第25話‐原罪の乙女‐“Sweet Lips,the Limbs of the Fascination” 【後編】
……どうしよう。とりあえず、どうしよう。
朝目覚めると、オレは全裸だった。
――え? ドッキリ? これ、なんかのドッキリか?
だらだらと汗を流し、隣の美女をみやる。
すうすう寝入っているが、誓って何もなかった。
……と、信じたい。
そこではじめて、冷静になった。
そうだ、オレはまだ、精通してなかった! セーフ!!
なにがセーフなのか不明だが、とりあえず、乙姫を起こす。
「おい、起きろ、説明しろ」
「ん~~?」
乙姫は、あろうことか、抱き付いてきた。
お互い、裸の状態での密着。
――色々あたってんだけど!??
「なんだ、小夏か……昨日はありがとな」
……それ、どういう意味でだ?
「最高だったぜ……ダーリン」
――!!??
……やめろ!! 頼むから、もうやめてくれ!! オレのライフは、とっくにゼロだ!!
固まっていると、乙姫は、くくっと笑って、
「冗談だっての。ちょっとからかってやろうと思って、服脱がせといた。だいじょうぶ、お前は清らかな身だ」と言って、おかしそうに涙を拭いた。
「それ、最初から言えよ!!」
なおもひっついてくる、乙姫を引きはがすと、真っ赤な顔で、怒鳴った。
「まあ、ちょっとイタズラしたけど」
「警察<ポリス>に突き出してやろうか?」
この痴女を、誰か止めてくれ。
くすくす、と笑い続ける乙姫を無視して、服を身に着けていると、「小夏は、かわいーな」と、心底嬉しそうに笑われた。
蜂蜜みたいな、今にもとろけそうな笑顔だ。
……つうか、なんでこいつ、こんなに機嫌いいんだよ。
ドキドキしていると、「続きするか?」と袖をくいくいと引かれたので、「だが断る」と返しておいた。
――この、小悪魔ビッチが!!
オレが服を着終わると、「まあ、俺も、最後までしたことねーけどな」と、乙姫は着物に袖を通した。
「ウソだろ」
ぜってー、男食い放題だぜ、この女。
「マジ。つうか、はじめては、好きな男がいいだろ」
「ふうん」
そんなもんか。意外だな。
つうか、こいつの好きなやつって、誰だ?
「まあ、お子様には、わかんねーかもな」
「いちいち、人の神経、逆なでしてんじゃねーよ」
頭をなでられ、オレは真っ赤になって、振り払った。
「お前の成長が楽しみだぜ」
「――当然だ。ぜってえ男前になって、夏夜をヨメにする」
「無理だな」
「しばくぞ」
確かに、いくら鍛えても、全然、腹筋割れねえけどな!!
涙目で、やたらくっつきたがる乙姫を引きはがしていると、扉があいた。
「あ」
服は着ている。着ているが、オレ達は、乱れたシーツの上でじゃれあっていた。
この図、紛らわしくねえか?
「小夏……」
はじめに輝馬が、ずかずかとやってきて、乙姫を引きはがした。
「……なにやってるの? 朝から」
「……ぷ、プロレスごっこ……?」
――なんかこええけど、なんだ!?
「……へえ。首にキスマークつけて?」
「――マジか!!」
あいつ、なんてことしやがる!!
「――さあて、俺様は、探検でもしてくるか」
乙姫は口笛を吹くと、次の扉を開けた。
「……小夏……」
夏夜が泣きそうな顔をしている。
「――ちがうちがう!! 話聞けって!!」
とりあえず、一同にかいつまんで話すと、「へえ」と輝馬は、無表情で返した。
――? ……なんかすげー怒ってるっぽい?
「とりあえず、乙姫の躰の不調は、闇の力が不安定なためだろうね。彼女の中の、鬼と魔神の力は、食い合わせが悪い。進藤先生の家で、頻繁に検診を受けているようだが、どうやら、異世界という、特殊な環境に身を置いたことが、悪影響を及ぼしたようだね。しばらくは、能力を使わない方がいいだろう」
「マジか」
あいつ、具合悪くすんなら、こっち来なきゃよかったのに。
「――まあ、小夜としては? さっさとくたばれ、って感じだけどね?」
小夜が、ぶっそうな悪態をついている。
猫かぶりどこいった。
それはそれでいいことだが、輝馬といい、なんでこいつら、こんなにキレてんの? 牛乳飲めよ。
「……キスマーク……」
皇が、真っ青な顔で、ぼそっとつぶやくが、だから、なにもねーって言ったろ!!
「とりあえず、僕らも、次の部屋に進もう。彼女が心配だ」
一ミリも心配してなさそうな、平坦な声で言うと、輝馬は、ずかずかと先を歩いた。
「おい、待てって……」
輝馬に続いて、扉を開けて、声を失った。
――そこにあったのは、地獄絵図だった。
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“Sweet” ~スイート~
甘い,砂糖を入れた (⇔bitter,→sour).
〈酒・ぶどう酒が〉甘口の,甘みの強い (⇔dry).
香りのよい.
〈音・声が〉調子のよい,甘美な.
気持ちよい,楽しい,快い.
【叙述的用法の形容詞】 〔+on+(代)名〕《口語》〔人に〕ほれて,〔人が〕好きで.
《口語》 きれいな,かわいらしい,すてきな.
形容詞としての「sweet」のイディオムやフレーズ
[しばしば複数形で] 甘いもの.
《主に英国で用いられる》 砂糖菓子,キャンディー 《ドロップ・ボンボンの類》.
《主に英国で用いられる》 (甘いものが出る)デザート 《食後のプディング・ゼリー・アイスクリームなど》.
[the sweets] 愉快,快楽.
[my sweet で呼び掛けに用いて; しばしば sweetest] 愛する人,いとしい人.
恋人,愛人.
“Lip” ~リップ~
「唇」
“Limb” ~リム~
【名詞】【可算名詞】
(人・動物の胴体・頭部と区別して)肢 《腕・脚・ひれ・翼など; cf. trunk 2a,→head 1a》.
《口語》 いたずらっ子,わんぱく小僧.
“Fascination” ~ファシネイション~
【不可算名詞】 魅惑,うっとりした状態; 魅力.
[a fascination] 魅力のあるもの,魅惑する力.
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“A Sweet Lips,the Limbs of the Fascination”
~スイート・リップス・ザ・リムズ・オブ・ザ・ファシネイション~
「甘い唇、魅惑の肢体」
「可愛らしい唇、魅惑のいたずらっ子」




