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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
39/60

第34話 -幸福の獣- “The Beautiful Beast”

 

挿絵(By みてみん)



 祈音きおんの姿が消え、目の前に、大きな獣が現れた時は、驚いた。


 りゅうの顔、鹿しかからだ、牛のような尾と、馬のひづめ


 白檀のようにかぐわしい、薫風くんぷうにたなびく、背中の毛は虹色にじいろで、散りばめられた金粉のごとく、しゃらしゃらと輝いていた。


「ただいま」


 そいつは、歌うようにしゃべると、石となった輝馬に歩み寄り、そのひづめで触れた。

 金貨色の光がほとばしり、輝馬の躰から、さらさらと砂が落ちた。


「もう平気」


 その声に、聞き覚えがあった。

 凛音りんね祈音きおんの声を足して割ったら、きっとこんな感じだ。


「お前……?」


「小夏。改めまして。僕は祈凛きりん。君たちを助けに来た、騎士<ナイト>だよ。さあ、さっさと、小夜と乙姫を助けよう。今の僕らには、それだけの権限がある」


「キリン……?」


 首を傾げていると、キリンは、仁王におうの前に立った。


「おい……!」


「小夜をこちらに呼んで。できれば、復元しておいて」


 仁王がこくりとうなずき、剣を重ね、金色の風を巻き起こし、砂嵐を作った。


 オレは目を閉じたが、風がやむと、石となった小夜がそこにいた。

 キリンは、小夜の額に口づけた。


 小夜の躰から、さらさら、と砂が零れ落ちる。


「小夜。眠るには、まだ早いよ」


 小夜のまぶたが、ぴくり、と動く。

 やがて、「ん……」と身じろぎをして、その掌が、キリンの顔に触れた。


 目の前に飛び込んできたであろう、龍の顔に、小夜は「……っ!??」と言って、再び気を失いかけた。


「ごめんごめん、僕だよ僕」


 キリンは人の形に化けた。


 それは、祈音に似ていた。

 違うのは、髪が金色をしていて、そして、その瞳が凛音のように、凛とした涼しげな目であったこと。


「きおん……?」


 小夜は、目をこすった。


「違うよ。僕は祈凛きりん。でも、間違ってはいないかな」


 祈凛きりんは、説明する気がないらしく、教会の壁に飛び込み、穴をあけた。

――その先は、海だった。


 そして、まっすぐに、海に飛び込んだ。


 だが、ご都合主義は、ここまでだった。

……乙姫はいなかった。どこにも。


 祈凛は舌打ちをした。


「どうやら、仮面の男に先を越された。ちんたらしてる場合じゃなかったね」


 この日、オレ達は、幸福をもたらす獣に出会った。

 乙姫さえ救出できれば、総員で仮面の男に立ち向かえる。


 つまりは、楽勝。そんなムードになっていた。


 オレは知らなかった。

 このなかにひとり、裏切者がいる。


 やつは、このゲームを、予定通り進めていた。

 度重なるラッキーも、レベルアップも、すべて、計算通り。


 今後、オレ達の結束は、バラバラになり、そしてオレは、永遠だと思っていた友情の終わりを知る。


 絆、とか。愛、とか。

 オレの信じていたものは、粉々になる。


 オレは知るべきだった。

 綺麗でしかないものなんて、この世にはない。


 あるとしたら、それは、嘘っぱちだ。


――さて、裏切者は誰だ?



 /////////////////////////////////////////////////


 “The Beautiful Beast” ~ザ・ビューティフル・ビースト~

「美しい獣」


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