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100. 空人

「リオ。迷宮の主あいつが神力を使っていたというのは分かった。で、ヤツの正体だという、その《空人》っていうのは、一体何だ?」


 ファムとラヴィは《空人》を知っているらしい。

 もしかしたらこちらの世界では一般知識なのかもしれない。

 エルフ族もかかわっているみたいだが、一体それは何なのだろう。


 リオが改めてオレの方に向き直って口を開いた。


「《空人》というのは、遠い昔、《空島》と呼ばれる空に浮かべた島に住んでいた人たちのことだよ」


 空に浮かべた島?

 それって、あの有名な某アニメのような?


 なんてファンタジーな!

 魔法が存在するこの世界ならではだよな。

 遠くからでもいいからちょっと見てみたいかも。

 できればそこにも行ってみたい。


 あ、でも昔の話なのか?

 それに、さっきファムは《空島》は落ちたって言っていたような……。

 もしかしてもう無いのか?


 色々と聞いてみたいことがあるが、オレより先にファムがその口を開いた。


「……エルフ族が神力で浮かべた島って話だけど、ホントなの?」


 そのセリフにオレは目を見開いた。


 エルフ族が?

 それに、神力?

 ここでも、神力か。


「うん。そうだね」


 リオがゆっくりと頷きながらそう答えた。


 考えてみれば、人が住むような島を一つ空に浮かべるんだ。

 普通の魔法の範疇を遥かに逸脱しているように思える。

 たぶん、リオが以前使ったような重力魔法か何かを、かなり大規模にしたものなんじゃないだろうか。


 リオはファムに向けていた視線を再びオレの方に向き直し、話を続けた。


「だけど、彼らの歴史は約千年ほどで閉じることになる」

「……何故?」

「《空人》達の中で争いが起こったんだよ」


 そう言って、リオは《空人》について話し始めた。



 当時、世界はかなり荒れていたそうだ。様々な種族が入り乱れ、混乱の極みだったと言っても決して過言じゃないくらいに。


 それはリオに言わせると、まさに狂乱の時代だったそうだ。幾つもの国同士が覇を競って争い、国の中でも治安なんてどこにも無い。力の強い者が弱い者から全てを奪う、そんな強奪さえも当たり前に行われるような時代だったそうだ。


 そんな中で、エルフ族だけは秩序を保っていた。


 エルフ族は女神ダーナによって創られし種族。創世記ではそう語られている。それは彼らエルフ族自身にとっても何事にも代えられない矜持らしく、古くからしっかりとした規律が存在し、それを基に秩序が維持されていた。


 そういうエルフ族の状況は、力の弱い者達、虐げられていた人たちにとっては理想郷に見えたのかもしれない。事実、多くの者たちがエルフ族を頼って彼らの住む森へ来たという。


 だが、エルフ族はそれを受け入れることはしなかった。


 元々エルフ族は他の種族や他国への干渉は極力控えることにしていたし、実際問題として全ての人達を受け入れることはできなかっただろう。仮に受け入れてしまえば、それによって火種を抱え込むことにもなってしまう。


 だがさすがに自分たちを頼ってきた者たちを追い払うようなことまではしなかったらしく、森の周囲は難民たちで溢れかえったそうだ。


 この状況に対して、心を痛めた一人のエルフ族の若者が現れた。


 彼は難民たちと積極的に交流を持ち、周囲の者たちと頻繁に相談し、そしてエルフ族の長老たちにも何度もかけあった。彼ら難民に対して、我らエルフ族は何か助けてあげられることはないだろうか、と。


 その考えと行動に共感した幾人かの仲間達と共に、難民たちの生活を支援しつつ、奔走していたある日、事件が起きる。


 とある小さな国の兵士約三十名が、自分の国から逃げ出してきた難民を連れ戻しに来たのだ。彼らからしてみれば自国の民は兵力になる存在だ。小さな国としては周りの国と争いが続く中、民の逃亡は国力、特に兵力弱体につながる見過ごせない話だったようだ。


 さらにその兵士たちは自国からの難民だけでなく、その場にいた他の国から逃げてきた多くの難民達さえも巻き込んで自国へ連れていこうとした。さながら奴隷を捕まえたかのように。


 エルフ族の若者には、これを見過ごすことはできなかった。長老たちの制止も聞かず、リーダーとなり仲間たちを率いてこれを撃退するための行動を起こす。


 結論から言えば、撃退には成功した。エルフ族は、身体能力こそ人族とさほど違いはないが、魔法が得意とされる種族だ。まして地の利もあるエルフ族側に、魔法を使えない人ばかりで構成されていた人族の兵士達では敵うわけも無かった。


 だがそこで彼は、いや彼等戦ったエルフ族は一つの大きなミスを犯してしまった。


 聖域。エルフ族の住む森にはそう呼ばれる場所がある。世界樹と呼ばれるとてつもなく大きな木の周辺一帯だ。


 逃走してきた兵士たちと聖域で戦闘を行ってしまい、そこに多くの血を流してしまったことは、禁忌に触れるとし、長老たちをかなり激昂させてしまったのだ。


 結果、彼は仲間たちと共に森を追放されることになった。


 しかしそれは、むしろ彼にとって一つの決断をするための後押しにもなった。


 彼は聖域に踏み込んだ時、偶然とある物を手に入れていた。

 古くからエルフ族が聖域と共に守ってきた、エルフ族の秘宝である。


 失われた古代の叡智が刻まれているとされ、魔法を超える魔法を生みだすと言われるその秘宝は、書物のようなものだったのか、それとも宝剣や宝珠のようなものだったのか、それは明らかになっていない。


 だがそれは、女神ダーナに賜りし秘宝とも伝えられており、エルフ族が大切に守ってきた物だった。


 彼はそれを密かに持ち出し、そして仲間たちと難民を引き連れ森を離れた。


 そして後日、その秘宝を使って一つの島を空に浮かべることに成功する。

 これが《空島》である。


 そして自分や仲間、難民たちを《空島》に乗せて地上を離れた。


 その後各地を回り、狂乱の時代に苦しんでいる人々を受け入れていったという。


 しかしそれから数百年が過ぎたころ、《空島》での指導者的立場であったエルフ族の彼も年を取り、そして息を引き取った頃から《空島》にも大きな問題が表面化し始める。


 この時点で《空島》に暮らす人々は数十万人に及んだと言われる。地上はまだ狂乱が続いていたが、苦しんでいる人々を全て受け入れることが現実的に難しくなってきたのだ。


 この問題に対し、《空人》たちの主張が両極端に分かれてしまう。


 一つは、地上の狂乱を鎮めることこそが根本的な解決だと、そのために秘宝の力を使い、自分たちが地上を支配し、統治すべきだという考え。


 そしてもう一つは、難民の受け入れを止め、さらに地上との一切の関係を断って自分たちだけで生きていくべきという考え。


 《空島》はこの二つの考えに二分されるようになり、そしていつしか争いにまで発展してしまう。それは日を追うごとに激しさを増していった。


 狂乱の世の中を忌避し、争いを嫌っていた彼らが、自ら争いを始めてしまったのだ。それは、強力なリーダーを失ってしまったからなのか。それとも、それが人の業なのか。



「それは、結局どっちが勝ったんだ?」

「……勝者なんかいない。争いの果てに《空島》は落ちた。そして《空人》の短い歴史も閉じることになったんだ」

「そっか……」


 なんともやるせない思いから、オレにはそう答えることしかできなかった。

 そこへ、ファムが「ちょっといい?」と口を開いた。


「……まるで、見てきたことのように言うのね」


 確かに。

 リオの口ぶりは、その様子を間近で見てきたかのようにオレも感じた。

 そもそも、昔の話ということだけど、どれくらい昔の話なんだ?


 そう思って、オレはファムに続いて口を開いた。


「それって、どれくらい昔の話なんだ?」

「約三万年前になるかな」


 さ、三万年!?

 ま、まさか……


「リオは、それを実際に見てきた……のか?」

「ボクがその時代に生きていたかってこと?」

「……ああ」


 リオは一度オレ達を見回し、そして首肯した。


「……うん」


 その答えにオレは絶句した。

 かなり長い間生きているんじゃないかとは思っていたが、まさかそれ程とは。


 だが、その驚きはまだ早かったようだ。


「さらに言えば、ボクはもっと前から生きている。絶滅する前の剣歯白虎も知っているよ」


 ……はい?


 た、確かに剣歯白虎についてリオはえらく詳しかった。

 でも、剣歯白虎の絶滅は約十万年前と言ってなかったか?

 それなのに、絶滅前を知っている?


 それって当然十万年前に生きていたってことで……


「リ、リオちゃんて、一体何年生きているの?」

「さあ? もう自分でも分からないよ」


 震えた声で尋ねるラヴィの問いに対し、明確な答えを返せないリオ。

 それに再びオレは絶句したよ。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


百話到達! 感無量です! (≧ω≦。)じ~ん

これも、応援してくれた皆さまのおかげです。

いくら好きなことを書いているとはいえ、読んでくれる人がいなかったら、

ここまで続けられなかったと思います。

本当にありがとうございます!


それと、これが今年最後の投稿です。

今年一年、色々と応援頂き、ありがとうございました。

来年も引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


次話「101. 意識の存在」

どうぞお楽しみに!

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