表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドサマー・ロストハート』~心を失った悪魔の王を「愛する」ための方法~  作者: 水森已愛
第2章 ((nightmare is Grim.))……それは、開かれた扉。
15/60

第12話 ‐煉獄の業火‐ “Burn out,Flame of the Wrath” 

「そういえば、体の調子はどう?」


 輝馬こうまは、並んで歩きながら、そう聞いてきた。


「そういえば、今んとこ、問題ねーな」


 当然だが、もう手は繋いでいない。

 オレは輝馬の弟でもなんでもないし、だいたい輝馬とひとつしか違わない。


(いつまでもガキ扱いされるなんて、冗談じゃねえっての)


 ふと、思い出し、パーカーのポケットを探った。

 煌々(きらら)と団子だんごを食べたとき、進藤からもらった薬を、飲み忘れていたことに気づいたのだ。



 びんをポケットから出し、フタを開けて軽く振ると、コロン、と赤と黒のカプセルが掌に載った。


 赤が、闇の力を底上げするドーピング剤。

 黒が、体内の龍脈りゅうみゃくの暴走を止め、体を落ち着かせる鎮静剤ちんせいざい


 どちらも、んで食べられるラズベリー味だ。

 甘ったるい味に、若干嫌気がさしながら、こくりと飲み込んだ。


「――ん……?」


 飲んですぐ、違和感を感じた。


 腹のなかがぐるぐると回る。


……くらり、と血の気が引く。


「小夏……?」


 そう言って、輝馬が肩に触れた瞬間、すさまじい吐き気が襲ってきた。


「~~っっ!!」


 喉を抑えるが、とうとう立っているのもつらくなり、うずくまる。


「小夏!? どうし……」


 その言葉を最後に、オレの視界はブラックアウトした。



 ・・・・・・・・・・・・・・



 小夏が倒れた。


 薬を飲んだ瞬間、拒絶反応のような症状とともに、気を失ってしまった。


 助け起こそうととひざを折って、そこで異変に気付いた。

 荒い息。それも、一人や二人じゃない。



「…………っ!」


 振り向くと、そこには、化け物がいた。


 怒りと憎しみに満ちた、阿修羅あしゅらの顔。

 赤黒い五つの瞳。尾は龍。黄みがかった乱杭歯らんぐいばからは、ねばついた液体が滴っていた。


 それは、身の丈5メートルはあろうかという、鬼人<オーガ>の群れだった。


「――こんな時に……っ」


 舌打ちをして、すぐさま蜘蛛くもの糸を展開し、小夏の体をそれでおおった。


「煌々(きらら)……」


――どうか、僕たちを見守っていてくれ……――


 祈るようにそう呟くと、両手を広げ、当たり一面に蜘蛛の巣を張った――。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・




 長い夢をみていた気がする。


 オレは、大事な友達の妹を死なせて、自分だけ、のうのうと助かった。

 そして、許されて調子に乗って、脳内お花畑よろしく、安心感に酔っていた。


 だからこれはきっと、天罰なんだ。


「……ん……っ」


 朦朧もうろうとした頭で、まぶたを開けた。


 オレは荒れ地に横になっていて、透明な糸に何重にもくるまれていた。

 その一本に触れると、とても固く、指の端が切れた。


 まるでまゆのようだ、と思った。

……オレをまもる、ゆりかごのようだと。


「こうま……」


 輝馬の姿を探し、周囲を見渡した。


 当たり一面に、肉片と血糊ちのりが飛び散り、地獄のようなありさまだった。


 その中央に、輝馬がいる。

 さらりとした黒髪を血で汚し、全身は傷だらけだ。


 息は荒く、とうとう、膝をつく。

 その脇腹を、鬼人<オーガ>の腕が、貫いた。


「……っっ!??」


 目の前が真っ白になり、気が付けば、オレは、自らを護ってくれていたまゆを、かけら残さず燃やし尽くしていた。


「……許さねえ」


 ドス黒い感情が、腹を引き裂いて出てくる。

 オレは、獣のように吠えると、煉獄れんごくの業火を爆発させた――。




 /////////////////////////////////////////////////////////



 “Burn out,Flame of the Wrath” ~バーンアウト・フレイム・オブ・ラース~


 burn((様態の副詞(句)・補語を伴って))

〈物・火・燃料などが〉燃える,燃焼する

〈暖炉・かまどなどが〉燃えている 〈物が〉熱を出す,熱い


〈物が〉(火に触れたように)ひりひりとした痛みを与える

〈人が〉極度の怒りを抱く,ひどく立腹する


 burn out ... 〈獣などを〉(火攻めで)追い出す.…を焼き尽くす


((しばしば再帰的)) 〈人を〉消耗させる,疲れさせる.

〈燃料などを〉使い果たす[きる]


((通例受身)) 〈エンジンなどを〉オーバーヒートさせる.


 flame


 炎、火炎、炎のような輝き、輝かしい光彩、燃える思い、激情


 wrath


 憤怒、憤り;天罰((かたい))激怒,憤り;天罰恨み、怨み

 真のまたは想像上の不正行為によって引き起こされる好戦性(七つの大罪の1つとして体現される)


 激怒(通常、非常なスケールで)



 “Burn out,Flame of the Wrath” ~バーンアウト・フレイム・オブ・ラース~ 

「焼き尽くせ、憤怒の炎よ」「使い果たせ、うらみの激情を」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ