表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
34/60

第29話 ‐偽りの聖母‐ “Maria of the Hatred”  


 

挿絵(By みてみん)



 少女は、生まれながらに、ありとあらゆる輪廻転生りんねてんせいについて、我がことのように知っていた。


 全知全能、ではない。だが、慈悲じひにあふれた、美しい少女。


 人々は、彼女をあがめた。

 時には、母である、花蓮宗かれんしゅう師範代しはんだい、リンドウよりも。


 凛音りんねは、生まれながらの天女だった。


 溢れる愛で、人々を癒す、聖女<マリア>だった。

 そう、凛音は「導く者」だった。


 その代り、凛音を導く者はいなかった。

 なぜなら、凛音こそが、「神」だったからだ。


 凛音のちいさな躰に、その高度な精神は入りきらなかった。

 凛音は必要なぶんだけ、自分の魂を人の器におさめた。



 凛音は、母の真似をした。

 人間のふるまいを、母から学んだ。


 凛音は、時々考える。


 母なる神、花蓮様の従者であったははと、スサノオの末裔ちちの縁を結んだのはよかった。

 だが、なんで自分は、神の身を捨て、誓約ばかりの人の子に生まれたのだろう。


 凛音は、人の食べるものを食べ、飲んで、吸って、すっかりけがれてしまった。

 もう凛音は、神には戻れないだろう。


 そして、ゆっくりと降り積もった煩悶はんもんは、ある時、地に堕ちる。

 自分のかたわれ、祈音きおんが恋に落ちた。


 祈音は、神である、凛音の魂を割ってできた、おまけだ。

 でも凛音は祈音を愛していたし、祈音も凛音を大切にした。


 まるで恋人のように。

 人間ごっこをするうちに、凛音は不思議な気持ちになった。


 祈音に触れられるたび、凛音の心臓がはねる。

 祈音にキスされると、凛音は恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになる。


 ふたりで小夏をからかうのも、楽しかった。


 小夏をみていると、まるで自分の愛しい孫をみているような気分になった。

 大切にして、愛でて、いいこいいこしたい。


 それは、神の慈愛とはまた違うものだった。


 それでも、祈音は恋をした。

 悪魔の娘に。


 凛音は、自分の腹が、どす黒くなっていくのを感じた。

 きらい、という言葉が口をついた。


——祈音なんて、死んでしまえばいい。


 ひとりで、膝を抱えて泣いた。

 こんなみじめな気持ちは、はじめてだった。


 それでも、凛音は、腐っても元・神様だ。そんな感情を、みせてはならない。


 凛音は、今まで通りにふるまった。

 祈音が、小夜にちょっかいを出していても、聖母のごとく微笑んだ。


 ゆっくりと、心が腐り落ちていく音がした。


 今、凛音は、呪いと恨みで、からっぽの腹を満たしている。

 もう人の子のまねごとなど、こりごりだったし、祈音がどうなろうが、どうでもよかった。


 声が聞こえたのは、その時だった。


「甘えてんじゃねーよ」


「…………?」


 凛音は、目を開けた。


「なにが、神様だ。なにが、マリアだ。てめーはただのクソガキだ。好きなやつにフられて、勝手に傷ついていじけてる幼児だ。なんでわかんねーかな。お前は、愛したいんじゃない。愛されたかったんだよ」


「お前、誰?」


 凛音は、ぼんやりと声の主をながめた。

 なにか忘れている気がしたが、それは美しい人だった。


「俺様は、竜宮の使いだ。お前を、迎えに来た」



 /////////////////////////////


 “Maria” ~マリア~


「マリア」(女性名)

 またはmareの複数形

【天文】 (月・火星の)海 《表面の暗黒部分》.

【語源】ラテン語「海」の意

 “Hatred” ~ヘイトレッド~

  (嫌悪(けんお)怨恨(えんこん)などによる)憎しみ,憎悪; 大嫌い


 “Maria of the Hatred” 


「憎しみの聖母マリア

「怨恨(嫌悪、憎しみ)の暗黒の海」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ