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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
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第35話 ‐天国の扉‐ “End of the Play Friendship”

 


挿絵(By みてみん)



 双子の聖人兄妹、凛音と祈音がひとつになって、祈凛きりんという獣になった。

 トンデモ展開すぎて、もはやこの場の誰もついていけていないが、とりあえず、消えた乙姫を探そう。


 そう決めたオレ達だったが、いきなり視界がめちゃくちゃになった。

 大小さまざまな無数の穴が視界いっぱいに現れ、まず小乙女さおとめが、つづいて、こうが吸い込まれた。


 助けようとした祈凛きりんも、穴の向こうに消えた。


 オレの背後にも、穴は迫っていた。


 ふわっ、と躰が浮いたと思った次の瞬間、オレは崖のてっぺんから落ちていた。

 ぱっと見、ヘタな高層マンションより高い。この高さで落ちたら、まず死ぬ。


 思わず体を丸め、ぎゅっと瞳を閉じた。


 でも、今思えば、どこかで信じていた。

……誰かが、いや、「あいつ」が、助けてくれるって。


 腕に、なにかからまった。

 そう思ったときには、崖の上へと、引っ張り上げられていた。


 ぴんと張った蜘蛛くもの糸。

 すうっと横に流れる、切れ長の瞳。


 さらさらとした黒髪が、オレの額にかかった。


「小夏」


 その時、なぜだか、唐突に、思い出した。

 あの日あの時の、こいつの言葉を。



 小学4年生ぐらいのことだ。

 当時、オレはまだ、こんな容姿をしていなかった。


 控えめに言って、かなり可愛いというか、ぶっちゃけ美少女めいていたと思う。

 髪はそんなに長くなかったが、伸ばしていれば、可憐にすらみえていただろう。


 実際、どんなに男らしくふるまっても、オレは男扱いされなかった。

 輝馬も、今よりずっとオレに優しくて、しいていうなら、壊れ物を扱うようだった気がする。


 自分が純粋な男ではなく、半分女であり、いわゆる「両性」だと聞かされた後、オレは唐突(とうとつに風邪を引いた。


 蒸し暑い夏に訪れたそれは、高熱をもたらし、オレは三日間にわたり、生死をさまよった。

 クーラーのきいた自室で、オレは、こんこんと眠っていた。


 ひどい悪夢を見た気がする。

 とてつもなく、暗い闇のなかに閉じ込められ、身に覚えのない罰を受ける夢だ。


 意識が浮上してくる頃、手を握ったものがあった。


「そろそろ起きないと、キスするよ」


「こうま……?」


 オレは、重たい睫毛まつげを上げた。


 輝馬の穏やかな顔が近づいてきて、柔らかいものが、オレの唇に押し当てられた。

 少ししめったそれは、オレの唇を少しなめると、そっと離れていった。


「なに……」


 目をこすると、輝馬は、オレと同じふとんで寝ており、オレを抱きしめて、ずっと隣にいてくれたようだった。


「こうまだったのか……」


 ずっと、あたたかいぬくもりが、オレを包んでくれていた。


 だからオレは、煉獄れんごくの業火にあぶられても熱くなかったし、絶対零度の氷の棺に閉じ込められても、息をすることができた。


「なあ、こうま……」


 熱にうかされながら、オレは輝馬の手をぎゅっと握り返した。


「言わなくていい。わかってるから。わかるんだよ、君のことはぜんぶ。僕は、君がどんなにつらい思いをしていても、変わってやることはできない。……でも、僕が君を護るから。たとえ、運命が僕らを試しても。僕は君の盾となり、矛となろう」


 もうろうとする意識で、黙り込んだオレを、輝馬はとても小学生とは思えない、真摯な瞳でみつめていた。

 そして、その言葉を、その誓いを、オレに囁いたのだ。


「……ねえ、約束しよう、小夏。もし僕が、大人になったら。……必ず、君をさらいに行くから」



 その言葉とは裏腹に、中学にあがるころには、輝馬は冷たくなった。

 オレは、優しかった輝馬が、どうしていきなり掌を返したか、わからなかった。


 毒舌も、嫌味も、きっと女じみた容姿を脱ぎ捨て、すくすくと成長していくオレのことを、ただの悪友だとしか、みられなくなったからだと思っていた。


 でも、違ったんだな。……ぜんぶ、違かった。


 オレの瞳を見返す輝馬は、まるでその心を読んだかのように、語りだした。

 

「小夏。どうか、聞いてほしい。君は、僕がなぜ、君を命がけで護ろうとするのか、疑問に思っていたと思う。君は自分を男だと思っていて、僕のことを、純粋に友人として、幼馴染としてしかみていないことは知っていた」


「……それでいいと思っていた。今日までは。でも、君は、僕の知らないところで、ほかの人間と仲良くして、キスマークさえつけてきた」


「輝馬……?」


 オレは、不自然に脈動する、ないはずの心臓をどうにかするように、胸を抑えた。


「……はっきり言おう。君は、乙姫のことを、女として見始めている。君が兄を好きだというなら、口をはさむつもりはなかった。兄弟は結婚できない。その気持ちは、おそらく恋ではない」


「でも、乙姫のことは、明らかに性的な対象として意識している。僕は正直、もう、これ以上耐えられそうにない」


 何に、と言おうとして、口を閉じた。

 輝馬の言おうとしていることが、理解できなかった。


 いや、理解することを、体が拒否していた。




「君が成長するうちに、変わってしまったことに、僕は戸惑とまどった。もう、どうみても、君は男にしかみえなかったし、そんな君に恋慕れんぼする僕は、おかしいと思っていた」


「だから、わざと冷たくした。つらく当たった。そうすれば、君もきっと僕を嫌いになって、離れてゆく」



 輝馬の眉は寄り、苦しげに言の葉を絞り出していく。

 ますます心臓が暴れ、息がつまる。


 オレは、耳をふさごうとした。


——やめろ、やめろよ。お前は、何を。



「でも、そうはならなかった。君は、これまで通り、僕に触れた。その掌のあたたたさに、僕はもう、それ以上君を突き放せなくなった。中途半端に君に冷たくして、思い出したように優しくして」


「そんな僕をあざ笑うかのように、君は、どんどんみんなに好かれていった」


「……それが、単なる友情だったら、どんなによかったろう。けど、乙姫は、君をそういう目でみていた。小夜までも、君をモノにすると言い出した。僕と同じ、情欲の混じった目だった」


「……吐き気がした。僕は、君を護りたいのに、夢の中では君を犯している。連日連夜の悪夢に、どうにかなりそうだった。」


「やがて、僕は天国の扉<ヘヴンズドア>に手を出した。みたい夢がみれるドラッグだよ」


「これを飲めば、こんなおかしな夢から解放されるってね」





「輝馬……っ!!」


 相次ぐ言葉の洪水に、オレは、目をつぶり、どなった。



「……だが僕がみたのは、より一層淫みだらな夢だった。悪夢、なんて、ていのいい言い訳だった。僕はずっと、君とこういうことをしたいと、望んでいたんだ」


 足音がする。オレは、閉じていた目を開いた。


「……こういうこと、って」


「こういうこと、だよ」


 輝馬は、オレの手首をつかんだ。

 そうして、首筋にみついた。


「……っっ」


「そしてこう、だ」


 続いて、オレの両手を片手でぬいとめ、胸に手をはわせた。


「……おい……っ」


 最近、凹凸が気になりだしたその部位をこすられ、オレは変な声をあげた。


「……、ぁ……っ」


 慌てて、抵抗するが、遅い。輝馬は、オレを押し倒した。


「小夏。ごめん。少し痛いと思うけど、我慢して」


「な……っっ」


 頭からつまさきまで、ざっと寒気が走った。


 なんだ。……なんだよ、これ。

 どうなってるんだ。


——こいつは、今、なにを……。

 

シャツを脱がされ、ズボンのベルトに手をかけられ、はじめてわかった。こいつ、オレをレイプしようとしてる。


 オレを。


——オレを!?


 オレは、暴れた。今度こそ、暴れた。


「やめろよ……っ!! オレ達、友達だろ……っっ!!」


「……昨日まではね。でも明日からは、他人だ」


「なんでそんな……っ」


「君を犯せば、僕達はもう友達ではいられなくなるだろう。でも、嫌なんだ。もう、誰にも君を渡したくない」


——いつか誰かに奪われてしまうなら、いっそ、僕が。


「~~や……っっ」


──やめろ!! と叫び、抵抗しようとしたところで、その声は降った。

 


「そこまでだよーっっ!!」


 目の前に立ちふさがったのは、小夜だった。


「……最低! 無理矢理はダメ!!」


 後ろで、夏夜がおろおろとしている。

 その時はじめて、かっ、と羞恥しゅうちが走った。 



「もう、いいだろ……」


 オレは輝馬を押しのけると、涙目でにらみつけた。


「……小夏」


「オレのことはもう、ほっておいてくれ」


 オレはもう、振り返らなかった。


「……小夏!!」


 小夜の、焦ったような声が背中に刺さるが、振り切るように走る。

 頭がぐちゃぐちゃで、もう、なにも考えたくなかった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・



「……小夏!!」



 走り去る小夏を、夏夜がててっ、と追いかけてゆく。

 だが、ぴたり、と止まると、振り向いた。


 ぞっとした。

 こちらをみつめる夏夜の瞳は冷たく、奈落ならくのようにがらんどうだった。


 僕は、乾いた喉で、唾を飲み込んだ。

 夏夜もまた、もう振り向かなかった。小夏を追いかけ、小さくなっていく。


 僕は、ずるずるとからだを折り、息を吐いた。


 こんなつもりじゃなかった。もっと、我慢できるはずだった。

 でも、気づいたら、押し込めていた本音が口をついていた。


 あの薬のせいか、と僕は<ヘヴンズドア>の残りを握りしめた。

 副作用については知られていなかったが、欲望を抑えられなかったのも、僕らしくなかった。


 去る直前、小夏は、泣いていた。

……泣かせたのは、僕だ。


 やけくそになって、残りの薬を全部あおると、小夜が悲鳴をあげた。


「輝馬!! だめ……!!」


 意識が混濁こんだくし、僕は、崩れ落ちた。




 ///////////////////////////////////////////////////////




 “Play” ~プレイ~

【名詞】

【不可算名詞】 (勉強の対比としての子供などの)遊び; 遊戯 (⇔work).


【不可算名詞】 [具体的には 【可算名詞】] 戯れ,冗談.

【可算名詞】 [単数形で] 〔光などの〕(軽快な)動き,ちらつき,ゆらぎ 〔of〕.



【可算名詞】

 劇,戯曲,脚本.

 芝居,演劇


 “Friendship” ~フレンドシップ~


【名詞】友情,友愛.


 “End of the Play Friendship”

 ~エンド・オブ・ザ・プレイ・フレンドシップ~


「友情ごっこの終わり」

「友情の芝居の終わり」


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