01:生まれる①
第一話
ゆっくりと、全身が浮遊する感覚があった。そう思ったのはほんの一瞬の事で、その感覚は落下のようにも、左右に揺さぶられるようにも感じられた。それらの感覚は次第に曖昧になり、そして薄れていった。
その代わりに、今度はそれらの感覚がひどく離れ離れに感じられる事に気がついた。胴と手足が、右手と左手が、手のひらと指達が、それぞれ遠くで感覚を持っているような感じがしている。どの部位を感じているのか、明確に判断はつかないが、それはまるで全ての感覚が生きたままに全身をバラバラに分解されてそこいらに撒き散らされたような感覚だった。
手はどこだ?右手は?左手は?足はあるのか?指は付いているのだろうか?
不可解な感覚に意識を集中して、その感覚の正体を探ると、ぼんやりとだが感覚がハッキリとしてきた。全身がある。足の指先から髪の毛まで、全て揃っているというその判断には、なぜか不思議と確信があった。
イメージが完成された瞬間、離れ離れになっていた感覚同士が近づいてきている事に気がついた。どれくらいの距離なのかは分からない。ただ、その距離が縮まっている事は明確にわかった。
わかった時には、終わっていた。
恐らくは頭なのだろう、この思考の中心に向かって、感覚の接近は一気に加速した。加速して、ぶつかった。そしてこの思考の中で初めて、痛みを感じた。ひどく懐かしい感覚だった。
全ての思考は体の外へ弾け飛んだ。