第12話 ‐煉獄の業火‐ “Burn out,Flame of the Wrath”
「そういえば、体の調子はどう?」
輝馬は、並んで歩きながら、そう聞いてきた。
「そういえば、今んとこ、問題ねーな」
当然だが、もう手は繋いでいない。
オレは輝馬の弟でもなんでもないし、だいたい輝馬とひとつしか違わない。
(いつまでもガキ扱いされるなんて、冗談じゃねえっての)
ふと、思い出し、パーカーのポケットを探った。
煌々(きらら)と団子を食べたとき、進藤からもらった薬を、飲み忘れていたことに気づいたのだ。
瓶をポケットから出し、フタを開けて軽く振ると、コロン、と赤と黒のカプセルが掌に載った。
赤が、闇の力を底上げするドーピング剤。
黒が、体内の龍脈の暴走を止め、体を落ち着かせる鎮静剤。
どちらも、噛んで食べられるラズベリー味だ。
甘ったるい味に、若干嫌気がさしながら、こくりと飲み込んだ。
「――ん……?」
飲んですぐ、違和感を感じた。
腹のなかがぐるぐると回る。
……くらり、と血の気が引く。
「小夏……?」
そう言って、輝馬が肩に触れた瞬間、すさまじい吐き気が襲ってきた。
「~~っっ!!」
喉を抑えるが、とうとう立っているのもつらくなり、蹲る。
「小夏!? どうし……」
その言葉を最後に、オレの視界はブラックアウトした。
・・・・・・・・・・・・・・
小夏が倒れた。
薬を飲んだ瞬間、拒絶反応のような症状とともに、気を失ってしまった。
助け起こそうとと膝を折って、そこで異変に気付いた。
荒い息。それも、一人や二人じゃない。
「…………っ!」
振り向くと、そこには、化け物がいた。
怒りと憎しみに満ちた、阿修羅の顔。
赤黒い五つの瞳。尾は龍。黄みがかった乱杭歯からは、ねばついた液体が滴っていた。
それは、身の丈5メートルはあろうかという、鬼人<オーガ>の群れだった。
「――こんな時に……っ」
舌打ちをして、すぐさま蜘蛛の糸を展開し、小夏の体をそれで覆った。
「煌々(きらら)……」
――どうか、僕たちを見守っていてくれ……――
祈るようにそう呟くと、両手を広げ、当たり一面に蜘蛛の巣を張った――。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い夢をみていた気がする。
オレは、大事な友達の妹を死なせて、自分だけ、のうのうと助かった。
そして、許されて調子に乗って、脳内お花畑よろしく、安心感に酔っていた。
だからこれはきっと、天罰なんだ。
「……ん……っ」
朦朧とした頭で、瞼を開けた。
オレは荒れ地に横になっていて、透明な糸に何重にもくるまれていた。
その一本に触れると、とても固く、指の端が切れた。
まるで繭のようだ、と思った。
……オレを護る、ゆりかごのようだと。
「こうま……」
輝馬の姿を探し、周囲を見渡した。
当たり一面に、肉片と血糊が飛び散り、地獄のようなありさまだった。
その中央に、輝馬がいる。
さらりとした黒髪を血で汚し、全身は傷だらけだ。
息は荒く、とうとう、膝をつく。
その脇腹を、鬼人<オーガ>の腕が、貫いた。
「……っっ!??」
目の前が真っ白になり、気が付けば、オレは、自らを護ってくれていた繭を、かけら残さず燃やし尽くしていた。
「……許さねえ」
ドス黒い感情が、腹を引き裂いて出てくる。
オレは、獣のように吠えると、煉獄の業火を爆発させた――。
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“Burn out,Flame of the Wrath” ~バーンアウト・フレイム・オブ・ラース~
burn((様態の副詞(句)・補語を伴って))
〈物・火・燃料などが〉燃える,燃焼する
〈暖炉・かまどなどが〉燃えている 〈物が〉熱を出す,熱い
〈物が〉(火に触れたように)ひりひりとした痛みを与える
〈人が〉極度の怒りを抱く,ひどく立腹する
burn out ... 〈獣などを〉(火攻めで)追い出す.…を焼き尽くす
((しばしば再帰的)) 〈人を〉消耗させる,疲れさせる.
〈燃料などを〉使い果たす[きる]
((通例受身)) 〈エンジンなどを〉オーバーヒートさせる.
flame
炎、火炎、炎のような輝き、輝かしい光彩、燃える思い、激情
wrath
憤怒、憤り;天罰((かたい))激怒,憤り;天罰恨み、怨み
真のまたは想像上の不正行為によって引き起こされる好戦性(七つの大罪の1つとして体現される)
激怒(通常、非常なスケールで)
“Burn out,Flame of the Wrath” ~バーンアウト・フレイム・オブ・ラース~
「焼き尽くせ、憤怒の炎よ」「使い果たせ、怨みの激情を」