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107. 夢の兵器

 オレたちに背を向けたまま、迷宮の主は両手を腰に当て、高笑いしていた。


 良く見ると、変化したのは甲冑の色だけじゃないみたいだ。

 少し背が低くなり、そして……ちょっと体が太くなったような……


 そこへ、ファムの小さく呟く声が聞こえてきた。


「なんか、少し太ったんじゃない?」


 それがファムの率直な意見のようだ。

 見ると、ラヴィもそれに同意したらしく頷いている。


 ……どうやら、男の体形に対する女性のチェックというのは、どこの世界でも厳しいらしい。


 ギン! と、振り返った迷宮の主の目が赤く光る。


 もしかして、二人の声が聞こえたのだろうか?


 一瞬そう思ったのだが、それは杞憂だったらしい。


「……ふっふっふ。貴様たちの健闘を褒めてやろう。特に小僧! 貴様の剣には少しばかり驚いたぞ。まさかこの《黒の騎士》の姿を使うことになるとは。この姿はどうも無骨でオレ様の好みじゃないんだがな。できれば華麗で優雅な《青の騎士》のままで済ませたかったのだが、仕方あるまい」


 だが、と迷宮の主はオレたちの方に向き直りながら言葉を続けた。


「残念だったな。その剣も、これでもはやオレ様には通じやしない! この姿になったオレ様は真に無敵だ。わっははははは」


 ……確かに、オレの目から見ても正直青い甲冑のほうが格好良かった気がする。


 今の迷宮の主は、凹凸おうとつの少ないのっぺりとした頭部、太い寸胴な胴体部、手足の関節部分には大きな楕円形をした継当てのような関節カバー。なんとなく昔のアニメにでも出て来るようなシンプルで無骨なロボットという感じだ。首にあたるような部分は無く、頭部と胴体部が直接接続しているところなんかが特に。


 実はどこかに、小型操縦器リモコンを持った少年が隠れていたりとか……そんなことはないよな?


 そんな冗談はともかく、だが防御力というか、頑強さは間違いなく今の黒い方が上だろう。なにせ高周波振動の剣を防いだのだから。

 青いほうでは、簡単に手首を斬り落とせたというのに。


 迷宮の主が左手を握ったり開いたりしている。

 まるで自分の体の調子を確かめるかのように。


 迷宮の主ヤツの言動から察するに、その姿になるのはひさしぶりということか。


 改めてオレたちの方に向き直した迷宮の主が口を開いた。


「では、第二ラウンド開始だ!」


 そう言って迷宮の主は一度しゃがみ、そしてオレたちに向かって飛び掛かってきた。身体をひねりながら左腕を振り上げる。


 それを言うなら第三ラウンドだろう!

 魔法戦はノーカウント扱いか!


 思わず心の中でそうツッコミを入れながらもオレは後ろへ、ファムとラヴィは左右へ飛び下がる。


 つい先程までオレたちがいた場所に、迷宮の主が拳を降り下ろす。

 途端、轟音と共に地が爆ぜた。


 これは、もしかしたらスピードとパワーも上がっているのかもしれない。


 ファムが着地と同時にナイフを投げる。

 頭部や腕に当たるが、鈍い音がして跳ね返された。

 やはり全く効かないみたいだ。


 ラヴィが長槍ヴァルグニールを構え、まだしゃがみ込んでいる迷宮の主に向かって駆けだす。


「はぁあああああ!」


 気合と共に強く踏み込み、ヴァルグニールを突き出す。

 刃先が迷宮の主の頭部に当たり、《爆砕》が発動する。

 だが、これも全然効いていない。


 迷宮の主は、二人の攻撃を全く意に介さないかのように、平然とそしてゆっくりと立ち上がった。そして目の前にいるラヴィを見下ろす。


 迷宮の主こいつの頭部はのっぺりしていて表情の変化なんかは分からない。

 だが、オレには薄ら笑いでも浮かべているような気がした。


「無駄なことを」


 そう言い放つ迷宮の主に向かって、ラヴィはさらに攻撃すべく、足を止めてヴァルグニールを突き出した。


 だがその刃先を、迷宮の主は無造作に左手で掴んだ。

 握りしめた左手の中で《爆砕》が発動したが、それにも関わらず迷宮の主はヴァルグニールを左の方へ放り投げた。手を離さないラヴィごと。いともたやすく、簡単に。


 短い悲鳴を上げながら放られるラヴィと入れ替わるかのように、オレは迷宮の主の懐に飛び込んだ。

 迷宮の主の伸びている左腕の関節部、人間で言えば肘にあたる箇所を目掛け、高周波振動を有効にした剣を上段から降り下ろした。


 ガン! という音がして、オレの剣は弾かれてしまった。


 ――やはり、通じないのか!


 これでは、迷宮の主ヤツの言う通り、もはや傷一つ負わせられない。


 どうする?

 どうすればいい?


 無造作に横に薙いでくる迷宮の主の左腕をかわし、オレは少し距離を取ろうと後ろに跳び下がった。


「くっくっく。分かったか? 貴様らの武器なんか、もはやオレ様には効かないってことが!」

「へぇ、そうなんだ」


 迷宮の主のセリフにリオの声が応える。

 その途端、迷宮の主の頭上からまるで雨の様に光の矢が降り注いだ。


第三・・ラウンドなんだから、ボクも参加して構わないよね?」

「リオ!」


 見ると、リオの後ろには白い車輪のようなモノが三つ現れていた。


 あれは、光の矢を十二連射するヤツ……

 複数同時に扱うことができるのか!?


 あいかわらずリオのチートっぷりには驚かされる。

 三つの白い車輪は既に高速で回転していて、そこからそれぞれ十二本ずつの光の矢が次々と発射されている。

 それらが一旦上に上がり、迷宮の主の頭上から降り注がれていた。


 だが、やはり効いていないようだ。

 光の矢は迷宮の主の体に当たると一瞬波紋のような現象を見せ、次々と砕けたかのように光の粒子となって弾けて消えていく。


 見る限り、迷宮の主の黒い身体には傷らしいものは一切できていない。


「ふん。こんなものが、今更オレ様に効くと本気で思っているのか? 見たところ、魔法しか能が無いような鳥がでしゃばってどうする。この《黒の騎士》なら、貴様の魔法など一切効かないんだよ!」


 今なお次々と降り注がれる光の矢を全く意に介さず、迷宮の主は誇らしげにリオを指さしながら言い放つ。


「へぇ、じゃあ試してあげるよ」

「む!? なんだこれは! 足が、動かん?」


 リオのセリフと同時に、前に出ようとしていた迷宮の主の足が止まった。


 ――これは、固定バインドか!


 リオが羽ばたき、その場を離れた瞬間、回転していた車輪がふっと消えてしまった。

 リオがそのまま飛んできて、オレの肩に止まる。

 そして迷宮の主に向かって口を開いた。


「君に良い言葉を教えてあげようか。『井の中のかわず大海を知らず』ってね」

「あん? なんだそれは? どういう意味だ?」

「とある世界で使われていることわざさ。狭い見識に捕らわれて、他に広い世界があることを知らないでいるヤツのことさ。自分の知っていることがこの世の全てだと思い込んで、得意になっている、そういう残念なヤツを指す言葉だよ」

「……オレ様がそうだと?」

「実際そうでしょ? 君はその姿なら、絶対に何でも防御できると思っているんだろうから」

「それこそ事実だろうが! 現にその小僧の剣だって、《青の騎士》なら通じたかもしれんが、今のオレ様には効かないんだからな!」

「ふふふ。それが世間知らずの坊やだというのさ。トーヤを甘く見ないほうがいいよ? 彼なら、君のそんな体、いとも簡単に破壊できちゃうんだから」


 ――えっ!? オレ?


 どういう意味だ?

 高周波振動の剣が効かない今、オレに迷宮の主を破壊できるすべなんて……


 リオの意図がオレには全く分からない。

 だが、リオには何か考えがあるんだろう。

 だとしたら、ここはそれに乗っておくべきだ。

 オレ自ら「何のことだ?」なんて言うべきじゃないし、表に出すべきじゃない。


 オレはそう考えて、迷宮の主を見据えながら、口角を上げた。

 いかにも、オレにはまだまだ奥の手があるんだと言わんばかりに。


 実は内心、ちょっと戸惑いながら……


「……面白い。ならばもう一度だけ貴様らに攻撃のチャンスをやろう。オレ様はここを動かないでいてやる。避けもしない。好きに攻撃してみるがいい」


 だが、と迷宮の主は腕組みし、仁王立ちして言った。


「覚悟しろよ? その後オレ様は一切の手加減せず、貴様らをほふってやる。その時になっていくら泣き喚こうが、命乞いなどオレ様には一切通用しないからな!」

「ふふふ。いいの? そんな余裕かまして。君の方こそ後になって泣き言を言っても遅いよ?」

「くどい! ただのはったりじゃないと言うなら、さっさとやってみせてみろ!」


 ……なんだかよく分からないが、話はまとまったらしい。

 でも、一体どうすればいいんだ?


「リオ」

「うん。今の迷宮の主アイツの体を構成しているのは、ボクにもちょっとよく分からない材質みたいだ。見たところ、材質の結晶構造はウルツァイト構造のようだけど、その中によく分からない物質が含まれているみたいなんだよね。おそらくだけど、それが高周波振動すらも防ぐ程に強度を上げているのかもしれない。これもエルフ族の秘宝に含まれていた古代の叡智ってやつかもね」


 ウル……構造?

 なんだかよく分からないが、ともかくめちゃくちゃ強度の高い未知の材質ということなんだろう。


「わっははははは。恐れ入ったか、この下等生物どもが!」


 リオの声が聞こえていたらしく、憎たらしい程誇らしげな迷宮の主の声が響く。


 だが、リオはそれを無視した。


「大丈夫。いくら強度を上げようが、物理的な強度には限界があるものだよ。そして、トーヤは知っている。あんなモノ、完膚なきまでに破壊してしまうすべを」


 さっきもそう言っていたが、一体何のことなんだ?


 そう口に出すわけにもいかず、オレはただ頷いた。

 リオには先を促すように、迷宮の主からは「その通りだ」と同意しているよう見えるように。


「トーヤだからできるんだ。見せてやろうよ、迷宮の主あのバカに。世界は広いって。上には上がいるんだって。そして、全てにケリを付けてあげよう」


 一拍置いて、リオは言葉を続けた。


「何よりも、ボク達にケンカを売ったことを、存分に後悔させてあげよう」


 そして、リオはオレの肩の上で両方の羽を大きく広げた。


 オレの前方に、金色の魔法陣が現れる。


「いくよ、トーヤ! バレル展開!」


 リオのセリフに合わせ、魔法陣から金色に輝く二本の長い棒のようなものが出現する。


 ――バレル? 砲身?


 ゆっくりと魔法陣が動き、その全体が現れる。

 全長は五メートルくらいだろうか。

 空中に浮いているように見えるのは、固定バインドされているからか?


「さあ、トーヤ。両手でそれを掴んで」


 見ると、二つの棒の端に、手で掴むためのグリップのようなものがある。

 ただし、そこも金色だ。

 全体的に金色に輝く何かの金属らしいこの二本の棒のようなものが砲身バレル


 普通、砲身バレルというと、中を弾丸が通るような円筒形を想像するが、これはただの細長い棒に見える。

 弾丸が通るような空洞なんかもない。

 しかも二本。


 一体どうなっているのか、オレはよく分からずに、ただリオに指示された通り、二つのグリップを左右の手で掴んだ。


「トーヤ。電流の流れをイメージして。二本のレール・・・の間を電流が流れるんだ。自分を電源として大電流を流す電気回路を構成するんだ」


 いまだによく分からないが、とりあえずオレは言われた通りのイメージをしてみる。


 電流を流すイメージ。

 自分を電源として電気回路を構成するイメージ。


「もっと強くだよ、トーヤ」


 もっと?

 鮮明にしろってことか?


 オレは言われた通り、さらに強くイメージするように考え、目を閉じた。


「もっとだ。もっと強く!」


 まだ足りない?

 これ以上に?


 無理だ!

 これ以上なんて、どうやればいいのか……


「……ボクも、少し手伝ってあげるね」


 その途端、オレの描いていたイメージが爆発した。

 そんな気がした。


 ――なんだ、これ!?


 視覚、聴覚、触覚などの感覚が薄れ、消えていく。

 もう描いているイメージのことしか感じられない。


 自分を電源として二本の金属の棒にすさまじい程の電流を流すイメージ。


 それが、鮮明に頭の中に描かれる。


 これが、いつもリオが魔法を使うときに描いているイメージ。

 これ程までのイメージを、いつもリオは描いていたのか。


 リオはいつも言っていた。

 魔法とは、強いイメージなどに従って魔法素粒子が現象などに影響を与えるものだと。


 そう、強いイメージ。

 これに比べれば、オレがいつも描いていたのは何て弱弱しく儚いイメージだっただろう。


 これが、このイメージ力が、リオの魔法の強さの一端なのか。


 どこか遠くから、リオのささやくような声が聞こえてくる。


「さあ、トーヤ! 存分に楽しんでね。これが、トーヤが期待していた、夢の兵器だよ!」


 オレが期待? な、なんのことだ?

 夢の兵器? 一体、なんなんだ、これは!


 そしてリオが、誇らしげに言った。


「そう! これが! 超電磁加速砲レールガンさ!」


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


やっと出てきました。第17話で、初めてトーヤが魔法を使った時言っていた「夢の兵器」ってやつが。トーヤが思っていたのとはちょっと違うかもしれませんが。(笑)


さあ、いよいよこの迷宮も決着です。

次話「108. 決断と行動」

どうぞお楽しみに!

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