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33. カミーリャン商会襲撃前夜

※ 2017/06/24 誤字脱字修正。

 オレ達はこの川縁かわべりで一晩を過ごすことにした。

 眠りに落ちているファムとラヴィをそのまま置いておくわけにはいかないし、何よりフルフの町に着く前に、じっくりと相談しておく必要があったからだ。

 セイラとしても全く異存はなく、快く同意してくれた。


 だた、セイラとしては、川の傍であれば水浴びができるという点も大きな理由だったに違いない。

 食事の前にと、ちょっとだけ嬉しそうに着替えを持って水浴びに行ってしまった。


 しかし、それはオレとしても都合が良かったのも事実だ。

 セイラが水浴びをしている間に、リオと事前にちゃんと話しておくことができたからだ。


 正直、相手を壊滅すること自体は特に問題ないと考えている。

 ミリアレベルの強者がいたら話は別だが、先程のファムの話だと、最初の襲撃の時にカミーリャン商会の持つほぼ全戦力が投入されていたらしいし、なによりファムとラヴィがトップ戦力らしいからな。

 それならば問題ないだろうとは、リオの頼もしい意見だった。


 実際あの時は人数の多さに押されてしまったが、今回こちらはオレとリオだけだ。

 リオもなんだかやる気を出しているみたいだし、むしろリオがやり過ぎないよう、自重させることのほうが難しいのかも、などと冗談まじりで考えていたりもする。


 ……いや、冗談じゃなく、大丈夫だよね?


 今回、殲滅とは言っても、カミーリャン商会を潰すだけであって、人は殺さずに済ませたいと思っているんだけど。


 ……ホントに、大丈夫だよね? ね? リオ?


 リオはさらに、壊滅させた後の再起不能にする方法まで提案してくれた。

 それはそれは、非常に愉快そうに、面白がりながらだ。


 その内容を聞いたとき、正直リオが鬼か悪魔に思えたよ。

 よくそんな極悪非道な考えが思い浮かぶものだ。

 あちらの世界に一般人として馴染んでいるオレには、たぶんそういう発想はできないだろう。


 しかし、一旦壊滅してもすぐに復活されては意味が無いのも事実だ。

 確かに有効な方法かもしれないので、一応採用することにした。

 正直、ホントはちょっと気が進まないのだが、殺してしまうよりはマシだと思うことにした。


 もう一つ。


 カミーリャン商会に襲撃をかけ、相手を殲滅したとして、それでオレ達のほうが罪人となり、お尋ね者になってしまわないかという問題がある。

 オレからすればカミーリャン商会は悪者ではあるが、一般的に言って、勝手に裁いてハイそうですか、とはいかないだろう。

 だがこの懸念もリオは笑って「大丈夫。任せてよ」と言っていた。


 任せるのはいいのだが、どうするつもりなのかは、教えてくれなかった。

 後のお楽しみ、なんだそうだ。

 殺すようなことはしないそうだが、まさか魔法で関係者全員の記憶を操作するとか……

 リオならそれもできちゃいそうで、ちょっと怖い。


 ともあれ、カミーリャン商会への襲撃に関しては、オレとリオの相談は済んだ。

 あとは、特に《雷の宝珠》について、セイラと相談するだけだ。


 水浴びから戻ってきたセイラとの夕食を済ませた後、たき火に当たりながら、オレは一つの提案をセイラにしてみた。


「セイラ。相談があるんだが……」

「はい。なんでしょうか?」

「……《雷の宝珠》をファム達に渡してやってもらえないか? もちろん後日必ず取り返す。だから……」

「わかりました」


 ……へ!? 即答?


 オレは自分で話を持ち掛けておきながら、セイラの即断即決に驚いてしまった。


「……いいのか?」

「トーヤ様には、何かお考えがあるのでしょう? 後日取り戻してくださるとのことですし、そもそもトーヤ様がいらっしゃらなければ、私は崖下に落ちて死んでいて、宝珠もとうの昔に奪われていたことでしょう。ですので、どうぞトーヤ様のお好きなようにお使いくださいませ」


 そう言ってくれるのは非常に助かるのだが、ちょっと小市民的なオレとしては、恐る恐る疑問を口にしてしまった。


 いや、きっと誰でも気になると思うんだよね……


「だが、かなりの大金で購入したものだとか……」

「ほんの金貨千二百枚ほどですわ」


 き、金貨千二百枚!?

 日本円に換算すると……一億二千万円くらい!?

 はぁあ? あの宝珠が?


 オレは、一瞬眩暈がしたよ。


 そんなにしたのか。

 リオがお粗末と言い、お飾りとまで言い放った、あの宝珠が?


 しかもそれを「どうぞお好きなように」と二つ返事で了承してくれるセイラの金銭感覚って、どうなのよ?


 いや、そこはオレを信頼してくれていればこそなのか?


 うーむ……


 金額を聞いて、オレはちょっと狼狽していたのだろう。

 セイラは微笑みながら言ってくれた。


「ふふふ。申し訳ございません。少々意地悪な物言いでしたね。金額は嘘ではございませんが、遠慮は本当に不要です。元よりカミーリャン商会を叩くための道具。そのために使うのに何の躊躇ためらいも必要無いのです」


 それに、とセイラは言葉を続けた。


「あの子たちの話を聞いてしまった今、私にはその程度の額を惜しむ気持ちは全くありません。きっと父にも、今の私のこの気持ちを分かっていただけるはずです。カミーリャン商会に対して、それくらいの腹立ちを覚えてしまっているのですから」


 そうにっこりと微笑むセイラを見て、オレはなんだが背中に冷たいものを感じたよ。

 この子セイラも、本当に怒らせると、とても怖い子だったんだな……


 それに、金貨千二百枚をその程度って……

 いや、その気持ちは分かる。

 金額の問題じゃないってことは。


 でも、でも……

 いや、オレが俗物過ぎるということなのか?


「わ、分かりました。では、お借りします」


 いかん。何故か丁寧な言葉に戻っていた。


「ゴ、ゴホン。でだ、宝珠をファム達に渡す理由だが、主に三つある。まず一つ目はセイラ、君の安全確保のためだ。宝珠が手に入れば、カミーリャン商会もセイラにそれほど固執しなくなるはずだからな」


 セイラが頷くの見て、オレは言葉を続けた。


「二つ目にファムとラヴィの、まずは直面している問題の回避。少なくとも宝珠を持ち帰れば、孤児院の子たちを奴隷にするなどと言わなくなるハズ。そうなれば二人も安心できるだろう。そして三つ目に、カミーリャン商会に油断してもらうためだ」

「油断、ですか」

「そう。大きな心配事の一つがこれで解消されるんだ。きっと安心して、祝杯でも挙げて、大いに油断もしてくれることだろう」


 オレは右手を胸の前で強く握りしめながら言葉を続けた。


「そして、そこを襲撃してやる」


 セイラの目が大きく見開いた。


「襲撃……。トーヤ様お一人で、ですか?」

「ああ」

「その……危険、では?」

「全く問題ないよ」


 リオもいるからね、とは言えないが、オレは自信満々に答えておいた。


 セイラが心配そうな顔をして、オレの傍に寄って来る。

 そして、俯きかげんで、オレの袖を指でつまみながら、小さい声で言った。


「トーヤ様を信じてはおりますが、やはり心配です……」


 正直、ドキッとした。


 今までこんなこと誰にも言われたことなかったから。

 思い返してみると、ホント、オレはこの子セイラにドキドキさせられることが多い。

 この無防備で、純粋で、無垢な行動と言動に。


 もしかしてセイラはオレの事を……


 そんな勘違いをしてしまいそうだ。


「オレの事は本当に大丈夫。それよりセイラ。君にもう一つお願いがある」

「……はい。なんでしょうか?」


 なんだろう。一瞬少し寂しそうな顔をしたような……


「カミーリャン商会を潰した後の事だ。セイラに、アスール商会に検討しておいてもらいたいんだ。大きな商会が突然無くなってしまっては、色々と混乱も生じると思う。それに……」

「それに?」

「……獣人の孤児院のことだ。資金提供する商会がなくなるんだ。その後の運営はきっと……」

「そのことでしたらご心配には及びません。全て私どもアスール商会にお任せください。私が責任を持って、全て支障なく対応させていただきます」


 セイラがきっぱりと断言した。

 それはとても心強いのだが、セイラが即決していいものなのだろうか?


「その、セイラの父親と、アスール商会の主と相談しなくてもいいのか?」

「問題ありません。……お話していませんでしたでしょうか? 私は、現在フルフの町にあるアスール商会支部の支配人を任されることになっております。今回はその赴任の旅でもあるのです」


 ……支部とは言え、支配人?

 この若さでか!?


「ですので、アスール商会フルフ支部支配人のセイラ・アスールとして、その件は私が責任を持って対応させていただくことをお約束します」


 そう言ってにっこりと微笑むセイラと見て、オレは思った。

 ドキドキもだけど、驚かされてもばかりだな、と。


いつも読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけていますでしょうか?

感想など、お聞かせいただければ嬉しいです。


いよいよ第二章クライマックスへと近付いてまいりました!

どうぞお見逃しなく!


次話は来週1/28(土)夕方投稿予定です。

引き続き、どうぞよろしく~

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