47. 創世記
《ダーナの扉》? 《来訪者》?
なんだ、それは?
そんな単語は聞いたことがない……と思う。
もちろん、オレはこの世界について知らないことは沢山あるのだが。
オレはリオに視線を向けた。
「トーヤは違うよ。そういうのじゃない。まあ、似たようなものではあるけどね」
「リオ。それは一体何だ?」
「んー。こちらの世界の、いわゆる創世記ってやつかな。この世界の始まりの物語。おとぎ話のようなモノだね」
リオはそう言ってから、オレに向かってその内容を語ってくれた。
遥か遠い昔、この世界は女神ダーナによって創られたという。
ダーナは最初に大地を作り、海を作り、空を作った。
そして一匹の竜をつくり、この竜と一緒に暮らし始める。
そのうち、自分たちの世話をさせるためにと、人をつくった。
人が活動する時と休む時を分けるため、昼と夜をつくった。
この作られた人が後にエルフ族と呼ばれるようになる。
ある時、竜がダーナに言った。退屈だと。
ダーナは少し考えて、一つの大きな扉をつくった。
その扉が開いたとき、別の世界とつながり、そこからエルフ族に似た大勢の人が訪れた。
そして彼らはこの世界に住み着き、生活し始めた。
これが後に人族と呼ばれることになる。
竜は喜んで彼らの生活を眺めていた。
しばらくして、また竜は言う。さらに他の世界の人も見てみたいと。
そして扉は何度か開かれることになる。
その度に、他の世界の人達が訪れ、この世界に住み着いていく。
それが、後に虎人族や猫人族、兎人族などと呼ばれるようになる獣人達だった。
「つまり、女神ダーナが作ったその扉が《ダーナの扉》であり、そこをくぐってやってきた人々が《来訪者》ってことか」
「そういうことだね」
ふーん、なるほど。いろいろな種類の獣人や人族がこの世界に入り混じっているのはそういうことなのか。
「でも、それはただの神話、もしくはおとぎ話にすぎないわ」
「ん? 本当の話ではないのか?」
「誰でも子供の頃には何度も聞かされる話よ。でも、女神ダーナも、《ダーナの扉》も実在なんかしないわ。そんなもの、誰も見た人いないもの」
つまり、この話はこの世界における定説というわけではなく、本当にただのおとぎ話ということなのか?
オレ達の世界にも、神様が世界を作ったという創世記がある。
でも、それは宗教の中の話か、たんなる神話であって、定説じゃない。
こっちの世界の人たちも同じなのか?
神様を信じていない?
だけど、科学がある程度発展したオレ達の世界ならともかく、そうでないこちらの世界なら、神様という存在を信じていても不思議じゃないだろうに。
まして、こっちの世界は魔法が存在するんだし、神様の一人くらいいたっておかしくないんじゃないかと思っちゃうのは、オレの先入観なんだろうか。
「でも、ファム。古竜は実在するでしょ?」
「らしいわね。ワタシは見たことないけど」
「この創世記の真偽はともかく、トーヤは違うよ。《ダーナの扉》をくぐってきたわけじゃない。ボクが魔法で異世界から連れてきたのさ」
「「……は?」」
リオの発言に、二人とも見事に固まってしまったようだ。
そうだよなあ。事実ではあるんだけどね。
言ってみれば、リオは女神ダーナみたいなことをやってのけたということになるんだろう。そりゃあ、唖然ともするよな。
オレは、今までの話を聞いていて、一つ確認してみたいことが頭に浮かんだ。
まさかとは思うけど、ラノベやアニメなんかではありがちな話なんで、ちょっと確認しておきたい。
頼むから、違っててくれよ……
「なあ、リオ?」
「ん? 何、トーヤ」
「まさかとは思うが、お前が実は女神ダーナなんだってオチは無いよね?」
「……は?」
おお! リオがすっごい驚いている。
初めてじゃないかな、オレがこのチート鳥をここまで驚かせることができたのは。
ついでにファムとラヴィも、さっきに引き続いて、更にぎょっとした顔でリオを見ているけど。まあ、それは置いておこう。
「……何がどうなったら、そういう話になるのかな。ボクが神様? 冗談でもやめてよね」
「違うと?」
「当たり前でしょ。ボクは女神ダーナじゃないよ」
「ふーん。ならいいんだけど」
やっぱりそういうオチはラノベやアニメの中だけか。
事実は小説より奇なりとはいうけど、オレなんかが想像できる範囲での奇をてらうようなことは無いらしい。
見ると、なんか二人も胸を撫で下しているようだった。
「さて、他に聞きたいことはあるか?」
ファムがオレを見上げている。
何かあるようだが、もしかしてまだ遠慮しているのか?
「何だ、ファム」
「……あなたは、本当に違う世界から来たの?」
「ああ」
そう答えながら、オレは一つその証拠になりそうなものを思い出した。
自分のバッグからそれを取り出す。
デジカメだ。
「これを覚えているか? ラカの町で、初めてお前たちに会った時に見せただろう?」
「ええ。確か風景などを絵にして残すアーティファクトだって」
「ホントはアーティファクトじゃない。オレの世界で使われている、普通の道具だよ。この世界のものじゃないんだ」
「……じゃあ、本当に?」
「ああ」
「……だとしたら、あなたがこの世界に来た目的は何?」
「目的? ああ、それは……」
――ちょっと待て!
オレは今、何を言おうとした?
獣耳の美少女達とお友達になるため?
言えるわけないだろう、そんなこと!
じゃあ、何だ。何て言えばいい?
冒険しに来た?
それとも観光?
異文化交流?
いや、違う。そうじゃない。えっと、そうだ。思い出した!
「ちょっと頼まれごとがあってね」
「頼まれごと?」
「ああ、ライトルネというところに用があるんだ」
そう。母さんに頼まれていたことがあったんだ。
危ない危ない。すっかり忘れていた……ことは秘密にしておこう。
「ライトルネ……西の方の都市ね。そこがあなたの目的地なのね?」
「ああ」
「分かった」
ん? 分かったって。
それって、もしかして……
「そこまで付いて来てくれるのか?」
「いけない?」
「いや、そんなことはない」
うん。本当に。
リオと二人で旅するより、獣耳娘の美少女二人も一緒の旅のほうが断然楽しいに決まっている。
だけど、本当に楽しい旅にするためには、どうしても言っておかないといけないことがあると思うんだ。
一緒に旅をするならばなおさら、今後のためにも、ここでちゃんと言っておくべきだと思う。
「ただし、一つ条件がある」
「……条件?」
「そうだ。大事なことだ」
「……何?」
楽しい旅にするためには、きっと今のままじゃダメなんだ。
相手の役に立つんだ、などと肩ひじ張らずに、もっと自然体で、笑いあっていけるようにならないと。
それに、そもそもオレが欲しいのは獣耳娘の友達なんだ。
従順な家来とかじゃないんだ。
そう! 獣耳娘達と仲良くなりたいんだよ。
もちろんすぐには無理かもしれないが、それがオレの目的でもあるのだから。
そのための第一歩が必要だ。
某熱血魔法バトルアクションのヒロインも、友達になるために言っていた。
オレも同感だ。
だから、同じことを言わせてもらおうと思う。
「名前で呼んでくれ」
「……え?」
「あなたとか、この人とかじゃなく、ちゃんとトーヤと呼んでくれ」
ラヴィは、さん付けではあるが、ちゃんと呼んでくれている。
だけど、ファムはまだ一度もオレのことを名前で呼んでくれていない。
それが、オレはすごく気になっていたんだ。
なんとなく、心の距離を感じていたんだ。
「……それが、条件なの?」
「そうだ」
「分かったわ。今度から……」
「今度じゃなく、今からだ」
――うっ
なんかファムが睨んでいるような……
やっぱり、そういうのは無理があるんだろうか。
仲良くなりたいと思いつつも、今オレが言っていることは強制じみていて、矛盾してしまっているのだろうか。
でも、じゃあ、どうすればいいっていうんだ。
ファムが俯いてしまった。
ダメ……なのか?
リオとラヴィは黙ってオレ達のやりとりをただ見ているようだ。
……ち、沈黙が……く、空気が重い。
「……ト……ャ」
――おっ!
「……トーヤ」
――よし!
ファムの顔が真っ赤だ。
これは、怒っているんじゃないよな? 絶対、違うよね?
「ああ、ファム。改めて、よろしくな」
「……ん」
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