通称ランディニです
腕を引かれるままについてくると、とても豪華な部屋に着いた。何で学校にシャンデリアのある部屋があるの?ソファや机まで高そうなアンティーク。壁には絵画や何だかわからない高そうな花瓶まで。花を生けてもないのに置く意味あるの?というよりも、何だか長い階段をぐるぐると何度も昇り、流石の私もバテ気味なんだけど。
よたよたしながら連れてきた張本人を見上げると、ようやく私のほうに向きなおってくれた。
さっきぶつかったのが薄暗い廊下だったから、相手の顔はよく見えなかった。だからこの明るい部屋で改めて相手を見てみて正直驚いた。なんて綺麗な顔をしてるんだ、この人は。背はそんなに低くはないはずの私が見上げるほどの長身に、透き通るようなブルーの瞳と大海原を思わせる青い髪。男で美人ってホントにいるんだなぁなどと感心してしまった。
そんな風に相手の顔を凝視していると、相手がばつが悪そうに顔を背ける。
私のほうは、ん?どうした?と、首をかしげてしまった。
だってこんな美人を間近で見れる事なんて、そうそうないことだと思うの。こんな豪華な部屋を使っているような人って事は、私には縁のない人だってことだろうし。
そんな事を考えていると、照れて顔をそむけてしまっていたんだと思っていた相手が一つ大きなため息。そして私のほうをキッと睨みつけて来た。
な、なに?
と思うよりも早く、相手の拳が飛んでくる。
それをかわして目を見開いて男を凝視すると、今度は蹴り。次々と間を置かずに攻撃してくる。
もしかして私、この人に喧嘩売られてるのかなって思った瞬間、こっちもプチンときちゃった。そりゃそうでしょう。何も言わずにいきなり攻撃を仕掛けてくるなんて、紳士のすること?だいたい制服のネクタイの色が私の一つ上の学年であることを示しているから、やっぱ先輩なんだろうし、制服の色が黒って事は、私と同じブラックって事だよね?めっちゃ戦闘型の人間じゃない。この間の実技の授業の相手だったギルとは違って、私自身目の前の男の攻撃をかわすのだけでも精一杯。けれどもそこは負けず嫌いの私。何とか隙を見つけ出そうとするんだけど、相手も中々手を緩めてくれない。やけくそになって思いっきり拳を叩きこもうと突くと、あっさりとその腕を掴まれちゃった。
そしてなんと、そのまま近くの壁に追いつめられてしまう。腕を捕まえられたまま逃げ場を失ってしまった私は、最後の抵抗とばかりに相手を睨み上げる。
けれども男はどこ吹く風で私を見下ろしていた。私と違って呼吸もまったく乱れておらず、何だかイライラしちゃう。いったいこの男は何なのよ。
刹那、男はあっさりと私を開放してスタスタと部屋に設置してあるこれまた豪華なソファに横になった。全くその状況について行けない私。
何なのこの男、何なのこの態度!
思わずその怒りを目の前の男にぶつけようとした瞬間、今度は私たちの入ってきた扉から別の人が数人入ってきた。
「おや?」
「あら」
「ん?」
などといった声が次々聞こえてくる。
何事かと突っ立ったままの体勢でそちらを振り向くと、これまた顔つきの良いごつい男二人とスラリとした美女一人が立っている。
さっきの男は相変わらずソファに転がったままだ。
「君、もしかして一年のリリア・ノートン君かい?」
ちょっと優しそうな顔つきの、フワフワのブロンドに金の瞳をもった男性のほうがゆったりとした動作で問い掛けてくる。
取り敢えずその質問に一つ頷くと、さっき目の前の男に繰り出そうと思っていた拳を引き下げる。
「ふうん、やっぱり遠くで見るよりも、よっぽど美少女なのねぇ。背も高くてスタイルいいわ、羨ましい」
今度は長く真っ直ぐなパープルの髪に紫水晶のような瞳をもつ妖艶な美女が口を開く。
「目つきが危ないぞ。相手が怯えてんの、分かんないのか?」
最後に呆れたように頭を抱えて呟いたのは、新緑の髪にエメラルドグリーンの瞳をもつ男性。こちらはブロンドの君よりもやや筋肉質なようだ。制服の上からでも、たくましい体つきをしているのがわかる。
ぞろぞろといったいなんなのだと思えるほど、美男美女ばかりの揃うこの部屋。全く現状把握しきれない。というか、理解できそうにない。そろそろ爆発しそうになった頃、最後にまさかの爆弾投下。
『ようこそ、ブラックリリィ、通称ランディニへ』
見事に三人の声がハモりましたよ。