02:生まれる②
召屋切人は全身に走る激痛で目を覚ました。
目を覚ました気がした。目を覚ましたと確信できなかったのは、切人の視界は真っ暗なままで、起き上がろうとする切人の意思に反して体がピクリとも動かなかったからだ。
目を閉じたまま金縛りにでもあっているのだろうか、それともまだ夢の中にでもいるのだろうか?
考えていると、爽やかな草の香りが鼻腔をくすぐった。ヒヤリと冷たい風が背の低い緑の絨毯を撫でて行く音がサラサラと鳴っている。
それらはとても現実的な感覚だった。夢とは思えない感覚。しかし人は、起きてしまえば夢の中身などすぐに忘れてしまうし、夢の中ではその世界が夢の中だとは気づかない。普段から自分は夢の中で、いつもこんな事を考えているのかもしれない。そして目覚めて、全てを忘れるのだ。
そう考えてみると、今の状況が気にならなくなった。
切人は今、暗闇の草原に横たわっている。と、思う。時折吹く風は冷たいが、体は仄かに暖かい。
切人の頭に、とある記憶が浮かび上がってきた。それは小学四年生の夏休みの記憶だった。
暑い夏だった。その年の夏休み、切人は一人、母方の祖母の家に預けられていた。切人達家族が住んでいた街を抜け、車で二時間ほど山を登った先の広大な土地に祖母は住んでいた。
彼女にとっては初孫だったためなのか、祖母は切人を大いに可愛がっていた。その時も、預けられた切人が放って置いてくれと思うくらいに全力で世話を焼いた。けれど切人も祖母が好きだった。
お昼にはいつも木造作りの大きな戸建ての縁側で祖母がいろんな話を聞かせてくれた。
切人が生まれてすぐに死んでしまった祖父の話。切人の母の子供の頃の話。母が父と出会ってからの事。それからこの山にまつわる逸話や伝説までも聞かされた。
そんな祖母の声を子守唄がわりに、暖かな太陽の日差しを布団がわりに、切人は良く昼寝をしていた。幸せな時間だった。
そんな日の日向ぼっこを思い出させる温もりは、太陽の光を思わせた。
きっと、もし目を開ければ明るい空が広がっているのだろう。草原はどこまで続いているのだろうか。吹き抜けていく風の音からは、広大な緑の大地が連想された。
このまま眠ってしまおうか。
夢の中で眠るとどうなるのだろうと疑問が湧き上がってきたが、そんな事はすぐにどうでも良くなった。緩やかに訪れる睡魔に身を任せて、切人は眠りに落ちて行った。