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7・親子丼とかそういうのは興味ない

 いつものように行きつけのキャバクラでお気に入りの子を侍らせて酒飲んで楽しんでとしようとしていた時の事。


「あの、イケちゃんさん。今日時間がよろしければ仕事の後に……」


 そう誘われた。

 いつも自分が誘っても全然ダメで手応えがなかったのに。


 これにはイケちゃん大喜び、もう大金出して


「今日は全員俺のおごりだー! 好きなだけ飲めい!」


 と大はしゃぎ。

 ついでに店で働く子達や、その日来ていた客達もみんな大はしゃぎだった。





「そういう事もあって俺は嬢ちゃんの誘いで嬢ちゃんの家へと向かう。隣に嬢ちゃんを侍らせながら」

「説明的な独り言ですこと」


 そんなこんなで、ミツキの仕事も終わりイケちゃんにとって初のアフターである。

 イケちゃん自身は心臓が鼓動を必要としないし呼吸も必要ないのだがそんな体でも感情があるのか、今にもスキップしかねないくらいに浮かれているのだが、イケメンはそんな事しないという鉄の自制心で堪えている。


 ついでに言うなら顔がニヤけてしまいそうになるのも堪えているがどうしても口の端が上がるのが止まりそうにないので本人は薄い微笑、クールにアルカイックスマイルをしているつもりではあるが隣を歩いているミツキから見れば開いた口の両端が釣りあがったイケちゃんの表情はウォーズマンスマイルである。


 容姿は良くてもこれじゃ性格で台無しね、なんて思いながら歩いていたりする。



「いや、しかしアフターで最初から自分の家とかなんだかんだいって嬢ちゃんも俺にベタ惚れだった訳だ」

「いえ、アフターではなく今は娘が家に帰ってきておりますので」

「うん? 家族ぐるみの付き合いだろう? 安心しろ、嬢ちゃんの娘なら俺にとってもむ」

「そういうのではなくてですね、ほら以前言ってたじゃないですか。開拓者を目指してる娘が外国の旅人と話してみたいとか言ってたと」


 つまりはそういう事であった。

 イケちゃんはいつぞやミツキに対するポイント稼ぎで言ってたくらいで半ば忘れかけていたが改めて言われれば自分が何を言ったかくらい簡単に思い出せる。


 確かに言ってたよねそんな事。

 娘ちゃんが旅人に興味あるならお話くらいするよしますよさせてもらいますよと。


「つまりアフターのお誘いじゃなく」

「ええ、娘のお願いのため」


 この報告はイケちゃんにとってはショックだった。


「はぁー、やっと俺の想いが通じたと思ったのに」

「通じちゃいますよ、どのくらい本気かどうかまでは存じませんがね」


 届いてはいませんがねオホホ。


 軽く言って笑うミツキを見ていかにもドンヨリした表情を体全体で表現しつつもイケちゃんは詐欺だから引き返す! だとかそういったことは言わない。


「話が違う! とか言って怒ってもう店に来ないって形も考慮してたんですけどねぇ」

「約束したからな。そして俺はイケメンなのでそんなささいな事でグダグダいう小さい男ではないのだ」



 グダグダは言ってないけど体中から出る態度でドンヨリして落ち込んでるくせに、そんな事をミツキが言えばイケちゃんもそりゃショックがでかいから、と応える。



 ミツキはそんなショックに感じるくらいにこの男が自分に対して本気なのかねー、なんて思う。

 若くない子持ちの女の自分をこんな見た目若い男が結構本気で求めてくるというのは正直悪い気はしない。

 でも一応、これまでの人生経験で男の感情なんてそう長続きしないものの方が多いしヒューマンなんて得にそれが顕著だから自分からは本気になるまい。

 そう決心し壁を作ることをやめるつもりは無い。


 んで、懲りずに移動中もしつこく口説いてくるイケちゃんを適当にあしらっていたら家にはすぐ着いた。

 元々自分の家からそう遠くないので道中の会話は無くても体感的にそう変わりは無かったろうが。



「ん? 鍵がかかってる……出てるのかしら」


 家の扉を空けようとするとガチャガチャと引っかかりを感じる。

 とりあえず鍵を開けてみたがどうやら本当に居ないらしい。


「あらら、あの子ちょっと出てるみたいで……あー、どうしましょう?」


 娘は出る前に今日は一日用事もないので家でゴロゴロするとか言ってたから外に出たのも数分で帰ってくる程度の外出なのかもしれないが、そうでなかった場合は引き止めるのもためらわれる。

 やれやれと思い後ろを振り返ってみたらイケちゃんは


「嬢ちゃんの匂いがする」


 と、クンクンと家の匂いを嗅いでいらっしゃった。


「何やってんですか……あの、申し訳無い事に娘が今席をはずしているようなので……」

「泊りとかじゃないなら今日中には帰ってくるんだろ? 俺は暇だし嬢ちゃんの家で待っても良いぞ。クンカクンカ」


 自分から呼んでおいて娘が外にいってるとか失礼にも程があるのでぶっちゃけ怒られて当然なのに、それでも全然気にしたそぶりも見せない態度には、ダメだと判っていてもついつい甘えたくなるミツキだがそれを踏まえた上でこれだけは言える。

 いくら顔が良くても人の家でクンクン匂いをかいだりトイレ探す男はイケメンでもなんでもないわ、と。



 それから20分ほど、飲み物や軽くつまめる物を出して駄弁りながら……というかいつものように口説いてくるイケちゃんをあしらっていたら玄関の方で扉の開いた音、娘が帰ってきたようだ。



「ただいまー……あ、すみませんどうぞごゆっくり」


 買い物に出ていたようで手荷物を持った娘はリビングのソファに座ってるイケちゃんを見て何を勘違いしたのか立ち去ろうとするのでミツキは引きとめようとするのだが


「私は大丈夫だから! もうすぐ家を出る私がお母さんの恋愛を止めるつもり無いから! お幸せに!」

「うむ」

「違うって言ってるでしょ! あとどさくさに紛れて肯定しないで!」





 ぎゃいのぎゃいのと喚き散らす羽目になったが時間にしてほんの十分かそこらで場の沈静化には成功した。

 すでにミツキの精神的疲労度は酒でも飲んでグータラ寝たいレベルではあるが。


「いやいや、まさかお母さんがマジで旅人と関係してたとは……えーと、娘のサミングです。ども」

「俺はイケちゃん。見ての通りイケメンだ。記憶喪失なので旅人らしい事なんぞあまり教えられるとも思えんが聞きたいことがあれば何でも聞くが良い。嬢ちゃんに対するポイント稼ぎで真面目に答えてくれるわ」


 目の前でポイント稼ぐとか堂々と言うのはどうかとミツキは思うが合えて口は出すまい。そうする事にした。



「えーと、ではイケちゃんさん? とお呼びしていいでしょうか」

「おう」

「それでは質問なのですが……お母さんとはどこまで本気ですか?」

「どこまでも」

「それは結婚を視野に入れて?」

「望むなら」

「ならば良いです」



 バカが増えた……! としか言いようの無い目の前で繰り広げられる会話にミツキは頭を抱えたくなった。

 しかし、娘は当然としてイケちゃんとの付き合いもいい加減長いのだ、下手に構ってやると調子に乗るのは判りきっているのであえてどこ吹く風と言う態度でお茶をすする。あまり旨くない。



「お母さんの突っ込みも無くて寂しいので真面目にいきます」

「そうかね」

「んでは……イケちゃんさんは記憶喪失との事ですがいつから記憶が無いのですか?」

「ある日、目が覚めてからだ。自分の家で目が覚めたと思うのだがその家を探しても特に何も無い。あったのは俺の体とベッドと鏡とエイエイオー……船とその他、俺の子分達くらいだな」

「へえ、自宅に自家用の船があるなんてすごいですね。リッチマンなんでしょうか?」

「知らん。興味も無い」

「さ、さいですか……」



 記憶喪失という事は聞いていたが具体的な内容も興味が無く聞いてなかったのだが、随分とヘンテコな経歴のようだ。

 自分の容姿が良いという事にやけに拘っているように感じたけどひょっとしたら家にあったのが鏡しかないとかそういうのも影響なのかしら……と、どうでもよさ気に考えながらミツキは無関心を装い煎餅をかじる。硬い。



「ではイケちゃんさんの居た国はどんな場所だったんでしょうか? 文化形式とか国ごとに大きな差が有るのを期待したいのですが」

「知らん。俺が居た島は特に見てないが俺の家以外の自然物以外のものといえば島のど真ん中当たりに建ってた変な柱くらいだな。興味も無かったんで調べずに出たが」

「はぁ!? 柱……いや、興味も無いって……なんでそんな」

「俺は元より栄養補給も休眠も必要としない体だからな。風景やら自然物には興味も無いし建築物もそこに知的生命体の居る気配が感じられなければそれもただの風景の一部だ。とりあえず人の営みに振れようと思って島を出るのも当然の事であろうよ」

「うん? ……イケちゃんさんってヒューマンじゃないんですか? アンデッド?」

「一応この島で学んだ知識に照らし合わせる限り俺はアンデッドではないと思うが人間でもないな。俺はただ俺だ」



 当たり前のように言うイケちゃんだがその発言内容には娘だけでなくミツキもたいそう驚いた。

 無表情を装おうとしたが失敗するほどには。

 ミツキはてっきりイケちゃんはヒューマンの魔術師か魔道士だろうと思っていたのだがヒューマンどころか人間ですらないとは。


 ちなみにこの世界では人間とは基本的にヒューマノイド(人型)を指す言葉である。外見も体質にも特徴がみられないヒューマンを人間と呼ぶものも居るが案外少ない。少なくともラリアット王国では少数派である。



「人間ですらないとはビックリですね……イケちゃんさんは新生物なんですか?」

「いや? 一応この島……いや国か。に、来た時にチェックさせられたが俺は生物ですらない。まぁ細かいことは流せ」

「あ、はい」



 細かくない! と突っ込みたくなったが突っ込まないと決めているミツキは羊羹をムシャムシャ食べお茶を飲み気を落ち着ける。とても美味しくない。



「じゃあイケちゃんさんは今までどんな旅をしてきたんですか?」

「住んでた家を出て島を出て、ここに着いた」

「そんだけですか?」

「まぁ道中色々あったが自分の住んでた場所の次に到達した陸地はこの島よ」

「う~ん……旅人って言ってもあんまり期待してるほど外の情報は聞けないんだぁ」

「記憶喪失だからな。仕方あるまい」



 店で自分も大概だけど、この子も随分と失礼な態度を自然に取るなぁ……と、ミツキは思いつつも娘は客商売じゃなくて開拓者なんていうよくわからん職業だし一般的な物差しで計っちゃだめなのかな? なんて複雑に考える。

 ちなみにどんな職業でもこの失礼ップリはアウトである。



「ところで道中あったという色々とは?」

「うむ、光る雲をつき抜けてフライアフェイ、なんか雲の中で龍に喧嘩を売られたので殺し、下の雲にでかい穴が開いてるのを眺めてたら空賊どもが何度も襲ってきたので何度も返り討ちにしてと短い期間だが血塗られた旅であったよ」

「雲? 雲海の下からって事ですか?」

「いいや、なんと言うのか……俺の居た島を囲むように固まってたドーム状……いや、球状と言うべきだな。そんな形のでかくてぶ厚い雲よ」

「ブーッ!」

「うわ汚ッ! お母さん汚い!」



 突っ込まないし心を動かすこともすまいと決めていたが限界は早く訪れた。

 イケちゃんのせいで。



「吹きかけるなら俺にしてくれよ」

「いやいやいや、それよりもい、イケちゃんさん? あなた……世界の中心から来たって事ですか!?」



 世界の中心。

 世界に8つあることが確認される雲の滝、それらは一つ一つが大きく距離をとり円状に配置されていてその中央に当たる部分には巨大な球状の雲の塊があるといわれている。

 その雲の塊の中に何があるかは判っていない、一説にはドラゴンの巣であるとも言われあるいは人の世では計りきれない財宝があるのではとも言われている。

 判っているのはそこに何があるのか判らないということだけ。

 そんな誰でも……そう、ミツキでも知ってるような伝説の土地からやってきたということになるのだからそりゃビックリもするってもんだ。




「あー汚……それにしても世界の中心か……私自身はあんまそこらに興味なかったけどイケちゃんさんがそこから来たってなら、イケちゃんさんの持ってる技術もその世界の中心のものと言うことなんでしょうか?」


 母が驚くのも当然のことではあるのだがサミング自身は世界の中心なんて、なまじ開拓者を目指すための勉強をこなしているためにその遠さが良くわかり、ぶっちゃけそれ程に興味を引く事柄ではなかったりする。

 彼女の興味はむしろ自分の手の届く範囲の事や、自分の手を伸ばすための知識や技術にある。


「世界の中心なー……ま、そこら辺は良くわからんが俺の持つ知識や技術なんかはあんま大っぴらに広げちゃイカンと言われてるのでそこら辺はノーコメントだ」

「えー、知りたい知りたーいー、とかぶりっ子してもダメですかね」

「ダメ」

「今ならお母さんもつけます! って言っても?」

「!? くっ! ぐぬぬ……だ、ダメだ」

「ちぇー」

「すまんな。軽々しく交わしたとは言え約束だからな」



 とはいえそんな話を軽々しく割ってくれるわけは無いわなーと言う思いもある。

 そもそも技術に関しては今はものすごい速度で進歩していて追いつくのに必死なくらいなので更に追加なんてされたら逆に困る。



「ま、技術の放出はダメってのはしゃーなしですね。ところでイケちゃんさんの船って世界の中心から来たって事はあの雲を越えたんですよね? あの曇ってなんだったんですか?」

「さあな。俺も興味持ってなかったんで見た限りの事しかわからんよ」

「興味持っててくださいよ……」



 聞きたい事の大半は記憶喪失だとか興味が無いから知らないとかでにっちもさっちも行きやしない。

 とは言え全く聞くべきところが無かったわけでもない。


 今回サミングがホーガン町からハンマー町まで来るのに乗っていたトラックが運んでいたモノが何であるかは知れた事。

 4台中2台は素通りしてエルボー町まで物資を運ぶが残りの二台のうち一台はこのハンマー町に、最後の一台はホーガン町まで戻して往復の際の消耗を確かめるための検査に使うらしい。

 そしてホーガン町からハンマー町までのトラックの荷台で何を運んでいたかと言うとバイクの部品だと言う。

 イケちゃん自身の技術でなくラリアット王国で新しく開発した物なのでイケちゃんも情報公開を止められていなかったという事でバイクとやらが何かを聞くことは出来たが二輪の自動車なんて何の意味があるの? と当然の疑問を言ったらえらい怒られたものだ。

 まぁ合理的ではない物でもこだわりと言うのは有るのだろう。

 男なんてそんなもんだ。


 その他、空賊と接触した時のイケちゃんが取った対処法やから割り出した新しい船に乗った時どういう対処をするのが良さそうかという考察やこの町の風俗店はけしからんと言うお話などなど。




 聞きたい事の大半は記憶喪失だとかで聞けはしなかったけど、話だけで得るものはあった。

 折角だからと夕食も家で済ませ、事あるごとに母にちょっかい出そうとするイケちゃんには引いたが。




 そしてイケちゃんも帰って夜も更けた頃。


「いやー、記憶喪失だとかのせいで色々話がぼやけてたにしても流石に現役の旅人、なかなか刺激になったわ」

「そういうものなの? 母さん良くわからないわ」


 ミツキは酒を飲みながら上機嫌な娘の話し相手をやっている。

 ちなみに娘はまだ11になるかどうかという年齢、オーガなら酒の一つや二つ飲んでも大丈夫なはずなのだがあまり発育もよろしく無く、ついでに中身も子供っぽいために未だにお酒に弱いのでジュースを飲んでいる。


「いやはや、しっかしこの国に来た旅人って知識人なわけだし年寄り系を妄想してたんだけど意外と若くてかっこよかったわよね。生物でもないって言ってたから年齢はあんまあてにならないっぽいんだけど」

「言ってたわねぇ。アンデッドとは違うものだとか言ってた気もしたけど母さんよくわからないわ」


 この世界では元から種族がやたら多いし、ラリアット王国ではいないので大昔の与太話程度のレベルだが外国では知性のあるモンスターも人の仲間として暮らしに浸透しているなんて話もある。

 ゆえにミツキも娘も特にイケちゃんの正体にどうこう思う事は無かった。

 ミツキは元々いろんな種類の客が来る風俗に勤める女であったから、娘は開拓者になるために知識だけでなくそういった文化の違いにも対応できるようにとしこまれているから。


「所であの人がお母さんの新しい彼氏なのよね? 結婚は私が居るうちにしてくれる方が嬉しいかと思うんだけど……そもそも旅人だしお母さんもあの人に付いて行くの? それともあの人をこの島に縛り付けるの?」

「ぶー!」

「うわ汚っ!」


 娘の妙な発言で盛大に酒を噴出すミツキ。

 まぁそれも当然。


「彼氏じゃないっての」

「またまたー、あんな美形に求められて正直悪い気はしてないでしょ?」

「さてねー」


 正直な話、微妙な所だが期待はしないし本気になるつもりも無いのは本当のこと。

 それに


「私はこの年で今更新しい生き方できないから国外に出たいとか思わないし、かといって縛り付けるつもりにもなんないわよ」

「えー? でもイケちゃんさんは生物でもないんだしお母さんの寿命が尽きるまでくらいこの島に縛り付けたってバチ当たらないと思うんだけど」

「はいはい、そういうこと言う前にサミィこそ彼氏の一人くらい作りなさいよ」

「……っで、出会いが無いだけよ!」


 こんな会話もあと何度出来ることやら。

 娘が国を出るまでの期間、何度家に帰ってこれるのかは知れないがそれに関してはもう判りきったことで受け入れている。

 別れの時までの時間もそんなに無いのだろうけど、これから先の娘の人生がどうなるかなんて学の無いミツキには判りようもないが、せめて楽しく過ごして欲しいと願う。


「それじゃーあなたが開拓者になって外に出て新しい出会いがあるように願ってるわ」

「ちぇー、なに綺麗にしめないでよねー」


 娘も眉を寄せてブーたれているけど、そんな姿もまた愛おしいと思った。






 それから数日後。


「これがトラックとやら? でっかいわねぇ……」


 サミングは短い休暇を終え再びホーガン町へと赴くのだが。


「お母さん田舎者丸出しよ」


 サミングが乗るトラックを見てミツキだけでなくハンマー町の近所の住人達も「あれは何だ」「前も見たぞ」だとか言ってざわざわしてる。

 近所の子供なんかはトラックを触って「たっちー!」とかいって素早く逃げたりして遊んでたり。


「ま、始めて見たらビックリするわよね。これがトラックよ!」


 どや!


 っと、自分が作ったわけでもないのにサミングは大して大きくもない胸をそらして威張る。


「ふーん、こんなのが走るなんて信じられないわ……カバより速いのかしら?」

「カバどころか! めっちゃんこ速くて沢山の荷物を運べるわよ!」

「へー、ほー、ふーん……ま、母さんそんな難しい事わからないからどうでも良いわ。あなたちゃんとこれ動かせるの?」

「そりゃ来る時も運転してたの私だし! それじゃそろそろ行くわ」

「元気でね」

「また一月もしたら戻ってくるからその頃にはお母さんも結婚とまではいかなくてももうちょい進んでてよね」


 サミングは捨て台詞を吐いて素早くトラックに乗り込みトラックを発進させる。

 サイドミラーに映る母が一拍以上遅れて騒いでるっぽいがまあ暫く会うことも無いのでその頃には忘れてるだろう。

 笑いながらサミングはアクセルを大きく踏み込んだ。



 ハンマー町の料理や酒はいい土産にもなるし重いものを運んだ時のトラックの負荷を調べるためと言うのもあり、トラックの荷台は食料や酒で満載。

 運転には慣れてるとは言え安全運転は大事である。

 運転中はついついアクセルを踏む足に力が入るが。


 トラックを発進させたサミングは助手席に座るオッサンと供にホーガン町へ進む。

 自分の横でグースカ寝てるオッサンを羨ましいと思いながら。



 そんな折、トラックのに向かって道の脇の草むらから人が何人も飛び出してきた。


「え」


 ブレーキを踏む暇もなく、飛び出した者たちにトラックが激突。

 そして爆発音が、聞こえた気がした。

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