イケメン有罪~花火大会~
いつものように彼女と雑談している。
たとえさりげない会話でも手を抜かないのがイケメンだ、
俺のフォローと絶妙なあいづちで気分よく話させることで
彼女の心にも余裕が生まれよりかわいく見える。
しかし、今日の彼女は少し様子がおかしい、何かを気にしているようだ。
何やら切り出しにくい話題でもあるのだろうか?
少し会話のペースを下げ、話題を変える手伝いをするか。
『ねぇ花火大会があるの知ってる?』
なるほどその話がしたかったのか。
ああしってるさ、いつも通勤に使う裏道が通行止めになるからな
おかげで渋滞する大通りを走ることになる、近隣の住民にな迷惑な話だ。
だが彼女が行きたいというならば、もちろん誘わねば。
俺は頭の中で会場までのルートや花火を見やすい位置を
いくつかピックアップしながら、エスコートの予定パターンを考える。
さすがは俺のイケメン力これなら満足する事だろう。
彼女の浴衣姿を見れると思うとこれくらいやすい物さ。
残念ながら待ち合わせ場所に現れた彼女は洋服姿だった。
駅から少し歩くことを考えればしかたないか、
そうは思いつつも花火大会に向かう浴衣姿の女性は気になってしまう。
彼女をエスコートしているのに他の女の浴衣を目で追うわけにはいかない。
そんな態度を見透かしたかのように彼女が、
『浴衣奇麗だよね、着てみようかと思ったけど一人じゃ着れないし』
そういうと少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そういうことか、そうだな俺のイケメン力でも着付けの仕方はわからんし
なに、浴衣姿じゃなくても俺のエスコートは完ぺきさ、
人ごみにまかれることなく、歩きやすいルートをたどり
いくつか出ている屋台で祭りの雰囲気を楽しんだ後は
少し静かなところで落ち着いて花火を眺める。
花火大会の王道ともいえるルートをこなし少し気が緩んでいたのか
駅までの帰り道の選択を誤ってしまったようだ。
長い人の列の中に入ってしまってなかなか前に進まない
少し気温も下がったこともあって、上機嫌な彼女は一向に気にしていないようだ。
二人でゆっくり歩くのも悪くはない。
かなりゆっくりなペースで進む人の流れに乗って堤防の緩やかな坂を下りていく
もうすぐ道路に出るというところで不意に思い出した、
そうだ、ここは土の堤防になってはいるが
道路に出るところでコンクリートの切り立った壁になっていた事を
垂直ではなく少し斜めにはなっているといっても2m近い高さがある
ジーパンの青年は滑って降りているが、女の子は渋々引き返したり
階段に向かって歩き出したりしていたため
一向に前に進まなかったという訳か
100mほど道路に沿って移動すれば、降りる階段はついているのだが
ここはルートを誤ったことを挽回するチャンスだ。
俺は、彼女をお姫様抱っこで抱え上げ、耳元で
『しっかりつかまって』
と囁いた後、飛んだ。
彼女を抱いたまま見事に着地。
廻りから集まる視線、一瞬あたりが静まり返り押し殺したため息の様な静かな歓声が漏れる。
しかし、彼女の恥ずかしそうにはにかみながらも自慢げな表情は
俺、イケメン!
余韻に浸る間もなく彼女と歩き出そうとした時
『わたしも~』
坂の上からかけられた声に振り返ると
高校生ぐらいだろうか、浴衣姿の女の子二人組が
突き出した手のひらをめいいっぱい広げながら叫んでいた。
なるほど、友達と二人で浴衣を着て来たはいいが
そこは下りれまい。
俺に降ろしてくれと?
いいだろう、どんな時も親切なイケメンは
女の子の頼みを聞かないわけにはいかない。
華麗に坂を上り浴衣姿の女の子を抱え上げ
優雅にダイブする。
浴衣を汚すわけにはいけないし、
細心の注意を払って飛ぶ。
女の子の一人や二人軽い物さ
二人目を下すために再び坂を駆け上がると
浴衣姿の女の子がニコニコしながら集まっている
どうやら、俺に降ろしてもらいたいらしい
こうなったらみんな降ろしてやるさ
5人でも10人でも・・・
さすがに10人目くらいになると膝が笑い始めたが
そこは、やり遂げてこそのイケメン
この達成感、俺のイケメン振りに彼女もさぞ満足だろう。
浴衣の女の子を降ろしきった俺は彼女に自慢げにほほ笑む。
え?めっちゃ怒ってる。
さっきまでは黙って待っていた彼女が
無言のまま踵を返し駅の方へ歩き出す。
浴衣姿の女の子に見送られながら
彼女に謝りながら追いかける、俺。
完ぺきにイケメンをこなしたのに。