自己紹介です
よく考えてみる。なぜこうなったのか?それは、私がこのソファに悠々と横になって寝ている男とぶつかったから。いやいや、普通ぶつかったってだけでこうなるものなの?
ランディニっていうのはブラックの生徒会みたいなもの。ホワイトのほうはホワイトリリィ、通称カサブランカ。ポーラが言ってたんだけど、どっちも見目麗しい生徒が揃ってるって話。その通りだったってことだよね。何かきらびやかすぎて目がちかちかしてきたよ。
もっと穏やかな生活を夢見ていたのにこの学校に入学してからというもの何故か問題ばかり。私が悪いの?いや、悪いんだろうけどこれは確実に違うでしょ。大体何で喧嘩まで売られなくちゃいけないのよ。絶対違う。おかしいでしょ。異議申し立てしたくなっちゃう。
けれども目の前の男は何食わぬ顔。やっぱり一発ぶち込んじゃってもいいかな?いいよね?そう思ってそろりと近づき拳を固める。油断してるかな?そう思って覗きこんだ瞬間、男の目が開き、ばっちりと目が合っちゃった。やっぱり人の気配まで読めるのね、この人は……。
ため息をついて元の位置に戻ると、声を押し殺した笑いが聞こえる。振り向いてみてやっぱり、三人して笑ってた。
今目の前の男が横になってるのが三人掛け位の大きさのソファ。それがテーブルを挟んでもう一つ。あと、一人掛けのこれまた柔らかそうなソファとセットの椅子が三つある。そのうちの一つに新緑の髪の男が。向かいの三人がけのソファにブロンドの男と、パープルの髪の美女が座る。
私は一人、立ったままの状態だ。
「その椅子に座って、リリアちゃん」
ブロンドの君がそう言って進めてくれたので、お構いなく据わる。こんな所で遠慮してもどうにもならないしね。っていうか本音は今すぐこの部屋を辞したい所。けれどもそれを許してくれそうな気配は微塵もなかった。
「さて、いったいどういった経緯で君がここに来ていたのかはわからないけれど、我々が君に話しがあったのは事実なので、このまま始めても構わないかな?」
ブロンドの君が先程の笑顔のまま話を進めていく。私としては、早々に退散したいところなのでさっさと話しを聞いて帰るため、無言で頷いた。だって、早く教室に帰らないと怪しまれちゃうもん。そろそろアンとポーラが戻っていてもおかしくない時間帯。次の授業までは全然余裕はあるんだけど、それでもやっぱり早めに帰りたい。
「まずは自己紹介からだね。僕の名前はイラト・ランス。ブラックの三年で一応代表をしています」
「私はプルーム・ティア。同じく三年で代表補佐をしているわ」
「同じく三年、ダイ・ブルック。もう一人の代表補佐だ」
三人が一人ずつ名乗ってくれる。ふむふむ、みなさん三年生なのですね?で、この人はいったい……?そう思ってちらりと視線を向ける。するとイラト先輩がクスクス笑いながら声をかけてくれた。
「レン、お前もさっさと名乗らないと」
鶴の一声とはこのことだ。イラト先輩の声にムクリと起き上がると、私のほうを一瞥してくる。さっきといい今といい、目つきが悪いなぁこの人。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ。
「レン・ロット。二年で補佐やってる」
それだけ言うと、今度はきちんとソファに座りなおしてくれた。まぁ、私にとってはそれも今更で、この人が嫌いであることに変わりはない。
「先程もおっしゃっていましたが、リリア・ノートンです。それで私に話っていったい何なんですか?」
無表情のまま問いかける。視線はすでに、イラト先輩のほうに向けていた。
そんな私を見て、イラト先輩とプルーム先輩はニコニコと嬉しそうに笑っている。ダイ先輩でさえも、興味深そうな顔で私の顔を窺っていた。ん?やっぱり私の顔に何かついてたのか?再び不安になって顔をペタペタしそうになる。
「君は今年、入学生代表をしていたね?」
「はい」
「僕たちランディニのことは、どのくらい知ってるのかな?」
イラト先輩のその質問に、私は思わずコテンと首をかしげた。知ってるとはいったいどういうことだ?取り敢えず無難に返しておこう。
「とても優秀な生徒がお揃いであるとはお聞きしています」
「うん。僕たちは、学校でも特別優秀な生徒を選りすぐって選出してるんだ。だから例え高学年であろうと、能力が低ければランディニにはなれない。その逆もまたしかりで、低学年でも能力があれば、ランディニになる事が出来るんだ」
先輩の説明に、ほぅ……。などと納得して頷いていると、またもくすくすと笑われてしまった。
「普通はここまで話せば勘づくはずなんだどなぁ――」
「それほど自分の事に関して疎いってことじゃないかしら?可愛いじゃない」
何だか嫌な予感がして眉根を寄せていると、それに気づいたダイ先輩までもがクスリと笑った。
だって、自分は何よりも穏便に事を進めることを人生の目標としているのだ。もし私の予想が外れていないのであれば、私はその穏やかな生活とはかけ離れたところで過ごしていかなければならなくなること確実である。そんなことは真っ平ごめんだ。それなのに私の気持ちなど露知らず、イラト先輩はお構いなしに話を続ける。
「君を、ランディニの一員となることを認めよう。これから君は、僕たちの仲間だ」
「それ、拒否権ありますか?」
間髪入れずに問い返すと、目を丸くしたイラト先輩がふとレン先輩のほうを窺った。けれどもレン先輩は何の表情も見せずにただイラト先輩を見返している。私の質問はいったいどこに行ったんだ?
「ないね。僕ら四人に一つも異議がない限り、君はこれからランディニとして生活してもらうことになる。どうやら君はすでに試験をパスしているようだから」
「試験?」
そんなもの受けた覚えなど全くない。いつもの授業態度や成績であればわからないが、まだ始まったばかりの学校内で成績も何もないだろう。いったいいつの間に私はそんなものをパスしていたのだ?
「レンが、君に攻撃してこなかったかい?」
その質問に、思わずその場に固まってしまった。
あれか――!!
出来れば時を戻してしまいたいという思いを込めて、レンを睨み据える。けれども本人は何食わぬ顔。あれ――?でも私、勝った覚えもなければ一度も反撃できた覚えもないぞ?首をかしげて瞳で問うが、やっぱり何の反応も帰って来ない。これはいったいどういうことか。取り敢えず、私の日常はいったいこれからどうなってしまうんだろう――。