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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第3章 ((child is Night.))  ……それは、飢え乾く愛し仔。  
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第19話 ‐魅惑の繰り手‐ “Sugared Charm Named the Poison”

挿絵(By みてみん)


 輝馬こうまが目覚め、これで小夜さよ祈音きおんを除く全員が揃った。

 喜ぶオレたちだったが、凛音りんねは、難しい顔をしていた。


「小夜おねえちゃんの波動が、変わった」


「小夜が?」


 オレは、小首を傾げた。

 どういうことだ、とたずねようとした瞬間、洞窟の外から、びゅうっ、と風が吹いてきた。


――深い夜が、這入はいってきた。

 誰もが、そう思った。


……すたん。軽やかな足が、舞い降りる。

 雨に濡れたからすのような、つややかな漆黒しっこくの翼。

 悪魔を思わせる、とがったしっぽ。


 そこにいたのは、まるで、別人のような少女だった。


「……小夜……?」


 歩み寄り、その姿をしげしげとみつめる。


――? 小夜って、こんなんだったか……?


 怪しく輝く、紫水晶アメジストの瞳。

 艶やかに濡れそぼる、薔薇石ルビーの唇。


 その白磁のような躰は、ところどころ、薄紅色に染まり、まるで、熟れた果実のようだった。


――どくん、とないはずの心臓が音を立てた。


 そのしっとりした髪に触れたい。柔らかそうな頬に口づけたい。

 飢え乾くような衝動は収まらず、オレは吸い寄せられるように、小夜に近づいた。


「……魅了<チャーム>……?!」


 夏夜が、なにか叫んでいる。


「――小夏、小夜の目をみないで!!」


 夏夜が、オレの目をふさいだ。


「おにいちゃん、邪魔」


 小夜の声が聞こえ、同時に、ざあっ、と風が吹き、夏夜が押し流された。


 小夜の瞳が、飛び込んでくる。

 紫だったそれは今では、赤い赤い生贄の血液……高貴なる「女王紅玉<クイーン・ブラッド>」だ。


 再び、心臓が高鳴り、気づけば、小夜を抱きしめていた。


「……魅了じゃない! ――魅惑<ポイズン>だ!!」


 こうが、割って入ろうとするが、小夜の瞳をまともにみて、へなり、と膝を折った。


 魅惑<ポイズン>。

 確か、魅了<チャーム>の上位系で、相手を骨抜きにし、いいなりにする、闇属性の使役術だ。


 よくわからないが、この腕のなかに、小夜がいる。

 それだけで胸がいっぱいで、頭がぼんやりとし、からだが甘くしびれていく。


「~~小夏……っっ」


 夏夜が、こちらに向かって、手を伸ばす。

 だがオレは、その手を払った。


「……触んじゃねえ。……小夜とオレの、邪魔をするな……!!」


 夏夜の顔が歪んで、両目からぽろぽろ、としずくがこぼれおちた。

 なにも思わないわけじゃないが、どこか現実味にかけている。


 ああ、オレは夢をみているんだ、と思った。

 じゃなかったら、オレが、夏夜を泣かせるはずなんてない。


 その時、ぴり、と指先に痛みが走った。

 硬化した蜘蛛くもの糸が、オレ達を包んでいた。


「そこまでだ、小夜。それ以上、小夏に危害を加えるなら、君でも容赦しない」


「……あは。小夏。なんか、しゃしゃりでてきたね。そうだ、ねえ、小夜を護って戦ってよ。あのお邪魔虫を、めちゃくちゃにしてほしいな」


「ああ、小夜……お前は、オレが護る――」


 ぼんやりとしびれる頭で、糸を焼き払った。

 輝馬の顔が、はっきりとこわばる。


 そして、オレの唇は、よくできた、螺旋ねじ巻き人形のように、ゆっくりと言葉を紡いでゆく。


「――邪魔者は、始末しないとな……」




//////////////////////////////////////////////


charm ~チャーム~



魅力,人を引きつける力

(女の)器量,色香,なまめかしさ


(まじないの)魔力,魔法

呪文(じゆもん)


〈人を〉うっとりさせる,魅する

〔+目的語+補語〕〈人を〉魅惑して[〈人に〉魔力をかけて]〈…の状態に〉させる.


〔+目的語+out of+(代)名詞〕魔力[魅力]で〈秘密などを〉〔…から〕引き出す[探り出す].



“Sugared charm named the poison”


~シュガード・チャーム・ネームド・ザ・ポイズン~


「毒という名の甘い呪文」


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