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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第5章 (( love is Fate.)) ……それは、愛という名の憎悪。
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第40話 -悪夢の果てに- “Nightmare Eat You”



挿絵(By みてみん)

 


イラスト@Nicola nn様



――ドオオオォオォオオン!!



 地面を突く、轟雷ごうらいの音があった。

 輝く金髪。ぎらつく、獣のような瞳。



「……らい、や……」



「千本の槍<サウザンド・スピアー>!!」


 輝馬の周囲につきたてられた、光る槍。

 蜘蛛の糸が、一気に断ち切られ、拘束が緩んだ。


――小乙女さおとめ



「母なる闇<マザーダーク>!!」


 柔らかい羽のような闇が、地面に叩き付けられる直前、オレを抱き留めた。

――小夜さよ


 まもなく、あたたかい光が、オレを包んだ。


「小夏、今治してやる」


 龍神の慈悲<キリエ・ロンシェン>が、オレの足を癒した。


――こうまで。


「出血がひどい。祈音きおん……じゃない、祈凛きりん、任せた」


「小夏、失礼するね」


 祈凛は、人型になると、オレの唇を奪った。


 柔らかい舌が押し入ってきて、損傷した龍脈りゅうみゃくを補修し、失った血液を復元ふくげんする。


――輪廻<リンネ>。    

 女神・花蓮かれんに選ばれた者のみが使える、最高級の治癒・蘇生聖術そせいせいじゅつだ。


「さあ、輝馬。説明してもらおうか。なんで、小夏を傷つける? それが君の望み?」


 祈凛が、凛とした声で、なおもオレに、牙をむこうとする、輝馬に立ちふさがった。



「いい。祈凛。オレに任せてくれ」


 オレは、みんなを振り返ると、こう言った。


「これは、オレと輝馬の喧嘩けんかだ。頼むから、お前らは手を出すな」



「でも」


 小夜が引き止めるが、オレは、振り向かなかった。


 輝馬は、オレのことを一度だって、友達だと思っていなかった。


……本当に? 

 オレ達の絆は、嘘だったのか?


 確かめたかった。

 輝馬の気持ちが、知りたかった。


 かっ、と目を見開く。

 脳が焼け付くように熱くなり、瞬間、眼球の奥に燐光りんこうが舞った。


 燃え上がるように火をつけた本能が、なにをすべきか教えてくれた。


 腕を払い、空気を歪める。時空の法則を書き換える。

 そのまま、距離をショートカットし、輝馬の背後に、一瞬で移動する。


 そして、勢いよく、後ろから抱きしめた。

 輝馬の気持ちは、いまや、むき出しだった。


 天国の扉<ヘブンズドア>は、たぶん、覚せい剤に近い。

 欲望に忠実にさせ、その秘められた想いを、丸裸にする。


 暴れる輝馬を、魔神の腕力で、無理やり拘束し、動きを完全に封じた。


 そのまま、目を閉じる。

――乙姫。お前の力、借りるな。


 夢のなかに潜っていく。

 輝馬のなかだ。


 輝馬は、夢のなかでオレを抱いていた。


 オレは泣いていた。

 愛姦あいかんではない。強姦ごうかんに近かった。


 無理やり組み敷いて、鳴かせていた。

 行為が終わった後、輝馬は自分の胸を、硬化した蜘蛛の糸で、刺し抜いた。


――輝馬は死んだ。そして、夢は最初に巻き戻る。


 それは、何度でも繰り返された。

……ひどい悪夢だった。


 これが、輝馬の願望なのか。


 オレは、再び、自らの胸を刺そうとする、輝馬の背後に立った。

 そして、抱きしめた。


 どうしてそうしたのか、自分でもわからない。

 でも、輝馬が、泣いている気がして。


 輝馬は、苦しんでいた。耐えていた。


 友達のフリは、もう限界だった。


 オレをだましていた。

 オレをまもるその手で、夢のなかでは、毎晩犯した。


 罪悪感がピークになり、禁じられた薬<ドラッグ>に手を出した。


 それでも、オレは、なにも気づかなくて。


 お前に、ためらいなく触れた。根拠なく、お前を信じた。

 無防備むぼうびで、無知で、盲目で、そして、とてつもなく、身勝手だった。


 そう、お前を苦しめていたのは、ほかでもない、オレだった。


「もういいよ」


……もういい。


 輝馬は、我に返って、暴れた。

 だが、オレはそんな輝馬を、正面から抱きしめた。


「お前は、悪くないから。だから、抱けよ。好きなようにしろよ。オレは、お前を嫌いになったりしねえから」


 迷った末、鼻に口づけた。


 それは、あの時のお返しだった。


 輝馬の妹を死なせ、声をつまらせたオレに、お前は言った。

 “辛かったね”と。


 そして、こうして、抱きしめて。

……泣きじゃくるオレに、こう言ったのだ。



 “大丈夫だ。君が悪いなんて、思ってない。僕は、君がどんな失敗をしようが、どんな悪事に手を染めようが、絶対に君の味方だから”


 だからオレは、今、そんなお前に、言ってやる。


「ごめんな。お前は、悪くねえ。オレは、お前がどんなヘマしようが、どんな悪いことしても、絶対に」



 

――ぜったいに、お前から、離れねえから。――



 

 今度は、唇を合わせた。


 なんで唇にしたかは、自分でも、わからない。

 でも正解は、きっと「これ」な気がした。


 輝馬の躰からだから、ふにゃり、と、力が抜ける。


 オレは、男じゃない。でも、女でもない。

 オレは、輝馬を好きか? そんなの、わからない。


 でも、離したくない、と思った。

……離れたくない。


 ぼんやりとしびれる頭で、あの日の言葉を、思い出す。



“なあ。なんで、お前はオレに優しいんだよ”


“これでも、冷たくしてるつもりなんだけどね”



“それでも君は、僕から離れていかなかった”


“…………?”



―― “君だけだ。僕をみつけてくれたのは” ――



 ああ、こうして胸を合わせていると、生暖かい脈動とともに、輝馬の心の中身が、手に取るようにわかる。

 あの日の言葉の意味が、今なら、わかる。


 お前は、自分を「偽物」だと思っていた。

 優しい言葉を振りかければ、いや、そうしなくても、女は次々と寄ってくる。お前に、愛をささやく。


……でも、どの女も、最後には、離れていく。


「そういう人だとは思わなかった」


 お決まりのセリフは、お前をめちゃくちゃにした。


 そのうち、まともな恋愛が、ばかばかしくなった。

 拾っては捨てて、捨てては拾う。


 それでいいと思っていた。

 自分は冷たい人間で、愛する資格も、愛される資格もないと。


 それでも、たったひとり、例外がいた。

 どんなに冷たい言葉を吐いても、突き放しても、べたべた触れてくる、バカなやつだ。


 輝馬は恋に落ちた。何度でも。


 そして、ついには、そんな関係では、満足できなくなった。

 友情の先を、それ以上を望んでしまった。


 でも、怖かった。


 そんな気持ちを知られたら、きっと、そいつは離れていく。

 これまでの女みたいに。


……だから、夢のなかで犯した。


 もう現実になんて、これっぽっちも期待していなかった。


 それがお前の「本当の気持ち」だろ、輝馬。

 でも、「本当の本当」は、違かったんだろ。


 無理やりではなく、こういうことが、したかったんだろ。



 そっと、合わせた唇から、舌を差し込んだ。

 冷え切った口内が、ゆっくりと、暖められていく。


 おびえたように逃げる舌を、追いかけた。

 そっと、からめる。


 炎も、熱も、わけてやる。

 お前がもういいって言うまで、オレはお前を逃がさない。


 オレは、輝馬を押し倒した。

 やり方はよくわからないが、とりあえず、こいつの気が済むまで、望むことすべてを、させてやりたかった。


 輝馬の瞳に、光が灯る。

 逆転された。


 輝馬の躰からだが、覆いかぶさる。

 口づけられ、まさぐられた。


 ちょうど、胸のあたりだ。また、触れられた。

 育ち始め、膨らみ始めた、オレの、「女」の部分に。


 もう、気持ち悪くなかった。

 むしろ、満足していた。



 このまま、行けるところまで――。













「――ストーップ!!」


 小夜が止めに入ってくれなかったら、きっと、いろいろやばかった。


 オレは、我に返った。


 気が付くと、もとの世界で、衆人監視しゅうじんかんしのもと、オレは輝馬に、押し倒されていた。


「…………?」

「…………??」


 オレと輝馬は、顔を見合わせた。


 なんか、すげーありえねえ夢をみてた気がするが、なんだったっけか?


「ヘンな夢だったな」

「そうだね」


 言って、くすくす、と笑いあった。

 胸がすっきりとしていて、なんだか、ばかばかしかった。


「小夏ぅ……」


 夏夜が、うるうるしている。

 頭をなでようとしたら、にらみつけられた。


「……小夏なんて、嫌いだっ……!」


 ショックを受けるオレだが、その時、天を割る声がした。



「やあやあ。皆さん、おそろいのようだね。このたびのゲームは、楽しかったかな? いよいよ、ラストステージ、最後の晩餐ばんさんのはじまりだ」


 振り向いた。


 針金のような手足。

 まがまがしい仮面。


 にたにた、と笑うその口元は、大口を開けた、奈落ならくに似ていた。



「さあ、最後の物語<ショー>をはじめよう」




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 Nightmare Eat You

 ~ナイトメア・イート・ユー~


「悪夢はお前を喰らう」

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