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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第5章 (( love is Fate.)) ……それは、愛という名の憎悪。
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第41話 ‐欲望の主‐ “Show of the Avenger”

 挿絵(By みてみん)


人物イラスト  @Nicola nnさん

加工Reo.






「やあやあ。皆さん、おそろいのようだね。このたびのゲームは楽しかったかな? いよいよラストステージ、最後の晩餐ばんさんのはじまりだ」


 振り向いた。


――針金のような手足。

――まがまがしい仮面。


 にたにたと笑う、その口元は、大口を開けた奈落ならくに似ていた。



「さあ、最後の物語<ショー>をはじめよう」



「てめえ……!!」


 オレは、煉獄れんごくの業火を身に宿した。


「ああ。言ってなかったね。乙姫も、煌々(きらら)の肉体も、そして君たちの両親も、ここにある。これがどういうことか、わかるよね?」


「人質ってことかよ……っ! バカにすんのも、いい加減にしやがれ!!」


「おお、こわいこわい。でも、僕は、君たちを苦しめたいわけじゃないんだ。今日は、取引をしに来たんだよ」


「取引だと……!?」


「そうだよ。小夏。僕と一緒に来てほしい。もし君が僕の仲間になるなら、両親も仲間も、全員返してあげる。もちろん、君の心臓もね」


「そんな、都合のいい話……っ」


 言いかけて、胸を抑えた。ないはずの心臓が暴れ、膝をつく。


「ぐっ……!」


「小夏、ダメ!!」


 夏夜が飛び出してきて、目を見開いた。


――石化<フリーズ>!!――


「おやおや」


 仮面の男は、片手で夏夜の魔眼を払うと、その首を絞めた。


「この力は、誰のものだと思う? 私に逆らうなら、君から殺してあげようか」


「こ……、なつ……」


 夏夜が、助けを求めている。


 オレは、煉獄の業火を解き放った。



――煉獄の炎牢獄<フレイム・タルタロス>!!――


 業火の海が仮面の男を包み、炎の番犬が、喉笛に食らいつく。


――キャウン!!


 犬たちは、仮面の男に踏みつけられ、一瞬で消滅した。


「だから、無駄なんだよ。なんのために、レベルを上げてあげたと思ってるのかな? これじゃあ、ままごとにもならないよ」


「索敵<サーチ>!」


 輝馬が糸を展開するが、糸は仮面の男の周囲でへにゃり、とたるむと、溶けて消えた。


「くそっ……あたしが!!」


「お前は、引っ込んでろ!!」


 小乙女が千本の槍を展開するが、槍もまた当たる前に、とけて消えた。

 雷耶の放った雷すら、仮面の男の躰に吸い込まれ、跡形もなく消失した。


 こうが、オレをかばおうとしたのだろう、津波で仮面の男を押し流そうとするが、波は真っ二つに割れ、逆流して、オレ達を襲った。



(( クルルーウ!! ))


 祈凛きりんが金色の波動でそれを防ぎ、ひと鳴きし、仮面の男に向かっていく。

 ぱちん!! 泡がはじけるように、祈凛は消えた。


「ああ。僕の躰は闇でできている。触れたものを消滅させる力があるんだよ。当然、皇、君の刃も例外じゃない」


 背後に迫っていた皇が、はっとする。

 触れただけで魔を消滅させる、神の肉体でできた霊刀、月光鬼涙げっこう・きるいが粉々に砕ける。


「ぐ……っ」


 皇が膝をつき、そのまま倒れた。


 吸収<ドレイン>。

 仮面の男が使ったのは、乙姫の力だった。


「これで、治療者<ヒーラー>もいない。人質は僕の手の中。さあ、どうする、小夏? あまり時間がないよ?」


 そうこうしているうちにも、夏夜の顔から、血の気が引いていく。

 仮面の男は、オレ達の全力を受け止めてなお、夏夜から一度も手を離していない。


 このままでは、文字通り赤子の首をひねるように、仮面の男は夏夜を、そしてオレ達全員を、殺しつくす。


「……わかった。オレが行く」


「小夏!!」


 雷耶が叫ぶが、オレは、振り返らなかった。


「オレは、何をすればいい」


「そうだな。手始めに、あの少年を殺してもらおうか」


 仮面の男が指差したのは、輝馬だった。


「何、言って……」


「あの少年は、少々調子に乗りすぎた。目障りなんだよ。あれを殺せば、ほかの全員は見逃してあげる。さあ、どうする、小夏?」


「話が違う……!!」


「いいや。違わないね。それに君はもう、わかっているはずだよ。僕の<復讐>の意味が」


「何、言って……」


「そうだよね? 煌々(きらら)」


「…………」


 煌々が、黙った。


「煌々……?」


 オレは、うつむいた煌々に呼びかけた。



「小夏。すまぬ。わらわは、仮面の男の正体に気づいていた。乙姫もじゃ。考えてみれば、話は簡単だった。仮面の男の行動原理は、実にシンプルで、短絡的だった」


「小夏。そなたもおかしいと思わなかったか? なぜ、仮面の男は小夏の心臓を奪った? なぜ、小夏の大切な人間を人質に取り、あるいはお主と殺し合わせた?」


「答えはひとつじゃ。仮面の男が唯一、欲していたのが、そなたじゃったからじゃ」


「どういう意味……」


「小夏。わからないフリはよせ。もう、目をらさないと決めたのじゃろ? 仮面の男の顔をみろ」


「顔、を……」


 オレは、前を向いた。


 仮面の男はもう、仮面を被っていなかった。そこにいたのは、見知った顔だった。

 いや、正直に言おう。
























 目の前にいたのは――「夏夜」だった。




 仮面の男の正体は、夏夜……?


「なんで……」


 首をしめられていたはずの夏夜が、どすん、と地面に落ちる。

 それは、ただの人形だった。


「ウソだろ……」


 オレは、からからに乾いた喉で、それだけ言った。



 なんで夏夜が。

……どうして? いつから?


「小夏。小夏の推理は、あたっていたよ。小夏は、仮面の男の正体は、自分だといった。大正解だね。オレを怪物にしたのは、小夏、おまえだよ」


「そん……」


――ウソだ。

 オレは、後ずさった。


 違う。そんなはずない。……これはなにかの冗談だ。夢だ。


 そう、仮面の男のもたらした、幻覚だ。


「残念ながら、これは、現実だよ、小夏? いや、おまえは今まで、眠っていた。気づかないふりを、盲目のフリをしていた。幸福な夢をみていた」


「小夏だって、ヘンだと思ってたでしょ? 小夜は言ったよね。すべては、オレの思い通りに進んでいるって」


「まあ、それはそういう意味で言ったんじゃ、なかったんだろうけど……。それでも、オレはちゃんと、ヒントを出したよ。でも、気づいてくれなかったよね。いや、気づかないフリを、続けてきたよね。ねえ、ちゃんとオレをみてよ、小夏」


「夏夜……」


 血の気が引いていく。


 なんだ? なんだよこれ。

 こんなの、おかしいだろ。こんなの、夏夜じゃない。


 気持ち悪い。理解できない。わからない。

 夏夜の気持ちが、これっぽっちも。


「ねえ小夏、オレのために死んでよ」


 夏夜が、指を伸ばした。


「そこまでだ……っ」


 輝馬が、糸を引く。


「だから、無駄だって……、――?」


 夏夜を拘束した輝馬の糸は途切れなかった。

 なんで?


 輝馬は、腕から血を流していた。

 蜘蛛くもの糸に、血液が伝う。


「君は己を、<混沌の王>と言った。なら、その属性は「無」。その名の通り、実態を持たない。僕たちの闇の力も、光の力も、当然、形なきモノには、効かない。ならば、そこに、<有>を流し込んだらどうだ? 血液<いのち>を注いだら?」


「考えたね。でも、だから何? このまま捕食<イート>する? あは。そうしたら、オレは死ぬね。輝馬、お前は小夏から、大事な家族を奪う。人殺しになる。ねえ……優しい小夏は、そんなおまえを、どう思うかなあ?」


 夏夜は、鈴のなるようなあどけない声で、愉しそうに笑った。



「夏夜! いいかげんにしろ……っ」


 オレは、どなった。


「いいかげんに、しろ。お前がオレを憎んでいるなら、殺せばいいだろ。なんで、ほかのヤツを巻き込む。親父やお袋もだ。なあ、なんでだよ、夏夜。お前は、そんなやつじゃないだろ。なんで、こんなことを……」


 喉がつまる。

 悔しくて、悲しくて、涙があふれた。


 わからない。夏夜の気持ちが。

 オレ達、家族じゃなかったのかよ。


 お前は、いつだって、オレに優しかった。

 オレが泣けば、慰めてくれたし、みんなにも、笑顔を振りまいた。


 あれは、全部、嘘だったのか。


「……そうだね。だったら、教えてあげる。なんでオレが、小夏の心臓を奪ったか。なんで、小夏から大切な人を奪って、めちゃくちゃにしたか。なんで、嘘をついたか」


 夏夜は、愛らしい天使のように、うっすらと微笑みをたたえた唇で、語りだした。








 Show ~ショウ~


【名詞】

 〔感情・性能などの〕表示,誇示 〔of〕.



 展覧会,共進会

(劇場・ナイトクラブ・テレビなどの)ショー,興行,見せ物.


  笑いぐさ,恥さらし.


  [また a show] ふり,見せかけ; 外観,(ふう), 様子 〔of〕.

  見せびらかし,見え,虚飾.


 avenger ~アヴェンジャー~


「復讐者」


 Show of the Avenger

 ~ショウ・オブ・ジ・アヴェンジャー~


「復讐者のショー」「復讐者の虚飾」

「復讐者の笑いぐさ」


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