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103. 紅の獅子

 掛け声と共に降り下ろしたオレの手の動きに合わせ、炎を纏った岩石が迷宮の主を目掛けて飛んでいく。


 それを見た迷宮の主が、即座に玉座の横に立てかけてあった戦斧せんぷを右手で掴んだ。


「ぬぉおおおおお!」


 雄叫びをあげながら両手で掴み直した戦斧せんぷを飛来してくる岩石に向かって降り下ろす。


 岩石と戦斧が激しく激突し、周囲に轟音が鳴り響く。

 砕けながらも、なお赤く燃え上がる岩石が迷宮の主の体に打ち当たる。


 どうだ?


 ヤツの甲冑がどれだけ頑丈か分からないし、なにせ迷宮のラスボスだ。

 こんな初手の一撃で簡単に倒せるとまでは思わないが……


 玉座の周りをもうもうと立ち込める白い煙。

 その中に、青い甲冑が浮かび上がるのが見える。


 やはり、倒せてはいないか。

 だが、多少のダメージは……


 徐々に煙が晴れ、迷宮の主が戦斧を肩に担ぎ、平然と立っている姿がはっきりと見えてきた。


 まさか……全くの無傷なのか?


 あの戦斧せんぷで《炎岩砲フレイムカノン》の直撃を防いだというのか?

 あれだけでかい岩石を?

 一体どれだけ質量があると……


 そんなことが……できるのか?


 身体強化の魔法を掛けられた状態でも、オレにはできるかどうか。

 迷宮の主あいつはそれだけのパワーを持っているという事か?


「トーヤ、下がって」


 掛けられたリオの声に振り返る。


「リオ。しかし……」

「あの甲冑の中に、人が入っているなんて思わない方がいい」


 え? それは一体どういう……


 ヴァルグニールを構えているラヴィの肩の上で、迷宮の主に視線を向けたままリオが言葉を続ける。


「エルフ族はあんなに大きくないよ。今も昔も、ね。それに今ので分かったでしょ。人のパワーであんなこととてもできない。迷宮の主あいつは人じゃないんだ。あれはたぶん、機械仕掛けの人形ゴーレムだ。トーヤの世界で言うロボットだよ。そこに迷宮の主あいつの意識が入っているんだ」


 オレは再び迷宮の主に視線を戻した。


 機械仕掛けの人形ゴーレム? ロボット?


 ……そうか。

 人の形をしているから勘違いをしていたようだ。

 《空人》は遠い昔の話。

 今なおその肉体が生きているわけはないんだ。


 だからあれは、人の形をしているだけで、意識をコピーされた存在。

 機械仕掛けだというのなら、ヤツ自体の重量もかなりあるかもしれないし、そのパワーであの岩石を粉砕できたってことか。


 だったら……


 オレは腰の剣に右手を添える。


 ヤツの甲冑だか装甲だかが、どれ程の強度を持っているのか分からない。

 でも、この高周波振動の剣なら!


「待って、トーヤ」


 リオが飛んできてオレの左肩に止まった。


「ちょっと熱くなりすぎだよ。少し落ち着こうか」

「だけど、ヤツは……」

「大丈夫。トーヤの気持ちは分かっているよ。あいつはここで倒さなくちゃいけない。そうでしょ?」


 オレはその言葉に頷いた。


 ヤツを放置していては、今後も大砂蛇による被害が続くことになる。

 自然の中での被害ならまだしも、ヤツの狂った研究なんかによる被害だけは、絶対にここで止める必要がある。


「安心してよ、トーヤ。ボクは最初はなっからそのつもりなんだから。ヤツを逃すつもりなんて全く無いよ」


 だから、とリオは言葉を続けた。


「トーヤは一旦下がって。ここは、ボクにちょっと任せてよ」

「しかし……」

「トーヤ。アレはボクの獲物だって、最初に言ったじゃない。だけど先制はトーヤに譲ったんだからさ。次はボクの番だよ。ね?」


 リオのそのセリフに、先程まで昂っていた気持ちが不思議と落ち着いてきた。


 ……リオのことだ。もしかしたら知らないうちに、気を落ち着かせる魔法でも掛けられたのか?


 ともかく、落ち着いて考えてみれば、今オレは支援魔法を掛けて貰っていない。

 そんな状態で剣を振りかざしても、スピードもパワーも足りずに返り討ちにされるだけだろう。


 そして、こうまで言っているリオに対し、「それでもオレがやるから支援魔法を掛けろ」なんて、そんな厚かましいことも言えない。


「分かった。ただし……」


 オレはそう言いながら腰の剣を抜いた。


「トーヤ?」


 疑問の声を投げかけて来るリオをスルーして、抜いた剣を地に突き刺し、その上に両手を添える。


「オレはここにいる。いいだろう?」

「……もう。変なところで意地っ張りなんだから。ホント、そういうところはやっぱ親子だねぇ」


 なんか後半、ちょっと気になることが聞こえた気がするんだが?


 そんなオレの怪訝を気にする様子もなく、リオは前方を向いた。


 迷宮の主のほうは、まるで埃を払うかのように体のあちこちを軽くぽんぽんと叩く動作をしている。ここから見た限り、ヤツの体は何処も壊れていないし、それどころかやはり傷一つ付いてなさそうだ。


 一通り埃を払い終わったのか、改めて戦斧を肩に担ぎながら、迷宮の主が言葉を発してきた。


「ふっ。人族にしては、なかなか良い魔法を使うじゃねぇか。火と土の合わせ技ってところか」


 一瞬、オレの左目が無意識にピクッと動いたのが自分でも分かった。


 それは、皮肉か?


 正直、もう一発ぶちこんでやりたいところだが、リオに任せると言ったんだ。

 オレは何も言わず我慢して、ヤツを睨みつけた。


 そんなオレの睨みなど気にすることも無く、迷宮の主は言葉を続けた。


「だが、所詮はただの魔法。オレ様の神力の前では児戯じぎに等しいわ」


 そう言って、ヤツは戦斧を玉座に立てかけた。


「魔法を超える魔法と呼ばれる、我が神力を見せてやろう」


 迷宮の主は両手を上に挙げ、なにやら小さな声で呟き始めた。

 だがその声は小さく、この距離では聞き取ることができない。


 なんだ? 神力の……呪文なのか?


 そう思った時、迷宮の主の頭上に野球のボールくらいの炎が浮かび上がる。

 それは一気に直径一メートルくらいにまで膨れ上がった。

 だが、迷宮の主はまだ呪文を止めようとしない。


 見る限りではただの大きな炎のように思える。

 《炎岩砲フレイムカノン》のように、中に岩石が入っているわけでもなさそうだ。


 一体何をする気だ?


 オレはちらっとリオに視線を向けてみた。

 リオは特に慌てる様子もなく迷宮の主を見ている。今なら隙をついて相手の魔法を妨害したりもできると思うのだが、それもせずにただ黙って見ているだけ。しかも、オレには笑ってさえいるようにも見える。


 何か、考えがあるのか?


 そうこうしているうちに迷宮の主の頭上の炎がさらに大きく膨らみ、直径三メートルはありそうな大きさにまでなっていた。


 そういえば以前、火の魔法を使う女性が放った炎を見たことがある。カミーリャン商会での戦いの最中だ。あの時見た炎はせいぜいソフトボールくらいの大きさだったと思う。


 あれが人の魔法で出せる最大の大きさだとは思わないが、だが今迷宮の主が出している炎はそれより格段に大きいことは確かだ。


 だが……ただ大きいだけなのか?


 そこへ聞こえてくる迷宮の主による力の籠ったような声。


「目覚めよ」


 さっきまではほとんど聞き取れないような小さな声だったというのに、いきなりなんだ?


「紅蓮の炎を纏いし紅の獅子ししよ」


 その言葉に応じるかのように、炎の中から何かが伸びる。


 何だ? あれは……脚か?


 炎の中から現れた四本の脚が何もないはずの空中をしっかりと踏みしめるように立ち、そして更には獣の頭部が現れる。


 オレは思わず息を呑み、その姿を凝視した。


 迷宮の主やつの言葉通り、そこには炎を纏い、炎のたてがみをたなびかせる獅子ライオンの姿があった。


「くくくっ。ふはっはっはっ! キサマ達では無理だろう? これが我が神力のなせる技だ!」


 空中をゆっくりとした動作で動く炎の獅子ライオン

 その深紅の瞳は間違いなくオレ達に向けられている。


 なんだ、コイツは?

 まさか、炎から生まれた生き物?

 そんなことがありえるのか?


 本当にこいつは生きているのか?

 それとも、生きているように見せているだけなのか?


「往け、紅の獅子ししよ。奴らを喰らい尽くせ! その骨まで燃やし尽せ!」


 迷宮の主が、掲げていた右腕をオレ達に向かって降り下ろした。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「104. 迦具土誕生」(迦具土=カグツチ と読みます)

どうぞお楽しみに!

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