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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第5章 (( love is Fate.)) ……それは、愛という名の憎悪。
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第36話 ‐さよならの意味‐ “Divergence of the Sex”


挿絵(By みてみん)

 イラスト@Nicola様




 走りすぎて、息が切れた。


 しゃがみこむ。


 背後に、人の気配がした。

 雷耶らいやのにおいだ。


「あいつ、どうかしてる。オレ達、男同士なのに」


「小夏、お前はきっと、わざと考えないようにしているんだと、思っていた。……でも、お前は男じゃない」


「なんだよそれ……っ」


 オレはぐちゃぐちゃな気持ちのまま、叫んだ。


「お前までオレを、女扱いすんのかよ……!?」


「輝馬の方が、お前の性別について直視している。小夏、もう一度言う。お前は、男じゃない。いいかげん、わかれ」


 雷耶は、珍しく、いらだったように言った。


「お前もオレを、そういう目でみてんのかよ……っ!!」


 オレを女みたいに扱った、輝馬の姿がフラッシュバックし、思わず怒鳴どなった。



「それには答えられない」

「なんで……っ」


「答えたら、お前は離れて行く。輝馬の時みたいに」

「決めつけてんじゃねえよ……っ」



「じゃあ、俺がもし、お前を押し倒したら? ……それでもお前は、抵抗しないのか?」


「そんなの……!!」


 するに決まってる、と言おうとして、つまった。

 雷耶のほうが、正論だった。


「……でも、おかしいだろ……」


 だってオレは、どうみても……。


「小夏。お前だって、気づいているはずだ。最近、ある部位がふくらみ始めたことに」


 オレは、ばっ、と胸を押さえた。


「進藤先生から聞いた。あの時、人間ドッグで、お前には伝えていないことがあった。それはお前の体内の属性が、急速に光に傾いていることだ」


「お前が知っているとおり、陰陽おんみょうの法則で、母親の胎内で育つうちに、体内の龍脈のうち、光の門が開けば、女として生まれ、闇の門が開けば、男として生まれる。無性や両性は、両方の門が開いているか、不安定な状態をさす」



「――小夏。お前は闇の龍脈が活性化した状態で生まれたが、同時に光の門も開いていた。子どもの頃のお前が女じみていたのも、そのためだ」


「しかし、思春期に入り、お前は一気に男らしくなった。それはなんでだか、わかるか?」


 オレは、唇を抑えた。


 そうだ、心当たりがある。

 能力が発動した日の夜、オレは寝ている夏夜にキスしたのだ。


「そう、夏夜を好きになったから、お前は男として成長していった。でも、最近のお前は、急速に女性化している。それには、当然、明確な原因が存在する」


「お前の異変がはじまったのは、中学二年になったころだよな? そのころからお前は、めまいや吐き気で、たびたび体調を崩しはじめた」


 オレは、思い出した。

 昼下がりの教室、そよぐカーテン、光を抱いて輝く輝馬の瞳を。


 あの時の動悸どうきを思い出す。


「まさか……」


「そう、お前は、輝馬にかれ始めている。その結果が、これだ」


「どうすれば……っ」


「輝馬から距離を置け。女になりたくなければ、これ以上、輝馬の近くにいないほうがいい。お前は、これまで通り、夏夜だけをみていればいい」


「お前は……?」


 人のことを考えている余裕なんて、ないはずだった。

 でも、それじゃあ雷耶は、どうなる? お前もオレのことが、好きなんじゃなかったのか?


「俺はいい。これ以上、お前が倒れたり、苦しんでいる姿をみたくない。お前はお前のままでいればいい。俺はお前を困らせるために、好きになったわけじゃねえんだ」


 いつから? とか、どうしてオレを? とか、聞きたいことはたくさんあった。

 でもそれのどれも、そぐわない気がして、オレはこれだけ聞いた。


「雷耶。お前は、オレは輝馬を好きなのか……?」


「さあな。答えは、お前が知ってるはずだぜ。そしてそれは、お前にしかわからない」


 好き、とか、愛してる、とか。


 オレはそれらを甘いものだと思っていた。

 お手軽で楽しくて、なめているだけで幸せな、「砂糖菓子」だと。


……でも違った。


 ないはずのオレの心臓は今、壊れそうなほど暴れて、息が切れる。


 苦しい。辛い。

 女になりたくない。輝馬にそんな目でみられたくない。


……本当に?


 オレは、口を抑えた。

 胃液がせりあがってくる。腹の中がぐちゃぐちゃにかき回される。


 オレの躰は、女になっていく。

 誰のために?


……なんのために?


 ああ、とオレは思った。


 恋なんて、愛なんて、ろくなもんじゃねえ。

 知りたくなかった。


 オレは今まで、なにもみず、なにも知ろうとせず、幸福な夢をみていたのだ。


……――ぷつん。


 激しい吐き気の果て、意識がとぎれた音がした。


 /////////////////////////////////////////


 “Divergence” ~ダイバージェンス~

 分岐; 逸脱.

(意見などの)相違


 “Sex” ~セックス~


【名詞】


【不可算名詞】 性,性別 《男[雄]と女[雌]の別》.

【可算名詞】 [通例 the sex; 修飾語を伴って; 集合的に] 男[女]性.


【不可算名詞】セックス,性的なこと.性行為,性交.


 “Divergence of the Sex”

 ~ダイバージェンス・オブ・ザ・セックス~


「性の分岐」

「性(に関する認識)の相違」


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