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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第3章 ((child is Night.))  ……それは、飢え乾く愛し仔。  
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第23話 ‐祈りの音‐ “God only knows”



挿絵(By みてみん)



「……小夜さよ?」


 小夜の気配が、近くから消えた。

 気づいた僕は、第三の目<サードアイ>で、小夜の波動を観察した。


「どうやら、ややこしいことになってるようだね……」


 ここにはもう用はない、と僕は、洋館の扉に手をかけた。

……開かない。そうくる気がしていたが、やっぱりか。


――閉じ込められた。


 ホラー映画かよっての、と僕はため息をついた。


 無理やり破壊する、という選択肢はない。

 この手の手合いは、黒幕を倒さないと出られないシステムだろう。


早計そうけいだったね。僕としたことが」


 悪態をつきたいのはやまやまだったが、紳士しんしはそんなことをしない。

 とりあえず、奥に進むしかない。


 洋館の調度品は、明らかにあべこべだった。


 シャンデリアがあると思えば、ピアノではなくキーボードが転がっていたり、豪華な薔薇ばらの彫刻の鏡に落書きがしてあったり。


 仮面の男の趣味だろうか。


「うえっ、頭おかしいんじゃないの……」


 精神的にイカレた、人格破たん者をイメージしながら、血のような絨毯じゅうたんを踏みしめ、らせん階段をのぼっていく。


 どうやら、ここが寝室のようだ。

 キングサイズの、ふかふかベッド。


 僕は、ぼふん! と横たわった。

 疲れたし、だいたい、わななら、どんとこいだ。


 睡魔がやってきたときには、さすがにまずい、と思ったが、

 抗うにはあまりに気持ちいい誘惑で、僕はずるずる、と暗闇に落ちていった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 僕は、生まれながらに、この世について悟っていた。


 妹の凛音りんねが、生まれては死にゆく神の仔羊たちを見守る、輪廻転生りんねてんせいの観察者であったように。

 僕、祈音きおんもまた、人の願いを知る第六感を、生まれながらにしてもっていた。


 たとえばパパは、昔、愛されたがりの子供で、人を傷つけ、支配することで、自分は尊重されるべき人間だと思い込もうとしていた。

 ママは、愛することを義務だと思っており、自分をないがしろにすることで、人から必要とされたがっていた。


 まさに、飢え乾く病人同士だった。


 そんなふたりは、でこぼこな互いの欠乏けつぼうを重ねあうことで、支えあい、ひとつのかたちになった。


 凛音は、はらに宿る前から、千年前にはじまった、ふたりのえにしを、パパの先祖せんぞを呼んでまで、結ぼうとしていたし、僕もまた、ふたりの願いを聞き届け、その歌を共鳴させることで、ふたりの望みを重ね合わせてきた。


 そんな僕にとって、小夜もまた、迷える子羊だった。

 彼女はおおよそ欠けていたし、欲しがっていたし、泣いていた。


 手を差し伸べるのは、たやすかった。

 でも、僕はそうしなかった。


 それは、僕の役目ではない。

 彼女を救うのは、赤の他人の僕ではなく、彼女がほしかった家族の、だいすきな兄でしかないのだと。


 僕は小夏が憎らしかったが、同時に、愛しかった。

 小夏は、きっと小夜を救う。


 小夜を、幸せにする。


 小夏は、小夜の救世主だ。

 そして、最強最悪のライバルなのだ。


 お前の望みを叶えてあげる、と囁くものがあったが、僕はいな、と言った。


 願いは、自ら成就じょうじゅさせるものだ。


 心の闇に付け込もうとしても、無駄なんだよ。


――天津教主あまつきょうしゅ候補様、なめんな。




 //////////////////////////////////////////




 “God only knows” ~ゴッド・オンリー・ノウズ~

「神のみぞ知る」


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