第38話 ‐仮面の男‐ “The Devil in the mirror”
イラスト@Nicola nn様
ゆっくりと、意識が浮き上がる。
目を覚ますと、心配そうにのぞき込む、雷耶の姿があった。
「大丈夫か」
「ああ」
言って、自分が泣いていることに気づいた。
決めた。決めてしまった。
幼いころから一緒にいてくれた、大切な幼馴染。
悪友で、親友で、自分の片割れですらあった存在。
そいつに、オレは今から、お別れを言うのだ。
ぐいぐい、と瞼をこすると、雷耶が、はあ、とため息をついた。
「答えは出たのか」
「わかんね。でも、言うべきことは、決まってる」
「そうか」
雷耶が、オレに触れようとして、ためらった。
オレはその手を取って、引き寄せた。
「雷耶、オレを好きになってくれて、ありがとう」
続きは、必要なかった。
「謝らないところが、お前らしいな」
「これからも、ずっとオレと、友達でいてくれるか?」
矛盾は承知だった。
輝馬と雷耶。
両方、オレのことが好きなのに、オレは雷耶と離れたくなくて、輝馬のことは、切り離そうとしている。
オレは卑怯者だ。
そして、裏切者も、また、オレだった。
「もとより、それしか選択岐、ねえんだろ?」
雷耶は、鋭い目つきを緩めて、笑った。
「悪い」
「謝るぐらいなら言うな、バカ」
雷耶は、オレの頭を小突いた。
「じゃあ、行ってくるな」
「輝馬の場所はわかるのか」
「なんとなく」
「途中まで」
ついて行ってやる、と言いかけた雷耶を遮って、オレは言った。
「これは、オレのけじめだから。それにオレの中には、乙姫がいる」
乙姫の魔神の力は、オレに勇気をくれた。
最強無敵の、神様の福音。
ならばオレは、もう、泣いたりしない。
辛くて、痛くて、胸がぎしぎし、ときしむ。
頭ががんがんと鳴り、膝が震える。
それでも、乙姫の言葉がリフレインする。
「俺は、お前のことが好きだ」「お前は、お前のしたいようにしろ」
「お前なら、あの男の欲望に立ち向かえる。お前なら、真実にたどり着く」
「お前はいずれ、信じていたものに裏切られるだろう。それでもお前は、きっと」
――きっと、そいつを信じて、愛するだろう。――
誰が裏切った?
誰が、仮面の男か?
ぜんぶ、オレだ。
あいつは、オレだ。
弱くて、卑怯で、ずるくて、ワガママなオレだ。
大切な友達の想いに気づかず、踏みにじって、拒絶して、選んで、捨てる。
最低で、最悪で、自分のことしか考えてねえ、欲にまみれた悪魔。
だからオレは、もう、目を逸らさない。
鏡の向こうの敵から。
オレ自身から。
「輝馬」
オレは言った。
目の前にちらつく、冷たくて、暖かい光。
……切れ長の瞳が、赤々と輝く月光に、きらめいていた。
/////////////////////////////////////////////////////////
“The Devil in the mirror” ~ザ・デビル・イン・ザ・ミラー~
「鏡の中の悪魔」