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 第一幕 ~one-act~

第一幕 


私は今日も、学校で借りた本を読む。

授業が終わった後に、図書室に立ち寄り気になった本を借り帰り道に読む。

日課と言ってもいいくらいに、ほぼ毎日。

今日の本は、主人公がいくつもの試練を乗り越え、魔物と戦ったりするファンタジー小説。

昨日まで読んでいた本よりは、断然面白いだろう。

昨日の本は『人はどこから来て、どこに還るのか』と、妙に気になるタイトルの本。

内容は霊能者が幽霊と交信したことを論文のようにまとめた自伝的な本だった。

自慢話を聞かされているようで、とても退屈で面白くもない印象にも残らないようなもの。

昨日の本を、私は私自身での中で評価を付ける。そして、今日の本の表紙に手を当て表紙をめくる。

私は本に吸い込まれるように読んでいく。

帰り道ということで周りには気を付けているものも、読むペースは変わらずに歩いていく。

本のページを1枚、また1枚とめくる。

1枚、また1枚と本はめくられていく。

主人公の行動にワクワクハラハラしたり、クスリと笑ったりもした。

本は予想以上に面白く、気付いた時には家の庭先まで帰って来ていた。

このまま、部屋に籠ってこの本を読むのは勿体ない気がした。

まだ日も明るく、何より冒険している主人公と同じように風に当たりながら読んでいたいと思ったからだ。

私は玄関近くにある、庭のベンチに足を運ぶ。

その時不意に体のバランスを崩した。足には何かに躓いたような感覚があった。

私は冷静に、庭の木の根に躓いたのだと思った。

崩れ落ちる体が地面に激突しないように、手を着こうと伸ばす。

だが、伸ばした手は地面に着かない。そこには、手を着くような無い。

気付いた時には、穴の中に落ちているのだから。

重力に引かれる様に急落下するのではなく、ふわふわと水の中を浮き沈みする様に落ちていく。

時折、キラキラとしている何かが、薄暗い穴の中を仄かに照らしている。

まるで夢か幻――

物語の中に出てきそうな不思議な空間。

「わぁ~」

幻想的な不思議な空間に、思わず声が出る。

つかの間の幻想風景に見とれていると、お尻が何か固い物の上に乗った。

どこかに落ち切ったと思い、辺りを見回すが薄暗く周りがどの様になっているかは分からない。

キョロキョロと薄暗い中見渡していると、お尻が滑って行った。

薄暗い中を、滑り台のように滑り出していく。

右へ左へとぐねぐねとうねりながら、ジェットコースターの様にスピードが上がっていく。

誰にも見えないが、スピードが上がり捲れるスカートを抑えながら滑って行く。

「イヤ、イ、ヤぁぁぁあぁぁぁぎゃあぁぁあぁぁ――」

可愛げもない悲鳴が、響き渡る。

先程まで、冷静だった私のものとは思えない悲鳴が。

悲鳴を反響させながら、私は暗い暗いジェットコースターを滑って行く。

右へ左とうねる事は無くなったが、凹凸の激しい道となり、何度かお尻を打ちながら滑って行く。

涙目になりながら、お尻を打ち付けながらも滑って行く先には、光が見えてきた。

もうこのジェットコースターは終わるという思いで、光をくぐる。

眩しく目を瞑ると、外に投げ出されていた。

比喩ではなく、文字通り、外にしかも宙に投げ出されているのだ。

ジェットコースターの終わりが、宙に向かって伸びっていたために、スピードの乗ったまま宙へと。

宙へと浮いた体は、数秒後ドスッと音を立てて落ちた。

鈍く大きな音を立ては割には、落ちた衝撃は全然なかった。

私は立ち上がり辺りを見ると、そこは知らない森の中に居た。

大きな大穴が開いた大樹に、紫色や藍色の葉を茂らした木々が生える不思議な森。

私はまず最初に、通って来たと思える大樹の穴を調べる事にした。

穴の中は暗くてよく見えないが、木の根がスロープの様になっているのが分かる。

その根が、他の根と穴の先で絡み合って、宙に向かって伸びている。

だから、私は宙へと投げ出されたのだ。

他にも手がかりは無いかと、私は大樹をぐるりと見て回った。

「特に、何もないね」

と、呟いた後に一つの事に気がついた。

穴に落ちた時、持っていたはずの持ち物が無くなっていたのだ。

学校の鞄に、本。ポケットに入れていたはずの携帯。全ての持ち物が、無くなっていた。

「こんなところで、何してるの」

ふと、何処からか声が聞こえてきた。

辺りを見回し、声の主を探す。

「キミは、誰だい」

必死に辺りを探すが、在るのは不思議な木々ばかり。

「こんな時間に彼女が来るはずは――」

天から聞こえていたり、森の中から声は響く様に聞こえて、何処からの声なのか分からない。

「いや、ここに来るのは彼女だけだ」

話し掛けてきていた声は、自ら自問自答しだした。

「貴方は誰なの。どこに居るの」

探しても見当たらない声の主に、大きな声で訊いていた。

「キミはアリスだね」

声の主は、いつの間にか私のすぐ目の前に居た。

余りにも突然現れたので、驚きバランスを崩して尻餅をついてしまう。

「ねぇ、アリス」

赤紫色の癖のついた髪に、猫の様な耳。黒と紫色が印象的な服。腰のところに、尻尾の様なファーのアクセサリーを付けている。ヘラヘラして子供ぽいが、私と同年代位の男子がそればかり言う。

「私はアリスじゃない。私は、アリエス」

土埃を掃いながら立ち、違うと伝え、私は自分の名を彼に言う。

「アリエス?それこそ違うね。キミはアリスさ。この場所に居るんだから」

「ここに居るから、アリスって何なの?」

「アリスはアリスさ」

彼との話は、わけが分からなくなりそうだ。

「じゃあ、貴方は何なの」

「ボクかい?ボクはボクさ」

「そうじゃなくて、名前はって事」

「名前…」

そう聞くと、彼は少し考えていた。

「そうだな。…チェシャ。そう、呼ぶ奴が多いな」

「そう、チェシャ…ね。ここがどこだか、知ってる?」

「ココがドコだって?ココはココだよ。アリスは変な事を訊くね」

チェシャは言うが、変なのは彼の方だ。

私も変人と云われるくらい本は好きだが、彼みたいに可笑しな事は言わない。

「それより、アリスはこれから何をするのさ」

「帰るのよ」

私は、大樹の穴の中を覗きながら言った。

この樹から落ちて来たというなら、反対によじ登れないかと思った。

凸凹した部分を掴みながら、ロッククライミングの要領で上へと行けるのではないかと、思うからである。

穴の暗さだけが問題になるが、落ちて来る時に見かけた、キラキラと光る発光物体を手に入れればいいのだから。

考えを纏め上げ、私は行けると思い、穴の中に入ろうとする。

「アリス。そんなところから帰る気かい」

「登って行けば、帰れるはず」

「入り口から帰ろうなんて、さすがアリスだ」

褒められているのか、馬鹿にされているのかよく分からない。

でも、褒められた気はしない。かと言って、悪気なく言っているので、馬鹿にされている様な気もしない。

「入り口って事なら、出口が在るの?」

「その通りさ。出口の扉は存在するさ」

「出口は扉なのね。それはどこに在るの?」

「その扉がドコに在るかなんて、知らないさ」

「だったら、探すわ」

私は穴に入るの止めて、遠くに見えるお城を目指すことにした。

建物には扉が在るはずだから、その中に出口の扉が在るかもしれない。

本や、ファンタジックな物語、夢ではないのだから、扉が道端などに在る事は到底考えられない。

お城の見える方向の森の中へと、私は足を踏み入れた。


森の中へ消えて行く彼女を見ながら、彼は呟いた。


「キミはこの――を――事が出来る、本当のアリス?」 


shian-fileです。

アリスシリーズここからが本編です。

中に踏み込んでいきましょう。

不思議な壊れた世界を、アリエスと共に廻ってください。

アリエス「ねぇ、作者さん。私の鞄とかは何処に行ったの?」

そっ、それは…

アリエス「鞄に財布とか入ってるんだけど。帰った時に無いって事はないよね」

……

アリエス「私が帰った時に無かったら、承知しないから」

は、はい……。

アリエス「私はもう行くから。――無かったらどうしよう。本の角ででも叩こうかな。それとも…」

鞄を何とかしなければ、アリエスに殺されかねないですね。

本の角は凶器ですから。

はてさて、次は少々お時間が開く方と思います。

アリスシリーズの他にも何作かシリーズものを複数書いているので、すぐに会えるか分からないですけど、みなさんまた会える日まで。


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