表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

第47話 -幸福の夢- 【後編】 “The Child who Wavers in Eden”


 挿絵(By みてみん)

 


イラスト@Nicola nn様


 夏夜の話をしよう。


 夏夜は、笑わなくなった。

 誰からも、距離を置いた。


 きっと、夏夜だってわかっていた。

 自分は間違っていた。許されないことを、みんなにしてきた。


 それでも、オレに見放されることだけが、恐怖だったのだと、なんとなく思う。



 いつだってオレを想い、その柔らかな翼で包み、慈しんでくれていた、けなげな夏夜。


 でも、それはきっと、オレに好いてもらえない自分は、不要だと思って、自分を偽ってまで、いつも明るく無邪気に、天真爛漫にふるまっていたのだ。


 それを、詐欺さぎだとか、うそっぱちだとか、言うのは簡単だ。

 でも夏夜は、ずっと辛くて、苦しくて、そうせざるを得なかったのだと思う。


 その辛さにたえかねて、闇堕ちするぐらいに。



 はじめに夏夜に、コンタクトを取ったのは、雷児らいじだった。

 雷児だけは、夏夜がどんなに拒絶しようと、一緒にいた。


 逃げる夏夜を、はがいじめにしてまで、ともにあろうとした。

 夏夜はそのうち、あきらめた。

 きっと、雷児のぬくもりに、救われている自分に気づいたのだ。


 ゆっくりと、壊れた絆が、紡がれてゆく音がした。



 ひたむきな雷児の姿に、小乙女や皇も、仕方ねえな、と付き合った。


 雷耶らいやと輝馬は、依然いぜんとして、かたくなだったが、乙姫にいじめられる夏夜を、とうとう見放せなくなって、はじめに雷耶が、「勘違いするなよ」と一言言って、助けてやった。


 夏夜は泣いた。

 雷耶は困ったように、自分の頭をがしがししていたが、ややあって、「泣くな」と言って、涙をぬぐってやった。



――ごめん、ごめんね、雷耶。

 夏夜は、雷耶に抱き付いた。


 それはもう、演技でもなんでもなく、心からの謝罪だと、雷耶もわかったのだろう。

「勝手にしろ」と言って、抱きつかれるに任せていた。


 意外とちょろい雷耶に、輝馬は変な顔をしていたが、夏夜が、「輝馬もごめん。小夏を、幸せにしてね」と、震える声でしゃくりあげながら言うと、そのひたむきさに、毒気を抜かれたように、「君にいわれなくてもね」と言って、ため息をつきながら、頭に手を置いた。



 おそらく、輝馬は、夏夜を許さないだろう。

 自分を傷つけたことじゃない。


 オレを苦しめ、痛めつけたことを、一生許さない。

 それが、輝馬の正義であり、優しさであり、人間としての情だ。



 一方、オレの優しさは、夏夜を救うどころか、ダメにした。

 それがオレの最大の罪で、失敗だったのだと、今ではきちんとわかった。


 ただ、これは自己弁護じゃないが……。

 輝馬やオレに限らず、優しさの形はひとそれぞれで、正解なんてないのだろうと思う。


 どちらがいいとか悪いとか、優しいとか優しくないとか、正義だとか、悪だとか決めつけるのは簡単だ。

 だが、それが許されるほど、オレ達は立派じゃなく、それはもちろん、年の問題なんかじゃない。


 人は何度でも間違うし、それなら、人を裁く権限など、どんな人間にだって、きっとないのだろう。

 人を裁いても自分の過ちはなくならないし、おそらくそれは自分の罪から目を背ける、盲目な罪の上塗りでしかない。



 賢い輝馬はそれをわかっているだろう。

 だから、夏夜を受け止めた。


 許して、甘やかすのとは違う、突き放して、それでも、夏夜の罪も悪もすべてひっくるめて、夏夜のあるがままを受け止めた。


 それはきっと、夏夜を救うだろう。

 嘘つきで、臆病だった夏夜は、本当は、ありのままの自分を、みてほしかったのだろうから。




 夏夜のおかげで、気づいたことがある。


 絆は、簡単に壊れる。

 たとえば嘘で、おせっかいで、裏切りで。


 でも、もし互いに憎しみがあるのなら、それはきっと、愛の裏返しなのだ。


 もう一度、やり直したい。

 そういう気持ちが芽生えたなら、後はきっと、ほんの少しの勇気と、タイミング次第だ。



 オレは、輝馬とひとつになり、恋人になった。

 なら、夏夜もそろそろ、新たな恋をしてもいいと思う。


 たとえば、ひとりぼっちになった夏夜に、以前と変わらず、愛を注ぎ続けた、雷児のようなやつに。

 雷児はたぶん、夏夜の渇望かつぼうに、気づいていた。


 だからこそ、夏夜が仮面の男だと知っても、驚きもしなかったし、すんなりと受け止めたのだと思う。

 それを愛といわずに、何を愛というのか。



 オレ達は、「真実の愛」を求めている。


 傷つけあい、裏切りあう、この歪な世界で、たったひとつの光を。

 それは、綺麗なだけじゃない。


 時に罪を、時に罰を生み、オレ達を苦しめる。


 それでも、オレ達は、恋をする。時には、愛し合う。

 正しいか、正しくないか、なんて関係なく、時には、命すら捧げる。



 だとしたらオレは、大切な人を護るために、この力を使いたい。

 陳腐ちんぷで、お決まりで、お約束だけど、きっとそのために、オレ達は能力に目覚めた。


 乞い願い、こいねがい、恋願うオレ達、<エデンの迷い>は、いつまでも変わらぬ、「日常という楽園はこにわ」から目覚め、「真実」にたどり着く。


 ならば、今度みる夢は、「永遠の夢」であるといい。

 それは、「覚めない夢」だ。「冷めない恋」だ。



 そう、『 永遠の愛の物語 』だ。


 オレ達は、仮面のじぶんじしんに打ち勝った。

 ならばもう、幸せになるしか、ないのだ。




 //////////////////////////////////////////////////////////



 wavers ~ウェイバー~


 waverの三人称単数現在。

 waverの複数形。


 waver

「揺れる、ゆらめく、震える、揺らぐ、迷う、ためらう、たじろぐ、浮き足だつ」


 “The Child who Wavers in Eden”

 ~ザ・チャイルド・フー・ウェイバーズ・イン・エデン~


「エデンの迷い仔」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ