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43. 不可抗力から始まる朝

※ 本日二話目の投稿になります。

 なんだ? すっごく頭が痛い。ガンガンする。


 ん? 横に何かある?

 なんだろう、これ。

 すごく柔らかい。

 まるで女性の胸の……よう……な……


「んっ……」


 女のちょっと艶めかしい声に、オレはハッと目が覚めた。


 目の前にはラヴィの寝顔。

 そして、オレの左手は、ラヴィの、胸の……上に……


 オレは驚いて上半身を起こした。

 その途端頭に響くような痛みが走る。


 くう……

 二日酔いか。


 いや、それより、なんでラヴィがここにいる?

 一緒に寝た……のか?

 え? 寝た? ラヴィと? 一緒に?

 まさか? え? え?

 お、思い出せない。


 いやいや。

 まてまて。


 よく見ると、オレは上半身裸だが、下はズボンを穿いている。

 ラヴィも薄着ではあるが、ちゃんと服を着ている。

 だから、だから、間違い・・・は起こらなかったはずだ。……たぶん。


「んっ。ああ、もう起きたの?」


 後ろからした声に振り向くと、ファムがソファに寝そべって目をこすっている。


「ここは、宿か?」

「そうよ」


 ファムが欠伸を手で隠しながら応えてくれた。


「いつ帰って来たんだ、オレ達」

「覚えてないの? 足取りもしっかりしてたし、そんな酔ってないのかと思ってたけど」

「……酒場を三人で出たところまでは覚えている」


 そして、それ以降が全然思い出せない。

 どうやって宿まで来たんだ?


「普通に歩いて帰って来たわ。ここに着いて、あなたはすぐに上だけ脱いでベッドで寝てしまったけど」

「そ、そうなのか」

「ええ」


 じゃあ、やっぱり間違い・・・は起こらなかったんだよな?

 でも、それはそれでどうなんだろう?


 オレはチラッとラヴィの寝姿を見た。


 なんてあどけない無防備な姿で……

 こんなウサ耳の美少女が隣で眠っていたというのに、オレはそれを知らずに爆睡していたというのか!?


 なんてもったいな……あ、いや、そうじゃなくって。


「なんで二人ともここにいるんだ?」


 その言葉に、ファムはちょっとむっとした顔をしながら体を起こした。


「何? ワタシ達は外で寝てろってこと?」

「違う違う。そうじゃない。誤解するな。なんでオレと同じ部屋に寝てるんだ? 部屋は二つ取ったんじゃないのか?」

「二つも取ってないわ。そんなもったいないことする必要ない」

「……なーにー。朝からうるさいな、もう」


 ラヴィもようやく目を覚ましたようだ。


「……どうしたの、ファム? 朝から顔が怖いよ?」

「……この人が朝からおかしなこと言うから」


 あれ? オレがおかしいのか?


「起きたら隣でラヴィが寝ていてびっくりしたんだよ」

「あれ? いけませんでした? ダメでしたら、今度から床で寝ますけど」

「いや、そうじゃなくって、もう一つ部屋を取れば……」

「そんなのもったいないじゃないですか」


 ラヴィもファムと同じことを言う。


「別に部屋は一つで十分でしょ」

「でも、ファムだってベッドで寝たいだろう? ソファじゃなくてさ」

「野宿に比べれば、ソファでも十分よ」

「着替えだって……」

「そのための衝立ついたてでしょ?」


 もしかして、これがこっちの世界の常識だったりするのか?

 恋人とか家族とかじゃなくても、男女で同じ部屋に泊まるものなのか?


「今までもそうだったのか? その、こんなこと聞くのはアレかもしれないけど、男と同室で危ない目にあったりとか……」

「そんなの、事前に一言言っておけば済むことよ」


 一言? なんか、非常に嫌な予感がするんだが。


 でも、オレはこっちの世界のことを知らなさすぎるからな。

 こっちにはこっちのルールや常識というものがあるのかもしれない。

 一応聞いておこう。


 ――ゴクッ


「何て?」


 ファムは、ナイフを取り出し、視線はオレに向けて、刃を舐めながら一言つぶやいた。


「おかしなこと考えたら、斬り落とすわよ?」


 ――やっぱ、聞かなきゃよかったよ!


 オレもこれから、こうやって脅されちゃうのだろうか?

 いや、やっぱ部屋は二つ借りようよ。


 同室ってのは、そりゃあ正直ちょっとは嬉しいけど、でも、そのセリフを聞かされるのは全く嬉しくないよ……


「ははは。ファム、怖いよ。トーヤさん、引いちゃってるよ?」

「……別に、聞かれたから答えただけよ」


 ファムはそう言うと、ナイフをしまって、顔を洗って来ると部屋を出て行ってしまった。


 オレもベッドから降り、椅子に掛けてあった服を着始めた。

 部屋にウサ耳美少女と二人っきりで、しかも上半身脱いでベッドの上なんて、いろいろとヤバ過ぎる気がする。

 そう、主にオレの理性がさ。


 しかも、なんかラヴィは無防備なところがあるし。


「ところでトーヤさん?」

「なんだ?」

「アタシ達が寝ている間に、変なことはしませんでしたか?」


 ――ギクッ


 オレは振り返ってラヴィを見た。


 ラヴィは少しあごを引いた感じで、上目遣いでじぃっとオレを見ている。

 そして、やはりというべきか、ウサ耳がワサワサしている。

 そういう時は要注意だ。迂闊なことは言えない。


「変なこと?」

「……悪戯イタズラ、とか?」

「するわけないだろう」


 オレは速攻で否定した。


 うん。嘘じゃない。悪戯なんかしていない。


 ラヴィの胸に触ってしまったけど、あれは不可抗力だ。

 決して悪戯なんかじゃないんだ。


「ふふふ。そういうことにしておきますね」


 ……なんだろう。なんか見透かされているような気がする。

 気のせいだよね?


「大丈夫ですよ。ファムにはちゃんと内緒にしておきますから」

「いや、ちょっと待て。オレはホントに何も……」


 オレの弁明は、残念ながら最後までさせてはもらえなかった。

 ちょうどそこへ帰ってきたファムが勢いよく部屋のドアを開け、こう言ったからだ。


「二人とも、ちょっと来て」


◇◇◇


「つまりそのハンターが、引き受けたはずの依頼を渋っているのは、我々のせいだと」

「まあ、本人はそう言っているんですけどね」


 オレ達を訪ねて宿にまでやってきたのは、この町の町長でガーウェンと名乗る男だった。

 そしてガーウェンによると、昨日オレ達にからんできた酔っ払いは、デブロという、なんとD級ハンターなのだそうだ。


 彼は、ガーウェンが王都のハンターギルドに出した依頼を受けて、昨日この町へ到着し、本来なら今日仕事に取り掛かるはずだったのだが、どうやらその出鼻をオレ達が挫いてしまったようだ。

 大きなけがをしているわけでも無いのに、体が痛いなどと言って仕事をすることを渋っているそうだ。

 なんでも、オレ達から身に覚えのない文句を付けられ、オレ達三人とケンカになり、オレ達三人を撃退はしたものの、体の調子を崩してしまったのだとか。


 正直、言いがかりも甚だしいと思う。

 よくもまあ、そこまで自分に都合よく改ざんできるものだ。

 そもそも酔ってからんできたのは向こうの方なのに。

 飲み過ぎで記憶が無いのか?


「ふざけないで。ワタシ達は――」

「ああ、大丈夫です。分かっていますから」


 ガーウェンはそう言って、激昂げっこうしかけたファムを止めた。


「デブロ一人の話をそのまま丸飲みして信じたりしませんよ。ご安心ください。ちゃんと酒場にいた何人かに話を聞かせてもらい、確認させてもらいました。実際はデブロが酔っぱらってあなた達にからんだ挙句、こちらのお嬢さんたちに返り討ちにあったとか。なんとも情けない話ですよね」


 間を置かず、しかも、とガーウェンが言葉を続ける。


「聞いたところによると、かなり下品で失礼な物言いだったとか。D級とはいえ、ハンターの質も落ちたものです。全くなげかわしい。昔はハンターと言えば、子供たちの憧れだったのですよ。みんなハンターに憧れたものです。かく言う私もですね。子供の頃は、ハンターに憧れてまして――」

「あ、あの、ガーウェンさん?」


 ダメだ。この人もマシンガントーク持ちだ。

 調子に乗らせると、エンドレスでどこまでも果てしなく続くタイプの人だ。

 調子に乗らせてはいけない人だ。


「すみません。話を進めさせてください。では、我々に抗議をしに来たとか、そのデブロとかいうハンターに謝れと言いに来たわけではないのですか?」

「いえいえ、違いますよ。とんでもない。正直、もう彼はどうでもいいんです。ぶっちゃけて言えば、獣人の方とは言え、女性に負けた上、見栄と虚勢だけ張っていじけているハンターなんか、どうでもいいんですよ」


 うわぁ、ホントにぶっちゃけてるよ。

 たぶんだけど、この人、リオとはすぐに意気投合するタイプの人じゃないか?


「では、何を?」

「はい。実はですね。あなた方に一つお願いがあってまいりました。ハンターにお願いをしていることから察していただけると思いますが、この町は、今一つ大きな問題を抱えていまして。その解決を、ぜひあなた方にお願いしたいと思いまして」

「お願い、ですか」

「はい。あ、これはデブロをいじけさせた責任を取れとか、そういう意味ではないですよ。そこの点は誤解なされない様お願いいたしますね」


 そしてガーウェンは、ですが、と言って再び滑らかに口を動かし始めた。


「私どももほとほと困っていることも事実。そこへ酔っ払いとはいえ、D級ハンターをいじけさせてしまうほどの実力を持った方々が現れた。これはもう、神の思し召しというものでしょう。この機会を逃すことなど考えられません。ぜひ、ぜひ、あなた方のお力を貸していただき、我々を助けていただきたいのです。どうかお願いします。この通りです。あ、もちろん、少ないですが謝礼のほうもご用意させていただいております。なんでしたら、この町に滞在する間の宿代などはこちらで負担させていただきます。それに、そうそう、よろしければこの町の特産などもご提供させていただきます。この町は小さいですが、質の良い土壌に恵まれておりましてですね。農作物なんかも……」


 うわぁ。まただ。

 というか、内容とやらをホントに話す気あるのか?


「で、ガーウェンさん。お願いの内容というのは? その、困っていることというのは何でしょうか?」

「おっと、これは失礼しました。肝心なことをまだ話していませんでしたね。申し訳ない。私の悪い癖でしてね。どうも話出すと止まらないようで。家内や周りの人間にも、よくそう言われてしまうのです。治そうとは思っているのですが、これがなかなか。癖というのは本人にはなかなか自覚が無いものというじゃないですか。私もその都度反省はするのですが……」


 結局、お願いの内容を聞くのに、それから更に三十分ほどかかってしまったよ……


いつも読んでいただいて、ありがとうございます。

楽しんでいただけていますでしょうか?

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引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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