止めたよ。
その武器を人相手に使うのは危険すぎるだろう?
「お前がその武器使って戦ったら、あの男が跡形もなく爆散してしまうだろうが! こんなくだらないことで、人死にが出るなんて、絶対ダメだ!」
オレのセリフに、男の顔が真っ青になった気がする。
けど、別にそれはいいや。放っておこう。
「えー、でもぉ」
「でもじゃない」
「じゃあ、どうしますか?」
「大本を辿れば、オレのせいだろう? オレがやる」
「それこそあの男が可哀相ですよ。だって、アタシ達が二人がかりで本気で挑んでも全くかなわないトーヤさんが相手だなんて。ほとんどイジメですよね? それとも、あの男も紅鎧のように、いっそのこと首を刎ねちゃうつもりですか?」
「んなわけあるか!」
男の顔が一層青ざめている気がする。
「どいて。ワタシがやるから」
「ファム」
「ワタシなら、あなた達と違って、ちゃんと手加減できるから」
――ちょっと待て! どういう意味だ、おい!
オレの脇を通り過ぎるファムがボソッとつぶやいたのが耳に届いた。
「ちょうどいいわ。少しむしゃくしゃしてたし……」
ファムさん? 手加減と弄ぶのは、違うからな?
オレは男にちょっとだけ同情した。
「武器は好きに使っていいわよ。ああ、大丈夫、安心して。ワタシは素手で相手してあげるから」
ああ、男の顔が今度は赤くなっている。
「舐めやがって。ひん剥いて泣かせてやる!」
そう言って男は剣を抜いて、ファムに向かっていった。
結果? 言うまでもないよね?
剣を叩き落されて、それを拾わせてあげること三回。
足を引っかけられて転ばされること四回。
後ろから尻を蹴飛ばされること七回。
最後はファムの右ストレートが綺麗に男の顔面を捉え、それで男はもう立ち上がれなかった。
もちろん、ファムが受けたダメージは一切無し。
心なしかファムの顔がすっきりした表情をしている……ような気がする。
「ガーウェンさん。あとはお任せしてよろしいでしょうか? 我々はもう行きたいと思いますので」
「はい。分かりました。大丈夫ですよ。デブロにも、少しは良い薬になったことでしょうから」
ああ、そうか。こいつはそんな名前だったっけ。
そんなことを思いながら、オレ達はガーウェンの屋敷を後にした。
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