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オマケ・後に感謝しまくり

「しっかし、殺風景な家ね。もっと物を融通してもらえる立場でしょうに。あなた折角顔は良いんだから身嗜みチェックのために寝室に鏡の一つでも置いときなさいよ、って思ったのね。だから持ってきてあげたわよ」


 最後に話がしたいからと人の家にやってきて言うことがそれか。

 この女は最後までわからん奴だったな。


「フウヤレヤレ、これで私も心残りがなくなったわ。そんじゃバイビー」

「ああ、お別れだな」


 俺が生まれる前から行われていた戦いは敵が死に尽くしたことで終わりを迎えた。

 しかしその頃には世界の大地は汚染されつくして到底、生物にとって優しいと言える環境ではないしこのまま汚染は広がり世界は終わりを迎える事を考えれば、戦いの勝敗としては引き分けと言うべき結果だったはずだ。

 この戦いを生存競争と捉えていた者達からすれば敗北になるんだろうな。

 俺は勝敗に対してそこまで本気になれなかったので細かい勝敗には興味がない。



 どのみち世界は白い水に犯されその白い水が全てを滅ぼす。

 俺達は誰かに殺されるか世界が終わるか以外に死ぬ事はないが、まさか本当に世界の滅びによって死ぬことになるとは思ってもなかったので正直驚いたものだ。当時は自分が死ぬ時は敵に殺される時としか思ってなかったからな。



 近いうちに世界が滅びると確定しただけで今すぐ世界が滅びるわけでもないとなった時点で人類どもは大喜び、敵を殺し尽くした上で生き延びた俺やこいつなんかは随分と敬われたものだがこいつはその結果すら気に食わなかったらしい。

 敵を殺し尽くした後、暇をもてあましていた俺も協力させられたが世界を救う方法の模索に走り回され、白い水による世界の滅びを止める手段を確立しついにその作業も大詰めを迎え今日に至る。


 世界を満たした白い水を分解させ空気に散らし消していく。

 その為のシステムの構築に増え続ける水を止め更に人間が住める環境の土台作り、大地を作り変え引き伸ばし浮かべ山を砕き海をかき混ぜ蓋をしてと、かなりの無茶を1000年近くかけて行った結果、世界は白い雲の上に浮いた。

 白い水を綿菓子、雲のような形状にして嵩が増えてしまったので慌てて生物の生活圏をいくつもの島の形状にして地面をせり上げたがあの作業はあと何年か手が遅れていたら俺達の方がこの地上の生物に引導を渡す結果になっていたかも知れんので流石に俺も少し焦ったもんだ。


 そんなこんなで計画の最終段階。

 白い水に変わって世界を満たした白い雲、これを分解し空気中に散らせる作業。

 この雲も放っておけば再結合して白い水になってしまうので完全に無害になるまで分解できるよう、世界をその意思で満たす必要があった。

 この島のど真ん中に建つ塔、それにこの女が入り肉体だけでなく精神まで完全に分解され世界にばら撒かれれば、こいつの意思が白い水への再結合を阻害して完全に無害な物質になるまで分解してくれるとの事だ。

 俺がメインでやっていたのは土地の開発と環境のコントロールだったがこいつの計画を聞いたときは頭がおかしくなったのかと思ったもんだ。


 どんなに長く生きても世界が終わる時に俺達は死ぬ、それが早いか遅いかの違いだったがこの女は自分が今死ぬ事で世界を長く存続させようとしている。

 なんでそんな事をするのかが全くわからんが別に気にすることでもないので聞いていない。



 塔の起動中に外部からのいらん横槍が入る事のないようにとこの島は結界に覆われることになるらしいので俺は自分が眠る場所としてこの島を使わせてもらえる事になった。

 もう俺がやる仕事も無くなり後は俺は眠りに付きこいつはこいつで勝手に死ぬ、それで終わりだ。


 まぁ長い付き合いだったから家から出るまでくらいは見送ってやろうと思ったのだが


「何勘違いしてんの? まだ私の用事は終わってないわよ?」


 どうやらこの女はまだ用事を残していたらしい。

 というか自分から別れを告げたと思ったんだが……

 俺達は基本自分の命に対する執着が薄いから今更になって命が惜しくなって死ぬのを先送りにしようとしているとは思えんが。

 そもそも死ぬのが惜しくなれば止めれば良いだけだしな。


「私さ、あんたのデザインした世界がどんなのかまだ見たこと無かったのよね。この島に引きこもって白い水の分解の研究にかかりきりだったから。一応この島を見れば想像も付くけど出来れば他の島とかも見てどんな感じか確かめたいじゃない? だからさ、一緒にいこ」


 発言の裏を読めば俺の作業がどのくらいのものだったか信用ならんから自分の目で直接見て確かめる、といったところだろうが、まぁいい。

 一人で行けと言いたいところだが外の島を見て回るための足が無いんだったな。


「ま、よかろう。いつ出発するんだ?」

「今すぐよ!」


 なんでこいつはこんなテンション高いんだ。

 そうは思うがこれが終わればこいつともお別れだと思えば我慢できる。


「いくか」

「いこう」


 そういうことになった。




「うわぁぁぁぁあああああ重症のはずのニオニワが館の廊下を練り歩いているぅぅぅうううう!!」

「うるさい」


 船はこの家の地下に置いているためにそこまでを歩いていたわけだが、なんで隷下を見ただけでこいつはこんなにテンションが高いんだ。


「いやー、様式美ってやつ? つい、ね。ところでニオニワも久しぶりだけど元気してたー?」

「シャムラレワさまもお変わりないようで。私に関しましては主がある限りは滅びませんので」

「そういうんじゃなくてさぁーあ。ったく、あんたら主従揃って暗いわ。特にニオニワは今そんなルックスだし性格明るくないとモテないわよ?」


 ニオニワの魂に俺のオーラを混ぜ合わせて作っただけの隷下にルックスがどうとか関係あるのだろうか?

 重傷とかそんなもん関係なくニオニワの外見はああいうもので固定されているというのに。

 まぁこいつの発言に一々意味を求めるだけ無駄のような気がするが。


「何を遊んでいる。所でニオニワ、準備はできたか?」

「はっ、いつでも発進できます」

「うむ」


 ま、当然か。あとは出航するだけだが


「あんたらさー、そんな最低限の会話だけとか寂しくない? 仲間同士もっと和気藹々と楽しい職場環境にしなさいよ」


 一々こいつはいらん事を突っ込んでくる。


「余計なお世話だ」





「いやしかし何と言うか。この家の殺風景っぷりは最低最悪だけど地下格納庫からの出航のために家が坂みたいになるのはいつ見てもかっこいいわ。この構造を考えた私天才じゃないかしら?」

「無駄な設備としか思えんがな」

「またまたー、本当はかっこいい発着場をデザインした私に感謝しまくりでしょ?」

「シャムラレワ様、よろしいですか?」

「ん? なあにニオニワ?」

「はっきり言ってこの構造は無駄の極みです」

「おまっ……こ、この主従マジでセンス無いわね。私が死んだ後が心配でならないわ」


 こいつマジうるさい。

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