37. カミーリャン商会襲撃2
※ 本日二話目の投稿になります。
「お前がブロッシュだな?」
「誰だ貴様は!」
男はバルコニーの冊に手を掛け、オレを見下ろしながら怒声で応えた。
明言はしないが、おそらくこいつで間違いないだろう。
傍に《雷の宝珠》もあるみたいだしな。
……仮に違ったとしても構うものか。
その時は、こいつを潰してから、改めてブロッシュを探せばいい。
別に妬ましいとか、後ろの女性が結構美人だとか、そういうのは全然関係ないよ? ホントだよ?
「カミーリャン商会を潰しに来た者だ」
隣の部屋のバルコニーにも二人ほど男が出てきたのが見えた。
「ふざけてんのか、てめぇ。生きて帰れると思うなよ」
いいや。無事に生きて帰るさ。
セイラとそう約束しているしな。
オレはそう言い返してやろうかと思ったが、セイラの名前を出すのはまずいかと躊躇っていると、ブロッシュが隣のバルコニーにいる二人の男に向かって叫んだ。
「やれーー!」
この二人はどうやら弓を使うようだ。
オレに向かって弓を引いている姿が見えた。
『リオ?』
『大丈夫』
リオの声はいつも通り落ち着いているようだ。
二人が同時に弓を引き、そして矢を放つのが見えた。
普段のオレには無理だろうが、スピード強化を掛けられた今のオレならば、二つの矢は見えているし、十分に避けられる。
だが、オレは避けずに矢が向かって来るのを、ただ見ていた。
二人の腕はいいみたいだ。オレの頭と胸に向かって矢が飛んできている。
だが、オレまであと数十センチといったところでふいに矢が止まった。
これは、固定か?
ひさびさに見た気がするな。
「なんだ。何故矢が急に止まった? 何が起こった?」
上から見ていたブロッシュが驚いて声を上げている。
ブロッシュだけではない。そこに居合わせた者、皆同じ疑問を抱いたのだろう。
それぞれに疑問の声を上げているようだ。
そんな中、突然矢が燃え出し、あっという間に灰となって消えた。
ざわざわしていた声が消える。
ブロッシュも、周りの者たちも、みな矢が灰になったところを凝視しているようだ。
自分たちの理解が追いついていかないといったところだろうか。
「さて、ブロッシュ」
そんな中、オレの声だけが辺りに響く。
「《雷の宝珠》を渡してもらおうか」
だが、ブロッシュは声を発しない。動きもない。
ただ瞳だけが、動いてオレの方を見た。
「聞こえないのか? 《雷の宝珠》だ。渡してもらおうか」
「な、な、なにを……」
その時、屋敷の扉がいきおいよく開き、武装した男女が外に飛び出してきた。
新たに外に飛び出してきた者たちも合わせ、オレを取り囲む者たちは総勢四十人弱といったところだろうか。
ファムが言っていた人数が、ほとんど出てきてくれたという事だろう。
それに気付いたブロッシュが勢いづいて喚きだした。
「お、お前ら遅いぞ! そいつだ。そのガキを始末しろぉぉーー!」
その怒鳴り声に反応して、オレを取り囲んでいる者たちが、それぞれに武器を構えだす。
ざっと周りを見渡すが、ファムとラヴィの姿はない。
ちゃんとこっちの言うことを聞いてくれたらしい。
その事にオレは心底安心したよ。
『どうする、トーヤ? 魔法で殲滅しちゃう?』
……リオがなんか怖いことを念話で言って来る。
やっぱりここはオレがやるべきだよね?
『この剣の性能を見たいんだろう? まずはオレの方でやってみるさ。危なくなったら頼むよ』
『了解』
オレは、降ろしていた剣を構え直した。
どいつから死にたい? とばかりにまわりのやつらを睨みつけてやる。
もちろん命まで奪う気はないのだが。
「今だ! ロロア、やれ!」
そう叫ぶブロッシュのほうに視線を向けると、彼の後ろにいたガウン姿の女性から火の玉が飛んでくるのが見えた。
――彼女は魔法を使えたのか! くっそ、呪文とか聞きそびれた!
オレは、普通の人がどんな呪文で魔法を使うのか興味があったんだ。
結局ロキシーが魔法を使うところも見れなかったし。
そんなことを考えながら飛んでくる火の玉を見上げる。
――お、遅い?
まるで小さな子が山なりにボールをポーンと投げてくるような、そんなスピードだった。
これじゃ、スピード強化していない普通の人だって簡単に避けちゃうんじゃないか?
もしかして、だからこうやって相手を逃げられないよう、取り囲んでから魔法を放つものなんだろうか。
それにしても……
――お粗末だ。
リオの魔法を見ていると、どうしてもそういう感想が出てしまう。
しょうがないよね?
なんとなく、リオが《雷の宝珠》に組み込まれている魔法陣を酷評した気持ちが分かるような気がしてしまった。
オレの場合、自分はそれすらも全く使えないということを棚に上げて。
周りのやつらも動かない。
もしかしたら、この火の玉の巻き添えを食いたくないということなんだろうか。
『リオ』
『うん。お粗末だよねぇ』
どうやらリオも同意見だったらしい。
まあ、リオからしたら当然そうだろうな。
リオが念話でそう返してくれた途端、火の玉はまるで霧散するかのように消えてしまった。
リオが消してくれたのだろう。
それと同時にオレは駆け出した。
正面の最も近くにいた男の傍まで行き、剣を振り下ろす。
続けて左隣の女の持つ長槍に目掛けて剣を振り上げる。
オレの剣が描く青白い軌跡が、闇の中に浮かび上がり、そして消えていく。
先程まであっけにとられていた者たちも動き出し、口々にオレを罵りながら武器を振り上げて向かって来た。
だがオレは、そんなやつらの間を縫うように、次々と青白い軌跡を描いていく。
二つ、三つ、四つと、続けて描かれる円の軌跡が繋がり、不規則な螺旋となって浮かび上がっては、儚く消えてゆく。
相手の人数は四十人近く。
だが、誰もオレに傷一つ負わせることができない。
刃を振う前に、オレの描く剣の軌跡がその刃を次々と斬り落としていくから。
最後の男の武器を破壊した時、青白い軌跡の螺旋も止まり、そして消えていった。
「……ふぅ」
青白い光の螺旋の乱舞は、時間としてはほんの数分のことだろう。
オレは全ての武器を破壊し、そしてオレを取り囲んでいるやつらの中心に立っていた。
まわりのやつらは、自分の武器が破壊されたことが信じられないのか、唖然として立ち尽くしていたり、斬られた箇所を茫然と眺めていたり、ただみな一様に何も言葉を口にできないようだった。
『お見事! トーヤ。それはそれは、綺麗な光の舞だったよ』
『リオ、この青白い光って何だかわかる? 昼間森で試したときには気付かなかったんだけど』
『ごめん。ボクも分からない。たぶん、高周波振動の影響だとは思うんだけど、なにせボクも作ったのは初めてだったからね』
さすがのリオも、そこまでは万能ではないようだ。
ホントになんだろうね。
少し剣が熱を帯びている気がするんだが、それとこの発光現象は関係するのだろうか?
まぁ、綺麗だし、特に害はないと思うからいいんだけど。
さて、それよりも、だ。
オレは上を振り向き、二階のバルコニーにいる男を睨みつけた。
「降参しろ! ブロッシュ! 貴様にもう勝ち目はない。《雷の宝珠》を素直に渡せ」
ブロッシュは目を大きく見開き、バルコニーの柵を握る手が震えているようだ。
「な、なんだ、何なんだ。お前は一体何なんだ!」
どうにもオレの言葉は彼に届いていないような気がする。
彼は彼なりに、今自分の目の前で起こった出来事をなんとか理解しようと必死なのかもしれない。
だとしても、現実逃避も自問自答も、後で一人でゆっくりやってくれ。
今は、強制的にでもオレの言葉を届かせてやる。
そのためには……
「まだ降参しないというのならば……」
オレは再び左手を上げた。
「《炎岩砲》」
これで三度目の、炎を纏いし岩がオレの左手の上に現れる。
ちなみに、今度は一つだった。
ただし、大きさは今までの倍以上はあった。
なるほど。今回の目的は破壊じゃなく、威嚇だ。
ならば数よりも大きいほうが、たぶん有効だろうというリオの判断か。
「「「「ひっ……」」」」
何人かの男女がそれを見て、悲鳴を上げながら我先にと逃げ出した。
『リオ。左手の花園らしき辺りを狙うぞ。人はいないな?』
『うん。大丈夫だよ』
それを聞いて安心したオレの口角が上がる。
だがそれを不適な笑いとでも捉えたのか、オレのまわりの数人が後退りし始めていた。
そんなことには構わず、オレは左側の花園らしき場所を目掛けて左手を降り下ろしながら叫んだ。
「ファイアァァーー」
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