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41. 会話と距離

※ 2017/07/25 誤字脱字、改行位置など修正。内容自体に変更無し。

※ 2017/10/06 主に改行位置など修正。内容自体に変更無し。


第三章、始まります!

 うーん。どうしたものか。

 なんというか、タイミングがなぁ。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れてしまう。


 オレは馬に揺られながら、ちらっと後ろを見てみた。

 先程から変わらず、五メートルくらい後ろを二頭の馬が付いて来ている。

 それ以上近付きもせず、それ以上離れもせず。


 二頭の馬には獣耳の美少女が乗っている。

 一人はウサ耳の少女。

 まわりの景色をきょろきょろ見ながら、なんとなく楽しそうだ。

 うん。こっちはいいんだ。

 たぶん、何も問題ない……と思う。


 問題はもう一人の獣耳娘。

 ネコ耳の少女のほうだ。

 彼女はさっきから、じとっとした目でオレを見ている。

 むしろ睨んでいると言った方が正しいのかも。


 あの目は、アレだな。

 またオレが逃げ出すんじゃないかと疑っている目だよね。

 そして、絶対に逃がさないとターゲットをロックオンした肉食系捕食者の目だよね。

 うん。きっとそうだ。


「はぁ……」


 おかげで話しかけにくいったらありゃしない。

 オレとしては、念願の獣耳娘と仲良くなれる大チャンスだというのにさ。


「はぁ……」

『……ねぇ、トーヤ。さっきからため息が多くない? なんか、こっちまで辛気臭くなってくるんだけど』


 オレの肩に止まっているリオが、さもうっとうしそうに念話をしてくる。


『しょうがないじゃん。もうため息しか出ないよ。それともリオは、何かここで出せる起死回生の一手があったりする?』

『起死回生も何も、そもそも何も問題なんか無いと思うんだけど?』


 お前リオには、この重苦しい空気が分からんのか!


『たぶん、トーヤの気のせいだよ。普通に、よろしくって声を掛ければ済む話じゃん』

『そんな単純なことじゃ……』

『単純な話だって。いいかい、トーヤ。人はね、会話を重ねることで距離を縮め、会話を無くすことで距離が離れるんだよ。なんでもいいからさ。話しかけてごらんよ』


 ……それは、なんとなく分かる……ような気がする。

 ……するんだけどさ。


 付いてくると言ってくれた時、逃げちゃったのがやっぱ後ろめたいというか、怒っているんじゃないかと思うとさ、なんか話しかけるのが怖いんだよなぁ。


 かといって、ずっとこのままというわけにも、もちろんいかないよな。

 とりあえず覚悟を決めて話しかけてみようか。


 もし怒っていたら……

 その時は素直に謝ろう。うん。


 オレは一旦馬を止め、後ろを振り返りながら右の方を指差して二人に声をかけてみた。


「あそこの大きな木のところで少し休憩するから」

「あ、はーい」


 ラヴィは左手を上げながら返事をしてくれ、ファムも小さく頷いてくれた。


 ……怒っては、いない、かな?

 とりあえずは返答してくれたことに、少しほっとしたよ。


 フルフの町を出ておよそ三時間くらいだろうか。

 以前に比べればそれほどお尻が痛く無いのは、オレが乗馬に慣れたせいなのか、それともセイラが用意してくれたこの馬や鞍のおかげなのか。

 だが、それほど急ぐ旅でも無いと思うし、休憩はこまめに挟んでもいいだろう。


 でも、一体何を話そう。何を話せばいいんだ?


 オレは木の根元に腰を下ろし、水を飲みながら、一つ思いついたことを口にすることにした。


「今日は暑いみたいだからな。二人ともこまめに水を飲んで、水分を補給しておけよ。途中で倒れられても困るからな」


 ……言ってから思った。

 少しぶっきらぼうだっただろうか?

 偉そうに、とか思われたりしないかな?


「はーい」


 ラヴィはウサ耳を小さく左右に揺らしながら、素直に返事をしてくれた。

 でもファムのほうは、やっぱりちょっと素直じゃないみたいだ。


「……でも、旅の間の水は貴重だから、できるだけ節約しないと。何処へ行くかも分かっていないし、次の補給がいつできるかも分からないから……」


 ファムがつぶやくように小さな声で発した言葉に、オレは少し納得したよ。


 なるほど。確かに何も話していないからな。

 そりゃあ、不安はごもっともだ。

 二人がオレに付いてくるというのなら、ちゃんと説明しておく必要があるよな。


 オレは二人を手招きして、今から説明するからとオレの近くに座らせた。


「まず目的地だが、今は王都に向かっている。ちょっとそこで人と会う約束があってね。でも、特に急いでいるわけではないから、まあ、のんびりと行くさ」


 二人ともそれに頷いた。

 なんとなく、ファムのほうは少しほっとしたような顔をしているようだ。


「あと、水の補給についてだが、必要な時に随時行う。ちょっと見てろ」


 そう言ってから、オレは自分の水筒のふたを開けた。

 右手を水筒の口の上にかざす。

 その途端、まるで右手から水が湧き出たかのように流れだし、水筒の中へ落ちていく。

 それは水筒の中がいっぱいになったところで、溢れることなく止まった。


 もう何度もやったからな。

 量の調節なども結構慣れてきたよ。


「おお、すごーい」

「……無詠唱での水魔法」


 ラヴィの拍手を交えた素直な感嘆に対して、ファムは少し驚いたように小さな声でつぶやいていた。


 なんとなくそうじゃないかとは思っていたが、この反応を見るに、やはり二人とも魔法は使えないようだ。


「ということだ。つまり、水の補給はいつでもできるから心配はいらない。ついでに二人の水も補給するから、水筒を貸してくれ」


 ラヴィは、すごいすごいと連発しながらも水筒を渡してくれたので補給したが、ファムのほうには、まだ大丈夫だからと断られてしまった。


「やっぱりトーヤさんは魔法を使えたんですね。あのビリビリってやつも、魔法なんですよね?」

「ビリビリ? ああ、《放電スパーク》のことか」


 ラヴィの問いに、オレはそう答えてから左手の親指と人差し指の間で電気を放つ《放電スパーク》を見せてやった。


「そう! それです、それ! それってどういう魔法なんです? 火系? 風系? それともまさか光系?」


 ラヴィが興味津々といったふうに身を乗り出して、オレの左手をまじまじと見つめてきた。それだけにとどまらず、オレの左手を両手でがっしりと掴んで、上から下からじろじろ見始めた。


 急にウサ耳の美少女に手を握られて、一瞬ドキッとしてしまったことは秘密だ。絶対に知られてなるものか!


「いくら見たって普通の手だから。特に仕掛けのようなモノはないよ」


 そう言いながらも、オレは自分の手を引っ込める気は無い。

 そんな勿体ないこと絶対しませんって。

 むしろ握り返したいくらいだ。

 しないけど。


「それとこの魔法についての説明は少し難しいな。なんて言えばいいんだろう。火でも風でも、光でもないよ。もちろん土や水でもない」


 オレの返答にラヴィはちょっと驚いて、それからファムのほうを見た。

 ファムもなんだか驚いているようだ。


 なんか、おかしなこと言ったか?


 オレの魔法の知識は、ほんの少しリオから聞きかじっただけだからな。

 知らず知らずのうちにおかしなことを言っている可能性はなくもない。


 そう思って、これ以上余計なことは言わない方がいいかもと、黙って二人を見ていると、ファムのほうから聞いてきた。


「……まさか、神力なの?」

「神力? なんだそれは?」


 そういう単語は聞いたことが無いな。

 この世界には魔法の他に、そういうモノもあるのか?


 念話でリオに聞こうかと思ったら、それより早くファムが答えてくれた。


「知らない? 文字通り神の力。神の御業よ。ワタシも実際に見たことは無いからホントかどうか知らないけど、死んだ人を生き返らせることもできるとか。ほとんど神話やおとぎ話の中の力ね。あなたのはそれなの?」

「いや、違うな。これはそんなすごいものじゃないよ。ただの魔法だ」


 自分で口にしてから思ったよ。

 ただの魔法というのもオレにとっては変な話だよな。

 あっちの世界には魔法なんてないのだから。

 魔法だって十分すぎるほどすごいものだと思う。


「でも……」

「《雷の宝珠》は雷を打つ魔法だったろう? この魔法は、基本的にそれと同じだ。雷を非常に小さくしたものだと思えば、まあ間違いじゃない」

「……雷の魔法」


 再びファムとラヴィが驚いたふうに目を合わせている。

 そのはずみでか、ラヴィの両手がオレの左手から離れてしまった。


 そのことに少し落胆したことも秘密だ。これも絶対に秘密だ。


 二人が再びオレのほうを見て、そしてファムが口を開いた。


「やはり、ロロアの言っていたことはホントなのね?」

「ロロア? 誰だ?」

「《黒蜂》の一人。火の魔法を使える女性よ。昨日、ワタシたちを訪ねてきてくれたの。故郷に帰る前にって」


 ああ、そういえばカミーリャン商会を襲撃したとき、そんな名前の女性がいた。

 そうだ、思い出した。ブロッシュと一緒の部屋にいた女性だ。


「ロロアが言ってた。あなたが《雷の宝珠》を使って館を瓦礫に変えたって。だけど、本来なら《雷の宝珠》はまだ数年は使えないハズ。おかしいと思っていたんだけど。でも、あなたが雷の魔法を使えるというのなら、話は別ね。もしかしたら《雷の宝珠》はたんなるカモフラージュで、ホントはあなたの魔法で雷を放ったんじゃない?」


 ――するどい! でも、半分外れだ。


 あれはオレの魔法じゃない。リオの魔法だ。

 もっとも、それをどう説明したものか。

 それともいっそうのこと、リオのことを話してしまうか?


 これから一緒に旅をしていくなら、これもちゃんと話しておくべきだろう。


 でも、リオに何も断りなく話してしまうことには抵抗がある。

 リオのほうは「トーヤに任せるよ」と言いそうではあるけどね。

 近いうちにちゃんとリオとも相談しておく必要があるな。


 そう考えて黙ってしまったオレを、ファムはちょっと誤解してしまったようだ。


「……そうね。当然答えてはもらえるわけないわね。ワタシ達はつい先日まで敵だったわけだし。そんな相手に簡単に手の内を晒すわけないわね」

「いや、そういうわけじゃないんだが。いろいろと、ちょっとすぐには話しにくいこともあるんだよ。まあ、そのうちな」


 とりあえず今回は、答えは保留にさせてもらおう。


「トーヤさん。アタシも一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「アタシ達は、邪魔ですか?」


 ――おっと、直球で来たか。


 まあ、なんとなくそれはラヴィらしい気もする。

 この子はきっと、物事に素直にストレートにぶつかっていくタイプだ。

 遠回しに探りを入れてくるなんてしないと思っていた。


 それに対してファムは、ちょっと疑り深くて慎重で堅実を行くタイプという気がする。


 その認識が合っているか否かは、これからの付き合いで分かっていくだろう。


「いや。そんなことないよ」

「……ホントですか?」

「ああ」


 ラヴィのウサ耳がなんかわさわさし始めた。


「じゃあ、アタシ達が一緒で嬉しいですか?」


 ――直球すぎるだろう、おい!


 えーと、どう答える?

 リオによると、この子は兎人族の巫女という話だ。

 オレの言葉の嘘は、たぶん見抜いてしまう。


 かといって、「はい、嬉しいです」なんて答えられるか!


 今気付いたんだが、たぶんウサ耳のこのわさわさした動きをしているとき、彼女は真偽を測っているんじゃないだろうか。それが意識してなのか無意識なのかは分からないが。


「……そういうことにしておくよ」


 オレはそう言ってラヴィに向かって微笑んで見せた。

 これなら直接的な表現は避けつつ、かつ嘘は付いていない……ハズだ。


「だってさ。ファム」

「……そう」


 ラヴィは満足気にファムに向かってそう言ったが、ファムは短く答えただけだった。

 ファムはオレの答えに満足したのか、それとも不満なのか、その表情からはちょっと分からないな。


 でもまあ、あからさまに不満そうな顔をしているわけではないから、とりあえず良しとしておこう。


「さて、そろそろ行こうか」

「はーい」

「ええ」


 オレ達は立ち上がり、それぞれの馬に向かっていく。


 オレは自分の馬に乗り、二人を見ながらさっきリオが言ってたことを思い出していた。


 人は、会話を重ねることで距離を縮め、会話を無くすことで距離が離れる。


 今、なんとなくそれが実感できた気がする。

 少し会話しただけだけど、ほんの少しは距離が縮まったのではないだろうか。

 少なくとも、ファムはオレを睨むような目で見なくなったように思う。


 ようやく明るい先が見えてきたのかもしれない。


 くだらないことてもいい。これからも会話を重ねていこう。

 そして少しずつでいい。距離を縮めていこう。


 まだ、オレ達の旅は始まったばかりなんだから。


いつも読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけていますでしょうか?

ぜひぜひ忌憚の無い感想などお聞かせください。


第三章も、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。

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