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105. 三対一

 迷宮の主が片膝を突き、俯きながら呟く声が聞こえる。


「……オ、オレ様の炎を上回るだと? 紅の獅子より、あの鳥の炎のほうが上だというのか!? バカな! そんなこと、ありえない! あるハズがない!」


 それは別に、誰かに答えを求めるようなものではなかったのだと思う。

 しかし、リオはあえてその呟きに答えていた。

 しかも、嬉々ききとして。少なくともオレにはそう見えた。


「何がありえないのさ。これが現実だよ」


 そのセリフに迷宮の主がゆっくりと顔を上げる。

 そしてリオは一拍置いてから言葉を続けた。


「どうやら、君は神力を使いこなせていないみたいだね。これまでに時間はたっぷりとあっただろうに。勉強不足なんじゃない?」


 迷宮の主が何も言わず黙ってリオを見ている。

 どんな感情をもってリオのセリフを聞いているのか、甲冑でヤツの表情はオレには分からない。


 そんな迷宮の主に、リオは言葉で追撃をかける。


「君は分かってない。神力などと言っても、結局は魔法素粒子を介するという意味では、その仕組み自体は魔法と何ら変わりはないんだ」

「…………黙れ」


 迷宮の主の声には明らかに怒気が含まれている。

 表情では分からなかったが、どうやらかなり怒っているようだ。


 だが、そんなものどこ吹く風と言わんばかりにリオは全く気にせずに言葉を続ける。


「つまり、いくら君の持つエルフ族の秘宝に古代の叡智と言われる凄い技術や知識、それに基づく神力が刻まれていようと、それを全く理解できないままでは、その真価を発揮することはできないんだよ。魔法素粒子は、イメージができなければ最悪発動すらしないし、魔法陣では工夫のしようがないオーソドックスなものしか使えないんだから」

「……黙れ!」


 迷宮の主の怒声が広間に響く。


 だがリオは黙らない。

 むしろ、迷宮の主に対してトドメとばかりに言い放つ。


「それが、君の限界なのさ」

「黙れ黙れ黙れー!」


 迷宮の主が叫びながら両手を開き、前に突き出してきた。

 思わず剣に乗せている手に力が入る。


 今度は、何だ?


「くらえーー!」


 迷宮の主の突き出した指が一瞬眩く光るのが見えた。

 その瞬間、オレ達の横を何かが音も無く通り過ぎていった……ような気がした。

 それはほんの一瞬の出来事で、実のところオレにはよく分からなかった。


 だが、迷宮の主ヤツが何かをしたのは確かだ。

 一体何をした?

 何だったんだ、今のは?


 今のオレはスピード強化の魔法をかけて貰っていない。

 だからオレには速過ぎて分からなかったのか?

 ファムやラヴィには分かったのだろうか?


 オレに分かったのは、奴の指が一瞬光ったということくらい……


 ちょっと待て。

 光……?


 背筋にヒヤリとする何かを感じた。


 まさか……レーザー光線とかビームってやつか!?


 だとしたら、マズい……んじゃないか?

 例えスピード強化を受けていたとしても、光線なんて避け切れるモノじゃない。

 いくらなんでも光の速度に対応なんて、できないぞ!


 しかもヤツは今、無詠唱だった。

 紅の獅子のときのような、長い詠唱なんか無かった。

 予備動作が、指の動きだけ?

 そんなの、とても射線予測なんて、ましてや避けるなんて……


 だが驚いたのはオレだけじゃなかった。

 放った側である迷宮の主もまた、驚きの声を上げてきた。


「なっ!? 外れた、だと!」


 外れた?

 どういうことだ?

 確かに今の迷宮の主ヤツが、オレ達相手にわざと攻撃を外すなんてしないかもしれない。


 ってことは、まさか……


「今度はコヒーレント光? そんなもの、ボクがいる限り当たらせないよ」


 やっぱりリオなのか!


 だが、コヒー……レント……?

 なんだ? レーザー光線とは違うのか?


 単語の意味はよく分からないが、しかしとてもじゃないがそんなことを呑気に尋ねられる雰囲気なんかじゃない。


 でも、やはりリオが外してくれたというのは確かなようだ。


「くそっ! くそっ!」


 再び迷宮の主の十本の指が光る。

 二度、三度とおそらく放たれているであろう光は、一度もオレ達に当たることは無く脇の方を通り過ぎていく気配を感じる。


 どうなっている?

 このレーザー光線のようなものの照準を外しているのは、リオなのは間違いないだろうが、一体どうやって……


「いくらやっても無駄だよ。光の屈折って分かるかな? 応用すれば、こういうこともできるんだよ!」


 言い終わるが早いか、リオが両翼を動かすと同時に二本の光の束が放たれた。

 それは左右から大きく弧を描きながら迷宮の主に向い、そしてヤツの鼻先で交差した。


「うおっ!?」


 思わずといったふうに迷宮の主がのけぞる。


 その光はオレにも見えた。

 おそらく迷宮の主はほんの僅かな短い光線だが、リオは少し長めの光線を出しているんだと思う。だからオレにもその光の軌跡が分かったんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。許さん、ぞ」


 のけぞった体勢のままつぶやく迷宮の主の言葉が聞こえてくる。

 そして、それに応えるリオの声も。


「ふーん。何を許さないって言うのかな? そもそも、それはこっちのセリフなんだけど?」

「……許さん! 貴様らぁー!」


 迷宮の主が立ち上り、玉座に立てかけてあった戦斧を右手で掴み、そしてそれを肩に担ぎながら階段を飛び降りた。着地と同時にズンという大きな音が響く。


「うぉおおおおお!」


 大きな雄たけびと共に、迷宮の主がオレ達に向かって駆け出した。


「魔法で敵わないと分かったら、今度は接近戦? そんなもの返り討ちに……」


 リオが片翼を上げた時、オレ達の左右から二つの影が通り過ぎた。


 ファムとラヴィだ。

 二人は武器を持ちながら迷宮の主に向かって駆けていく。


「あ、こら! ファム! ラヴィ!」


 飛び出した二人にリオが抗議の声を上げる。

 だがそんな声も二人には聞こえていないみたいだ。


 その様子を見て、オレは思わず苦笑してしまう。

 なんか、とても二人らしい気がしたんだ。

 むしろ、今までよく我慢していたなとさえ思う。


 オレは地に突き刺していた剣を抜いた。


「リオ。もういいだろう? 次はオレ達のターンだよ」

「トーヤまで……」


 迷宮の主が二人に目掛けて戦斧を降り下ろす。

 二人は当然ながらそれを避け、戦斧が地を叩く。

 ゴォオンと激しい音が響き、均されていた地が爆ぜた。


 もしかしたらファムは一人でやりたいのかもしれない。

 だが、相手はこの迷宮のラスボスだ。

 魔法も使えるし、身体も大きくパワーもかなりありそうだ。

 一人では流石に厳しいと思う。


 ラヴィもそう思ったからこそ参戦しているのだと思うし、そしてファムもまたそう思うから特に文句も言わないのだと思う。


 ならば、オレも参戦する。


 ここで、確実に迷宮の主ヤツを止める!


「もう、しょうがないなぁ」


 リオがそうボヤキながらも、いつもの身体強化とスピード強化の魔法をかけてくれたことを感じた。


 それはつまり、承諾してくれたということで、いいんだよな?


 リオがオレの肩から飛び立つ。

 それと同時に、オレは二人に続くように駆け出した。


「ちょこまかと! 調子に乗るなー!」


 そう言って、ラヴィに向かって戦斧を振り回しながら駆け寄ろうとする迷宮の主。そこへ後ろからファムのナイフが飛んできて、迷宮の主ヤツのマントを地に縫い付ける。


 それに一瞬戸惑った隙をついて、ラヴィが跳び上がりながら力いっぱい迷宮の主の頭部に向かって長槍ヴァルグニールを振り下ろした。


 その攻撃から頭部を守るかのように、咄嗟に左腕でガードする迷宮の主。そして生じる甲高い衝突音と共にヴァルグニールの柄が大きくしなる。


 だが迷宮の主の左腕は全くの無傷のようだ。

 迷宮の主が一歩踏み出し、そのまま左腕を横薙ぎにしてくる。

 ラヴィはその腕を右足で踏みつけ、力を受け流すかのように自ら後ろに跳んだ。


「逃がさん!」


 ラヴィを追撃しようとしたのか、迷宮の主が駆け出そうと足を踏み出す。


 ――させるか!


 ラヴィと入れ替わるかのように、オレは跳躍して一気に距離を詰め、迷宮の主の正面に飛び込んだ。それに気付いた迷宮の主が足を止め、右手で軽々と戦斧を振り上げてくる。


「小煩い羽虫どもが!」


 そう叫びながらオレの頭を目掛けて戦斧を振り下ろしてくる。

 その戦斧の動きに合わせ、オレも剣を振り上げた。


 真正面から剣に戦斧をぶつけられてしまっては、ヤツのパワーによって剣ごとオレの頭は叩き潰されてしまうかもしれない。


 オレは戦斧を掴んでいる迷宮の主の小指を狙った。


 こんなことができるのは、スピード強化の魔法があればこそだ。


 ほぼ同時にファムの放ったナイフもまた、オレが狙ったのと同じヤツの小指に当たるのが見えた。


 ――グッジョブだ、ファム!


 迷宮の主の防御力からすればささやかな攻撃だろう。だがこれによって戦斧の軌道がわずかにずれる。更に剣を右手だけで持ち、斜めにして頭の右横に寝かせ、剣の腹に左手を添えて支える。迷宮の主が降り下ろす戦斧が、火花を散らしながら斜めにしたオレの剣の上を滑る。


 剣と腕の隙間から、一瞬だけ迷宮の主と視線が合ったような気がした。


 だが、そんなことを悠長に考えている余裕などない。


 オレの剣を滑り降りた迷宮の主ヤツの戦斧が、大きな音を立てながら地を激しく叩いた。


「ちっ! 生意気な!」


 迷宮の主のそんな言葉をスルーし、一瞬動きが止まったその隙を逃がさず、オレは迷宮の主の右手首を狙って高周波振動を有効にした剣を上段から降り下ろした。


 スッと、まるでチーズでもスライスするかのように僅かな手ごたえを感じながら、オレは迷宮の主ヤツの右手首を斬り落とした。


「なっ!」


 それに驚いたかのように迷宮の主がのけぞる。


 追撃とばかりにファムのナイフが迷宮の主の目の部分に飛んで来たが、キーンと甲高い音を立てて跳ね返る。


 迷宮の主の甲冑は《炎岩砲フレイムカノン》を無傷で凌いだだけの強度がある。ファムのナイフもそうだが、さっきのラヴィの一撃でも全くへこみもしなかった。


 だからだろう。オレの剣のたった一撃で、あっさり手首を斬り落とされるとは思ってもみなかったハズだ。


 だが、オレの剣はそこらの剣とは一味違うぞ?

 リオが会心の出来だと自負するほどのチートなものだ。


 切れ味だけなら、伝説級の剣にだってきっと負けやしない!


 オレはさらに一歩踏み込み、迷宮の主の首を狙って剣を横に振り抜いた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「106. 青から黒へ」

どうぞお楽しみに!

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