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『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第3章 ((child is Night.))  ……それは、飢え乾く愛し仔。  
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第18話 -誘惑者- “The Fallen Angel of Hankering”

挿絵(By みてみん)


「小夜、意地張るのやめたら?」


 後ろからついてきて、祈音きおんがしきりに話しかけてくる。

 小夜は、いらついて能力を見舞った。


「盲目の帳<アンノウン・ナイト>! 祈音、チビのくせにうざい」


 盲目もうもくとばり。名付けて、アンノウン(知らない)、ナイト(夜)だ。

 対象の視界を一時的に奪う、無効<アボイド>属性のスキル。

 つまりは目隠しの闇魔法だ。


「うわっ、仕方ない子だなあ」


 年下のくせに、上から目線でのたまうと、祈音は「第三の目<サードアイ>」を開いた。


「ふう。これでよくみえるよ。いてて」


 額に目があって、かなり気持ち悪いが、目隠しで困らせたので、溜飲りゅういんが下がった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「それにしても、何もないところだね」


 開けたこのフィールドには、木や植物ひとつ見当たらず、辺り一面、氷が張っていて、しんとしている。

 心配していたばけものの姿もなく、一見すごく平和だ。


 だが、祈音ぼくの第六感が告げる。


 ここが、一番やばい。


「ねえ、小夜……」


 戻ろう、といいかけたところで、地面が割れた。


「…………っ!!」


 小夜が、その割れ目に、まるで掃除機のように吸い込まれていく。


 慌てて、翼式阿吽<ツヴァイス・デーモン>の双翼を展開するが、一足遅く、割れ目はすぐに、くっついて閉じた。


「しまった、わなだったか……」


 はあ、と息をつくが、<第三の目>でみつめると、小夜のエナジーはまだ、赤々と燃えている。


――別ルートを探そう。


 祈音は、同時に現れた、いかにも怪しげな洋館に足を進めた。


……出るのは、邪か、龍か。


 いずれにせよ、祈音ぼくは進むしかない。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん……」


 目を覚ますと、鍾乳洞しょうにゅうどうのなかに倒れていた。


 非常時発動型の保険、夜の加護<ナイト・ギフト>によって、黒い天使の羽が、何重にもからだおおっていた。


「小夜としたことが……」


 悪態をつくが、とりあえず、敵の姿はない。


 見渡すと、そこは、小夜の部屋によく似ていた。

 狭い鍾乳洞しょうにゅうどうのあちこちに、熊のぬいぐるみや、猫のまくらなどが転がっている。


 そのひとつを手に取ると、ざらり、と砂のように崩れて消えた。


「すっごい悪趣味。なんのつもり?」


 小夜の部屋のドアをしたのだろう、うさぎのプレートのついた、金属製の扉を開けた。


 すごく重かったが、小夜には、母なる闇<マザー・ダーク>がある。

 本来、小夜の能力は、光より闇に近いのだ。


 暗黒のかいなを影のように伸ばし、扉の隙間にくぐらせ、一気に解放する。


 扉はこっぱみじんに砕け、夜の加護<ナイト・ギフト>が再び、羽となって小夜を護った。


 連続で力を使ったせいで、若干のだるさを感じながら、小夜は歩いて行った。

 薄暗い闇のなか、小夏の部屋らしき扉をみつける。


 能力が発現してまもないころ、小夏がつけたげ目まで、再現されていた。

 再び、母なる闇<マザー・ダーク>を使おうとしたが、鍵がかかっておらず、すんなり開いた。


 中は、空だった。拍子抜けして、小夏のベッドに寝そべる。

 最限度が高くて、ふかふかのベットからは、小夏のにおいまでした。


……今は、ただひたすら、小夏が恋しかった。


「――なんであんなこと、言っちゃったんだろ……」


 きっと、小夏に嫌われた。


 小夜は、夏夜のことを、憎んでいた。


 小夏の愛を一身に受けて、なのに八方美人に、みんなに愛想を振りまく。

 愛されたがりの、欲しがりの夏夜。


 あれは、そう、「小夜自身」だった。


 小夜だって、愛されたかった。

 みんなに、そして誰よりも、小夏に。


 そう、小夜が嫌いだったのは、夏夜自身じゃなく、夏夜のようになりたくてもなれない、ちっぽけで素直じゃない、できそこないの小夜自身だったのだ。


 小夏のまくらに、そっと、頬をり寄せる。

 小夏は、もう夏夜と仲直りしただろうか。


 小夜はいつだって、小夏と夏夜の橋渡しをしていた。


 冷たい態度もきつい言葉も、本当は、そうしたかったわけじゃない。

 でも、こうすると、小夏は、夏夜に慰めてもらえるから。


 小夜が小夏に意地悪をすればするほど、小夏は、夏夜を求め、優しい夏夜に、癒してもらえるだろうから。

 いつだって小夜は、小夏が一番大事で、だから嫌われ役だって、どうってことなかった。


……素直になりたい。

 でも小夜は、こういう形でしか、小夏を愛せない。



      (( ……叶えてあげようか? ))


 

 ふと、天使の囁きが聞こえた。


 いや、悪魔の誘惑だったかもしれない。


 それでも小夜は、気づいたら、うなずいていた。



  (( ――可愛い小夜。僕の実験第二号<モルモット>になってよ ))



 仮面の男は、小夜の額に口づけた。

 不思議と、いやではなかった。


――むしろどこか、懐かしかった。



 ///////////////////////////////////


 “Fallen Angel”  ~フォーリン・エンジェル~

「堕天使」


 “Hanker” ~ハンカー~

 〔手の届かないものを〕あこがれる,こがれる,渇望する 〔after,for〕.

 〈…したいと〉切望する 〈to do〉.


 “Hankering” ~ハンクリング~

 〔手の届かぬものへの〕切望,渇望 〔after,for〕.

 〈…したいという〉熱望 〈to do〉.



 “The Fallen Angel of Hankering”

 ~ザ・フォーリン・エンジェル・オブ・ハンクリング~


「渇望の堕天使」→「欲しがりの堕天使」


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