表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
36/60

第31話 -迷子の小鳥- “Nightingale of the crybaby”

挿絵(By みてみん)


「なにが、神様だ。なにが、マリアだ。てめーはただのクソガキだ。好きなやつに振られて、勝手に傷ついていじけてる幼児だ。なんでわかんねーかな。お前は、愛したいんじゃない。愛されたかったんだよ」


「お前、誰?」


「俺様は、竜宮の使いだ。お前を、迎えに来た」


 凛音りんねは、目の前の美しい男を、もう一度ながめ、ああ、そんな男がいたな、と思った。

 いや、そのからだの曲線は、女のものだ。というか、よくみれば、明らかに美女だ。


 そういえば、両性だと言っていた気がする。


「凛音に、なにかよう?」


 こてんと首を傾げるが、その瞳は、まっくらにみえたかもしれない。


「ちょっと、思うところがあってな。お前は祈音を好きだといったな。それは、異性への好きか?」


 凛音は、黙った。異性だの、なんだの、どうでもいい。

 ただ、凛音は。


「祈音を、とられたくない……っ、小夜になんか、笑いかけないで……っ」


「じゃあお前、祈音の子を産めるか」


「なに、言って……」


 祈音と凛音は、双子の兄妹だ。そんなの、不可能だ。


「祈音とセックスできるかって聞いてる」


「ぼくは……」


「そのぼくっていうの、母親の真似だろ」


 見透かされて、ひゅっ、と息をのんだ。


「お前は、人の真似をして、人になったつもりでいる。恋愛ごっこをして、いっちょまえの女になったつもりでいる。でも俺様からみればそれは、ままごとだ」


「乙姫にはわからない……」



「じゃあ、誰なら、お前の気持ちがわかるんだよ」


 乙姫は、怒ったように言った。


「お前の代わりなんていない。お前と同じ人間なんていない。お前と似た経験はできても、それは、お前じゃない。お前の気持ちはだれにもわからない。お前にしか」


 乙姫は、言い含めるように言った。


「お前は、なにがしたい? 小夜が死んで満足か? 祈音が眠り姫で満足か? もうわかってるだろ。仮面の男の策略にはまったのは、祈音じゃない、お前だ」


 ああ。そうだ。その通りだ。

 小夜が、憎らしかった。消えてしまえばよかった。


 小夜に笑いかける祈音を、みたくなかった。

 祈音の手で、小夜を消してほしかった。


 凛音はずるくて、悪女で、凛音こそが、悪魔だった。


「…………っ」


 凛音の視界が、ぐちゃぐちゃになった。


「凛音。お前は、マリアなんかじゃない。神様でもない。ただの乳臭いクソガキだ。間違えていい。泣いていい。でも、自分のしたケジメは、ちゃんとつけろ。俺様が、身代わりになるから」


 乙姫は、そういって。凛音を抱きしめた。


 甘いにおいが、鼻孔びこうを満たす。

 柔らかい躰は、もうずいぶんと触れていない、ママの感触に似ていた。


「うん」


 乙姫は、凛音の額に口づけた。

 吸収<ドレイン>の逆。贈与<サクリファイス>だ。


 乙姫は、きっと、凛音に期待している。

 小夜と輝馬を助けるために、自分のすべてのエナジーを注いだんだ。


 乙姫の躰から力が抜け落ち、大きなまゆとなった。


 うん。凛音は、ひどい。

 人を踏み台にして、罪を償おうとしている。


 だけど、それが、凛音という、ただの性悪の正体なのだ。


 凛音は、泣きじゃくりながら、海面へと浮かんだ。

 まゆとなった乙姫を残して、ひとり、祈音のいる世界へ。


 悩みも煩悶はんもんも、なくなったわけじゃない。

 そんな都合よく、できていない。


 凛音は聖女にはなれないし、凛音の恋は叶わない。


 でも、こうして命ごとたくされてなお、すべきことをすべて投げ出して、うじうじと悩んでいられるほど、凛音は卑怯者ではいたくなかった。


 凛音はきっと今日、失恋するだろう。そして、嘘つきの凛音は糾弾され、嫌われるだろう。


 それでも、それがむくいだ、と凛音は思った。


 人は罪を犯す。凛音は人だ。

 天女様も、マリア様も、すべて返上しよう。


 凛音は今日、ただの少女になるのだ。


 

 ////////////////////////////////////////


 “Nightingale of the crybaby” 

「泣き虫のナイチンゲール」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ