プロローグのようなプロローグ
夜――黒秋(くろあき)は端正な顔をしかめながら息苦しそうに寝息をたてていた。
「う……ん」
その寝息が徐々に言葉になっていき、近付けばハッキリ聞こえる様になっていた。
「しらひめぇ……」
白姫(しらひめ)とは黒秋の家の真向かいの家の、小学生みたいな可愛らしい顔と体格の持ち主の一人娘でこの春から通い始めた私立色鳳々学園(しりついろとりどりがくえん)でのクラスメイト、兼幼馴染みでもある。
「いいから元の場所に戻してこいってぇ」
どうやら白姫が拾って来た猫を元の場所に戻す様言ったが
「いだだだっ!」
返り討ちにあってしまったようだ。
「う〜……」
そんな夢を見た事はもちろん覚えていないまま、黒秋はその日を向かえた。
翌朝。いつもより重たい頭でふらふらと一階のキッチンまで降りて来た黒秋は、先に朝ご飯と共に自分を待っていた同居人―アルビノの華奢な美少女―に笑顔で声をかけた。
「おはようティナ、今日の朝も美味そうだな」
「あ、クロ兄様おはようございます。よく眠れましたか?」
にっこりと微笑む同居人にすこし頬を染めながら黒秋はそれを悟られない様気をつけながら言葉を返した。
「いや、なんか寝苦しかったらしい。さっきから微妙な気分でさ」
「そうですか……風邪ではないんですよね?」
「あぁそりゃ大丈夫、バカは風邪なんか引かないよ」
「そんな、クロ兄様は馬鹿なんかじゃありませ――あら?」
そんな会話の最中インターフォンが鳴り、黒秋が出ようとしたところでティナがすぐさま立上がり、
「食べてて下さい」
と残しパタパタと玄関まで駆けて行った。
「あ、おぅ」
出し抜かれた様ななんか悪い様な複雑な気分で座り、気を取り直してご飯をもらってしまおうとオムレツに箸を延ばしたところで、ソレは出現した。
「くろあきぅおっはよぅ、オムレツいただきぃ!」
「ぉうあ!」
「はっははは〜!びっくりした?あむあむ」
「いきなりテーブルの下から登場すりゃ驚くのは当たり前だ!ってか、白姫お前どこから入ったんだ!?」
「ほほ」
口のなかいっぱいにオムレツを頬張りあむあむと口を動かしながら白姫は居間の窓を指差した。
「そこって……鍵あきっぱなしだったのか?」
「ん」
「う、そか……ってか、お前よく俺に気付かれずにいられたな」
「は、ほれはへ」
「行儀悪いから食べてから喋れ!てかそもそも勝手に人の食料奪うな!ちなみにそれはティナのオムレツだ!」
口の中のものを小さな体内に納めてから白姫はバツの悪そうな声をだした。
「あぅ、しまった……」
「……まぁティナには俺のやるよ。んでどうやっ――」
「玄関、誰もいませんでした。イタズラでしょうか?」
黒秋の言葉を遮り声をかけながら、玄関に行ったティナが戻って来た。
「やっ、ティナちゃん」
「あれ、ひめちゃんおはよう。来てたの?」
「うん、チャイム鳴らして二人の気を居間とは逆方向の玄関に向けて、その隙に居間の窓からこっそり入って来たよん」
「お前それ、ストーキングテクだぞ……」
「あれ?そこの窓開いてたの?」
「ん。いくらここら辺が何の事件がないようなとこだからって、戸締まりはしっかりしといた方がいいよ?」
「もぅ、クロ兄様?」
「わ、悪いティナ、すっかり忘れてた……」
「今度からちゃんと気をつけて下さいね?」
と可愛く睨まれながらたしなめられ、
「はい……」
と黒秋は言うしかなかった。と、
「んじゃ、行こっか」
いつの間にかイスに座ってお茶を啜りながら二人のやりとりを眺めていた白姫が声をかけた。
「行くって……どこに?」
「あのねぇ、学校に決まってるでしょ」
「学校……って、いや、まだ出るまでにはかなり時間あるぞ?」
黒秋達の家から学園までは徒歩で15分と近場にあり、黒秋もティナもかなり早起きなのでまだいつも学校に向かう時間より二時間も早かった。
「うんまぁそうなんだけどね」
「何か用事でもあるの?」
至極当然の疑問に白姫は、
「んにゃ、気分的になんとなく」
と、とても分かりやすい答えをだし、黒秋に溜め息をつかせ、ティナに苦笑いをさせてみせた。
「はぁ……」
いつもより早い時間、いつもの朝よりも多く溜め息をつきながら黒秋は玄関のドアに手をかけた。
「ま、まぁたまにはいいじゃないですか」
「まぁアイツの気分屋には慣れてるけどさ……学校の門開いてるのか?」
『あはは……』と、さすがのティナも苦笑いをするしかない。
「ふぅ。じゃ、帰りはいつも通りだから」「あ、はい、気をつけていってらっしゃい」
「ん、いってきます」
ティナの見送りを受けながら門を出て、電柱にもたれながら待っていた白姫に黒秋は声をかけた。
「お待たせ。じゃ、行くぞ」
「おぅ!」
元気いっぱいに歩き出した(歩幅のせいで速度は黒秋と同じだが)白姫に、黒秋は溜め息混じりに聞いてみた。
「なぁ、なんでこんな朝っぱらから行こうなんて思ったんだ?」
「ん?だから気分よ気分」
「それはそうなんだろうけどさぁ」
「うん、まぁなんていうか……」
黒秋の前を歩いてた白姫が止まったかと思うと、クルッとターンをして黒秋に笑顔を向けた。
「くろあきと二人っきりって最近なかったから、たまには二人きりになりたいと思ってさ」
そう、いつも暴れてばかりで黒秋は忘れがち――というか念頭から完全に外れていたが、白姫はかなり可愛い女の子の部類に入り告白された数だってそれなりのものなのだ。ただ、その小学生の様な身長や体付き、童顔もあいまって白姫に告白した男子には例外なくロリコンの刻印を押される事になるのだが。
それはともかく、いくら念頭にないとはいえ美少女にそんな事を言われてさすがに黒秋も顔を赤くしてしまい、
「な、なん、おまえなぁ!」
なんてしどろもどろになってしまった。それを見た白姫は『にやぁ』なんて音が聞こえてきそうな悪魔の笑みを見せ、そこで黒秋はしまったと思ったが、それはすでに遅かった。
「おんやおやおやぁ?」
「な、なんだよ……」
「べっつに〜?」
「あ〜、もう!さっさと学校行くぞ!」にやけが止まらない様子の白姫を尻目に黒秋はスタスタと足早に歩き始めた。それからしばらく、白姫のからかいに黒秋は虚しい抵抗を続けるハメになった。
早朝六時――誰もいないはずの学校の一室にその人物は居た。腰より長い、墨を流した様な流麗な黒髪、スラリとした白い肢体に反発するよう強く主張する二つの膨らみ、丁寧に整えられたいつも微笑を絶やさない女神の様なその顔。それは間違いなくこの私立色鳳々学園生徒会の頂点にたつ、灰原灰音(はいばらはいね)であった。 その彼女は今、部活棟にある空き教室――否、『黒魔術同好会』の部室で一人静かに何事かを呟いていた。
「ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり。外つなる神よ……。処のものを、我にしたがるる秘を、外道の知識を持って!ふんぐるい、んがぁ、ふたぐん、ほぉまるはうと、ぐあ、なふるたぐん。いあ!くとぅぐ――」
鈴が鳴る様な美声で放つその言葉はいつしか力を持ち始め、室内をほの暗い光で満ちはじめた――が。
「っきゃ!」
バチン!と電気が弾けるような音と一瞬の閃光の後、灰音はその場に尻餅をつく形で倒れてしまった。
「いたたた……」
ゆっくりと立上がりながら裾の埃をパタパタと手ではたき、灰音は一つ溜め息をこぼした。
「ふぅ、また失敗ですか。一体なにがダメだというのでしょう……」
落胆の表情を見せながらも思案を巡らせ回りをなんとなしに見回していた灰音。その灰音の視線がある本を捉え、はたと止まった。
「これは……」
さきほどの衝撃により散らばった本の束。その中にその本はあった。
「ルルイエ異本!」
本にかけよった灰音は黙々とページを飛ばし読みしていたが、その頁に行き着いた途端。
「あった、これだわ!」
その表情は、いつにもまして晴れ晴れとしたものになっていた。
学校まで後少しとゆう所で、黒秋と白姫の歩みは完全に止まっていた。
「ねぇ、どうする?」
「どうするって……どうする?」
「もう、それはこっちが聞いてるの!」
「ごふっ!」 白姫にみぞおちを殴られた黒秋は咳き込みながら足下を――足下に居るそれを見た。そこにいたのは――
「にゃ?」
タオルが敷かれた段ボール、そこに置かれた小皿にはミルク、そしてその段ボールには画用紙でこう書かれていた。
『こいつを最初に見つけたアンタ。何を、とも誰を、とも言えねぇ。すまねぇ。幸せにしてやってくれ……!』
と。
「う〜、ここまで言われちゃ断れないよぅ」
「俺もここまで言われたら、突っ込む気が湧かないよ……」
違う感想の二人だったが、どうやら思ってる事は一つだった。
「ねぇ、一旦学校に連れて行ってみない?」
「野良猫連れてか?」
「うん。あたし達の家じゃ飼えないし、こんな可愛い子だもん、先生か会長に言えば絶対引き取り手見つけてくれるよ!」
「あ……そうか、会長か」
品行方正、頭脳明晰、容姿端麗、灰原財閥の跡取り娘……黒秋の知る会長の情報はこれらのもので、事実これらは全て当てはまっていた。
「そうだな、面識はないけど休み時間にでも聞いてみるか」
「おっけ。じゃ、あとやることは一つだね!」
「ああ、学校にこいつを連れて――」
「ノンノン、それは次の次にやる事だよワトスン君」
「そうか、お前はソじゃなくス派か。で、やる事って?」
軽く白姫を受け流し先を促すと、白姫は指をピンと立て自慢げに言い放った。
「この子の名前だよ!そりゃ飼う人も名前つけるだろうけど、今だけでもつけてあげようよ」
「……そうだな」
黒秋は白姫のこういう所には素直に好感が持てた。
「ていうかあたしが名前つけたい」
「……そうですか」
黒秋は白姫のこういう所さえなければ下手したら好きになってたかもしれないと時々思わされてしまう……。
「んで、この猫になんて名前つけるんだ?」
「ん〜……」
顎に手をあてる思案のポーズで白姫は猫を観察し始めた。
「子猫……よね、小さいし」
「あぁ、それは間違いないだろ」
「耳と手足と尻尾が黒で、胴体は白ね」
「あんまり見ない模様だな。親が白猫と黒猫なんだろ、きっと」
「ねぇ」
「ん?」
すっと頭を上げ白姫は黒秋に問い掛けた。
「あたしとくろあきに子供出来たら、やっぱ白黒になるのかな?」
「…………は?」 黒秋はほとんど反射で答えていた。
「だって、あたしの名前は白咲白姫でしょ?」
「……あぁ」
「で、くろあきは黒野黒秋。ほら、白黒でしょ?」
「……なぁ」
「ん?」
「それ、本気で言ってるのか?」
「本気だったらどうなのさ?」
「俺はお前の事を生あたたか〜い目で見なきゃいけなくなるぞ……」
「それはイヤかな〜……」
苦笑いの白姫にじっとりした視線を向けながら黒秋は話を元に戻した。
「アホな会話はさて置き、だ。こいつの名前つけるんだろ?それとももう行くか?」
「パレット」
「バレット?」
「ふん!」
「ごふっ!」
ピストルの様な勢いで白姫の抜き手が黒秋に炸裂した!
「パレットよ、パレット!ほら、この子もあたし達も白黒で色で繋がってるでしょ?」
「え、それならモノクロとかオセロとか……」
「だってパレットじゃないとくろあきに抜き手ヴァレット食らわせられなかったじゃない」
「それだけのためにこの子の名前を利用したのか……」
「いいじゃん、パレット。別に変じゃないっしょ?」
「そりゃ、別に変じゃないけど」
「じゃ、そういうわけで学校行くわよ!」
「……もう好きにしてくれ」
黒秋はひょいとパレットを抱え、白姫に続いた
「にゃ?」
「すまんパレット。せめて飼い主だけはいいやつであるよう頑張ってみるからな」
「にゃ〜」
まるでなぐさめるようなパレットの声に、黒秋は思わず涙を流しそうになってしまった……。
体育館脇の草が繁る場所。その中に芝生に二人分座れる程度のスペースがある場所がある。そこに黒秋と白姫はいた。
「くろあき……こんな人気のない所に」
「連れ込んだのはお前だ。しかし、よくこんな場所知ってたな」
「入学した時に敷地内を探検したからね〜」
「まぁ役にたってるからいいんだが……」
「パレット、ちゃんとここにいなよ?」 パレットを撫でながらそう言う白姫に、パレットは『にゃ!』と返事を返した。
灰音はあるものを探しに校舎を後にしていた。
「ふふっ、あとはアレだけ見つければ……あら?」
灰音は体育館の方を振り向き、耳を澄ました。
(話し声……誰かいるのかしら?)
生徒会長としての自覚と自信も持ち合わせる灰音は、黒魔術同好会会長(会員どしどし募集中!)から生徒会長へと頭を切り替え、繁みの中へ声をかけた。
「そこに誰かいるの?」
「にゃ?」
「え?あ……!」
パレットを見つけた瞬間、灰音は生徒会長から黒魔術会長(今なら入会特典マジカルステッキプレゼント!)へ変貌をとげていた。
「あり?」
ごそごそとスカートのポケットを探っていた白姫が困った様な声を出した。
「ありり?」
「ん、どうした?」
「いや〜、家の鍵が……?」
「鍵?さっきの繁みにでも落としたか?」
「あ〜……かも」「じゃあ戻るか」
一緒に鍵を探しに行こうとした黒秋を白姫は片手を挙げて制した。
「あ、いいよすぐそこだし。代わりに鞄持って先教室行っててくんない?」
「ん、分かった」
「じゃ、いってきま〜す!」
ダッと走り出した白姫を見送りつつ、黒秋は教室へ歩き出した。
「かっぎっは〜……っと。お、あったあった!」
繁みの回りに落ちていた鍵を拾い上げた時、繁みの中、パレットのいる場所から異様な空気を感じ取った白姫は中を覗き見た。
「あれ?……会長?」
そこにはさっき話に上っていた会長――灰音の姿があった。だが……
「な、なんか会長、すっごい笑顔?」
いつも微笑んでいるイメージのある灰音だが、今の灰音はいっそおかしいといえる程の笑顔をして、パレットに近付いていた。
「ふふ……見つけたわ。まさかこんなすぐに見つかるなんて」
パレットをひょいと拾い上げ、灰音は呟いた。
「ごめんねネコちゃん。あなたに罪はないけれど、私の幸せのための贄になってもらうわね?」
「!?」
「じゃ、ネコちゃん、いきましょ?」
灰音はパレットを抱え直すと、スタスタと歩いて行ってしまった。
「…………は!」
いつのまにか固まっていた白姫だが、気を取り直し考え始めた。
(今の、会長だよね?なんでパレットを?……そうだ、にえがどうこう言ってたけど……にえってなに?なんて意味!?あ〜、う〜ん。…………………よし!)
白姫は意を決したかの様に拳を握り締め、声高に叫んだ。
「会長に聞こう!」 白姫は灰音の後を追い、部活棟に駆けて行った。
「…………暇だ」
教室に着いた黒秋だが、さすがに時間を持て余していた。
「ん〜……ん?あれは……」
何気なく見た部活棟、そこに灰音の姿を見た黒秋はすぐに席を立ち、部活棟へと歩き出した。
「ふふ……やったわ……これで……!」
ここは部活棟の三階一番端にある黒魔術同好会室。その中に灰音、そしてパレットの姿があった。
「耳と手足と尻尾が黒で、胴体が白……まさかこんなに早く見つかるなんて」
テーブルに置かれた1冊の古ぼけた、だがとても装丁がしっかりした本、魔導書『ルルイエ異本』。白くしなやかな灰音の指が、その魔導書を繰っていく。
「この子がいる事で、私のこの想いは成就される……」
惚けたかの様に呟く灰音。その姿は生徒会長でも黒魔術同好会会長でもなく、恋に焦がれる乙女のそれだった。
「にゃ?……にゃ!」
と。今までおとなしくしていたパレットが、急に駆け出し部屋を出ていってしまった。
「あ!待って!」
うかつにも部屋のドアを閉め忘れていた灰音は、慌ててパレットの後を追った。
「かいちょ〜!どこ〜?」
会長を追い部活棟にやってきた白姫だが途中で姿を見失い一階から順に探し始め、今やっと三階に上がろうとしていた。
「あとは三階だけか〜」
ふぅと一息付き階段に足をかけたところで、上から何かが降ってきた。
「ぅやっ!?って……パレット!」
「にゃ!」
「ねぇ、会長どこにいるかしらない?」
「にゃにゃ」
ふいと顔を上に向けるパレット。それに釣られるようにして顔を上げると、そこに灰音の姿があった。
「あ、会長!おはようございま〜す」
笑顔で元気よく挨拶する白姫。それに灰音も微笑みながら返した。
「えぇ、おはようございます。貴方は……」
「あ、えっと1年B組の白咲白姫です」
「1年B組……」
「会長?どうかしました?」
「あ……い、いえ。白咲さんはいつもこの時間に?」
「いやぁ、今日はたまたまで……あ、会長、質問があるんですけど……いいですか?」
「ええ、いいわよ」
「さっき鍵を落としちゃって、体育館脇の繁みに探しに行ったんですけど」
体育館脇の繁みと聞き灰音の眉がピクッと動いたが、それは一瞬の事だった。
「で、そこで会長とこの子を見つけたんですけど……」
そこで一旦言葉を区切り、白姫は聞いた。
「にえって何て意味ですか?」
「…………」
「会長?」
「……えぇ、贄の意味ね。簡単に言えば犠牲になってもらう、って事かしら」
「へ〜、そういう意味なんだぁ。……あり?」
「どうかした?」
「ってことは、この子が会長のための犠牲になるって事?」
「……そうね」
徐々に空気が肌寒くなっていくのを二人は感じていた。
「えっと、それって……」
「どういう意味か知りたい?」
「あ、うん……じゃない、はい」
「それはね……!」
その時。
「あ、会長すいませ……って、あれ、白姫?」
「あ、くろあき!」
「くく、くくくろや君!?」
「は、はい、おはようございます」
「あ、お、おはや、おはよう!」
明らかに挙動がおかしい灰音に内心首をかしげながら、黒秋は白姫に声をかけた。
「なんだ、白姫も会長を見つけて追ってたのか?」
「うん、まぁそうなる……のかな?」
「のかな?って、パレットまで連れてきてるんだからそうなんだろ?」
そこで灰音が黒秋に声をかけた。
「あ、く、くろや君?」
「あ、はい、なんですか?」
「そのネコは黒野君が飼って……るの?」
「あぁいや、コイツは……」
そこで黒秋は今朝の出来事や灰音に頼もうとした事を灰音に話して聞かせた。
「って事なんですけど……どうでしょうか?」
「そうね……」
話を聞いてる最中から灰音は必死に考えていた。そしてフル回転していた灰音の脳は、ある答えを導きだした。
「その子……パレットちゃん、でしたね。生徒会で飼おうかなと思うんだけど」
「え、いいんですか!?」
「えぇ、私もネコは好きですもの。ただ……」
「ただ……なんですか?」
「あ、その前に」
黒秋が先を促そうとするのを制し、灰音は黒秋と白姫に質問した。
「2人共、今の生徒会には何人いるか知ってる?」
「え、えっと……くろあき!任せた!」
白姫は苦笑いしながら黒秋に答えを託し、鼻歌を歌い始めた。
「おまえなぁ……えっと、会長含めて四人でしたっけ?」
「えぇ、昨日まではね」
「え?」
ふぅ……と溜め息を一つ付き、説明を始めた。
「実は昨日の夜三人からうちに連絡があって、生徒会やめるって言われちゃってね」
「え、じゃあ……」
「そう、今日からは私一人になっちゃったの」
「え、えっと……大変ですね」
「そうね……」
にこにこと微笑みながら灰音は黒秋をじっと見つめた。
「え、まさか……」
「えぇ、その子を飼う代わりに、貴方にも生徒会に入ってほしいの」「え……ええぇぇ!?」
なんとなく予期してはいたものの、実際言われたらやはり驚いてしまった。
「いやでも、俺なんかなんの役にも立たないし」
「あぁ、仕事は私の手伝いとその子の世話でいいわ」
「え、でも……」
「昨日までもそんな感じだったし……要は人数が足りないのよ」
「いや、でも……」
「あぁそれと、生徒会に入る時強制的に黒魔術同好会にも入ってもらうわね」
「く……え、なんですって?」
自分の聴き違いであって欲しいと願いながら聞き直したものの、その願いは叶わなかった。
「黒魔術同好会よ。これは私の趣味なんだけどね。あ〜、もしかしたらこれが嫌でみんな辞めちゃったのかもね」
「もしかして、前も強制的に……」
「えぇ、もちろん」
にっこり笑う灰音を見て、今までの会長のイメージが崩壊していく音を黒秋は聞いた気がした。
「会長!」
今まで鼻歌を歌い続けていた白姫が急に手を上げ叫んだ。
「あ、白咲さん。貴方も……」
「それ、面白いですか!?」
「ええ、もちろん。今ならマジカルステッキも特典で付いて来るわよ」
「いや、それは黒魔術とは違うんじゃ……」
「あたし、生徒会入ります!」
「しらひめ!?お前、正気か!?」
「ふふ、なかなか酷いわね」
「あ、いや……」
思わず出た黒秋の本音を灰音は苦笑いでかわし、白姫と握手を交わした。
「これからよろしくね、白咲さん」
「あ、白姫でいいですよ会長」
「じゃあ私も灰音でいいわ、白姫さん」
「じゃあ……灰音会長。よろしくお願いします!」
「ええ、改めまして、こちらこそよろしくね」
「…………」
「で、だ」
「ええ、そうね」
パレットを抱いてこの場をそっと離れようとした黒秋だったが、もちろんそれは阻止された。
「黒野君、白姫さんは入ってくれたけど、黒野君は入ってくれないの?」
「い、いや、俺は……」
「ねぇねぇくろあき」
「な、なんだ?」
「あたしと灰音会長が組んだまま、放置しといていいの?」
「う……!」
確かにそれは避けなければならないだろう。ただでさえアレな白姫が会長とタッグを組み、生徒会なんて強権を手にして、それを止める役がいないなんて事態は……。
「はい、どうする?」
にやにや笑う白姫とにこにこ微笑む灰音。それを見た黒秋は溜め息に諦めをにじませながら
「入ります……」
と答えていた。
「大変でしたね」
その日の夕食。黒秋はことの顛末をティナに話していた。
「あぁ、担任もクラスのやつらもみんな驚いてたよ」
「パレットちゃんはどうしたんですか?」
「部室にいるよ。アイツはなんだか嬉しそうにしてたけどな」
「段ボールにいるよりは、やっぱりその方が嬉しいんですよ、きっと」
「……ああ、そうだな」
「そうね……」
「……白姫。いつ、どこから入った?」「そう言えば、会長さんはなんでクロ兄様の名前を知ってたんでしょう?」
「あ、そういえばそうね。くろあき、面識あったの?」
「無視か……いや、直接会ったのは今日が初めてだと思うけど」
「ま、いいや。くろあき、明日から頑張るわよ!」
「へいへい……」
「2人共、頑張って下さいね」
にっこりと優しく微笑むティナ。黒秋は、それだけで明日から頑張ろうと思える様な気がしていた。
灰音は自室の天蓋付きベットに寝そべり、今日の事を思い出していた。
「あぁ、黒秋君……明日から一緒に生徒会……うふふ」
その思い出す事は大半が黒秋の事であった。
「黒秋君と両想いになれる呪術は出来なかったけど、パレットちゃんをアレしちゃったら黒秋君が悲しむものね」
今日の自分の機転を自分で褒めてあげたい気持ちで、声高に言った。
「明日からがんばるわよ!」
こうして、黒秋の波乱と美少女に満ちた学校生活が幕を開けた。果たして黒秋は誰と結ばれる事になるのか?無事生きていられるのか?それらは、また、次の機会に――。




