表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第4章 ((desire is Sin. )) ……それは、赦されぬ願い。
31/60

第26話 ‐狂騒の紡ぎ手‐ “the Death Feast” 【前編】 



挿絵(By みてみん)


 扉の向こうは、地獄だった。


 恐らく、音楽ホールだったのだろう。

 1000はくだらないだろう、いくつもの座席が用意されていた。


 だが、問題はそこではない。

 座席に座っていたのは、人間の死体だった。


 みな、ひしゃげたようにからだがねじれていたり、臓物ぞうもつ脳漿のうしょうをまき散らし、こと切れている。


 そのホールの中央に、指揮者しきしゃがいた。

 犬の骸骨がいこつの頭、人間の腕の先は指揮棒に変化しており、胴体は巨大なパイプオルガンだった。


 指揮者が、こちらを向く。

 にたり、とオレをみて、笑ったような気がした。


「――狂騒の紡ぎ手<テンペスタ・デル・マエストロ>じゃ! ――全員、耳をふさげ……!!」


 煌々(きらら)が、狐火でオレと己を包みながら、叫んだ。


 すぐに反応したのは、輝馬こうま小夜さよ、次に、雷耶らいやだった。


 体を引きちぎるかのような、すさまじい轟音に、ないはずの心臓が暴れまわり、気が狂いそうになる。

 血液という、血液が沸騰ふっとうし、胃液が逆流し、臓器ごと、口から出そうになる。


……やがて、永遠にも似た苦痛を経て、演奏が止まった。


 狐火に守られたオレや煌々はともかく、ほかのメンバーは。


「――夏夜なつや!!」


 夏夜が、骨にうずもれるようにして、倒れていた。



「これ、小夏!!」


 煌々(きらら)が叫ぶが、オレは聞いていなかった。


「夏夜!! ――おい!!」


 がくがくと揺さぶるが、夏夜の反応はない。

 真っ青になって、口元に耳を当てると、かすかに息があった。


「ハイレベルクラスの神の恩寵<ヘブンズ・ラック>。夏夜でなければ死んでいたぞ」


 煌々が、しぶい顔で言う。


「そんな……こう!!」


 治癒魔法の使い手である、皇なら。


 だが、水の護りでしのいでいたであろう皇は、立っているのがやっと、といった風だった。


「……わりい。神聖魔術貯蓄回路<マナ・プール>がやられた。自己治癒すら、しばらくできそうにねえ。おそらく。自分を護るので精いっぱいだ。とても、サポートできそうにねえ」


「……小乙女さおとめのやつもダウンしてやがる。夏夜同様、幸運値<ラック>の高いこいつでなかったら、即死だったな」


 雷耶らいやが、よろめきながら言う。


 凛音りんねは、目を閉じたまま、動かない。

 恐らく、瞑想<チャネリング>しているのだろう、と思いたいが、気を失っているようにもみえる。



「……た……戦えるやつは……」


 オレは、頭が真っ白になった。

 震える声で、輝馬を振り返る。


「僕がやろう」


 蜘蛛くもの糸で両耳をふさいでいたらしい、輝馬は、すがるようなオレの視線を受け止め、深くうなずいた。


「でも……お前だって……」


 輝馬の顔は、死体のように青ざめていた。


「……僕は平気だ。鬼蜘蛛おにぐもは、魔属性の神経毒を体内に有するがゆえ、浸食<ハック>系の技に耐性たいせいがある。どこまで持ちこたえられるかは不明だが、できるところまではやるよ」


――煌々も、妖力は温存して、自分と小夏を護って。


 そう言って、輝馬は、ふらりと立ち上がった。


「――だったら、俺様が切り込む。やつのレベルからして、魅惑<ポイズン>は聞かねえだろうが、物理的に叩きのめせばいい」


 乙姫が、なんてことない風に言った。


「お前、具合悪いんじゃ……」


 無理すんな、とオレは言うが、乙姫は、いらいらしたようにこう言った。


「――バカ。ここで全滅したら、元も子もねえだろ。それに、魔神と鬼の力を宿した俺の肉体は、生まれつき、人より異形よりだ。いわば、煌々の先祖返りにちけえ。このメンバーでこのバケモノに一番耐性があるのは、俺様だ」


「小夜も、戦えるよ。夜の加護<ナイト・ギフト>は小夜しか護らないけど、魔属性の力をある程度無効化できる。サポートは任せて」


 小夜も、力強くうなずいた。


「われは、物理攻撃を受ければ、小夏とわれを護る狐火をたやすことになる。知力でしか貢献できないが、よいか」


 炎属性のオレと、煌々の狐火は、相性がいいが、水属性の皇には使えないし、雷属性の雷耶には、エナジーを倍使ったところで、半分の効力しかない。


 オレと自分の防御に専念し、ブレイン・サポートでがんばってもらうしかないようだった。


「――雷耶は」


「わりい。戦いたいのはやまやまだが、おそらく、倒れた小乙女と自分を守るのが精々といったところだ。一度目は雷神の息吹<ゴッド・ブレス>で反射させ、ある程度しのげたが、ここからは、雷の防御壁<サンダー・ウオール>で防戦するのがやっとだ。お前らのサポートは、期待しないでくれ」


「……くそっ、オレが強ければ……っっ」


 悔しさに思わず、拳を握りしめると、煌々はこう言った。


「お主が弱いのではない。彼奴きゃつが強すぎるのじゃ。あの化け物、今までの敵とは比べ物にならん。おそらく、退避は不可能じゃろう。強力な結界で閉じ込められておる。あの化け物を倒し、祈音きおんを保護する。小夏にできることは、みんなの士気しきを高めることじゃ。みな、お主の指示を待っておる」


「……なんでだよ……オレは……」


 うつむくオレに、乙姫は、蝙蝠の翼を広げると、こう言った。


「……ああ。このメンバーで、お前が一番よええ。一番、無知で、お荷物だ。でも、俺達はお前を護るために、ここにいる。お前の言うことなら、みな耳を傾けるだろう。たとえ誰が死んでも、誰もお前を責めねえ。お前はただ、己の望むままに、振る舞うだけだ」


「~~っ、ふざけんな!! 死ぬ、だって? ――冗談でも、そんなこというんじゃねえ!!」


 オレは、怒鳴どなった。


「……そうだな。お前は、ひとりとして死なせないだろう。どんな時も、絶対にあきらめない。おそらく、絶望の中で、お前だけが立ち向かう力を持っている。俺達に必要なのは、無謀でバカで、無駄にプライドが高いだけが取り柄のお前だ。―—だから、お前はただ……"自分の正義"を貫け」


「――オレの……正義……?」


 ……そんなの、決まってる。


「……こいつをぶっ殺す!! ――そして全員で、生き残るぞ!!」


 皆、うなずいた。


 からだから、炎が立ちのぼる。

 煉獄れんごくの炎は、オレを中心にぼうぼうと渦巻き、優しく躰を包んでいた、狐火と混じり合った。


「――ハイレベルクラスの増幅魔術<ブースト>……小夏もやればできるのじゃな」


 煌々が、どこか、からかうように微笑んだ


「小夏、指示は?」


 輝馬もまた、笑いながら、首を傾げた。


「ああ。まず、乙姫が……」


 そして、オレ達三人は、円陣を組んだ――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ