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114. 再始動

 ラヴィが先に立ち上り、オレに向かって右手を差し出してきた。

 見上げると、なんとなくすっきりした顔で、口許には笑みを浮かべている。


 オレも、おかげで目が覚めたような気がする。

 実際、さっきまであれほど暗く沈んでいた気持ちがウソみたいだ。


「ラヴィ、力を貸してくれ」


 差し出されたラヴィの右手を掴みながら、改めてその言葉を口にした。

 引き上げてくれる力にタイミングを合わせ、足に力をいれて立ち上がる。


 ラヴィの手はこんなに小さく、腕だって細く華奢に見えるのに、それに力を借りてオレは今立ち上がったんだ。それがなんだか嬉しかった。オレに力を貸してくれる人がいる。仲間がいる。その力を借りてオレは立ち上がることができる。


 それが、無性に嬉しかった。


「一人で勝手に決めて、黙って行こうとしたことは済まなかった。許してくれなんて、とても言えることじゃないことも分かってる」


 だけど、とオレは真っ直ぐラヴィを見つめながら言葉を続けた。


「力を貸して欲しい。オレは、リオを助けたい」

「はい!」


 ラヴィもまた、真っ直ぐオレを見ながら力強く頷いてくれる。


「オレの我儘に付き合ってくれるか?」

「もちろんです! どこまでだって、付き合いますよっ!」


 その言葉が嬉しくて、本当に嬉しくて、涙が出そうになる。


 オレはラヴィの手を両手で包み込むようにしっかりと握った。

 ラヴィも左手を添えて、オレの手を握り返してくれた。


 オレの仲間は、ホントに、なんて頼もしいんだろう。


「アタシもファムも、トーヤさんほど頭良くなくてバカかもしれませんけど、みんなで考えれば何かいい方法が見つかるかもしれません!」


 オレはその言葉に頷いた。


 そうだな。

 一度宿に戻って、ファムにもちゃんと謝って、協力を頼んで、色々と相談しなくちゃいけない。


 まだ朝には早い時間だ。

 ファムは寝ているかもしれない。


 いや、これだけ騒いでしまったんだ。

 もしかしたらファムは起きてしまっているかもしれないな。


 そう思っていたところへ、ラヴィが誰もいないハズのほうに顔を向けながら、そのもう一人の獣耳娘の名前を口にした。


「ね? ファム?」


 ――えっ!? ファムって……え? え?


 ラヴィの視線の方にオレも目を向けた時、誰もいないと思っていたところに一つの人影が現れた。


 まさかホントに、ファム……なのか?


 その人影がゆっくりと近付いてくる。

 そして松明の灯りに浮かび上がったのはネコ耳娘、まぎれもなくファムだった。


「……なんでワタシまでバカの一人に数えられているの? ラヴィ? そこのところ、後でじっくり話をしましょうか?」

「あははは。やだな。目が怖いよ、ファム。なんか冗談に聞こえないよ? それよりファムの方こそ何処に行ってたの? 夜遅くに急に用ができたって出て行っちゃって。あっ! もしかして、ファムの方こそ誰かと逢引?」

「バッ! ちがっ!」


 二人のやり取りは聞こえてはいるが、ほとんど右から左だ。

 そんなことよりも、オレにはファムがここにいたことのほうが驚きだったんだ。


 なんでファムがいるんだ?

 宿にいるんじゃなかったのか?

 ってか、一体いつからそこにいたんだ?


 全然気が付かなかった。

 もしかして、全部見られていた? 聞かれてた?


 だが、それを問うより先に、ファムの方がオレに向かって口を開いた。


「トーヤもよ!」

「……え?」

「ワタシがバカの一人ってことに、さっき頷いてたでしょ!」

「え? あ、いや。さっきのはそういう意味じゃなくって……」

「じゃあ、どういう意味だったのかしら?」


 うっ!?

 なんかファムの目が大変据わっていらっしゃる気がする……


 慌てて言い訳を考え始めたとき、ファムの後ろからさらに人影が現れた。


 ファムの腰の辺りからそっと顔を出したのは銀髪の狼耳娘、シロだ。

 さらにその後ろにはクロの姿までもが現れた。


 おいおいおい……

 まさか、三人揃ってそこにいたのか?

 見てた……のか?


 オレが三人の姿に唖然としていると、バツが悪そうにクロが右の人差し指で頬の辺りを掻きながら口を開いた。


「あ……っと、すまないな、トーヤ。隠れて覗くつもりは無かったのだが、出るタイミングが……その、見付からなくてな」

「……いったい、いつから?」


 思わず聞いてしまった。


 クロの様子からして、オレとラヴィのやり取りを見ていたことは確かだろう。

 だとしたら、どの時点から見られていたのか、すごく気になってしまったんだ。

 そんなこと今更聞いたって仕方無いけど、聞いてどうなるってものでもないけど、でも聞かずにはいられなかったんだ。分かるよね? ね? ね?


 だが、オレのその問いに答えたのは本人たちではなく、なんとラヴィだった。


「アタシがトーヤさんに声をかけた時には、もう三人ともそこにいましたよ?」


 ――はい?


 おいおい、ちょっと待て?

 それってつまり、最初から? ってことですか?

 うそ……だろう?


 だが、それを裏付けるかのようなセリフがファムから出て来た。


「ワタシ達がいると分かってて、告白するとか思わなかったわ」

「えへへへ。なんかこう、自分の中で盛り上がっちゃって」


 ほとんど恥ずかしげもなく、そう笑いながらむしろ嬉しそうに話すラヴィ。


 らしいと言えばらしいが、オレはなんか非常に恥ずかしいよ。


 でも、恥ずかしいのにはまだ続きがあったんだ。

 自分で気付かなかったのは、ホント迂闊だった。

 ファムに指摘されてようやくそれに気が付いた。


「っていうか、二人とも、いつまで手を握り合っているつもり?」


 そう。

 オレはラヴィに引き起こされたときから手を離していなかったんだ。

 両手でしっかりと握り合っているままだったんだ。


 慌てて手を離したが、なんかもう、今更って感じだよな……


 ◇


 ファムにもちゃんと謝った。

 盛大なため息をつかれてしまったが、「気持ちは分からなくも無いし、言いたいことは全てラヴィが言ったから」と、特に追加のお小言は無く許してもらえた。


 その後で、オレは一度みんなを見回してから口を開いた。


「クロとシロもいるなら丁度いい。もし知っていたら教えてくれないか?」


 みんなの視線がオレに集まる。

 ちらっとラヴィに視線を向けると、頷いてくれたのが見えた。

 それに後押しされるように、オレは再び口を開いた。


「オレはダーナグランの森へ行きたい。だが、ベルダートを通らずに行くには、南から一度海に出るか、キルホート連山とやらを迂回するしかないと聞いた。どちらでもいい。少しでも早くダーナグランの森へ行くにはどうすればいい? 何かいい方法は無いか?」


 それに答えてくれたのはファムだった。

 でも、首を軽く横に振りながら、予想通りとはいえオレにとって残念な答えを口にしてくれた。


「どちらを選んでも、それほど変わらないわ。どんなに急いでも、おそらく半年はかかるでしょうね」


 ……そうか。

 やはりアルテミスが言っていた通りなのか。

 だとしたら、少しでも早く到着するには単純に移動スピードを速くするしかないということか。


 こちらの世界には飛行機や自動車といったものは当然無い。移動手段は徒歩か、馬もしくは馬車だ。できるだけ速く走れる馬を調達し、休みを減らし、さらには町に着くたびに馬を交代させるなどして……


 そう考えていたオレに、ファムが言葉を続けてきた。


「早く行くには、どうしたってベルダートを通るしかないわ」

「だが、それは……」


 危険すぎるからダメだ。

 そう言おうとしたが、ファムが右手を上げオレの言葉を遮った。


 そして、思わぬ言葉を口にした。


「一つだけ、方法があるわ。ワタシ達獣人がベルダートを比較的安全に通るための方法が」


 ――っ!?


 その言葉に思わず息を呑み、オレはファムを凝視した。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「115. たった一つの方法」

明日、投稿予定です。

どうぞお楽しみに!

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