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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
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第27話 ‐狂騒の紡ぎ手‐ “the Death Feast” 【後編】

挿絵(By みてみん)

 敵はどうやらこちらの作戦会議が終わるまで、律儀りちぎに待ってくれていたらしい。


 話が終わると同時に、燕尾服えんびふくを着た、両手ナイフの骸骨がいこつが、うじゃうじゃ現れ、襲ってきた。


 耐性が一番強い乙姫が、蝙蝠こうもりの翼を広げ、演奏者のもとへ飛び込む。


 両手ナイフが、キイキイいいながら切り付けてくるが、追走しながら飛ぶ小夜が、夜の加護<ナイト・ギフト>によって、黒い羽を散らし、自分を護りつつ、母なる闇<マザー・ダーク>で、乙姫にむらがる両手ナイフどもを蹴散らす。


 後少しで、演奏者に肉薄する。そこで、煌々が叫んだ。


「……第二弾が来るぞ!! ――総員そういん防御ぼうぎょ!!」


 輝馬が張った蜘蛛の糸が、全員の耳にすべりこむ。


 ぎいいいいいいいん……とてつもなく不快な音が、ふさがれた耳から入り込み、全身を揺さぶる。

 だが、増幅魔術とやらのおかげか、オレは気を失わずにすんだ。


 すさまじい音圧に押され、乙姫が地面に叩き付けられる。


「乙姫!!」


 オレは、業火をいて、乙姫に喰らいつこうとした、骸骨どもを燃やし尽くした。

 小夜は、夜の加護<ナイト・ギフト>でもちこたえたようだが、ふらふらとしており、とうとう、墜落した。


「僕が……」


 輝馬の敷いた蜘蛛の糸が、そのちいさなからだを受け止め、同時に、周囲の骸骨の何匹かを、捕食<イート>した。


「乙姫、大丈夫か!?」


 駆け寄って、安否あんぴを確かめる。


「ああ……」


 乙姫はなんとか体を起こすが、全身傷だらけで、翼の片方が折れていた。


「……防戦一方かよ……」


 なにが作戦だ、ズタボロじゃねえか、とオレはいきどおった。


 乙姫は、血を吐きながら口を開いた。


「……どうせ、皆、お前の指示にしか従わねえんだ……死ぬときは一緒だろ……?」


「……何言って……」


 そこで、はじめて気づいた。こいつ、頭を打ってる。


 乙姫の額からは、少なくない量の血が流れていた。


こう!! 治療を……!!」


 皇の返事がない。

 みると、ぐったりしており、荒い息をしていた。


 雷の防御壁を展開していたはずの、雷耶も反応がない。


「――小夜は……!」


「小夜は、戦えるよ……!」


 体を起こし、立ち上がった小夜だが、明らかに、消耗しょうもうしている。


 当然だ。

 非常時発動型の防御スキル、夜の加護<ナイト・ギフト>があるとはいえ、あんな至近距離で直接喰らったのだ。無事なはずがない。


「輝馬……っっ」


 すがるような気持ちで、オレは悪友の名を呼んだ。


「……どうやら、戦える状態なのは、僕と小夏だけのようだね。小夏、できる?」


「――できるとかできないとか……!!」


 そういう問題じゃねえだろ!! とオレは叫ぶが、輝馬は、もう一度、今度はゆっくりといった。


「……できる?」


「…………っっ」


 そこで、はじめてわかった。


 この状況で、怒ったりわめいたりしているのは、オレだけだ。

 みんな、敵の圧倒的な猛威もういひるみ、おびえている。


 ようやく、わかった。


 輝馬は、きっと、オレの口から聞きたいのだ。

――「その言葉」を。


「……やる!! ――ぜってえ、あのヘタクソ演奏者をぶちのめす!! ――輝馬、防御は任せた!!」


「そうこなくっちゃね」


 輝馬は、ニヒルに笑うと、破けかけていた蜘蛛くもの糸を張りなおした。


 言葉はなくとも、互いにすべきことはわかっていた。

 輝馬は、敵全員を覆う糸を展開した。


 このまま、捕食<イート>?



 いや、その前に、第三弾が来る。

 オレは、目を見開いた。


 燃やすだけしか、能がない?


……ああ、そうだよ。オレにはこれしかない。


――でも、それで十分だ。


 オレは、輝馬の糸に火をつけた。


 演奏者とその子分どもが、一気に燃え上がる。

 蜘蛛くもの糸とそこから流し込まれた毒で、動きがにぶくなっていた演奏者は、一瞬、首をかしげた。


「燃やし尽くせ――、煉獄の火炎牢獄<フレイム・オブ・タルタロス>!!」


 その声に呼応するかのように、煉獄の炎をまとった番犬たちが、炎上する糸を引き裂くように生まれ、演奏者の喉笛のどぶえに食らいついた。


 演奏者は、もはやただのえさだった。

 骨ひとつ残さず、喰らいつくした犬たちは、オレの目の前まで駆けてくると、首を垂れた。


「よくやった」


 飼い主になった気分で、頭をなでてやると、グルルウ、と一鳴きし、犬たちは、オレのからだに戻っていった。


「すげえ……」


 気を失っていたらしい皇が、感嘆の声を上げたが、どの辺から起きてたんだよ。


「小夏、ナイスジョブ」


 輝馬が、オレの手に、拳を当てた。


「――おう」


 オレもまた、笑いながら、拳を返した。


 煌々が、「さすがはぼん、やればできる子じゃな」と、しきりにうなずいているが、お前、同い年だろ。


「治療するぞ。とりあえず、回路の麻痺まひが回復してる今のうちに、重傷者から並べ」


 やっと、鬼神の高速自己治癒が追いついたらしい皇が、ひとりひとりの躰に触れながら、水属性の高度治癒神聖魔術、龍神の慈悲<キリエ・ロンシェン>を当てはじめる。


 同じく治癒系の力を持つ凛音を最初に治したので、凛音も総員の回復に加わった。


 ふたりとも、やばいぐらいハードワークだが、頑張ってもらうしかなかった。


「……わりいな。全部終わったら、メシ奢るから」


 オレは、全員の治療を終え、ぐったりした皇の肩を叩いた。


「割にあわねえ仕事だな。アイスもつけろよ」


 皇は、軽口をたたきながら、寝そべった。


「皇子のくせに、安上がりだな」


 雷耶がにやりと笑った。


「……うっせえよ」


 皇は、けらけらと笑っている。


「お前も、さすがだな。花蓮宗の聖女だけあるよな」


 ちいさな頭をなでると、くすぐったそうに、凛音は笑った。


「それにしても、黒幕に達する前にここまで苦戦すると、後がないの。一刻も早く、祈音を救出せんとな」


 緊張が解けたのだろう、煌々が、脱力しながら言った。


「ああ」


 祈音の戦闘力は、中等部序列二位の輝馬に相当そうとうする。

 タチの悪いクソガキだが、戦力としては心強いだろう。


 まもなく、扉があいた。


「次に出るのは、鬼か龍か……」


 煌々が、苦い顔で振り向いた。


「――案外、祈音自身じゃったりしてな」






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 “Death” ~デス~

【不可算名詞】 [具体的には 【可算名詞】] 死,死亡; 死に方,死にざま.

【可算名詞】 死亡(事例).

【不可算名詞】 死んだ状態.

[the death] 〔…の〕死因,命取り 〔of〕.


[D] 死に神

 《★【解説】 通例手に大がま (scythe) を持った黒服 (black cloak) を着た骸骨(がいこつ) (skeleton) で表わされる》.



[the death] 〔事物などの〕破滅,終わり 〔of〕

 “Feast” ~フィースト~

(豪華な)宴会,饗宴(きようえん).

(手の込んだ)ご馳走ちそう

 〔耳目を〕喜ばせるもの,〔…の〕喜び,楽しみ 〔for〕.

 〈人に〉ごちそうする,〈人を〉もてなす.


【語源】ラテン語「祝祭」の意;


 “the Death Feast”

 ~ザ・デス・フィースト~


「死神の宴」

「死をもたらすご馳走」


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