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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第5章 (( love is Fate.)) ……それは、愛という名の憎悪。
44/60

第39話 ‐最果ての愛‐ “ It's final answer, isn't it?“  

挿絵(By みてみん)

 


イラスト@Nicola nn様





「輝馬」


「小夏」


 月光に照らされた輝馬こうまの瞳は、輝いていた。


くらり、とめまいがする。幸い、持ちこたえた。


 乙姫のくれた力のおかげだな、と思う。

 立っているだけで辛いが、我慢して歩み寄った。


「お前に、言いたいことが……」


「うん」


 輝馬もまた、こちらに近づいてくる。


 そして次の瞬間、オレは、がくりと膝をついた。


「こうま……?」


 オレの両手両足を、蜘蛛くもの糸が拘束していた。


「なんで……」


 ぎりぎり、と糸が首に食い込む。


「“なんで“だって? ……小夏こそ、なんで?」


 輝馬は、どんどん近づいてくる。

 そして、糸を引いた。


「~~っ」


 首がしまって、息ができなくなった。


「……なんで、僕から離れていったの? ――信じていたのに」


「こ……、ま……」


 糸をつかんで、燃やし尽くした。

 げほげほ、と息をすると、輝馬はこちらを、静かにみつめていた。


「……違う。オレは……」


「……違わないよね?」


 再び、糸が襲う。

 また燃やそうとして、躰が動かないことに気づいた。


 神経毒<ポイズン>。

 糸から流し込まれた毒が、からだの自由を奪っていた。


「輝馬、聞いて……」


 ぐい、と引かれて、地面に叩き付けられた。


「……ぐっ」


 したたか腕を打って、唸った。

 かろうじて折れてはいないが、しびれて動かない。


 魔神の力は、強靭きょうじんだ。


 でもオレの肉体は、それに追いついていない。

 力の使い方など、てんでわからなかった。


 そこで、はじめて気づいた。

 輝馬はオレを、殺そうとしている。


……なんで?


 輝馬の瞳は、ぎらぎらと輝き、瞳孔どうこうが開いていた。


 学校の授業で、みたことがある。

 薬物中毒で、トランスしているやつの目だ。


――まさか。


 オレは、思い出した。


 輝馬はさっき、言っていた。

 天国の扉<ヘヴンズドア>に手を出した、と。


 まさか、こいつ、残りの薬全部……。


 ぞっとして、からだを起こした。



 まだやれる。

 魔神の力のおかげで、毒が中和されてきている。


 でも、どうする。

 オレの能力は、燃やすだけしか能がない。


 乙姫の力の使い方は、わからない。

 当然、燃やせば、輝馬は死ぬ。


 いくら能力者でも、生身の人間だ。

 オレの煉獄の業火は、骨ひとつ残さず、輝馬を灰にするだろう。


 悩んでいる場合じゃない。

――逃げないと!


 きびすを返したオレに、輝馬の、冷徹な声が降った。


「捕食<イート>」


 爆音とともに、右足が破裂した。


「~~……っっ」


 正直、しゃれにならない衝撃だ。


 痛いとか、そういうレベルじゃない。

 意識ごと、り取られる。


 ぐらぐらする頭で、輝馬をにらみつけた。


――なんでだよ。

……約束したくせに。


 オレを護る、って。

 どんな時も、オレの傍にいてくれるって。


 いや、そんなの、ただのワガママだ。



 オレはずっと、心ぼそくて。

 男でも女でもない、オレのからだが怖くて。


 こんな自分、誰も愛してくれないんじゃないか、と思って、自分の性別を聞かされたあの日、倒れた。


 あまりの高熱に、死ぬところだった。

 そんなオレの手を引いて、こっちの世界へ連れ戻してくれたのは、輝馬だった。


 輝馬は言った。


「わかるんだよ、君のことはぜんぶ」


「僕は、君がどんなにつらい思いをしていても、代わってやることはできない」


「でも、僕が君を護るから」



  ――“ねえ、約束しよう、小夏。もし、僕が、大人になったら。……必ず、君をさらいに行くから”――



 知られていた。見抜かれていた。

 そのセリフを言わせたのは、ほかでもない、オレだったんだ。



「輝馬……」


 糸にからめとられ、破裂した右足から、どくどくと血が流れ出す。

 しこまれた神経毒すらも、オレの躰を、ゆっくりと死へいざなう。


「小夏」


 輝馬が、手を挙げた。


――捕食<イート>。


 オレは、ゆっくりと、まぶたを閉じた……。



 ///////////////////////////////////////////////////////



 “ It's final answer, isn't it?“  ~イティーズ・ファイナルアンサー・イズント イット?~


「これは最後の答えだ。……本当に?」


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