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39. カミーリャン商会襲撃の後

 正直、オレは戸惑っていた。

 目の前に突然現れたこの白銀の髪と獣耳を持つ少女に。


 ネコ耳でもウサ耳でもない。これは、イヌ耳だろうか。

 見た目は十五歳くらいに見えるが、獣人の見た目の年齢は全くあてにならないらしいからな。

 とにかく、綺麗な白銀の髪が印象的な美少女だ。


 彼女は値踏みするかのように、オレの事をジロジロと見てはいるが、オレと争うような素振りは見せていない。

 むしろあどけない笑顔でオレに笑いかけてくるくらいだ。


 彼女は一体何者なのだろう。


 それに……


『リオ?』


 オレはリオに念話で話しかけた。


 そう、リオだ。リオが彼女に何も反応をしていない。

 まさかリオまで彼女の接近に気付かず、オレ同様に驚いているというのか?


 そんなことが、このチート鳥にありえるのか?


「ん? あーごめんごめん。ちょっと念話しててさ。その子のことなら、放っといていいから。ガン無視しちゃっていいからさ」


 ――はい?


 ち、ちょっと待て!

 何だそれは!

 何なんだそれは!


 まるであちらの世界での「今電話中でさ」とでもいうようなその軽い反応は何!?

 しかも、放っといていいとか、ガン無視していいとか、どういうこと?

 しかもしかも、今お前、念話じゃなく、声に出していなかったか?

 しかもしかもしかも、一体誰と電話……違った、念話しているんだよ!


 突っ込みどころが満載過ぎるだろ!


 そうしてオレがフリーズしていると、彼女のほうが口を開いた。


「あー、そういうこというんだ、リオ君てば。せっかくわざわざ、はるばるここまで会いに来てあげたというのにさ。そういう態度取られちゃうと、もうボク、拗ねちゃうよ?」


 ……ボクっ娘? リオ……君?


 えっと、つまり、だ。

 とりあえず、リオとこの子は知り合いで、特に危険なことは無いということでいいんだよな。


 オレは、大きく息を吐き出したよ。

 正直かなり緊張していたんだ。


「えっと、君は? リオの知り合い、でいいのか?」


 オレは剣を鞘にしまいながら、白銀の髪の獣耳娘に尋ねてみた。


「まあ、そんなところかなあ。で、お兄さんが今のリオ君のご主人様マスターなんだよね?」

「えっと……」

ご主人様マスターじゃないよ、バカシロ。トーヤはボクの相棒バディだよ」


 どう答えようか迷っていたら、リオが答えてくれた。


 そうか、リオの昔の知り合いか。

 ということは、やっぱり見た目通りの年齢じゃないんだな。


 なにせリオは、二十年以上あちらの世界にいたんだから、その前からの知り合いならば、最低でも二十歳以上、オレより年上のハズだ。


 名前は……バカシロ?


 それに、なんとなくだけど、ずいぶんと仲が良さそうに見える。


 ……と思ったのだけど、もしかしたら少し勘違いしていたのかもしれない。なぜなら……


「バカは余計だよ。相変わらず口が悪いんだから、このアホ鳥は。それより兄様との念話は終わったの?」

「誰がアホだって? その自慢の髪の毛、全部燃やしてあげようか? そうしたら、少しは頭の回転が良くなるんじゃないかな?」

「あん? ボクの髪に手を出したら、その羽全部むしって、丸焼きにして、古竜の口に放り込むよ?」

「あいかわらず大きな口を叩くけど、大言壮語って言葉の意味知ってるかな?」

「あの頃のボクのままだと思ってたら大やけどするよ? それともホントに丸焼けにされたい?」

「できると思っているところが救いがたいよ。全然成長してないじゃん」

「じゃあ、試してあげようか? 今なら半泣きくらいで勘弁してあげてもいいよ?」


 あ、あれ? 仲良い……わけじゃない?

 これは止めた方がいいのだろうか……?


「二人ともいいかげんにしないか!」


 突然掛けられたその声は、オレのすぐ後ろからした。

 振り向くと、そこには黒髪長身で獣耳を持つ男が立っていた。


 ――い、いつの間に!


 リオと少女のやりとりにあっけにとられていたのは確かだが、こうも気付かないものなのか?


「あ、兄様。だってこのアホ鳥が……」

「クロ。バカシロの教育がなってないよ? 甘やかしすぎじゃないのかな?」


 ……まだ言ってるよ、二人とも。


 それにしても、この人がリオの念話の相手か。

 そしてこの少女の兄で、名前はクロ。


 オレには、一つ思い当たることがあった。

 確かリオは、今回の事でオレが罪に問われないよう根回しをしてくれていたんだ。

 そのために昔の知り合いに連絡を取ったのだと言っていた。


 おそらく、このクロという人がそうなのだろう。

 だとしたら、この人は、それが可能な立場の人ということなのだろう。


「リオ。とりあえず二人を紹介してくれないか?」

「うん。こっちの男前がクロ。今回の後始末を喜んで引き受けてくれた、とっても親切な人だよ」


 ……喜んで? ホントに?


 クロと呼ばれた男は、苦笑いしているようにオレには見えるんだけど?

 まあ、それでもここまで来てくれたのだ。

 親切というのは間違いではないのだろう。


 オレは会釈で軽く頭を下げた。

 クロも頷いて返してくれた。


「そしてこっちはバカシロ。クロの妹。別に名前を覚えなくてもいいよ。どうせたんに、クロについてきただけなんだろうし」

「なにおーー!」


 ……たぶん、ホントはバカって付かないよね?


 気安いのはいいんだけど、オレには初対面なんだから、ちゃんと紹介してほしいよ。

 真正直に受け止めて、バカシロと呼んだら、絶対怒られると思う。


 それに、だ。


 きっとこの子は強いのだと思う。

 リオを知っていて、かつリオ相手に本気でやりあえると信じているやりとりだった。

 そんなこと、オレには絶対無理だ。


 それに、クロもそうだが、全く気付かない内に接近もされている。

 どうやったのか分からないけど、それだってオレにはきっと無理だ。


 もしかしたらこの二人は、ミリアレベルの強さを持っているのだろうか?

 ……まさかね。


「クロ。こっちがトーヤ。ボクの相棒バディさ」

「ああ、よろしく、トーヤ。クロと呼んでくれ。今では主もそう呼ぶしな」

「ボクはシロ。よろしくね」

「ああ、二人ともよろしく。それで、今回二人がここに来たのは、リオがそう頼んだから?」


 それしかないだろうとは思うんだけど、一応確認してみた。


「ボクはここに来いとまでは言ってないよ。後始末だけよろしく、と言ったんだ」


 ん? 言ってること変わってないか?

 口出し無用、手出し無用と言ったとか……まあ細かいことはいいか。


「どうせ後始末にここまで来る必要があるんだ。主からも、リオの様子を見てこいと言われたしな。しかし、派手にやったな。まあ、リオが絡むんだ。これくらいで済んでよかったというべきか」

「ボクを破壊魔みたいに言うの止めてくれないかな。非常に心外だよ?」


 オレは苦笑してしまった。

 まあ、人死には出てないのだし、そこは大目に見てもらおう。


 しかし、続けてシロが爆弾発言を投下してくれたよ。


「何を今さら、戦女神と一緒に要塞一つ潰したこともあるじゃない」


 ……はい?


 要塞ってあれか? 砲台なんかもある強固な城みたいなやつ。

 それを潰したって? どんだけだよ。


 しかも、戦女神って……

 この世界にはそんな物騒なやつもいて、リオはそいつとも知り合いなのか。


 さすがチート鳥というべきか。


 ところが、さらに追い打ちをかけて、クロが超大型爆弾を投下してくれたんだ。


「そして君が、その戦女神の息子なのだろう? マイコは元気かな?」


 …………はい?


 今、なんて言った?


 戦女神の……息子? オレが?


 それって……ま、まさか……


 オレは恐る恐るリオに視線を向けた。

 でも、リオはオレと目を合わせようとしない。何故だ?


「っと、話もここまでのようだな。どうやら私の手の者が来たようだ。トーヤ、リオ。君たちは早々に退散したほうがいいだろう。約束通り、後の処理はこちらでやっておく。その代わり、リオ。そちらも約束を忘れるなよ?」


 聞きたいことがたくさんある。

 山ほどある。

 ありすぎるぐらいある。


 だが、燃え盛る屋敷を背景にいつまでも世間話するわけにもいかないだろうし、確かに早々に退散するべきなのだろう。


 オレは、本当の本当に苦渋の選択を強いられたよ。


「……わかった。正直いろいろ聞きたいことはあるんだが、それは後でリオに聞くとして、さしあたり一つだけ確認しておきたい。こいつは、どうなる?」


 オレは、近くで眠っているブロッシュに視線を向けながら尋ねた。


「罪状については概ねリオから聞いている。こちらで確認を取って、しかるべき処分を下す。おそらくは、犯罪奴隷として残りの人生を過ごすことになるだろうな。不服か?」

「いいや。それで十分だ。いろいろ手数をかけてすまないが、よろしく頼む」

「ああ、次は王都で会おう。待っているぞ」


 ん? 王都?


 最低限の確認が取れたのでその場を離れようとしていたオレは、思わずクロに振り返った。


「王都? それはどういう……」

「まだ聞いていないか。じゃあ、それも後でリオに聞いてくれ。さ、急げ」


 いろいろと疑問が尽きないのだが、オレは軽く会釈して、リオと共にその場を離れた。


◇◇◇


 セイラが待つ館に着いた頃には、東の空がわずかに群青へと変わり始めていた。


 門は当然閉まっている。

 この時間では、さすがにセイラもまだ寝ているんじゃないだろうか。


 オレは門を背にして、その場に座り込んだ。


 さすがに疲れた。


 今回の襲撃だけじゃない。崖から落ちてからはほとんど寝ていない。

 リオの魔法で眠気は払えていたし、身体強化をしてもらえている間は特に支障はないのだが、その効果が切れると、体が重く感じる。


 ましてや最後の大仕事もようやく終わり、精神的な緊張も解けたのだろう。

 目を開けているのも、しんどくなってきた。


『なあ、リオ?』

『ん? 身体強化かける?』

『いや、もうそれはいいよ。それより、戦女神って、あれってやっぱり母さんのことなんだよな?』

『……うん。まあ、そう呼ばれてもいたかな』


 やっぱり。


『一体何やったんだ? 要塞を潰したって?』

『まあ、いろいろと事情があったんだよ。詳しくは後日、アダンにでも聞くといいよ。ボクから話すと、マイコに怒られそうだし……』


 オレは目を閉じながら、リオと念話で会話をしていた。


 もう無理。

 目を開けていることも、手や足を動かすのも、もう無理……


『アダン……って?』

『クロとシロの主だよ。後日顔を出せって約束させられた。トーヤに会いたいそうだよ』

『そう……か……』


 薄れゆく意識の中で、遠くの方からオレの名を呼ぶセイラの声が聞こえた気がした。

 ならば、この場面ではこのセリフがふさわしいハズだ。


「ああ、オレにはまだ帰るところが…………」


 ここでの必須のお約束だろうと思ったのだが、オレは最後までつぶやくことができす、眠りに落ちてしまった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけていますでしょうか?

ぜひぜひ忌憚ない感想などお聞かせください。


次話で第二章完結となります。

引き続き、どうぞよろしくです~

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