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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第3章 ((child is Night.))  ……それは、飢え乾く愛し仔。  
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第20話 -奈落の鬼蜘蛛- “ba‘alu of the abyss”


挿絵(By みてみん)



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「――邪魔者は、始末しないとな……」


 そう言った小夏の瞳は、奈落のようにがらんどうだった。


「兄上……!」


 煌々(きらら)が慌てて、割って入ろうとするが、僕は、腕で制した。


「――いい。これは、僕と小夜の闘いだ。君はみていてくれ」


「へえ。ずいぶん、自信があるんだ? じゃあ、小夜が遊んであげようかな。せっかくだし、魅惑<ポイズン>は使わないであげる」


 小夜は、けたけたと笑っている。

 いずれ、こうなる日がくるとは思っていたが。


(……まさか、命がけで戦うことになるなんてね)


 僕は、蜘蛛くもの糸を展開した。

 もとより、これ以外に戦うすべがない。


「索敵<サーチ>。――戦闘開始<デュエル・スタート>」


 気持ちを切り替え、あえて声にだし、気を引き締めた。


 相手は、小夏の妹だ。

 だが、出し惜しみをしたら、確実に、られる。


――罠<トラップ>。


 幾重いくえにも広がった蜘蛛の糸は、小夜を、たやすくからめとった。

 粘着性の糸。だが、これは、ただ、体の自由を奪うだけじゃない。


 遅行性の毒、麻酔剤だ。


「うざい」


 小夜が、母なる闇<マザー・ダーク>で糸をひきちぎる。

 だが、動きは確実に、緩慢かんまんになった。


「無限の仔<インフィニティ>」


 蜘蛛の子らが、わらわらと小夜にむらがる。


 小夜は、母なる闇<マザー・ダーク>で蹴散らすが、蜘蛛の子は無限に増殖し続ける。


 小夜は、闇の腕<マザーダーク>をしまうと、黒い翼を展開し、僕の背後へ飛んだ。

 振り向くと同時に、腕をつかまれ、息をのんだ。


「輝馬。お前は本当に、うっとおしい。小夏の悪友? 幼馴染おさななじみ? そんな言い訳でごまかしてる、ただの大ウソつき。お前にとって小夏は何? いつまで演技を続けるつもり?」


「君には、関係ない」


 引きはがそうとして、腕が動かないことに気づいた。

 手首から向こうの感覚がない。


 指先から、肌が真っ黒に染まっていく。


「…………っ」


 慌てて手を引くが、当然、阻止そしされた。


 今度は、首をつかまれる。


「ねえ、友達ごっこ、楽しい? そうこうしているうちに小夏は、みんなに好かれて、輝馬は、ひとりぼっち。そのうち小夏は、誰かのものになる。そうしてはじめて、お前は本当の絶望を知るんだよ」


 ぎりぎり、と喉を締め上げられ、手足の感覚がなくなっていく。


 おとなしく見守っていた煌々(きらら)や皇、小乙女、雷耶らいやが動こうとするが、夜の帳<セイント・ナイト>で完璧に遮断された。


「それでも……」


 僕は、痛みと苦しみにあえぎながら、声なき声を絞り出した。


 ――小夏は、僕が護る……!!


 わずかな力を振り絞り、糸の最後の一本を、小夏の背中に突き刺す。

 背骨に通った龍脈りゅうみゃくに、蜘蛛の毒を流し込む。


 ――魅惑<ポイズン>は、毒<ポイズン>で中和する!


 たとえ僕が死んでも、小夏だけは助ける。

 人形のように言いなりになる小夏は、もう二度と、みたくなかった。


「……――こうま……?」


 小夏の声を最後に、僕の意識はブラックアウトした。





 //////////////////////////////////////////////////////////////////




 abyss ~アビス~


 深いふち、底の知れない深い穴、深い底、混沌(こんとん)、地獄、奈落の底


 ba‘alu…バアル(バールとも)


 地獄の大公爵。

 旧約聖書に登場する異教の神(=悪魔)。


 “ba‘alu of the abyss” ~バアル・オブ・ジ・アビス~

「奈落のバアル(バール)」



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【バアル(バール)について】



 後に悪魔学で重要視され、ソロモン72柱の序列一番として数えられた。

 19世紀に出版されたオカルト本『地獄の辞典』の挿絵である、「ネコ、王冠を被った人間、カエルの頭をもった蜘蛛」の姿が一般によく知られる。


「ゾハール」ではラファエルと同一視され、「大奥義書」ではルキフゲ・ロフォカレ(ルキフグス)の配下の精霊として名を挙げられ、ヨハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」では地獄の第一の王と呼ばれている。

 

 そして「ゴエティア」では東方に領土を持つ66の軍団の長たる大悪魔として記され、彼に祈るものは奸計の才を手に入れ、必要に応じて変身・透明になる能力を授けられる。


 また、戦闘にも長け、法律関係の知識にも精通している。

 


 もともとは、カナン地域を中心に各所で崇められた、「嵐と慈雨の神」が堕ちた姿。

 その名はセム語で「主」を意味していた。


 本来、カナン人の高位の神だったが、その信仰は周辺に広まり、旧約聖書の列王記下などにもその名がある。

 慈雨によって実りをもたらし、命を養う糧を与える神である。


 バアルは旧約聖書の著者達から嫌われており、もともと「バアル・ゼブル」(崇高なるバアル)と呼ばれていたのを「バアル・ゼブブ」(蝿のバアル)と呼んで嘲笑した。


 この呼称が定着し、後世にはベールゼブブと呼ばれる悪魔の1柱に位置づけられている。


 士師記にも記述が見られ、バアルの祭壇を破壊した士師ギデオンはエルバアル(バアルは自ら争う)と呼ばれた[2]。


 新約聖書ではイエス・キリストが悪霊のかしらベルゼブルの力を借りて悪霊を追い払っているとの嫌疑をかけられている。


 聖書においては異教(他国)の神々は否定的に描かれていることが多い。


 また、人身供犠を求める偶像神として否定的に描かれ、アブラハムの宗教に対する「異教の男神」一般を広く指す普通名詞としてバアルの名が使われる場合もある。


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