オマケ・そんなバナナ
「さてさて、これから人の住む島に突入するんだけどちょっといいかしら」
「なんだ?」
どうせ下らんことではあろうと思う。
だがこの旅は一応こいつが主体であり、どうせ旅が終われば死ぬ女だ。
鬱陶しいがある程度は融通してやらんことも無い。
「こないだ会った人たちは私の名前を神様としてめちゃ崇め奉ってたじゃない? だからもし本名で島とか国に入ったらスッゲー騒ぎになってそれはもう沢山の人々から崇められそう。そうなると普通の人の視点で見た人の営みなんて見れそうに無いと思うのよ」
「何か問題なのか?」
むしろ俺からすれば意味不明の言いがかりで追い立てられるより人の上に立ったほうが楽だと思うのだがな。
そもそも生物と俺達とでは格が違うのだから相互理解なんぞ元より不可能。
俺達に普通の人の営みとやらは知りようがないだろうに。
知る必要も無いのだから。
しかし
「問題よ! 私は今の人々がどんな生活してるのか見たいの! そして私の守った世界で動物達がどう生きていくのかを知りたいの!」
「酔狂なことだ」
「あんただって自分で組み立てた生物種の営みよ? 興味ないの?」
無いな。
世界が新しく切り替わった後も問題なく種の存続が出来る生物を作り上げた時点でやつらがどう生きようとそれはもう俺にとってはどうでも良いことなのだから。
ま、そうは言っても
「だけど残念ね! 私は興味津々よ! だから普通の人に混じって生きてる人のフリして進入するわ!」
そういう事になった。
「でさ、名前なんだけど。私の事はニャンコ先生と呼びなさい」
どうやら偽名を使うらしい。
死ぬほどどうでも良いことだが。
「まぁ勝手にしろ。どのくらい滞在するのか知らんがせいぜい悔いのないようにする事だな」
勝手にやりたいようにやれば良い。
そう思っていたらバカは憤慨した様子だ。
何事だ一体。
「あんたも付いてきなさい!」
めんどくせぇ。
興味もないし一人で行けと言ったのだが全く譲らない。
「あんたの偽名は……イケメンだからイケちゃんでいいわ! ニオニワはミイラ人間だからミイちゃんて感じね!」
知るか。
と、言いたいところだが断っても強引にやるのだろうから仕方ない。毒を食らわば皿までと言うやつか。
「ところでニオニワはあの見た目では人間の町に入れないんじゃないか?」
「え? そうなの? 色んなデザインの生物種が居るって聞いたんだけど」
「ああいう形の生物は作ってないな」
だからニオニワは船で留守番になった。
島に到着後、色々と取調べを受けたが特に問題なく町の中へ入れたがバカのテンションが高いのがウザイ。
早く死ねと思うほどに。
「うっひょーお! エルフ! エルフだわ! あっちはリザードマンッ! すげえオークも居るわ! まるでファンタジー世界みたい!」
町を行く生物達の視線が突き刺さる。
主にバカに対してだが一緒に行動している俺まで飛び火を食らっているのがなんとも納得いかん。
バカはケモナーがどうだ褐色ロリドワーフがどうだとうるさい事この上ない。
「いやー、すっげーわ。まるでファンタジー世界にトリップしたみたい。ま、私自身がケモナー御用達のぬこ人間っぽいからすごい馴染むけどさ」
バカはそういってキョロキョロと周りに目を向けながら町を練り歩く。
そうしてる分にはただの田舎者であり、こいつの言うとおりよく町に馴染んだもんだ。
俺達は元々この世界の者ではなかっただけあって見た目、外側の形状が生物らしからぬヤツも居たが当然のように馴染まなかったからな。
ただ悪魔との戦いに有用だからそこに居ただけで共通の目的さえ無ければ排除されるべき異物であったろうよ。
もっとも誰か一人でも人類に牙を向こうと思えば当時の人類も今の生物も簡単に全滅させられていただろうが。
見た目は馴染めても中身がそれだけ違うんだ。
お前がどんなにはしゃいで馴染んだように見せたところで俺達には生物の視点なんぞでモノを見ることは出来んというのに。
それなのにこのバカは生物の町並みに馴染み、まるで擬態ではなく本音で楽しんでいるかのように振舞っているように見えてますます理解しがたい存在に思えた。
「さてさてイケちゃんよ、私達って今手持ちのお金どれくらいあんの?」
「現金は無いな。カードはあるが」
「はい却下ー。カードなんて使ったら即名前バレするじゃんッ!」
言うと思ったがが、金が無いのにどうするつもりだこいつは。
「金が無ければ働けば良いのよ! もしくは技術を売ったり体を売ったり!」
あっそう。
一応その日の宿は思ったより簡単に取れた。
飛び入りで引越し業者の下っ端として雇ってもらいその日分の宿と飯代にとどく給金を得ることが出来たので。
とはいえ俺もバカも栄養補給どころか休息さえ必要としない体だというのに何のためにと思ったが
「そっちの方が今を生きる人々の気持ちがわかるのよ!」
と、バカの一声である。
まったくもって無駄な事をと思ったが人の住む町に到着したその日はそうやって幕を閉じた。
それから数日、俺達は相変わらず日雇いのバイトを転々としながら町を散策している。
仕事もバカが次々に新しいのに挑戦したいといって今まで同じ仕事をした日は無い。
別に疲れるわけでもないのでどうでも良いのだがそれでも無駄な労働と思わざるを得ないが一体何をしたいのやら。
財布の管理もバカがしているが今まで泊まった宿及び食った飯は全部ゴミのようなものだらけなので日雇いの脳を使わない肉体労働とは言えそこそこの金が溜まっていそうだが何かを買いたいのだろうか。
興味がないのであえて聞くことはすまい。
「バナナを買うわ!」
そう思っていた矢先にバカの発言。
「買えば良いだろう」
一々宣言せんでもバナナなんぞ八百屋で買えるわ。
そう言ってやったらバカはバナナの木を一本買うと言い出したのだ。
バカだ馬鹿だとは思っていたが本物のバカだったようだ。
「だっ、誰がバカよ! 食わないでも生きていけるからって食わないより食った方が良いじゃん! なんとなく!」
「そんなお前の個体的な趣向にまで口は出すつもりはないがな。バナナの木なんぞ適当にジャングルに生えてるのを取れば金なんぞ必要なかろうが」
「あ」
バカめ。