3・強キャラは簡単にモテて羨ましい
ここに来るまでいろいろあった。
イケちゃんはここに至るまでの経緯に思いを馳せる。
記憶喪失なのでイケちゃんには思い出なんて言うほど長い記憶は無いが、それでも感無量であった。
目が覚めて鏡を見ながらカッコつけてたら不気味なミイラマンを見てビックリ仰天したり。
ちょっくら自分が寝ていた屋敷を散策してみても何も無い空っぽの屋敷だったり。
とりあえず出発したら急に目の前に雲の壁が立ちふさがったり。
その雲の壁の中を突き進んでいたら下品な龍が喧嘩売ってきたから殺して食って不味いから捨てたり。
わけわからんデカイ穴を発見してなんじゃらホイと思ってたら空賊に襲われたり。それも沢山。
そして、島についてもお金が無い事が判明したり身分が不鮮明だから町に入る資格が中々手に入らなかったり。
「そんな数々の試練に耐え、俺はついに人の営みのある町へと足を踏み入れたのだった」
「誰に説明してるんですか、その独り言は」
イケちゃんは配下の働きによって各種研究機関から技術や情報の見返りとして少なくない金を貰っていた。
お金の価値もいくらでどのくらいの買い物が出来るのかの大雑把な情報も暇な時間で学んでいる。
町の情報もしっかりとゲットしているので彼は迷う事無く目的地まで突き進む。
セクキャバへ。
ちなみに真昼間から。
「金貰ってやる事がそれですか……はぁ」
ミイちゃんの声に何となく疲労を感じるのは気のせいではあるまい。
「きゃっ、んもうっお兄さんえっちー」
「よいではないかよいではないか」
「あはは、お兄さん綺麗な顔してオッサンみたい」
「オッサンだー」
「オッサンみたいだと? ただのオッサンがこんな金払いが良いわけあるかい!」
「キャー! お大尽さまぁ~」
「お大尽ではない、イケちゃんだ」
真昼間からこんな店で遊んでいるとは本当に大した身分だわ。
キャバクラ『五秒以内なら大丈夫』の店主、ミツキはそう思いつつも別段にそれ以上の感想は持たずに今日始めてきた新規の客の豪遊っぷりを眺める。
この店では先払いでお金さえ出せば空いてる子なら複数の子と同時に遊べるわけだがそれでも1人で3人同時と言うのも豪気と言うか何と言うか。
この店で客を相手に働く子は種族は様々だが共通して若い……幼いとさえいえる位の年齢や容姿の子を雇っているわけだがその分お客さまに対する対応もお上手とは言えない拙い子も多い。
だから新規のお客さんに対しては多少神経質になる。
店の子達には最低限の教育を施してからでないと客の前に出さないようにはしているがそれでも経験不足から初めての相手に対して不快に思われる事をしてしまうかもしれない。
それでその客が気分を害して来なくなるくらいならまだマシなほうだが暴力を振るうタイプの客なら大問題になる。
暴力沙汰を起こされてから追い出すにしても殴られた子のショックの方が大きいから。
そういう客は大概は金を人より持っていて気が大きくなっているだけの小物というパターンが多いので最初は注意して見ていたのだ。
この店は昼と深夜をやっているが昼は夜に比べ客が少ない。
それでも客が店の扉を開ける前に何かを感じる、なんて事は普段から勘の良い彼女にとっても初めてだったのでその客に大しては普段よりも大きい注意を向けていた。
アンデッドの従者を引き連れていることから外道の魔術師か何かかとは思うのだがそれ以外はただの人間の男にしか見えなかった。
黒髪黒目で白い肌、顔は整っていて人間にしては背が高く、その背に対してひょろい印象もないが外見からはそれ以上のものは見て取れない。
魔術師か魔道士か、どっちにしろ基本的にそういう輩は自分の趣味だか研究だかに没頭するタイプなのでこんな店に来るのは珍しいがそんな例が無いわけではない、そして魔術師や魔道士は結構金を溜め込んでいるのでこの男もそういうタイプなのだろう。
現に連れているアンデッドを酒も飲まないのに店に入れて自分の近くに立たせる分の代金として少なくない金を前払いで落としているのだし。
で、やってる事が若い子を複数侍らせてお触りや酒を飲んだりお高い料理の食べさせ合いっこといういたって健全な遊び。
若い子ばかりをを働かせてる店だというのを知った上で入ってきたのだとすればそういう趣味なんだろうが、それを別に非難するつもりは無い。
自分も若い頃はそういう趣味を持った相手に商売をしていたわけだし否定するどころかお金を落としてくれるいいお客さんとしか見れない。
好きか嫌いかで言えばクズ野郎だなぁと思うだけで。
「ふう」
と、一息。
どうやら心配は杞憂だったようで。
アンデッドを連れて歩くようなやつだから頭のおかしい魔術師ではあるのだろうけどそれ以前にただのスケベみたいだからそんなに注意しなくてもいいかな。
そう思い少し気を緩めていたから
「そっちのかわい子ちゃんも暇してるんならこっちおいで」
そんな声が誰に掛けられたのか、気付くのにワンテンポ以上遅れてしまった。
「……はぁ!?」
いや違う。
そうじゃない。
反応が遅れたのは気を緩めていたとかそんな事は原因じゃない。
「一人で寂しくつっ立ってるより俺の膝の上で座って休んだらどうだ?」
軽くため息をついた瞬間は目を離していたかもしれない。
でもそのくらいの小さい間でしかなかった。
そんなに注意しなくても大丈夫と気は抜いたがそれでもその男に気を向けていたはずなのに、気付いたらその男の黒い瞳に自分の顔が写っているのが見えるくらいの距離まで接近されていた。
しかもご丁寧に腰に手を回していたりするし。
店の全体を把握できるようにとこの手の店としては普通くらいの広さの部屋の真ん中付近に立ってたわけだが、少し離れた位置に座ってた男がこんなに接近するまで気付かないなんて有り得ない。
「な、な、なっ」
その事実に驚いて年甲斐も無くアタフタしているとその男は何を勘違いしたのか
「ふふん、照れるなって。こんな店で働いてるくせに意外と初心よな。かわいいやつだ」
とか言い出して気付けば軽々とミツキをお姫様抱っこで持ち上げ抵抗する間も与えずにさっきまで座っていた席に腰を落とす。
お姫様抱っこを継続したまま。
「わぁーおママンもお相手させんの?」
「イケちゃんてこんな店に来るくせに年上好きー?」
「美人だからって年齢とか関係無しなんて見た目の割りにけだもの系~」
すると男の周りに座ってた子達も大はしゃぎ……ていうか多少以上に客に対して失礼な発言も。
いや、遠くから見ていた限りこの男はそういう細かい事でどうこうするようなタイプでも無さそうなのでゆるい態度で問題は無いのだけれど。
「俺はけだものではなくイケメンだ。ていうかお嬢ちゃん俺より年上なのかい?」
「おじょっ、お嬢って」
「お前のことだよ、とりあえず落ち着け」
「はむっ」
自分でも何と言おうとしてたのか、そんな事は判らないが思わず口をあけたらその口の中にプチトマトをつるんと入れられ思わず黙る。
ついでに指まで口の中に突っ込まれ指先で舌をくにゃくにゃと玩ばれ変な息が漏れる。
「ママンが綺麗だからってお嬢ちゃんはちょっと無茶じゃない?」
「だよねー」
「そうかね?」
「ママンはオーガだから年齢の数字自体は若いと思うんだけどね」
「あー、種族格差か。まぁ寿命的に見て生の半分を超えちゃいるかも知れんが大した問題ではあるまい」
そう言ってちゅぽんっ、とミツキの口から抜いた指を自分の口に含む男の頭を咄嗟にはたいてしまったのは多分仕方の無い事だろう。
「ッなにしてんの!」
「間接キス」
彼女は頭を抱えたくなった。
この状況とかキャーキャー言ってる子たちとか。
「はぁ、お客様? あまりからかわないで下さいな。私はこの店のオーナーでして特定のお客様をご贔屓に、と言うわけにはいきませんの」
「ははは、真っ赤になって照れおって、本当に可愛いやつだな」
「言葉が通じないっ」
周りの子達が便乗して可愛いだの何だの言って盛り上がるからついに頭を抱えてしまったり。
正直何とかして欲しい。
オーガは種族として生命力に優れて体力が高く体が頑丈ではあるが基本的に寿命が短い。
平均で30~35生きるくらいでミツキの年齢はもう28である。
お肌の曲がり角はとうに過ぎてるし元から体を鍛えてるわけでもないから最近は肉もたるんでいるしで、とても可愛いなんて言われるような容姿ではないと言うのに。
「かわいい!」
「かわいい!」
「かわいい!」
「かわいい!」
なんて、客のその男だけでなく店の子たちも一緒になって盛り上がるのは一体何の拷問かと。
「可愛い言うな! コホッ、いえすみません。お客様も私のような年齢の相手をお求めでしたら違うお店に行くことをお勧めいたします」
「えー、もったいないよママン」
「ねー、イケちゃんお金持ちで顔もきれいなのにー」
正直な話、この男はお客としてみる限りは金を持っていて酒を飲んでも高圧的になるでもないので楽な客であり、リピーターになってくれた方が嬉しいくらいの相手なのだが、さすがに無理だ。
はずい。
「んん? 俺はこの店で楽しませてもらっているぞ?」
それなのに男は不思議そうな表情でそんなこと言って、現に店の子からすっごく割高なナゲットを
「はい、アーン」
「あむ」
とか言ってムシャリムシャリと食べさせてもらったり酒を飲ませてもらったりとしている。
膝の上にミツキを乗せ腰をガッシリと掴んで離さないまま。
「この店で楽しんでくれるのならそれは良い事ですが。でしたらこの店の可愛い子達でお楽しみなる方が」
「だから楽しんでるんだって。お前も含めてな」
「はぁ?」
客相手だというのに思わず、何言ってんだこいつとかそんな表情で呆けるミツキに男は頬ずりしながら同時に隣に座っているオーク娘のほっぺたをプニプにつつき
「例えば若い娘に比べて弾力が無い頬も」
そしてミツキの腰に回した手を上下に擦りながら同時にもう片方の手でリザード娘の背中周りの鱗をくすぐりながら
「ちょいとばかし油断した腹回りやゆるくなってる肉も」
その後、ミツキの短い髪を掬いつつ反対の手でドワーフ娘のボリュームの有る髪に指を絡めて
「乾いた髪の毛も、おまえ自身や一般的な目にどう映るのかは知らんが俺にはかわいらしく思えるものだ」
そんな事を言いながら、その男はミツキの頭を抱き込み頭に鼻を押し当てスンスンニオイをかいだり、額の両端に生えてる角の根元をコリコリ触ったりとやりたい放題。
「えー、それじゃ私達はー?」
「お前らも当然かわいいぞ。ほれ膝はもう片方空いてるから座るとよい」
「あははホントせっそー無いね」
「私もうちょっと高いお酒のみたいなー」
「おう良いぞ、じゃんじゃん頼め」
フォローと言うわけでもないのだろうが、店の子達が口を挟んでくれたので少し落ち着きを取り戻したミツキが男の膝から降り
「お客様、色々と世辞を言ってくれるのはうれしい事ですが私を指名なさるのは」
やめてください。
そう言おうとした時に店の扉が乱暴に開かれた音がした。
店中の目がそちらに向くくらいの派手な音で入ってきたのはエルフの二人連れ。
態度や雰囲気からごろつきとヤクザの中間くらいか、街中で見かけるとしても目をあわしたくないタイプだ。
ミツキは軽く店内を見回しすぐ動けそうな子の中でオークの子が居たのでそちらに目配せし行くようにサインで指示を出す。
エルフは基本的に異性のオークが好きだからそっちのほうが良さそうという判断で。
さっきまではアホ男のせいで少しかき乱されていたが彼女も子供の頃から水商売をやってたし、店を持つようになってからもそれなりの経験は積んでいるので判断は早い。
今入店してきた客の二人は財布事情は知らないがあまりいいお客とも思えない。
素行的な意味で。
今対応させている子だけじゃ文句が出るかもしれないので、できれば下手な事は言いたくないがアホ男に断りを入れて膝の上に乗せているオークの子も行かせてもらうよう頼まないといけないかもしれない。
下手に関わるとまた自分がいじられそうで嫌だけど。
そう思ってたら新規の客の二人組がギャーギャーとがなり立て出すのが見えた。
ここからじゃわからないが店に入る前から既に酒が入ってたのかもしれない。
真昼間だってのに、そう思いつつ仕方ないとオークの子に目配せしアホ男に事情を説明して一人を向こうに行かせて貰うよう頼めば
「おう、そんじゃその代わり」
さっきまでミツキを座らせてた膝をパンパン叩くアホ男。
やっぱりな!
ミツキはそう思ったが仕方ないので諦めアホ男の隣の席に腰を下ろした。
「はぁ」
「ため息ついて嫌がってるフリするとかそういう細かい芸もかわいいな」
「フリではありませんわオホホ」
ま、このくらいの皮肉を言ってもバチは当たるまいて。
そんなこんなで、昔取った杵柄でアホ男に高い酒やら味と量の観点から明らかに不正価格なお食事を注文してもらいつつサービスをしているとそれが起こった。
「調子こいてんじゃねえぞクソガキゃあ!」
「きゃっ!」
ガシャン! とガラス瓶の割れる音とドタッと何かが倒れた音。
音の発生源はさっき来たエルフ客×2のテーブル。
エルフ客の片方が、酒のせいか怒りのせいか顔を赤くして怒っていてもう片方の客はヘラヘラ笑いながら嫌がるオークの娘に抱きつきながら首筋に舌を伸ばしていて、もう一人のオークの娘は床に倒れている。
ついでに床に散乱した酒瓶やひっくり返った皿やらを見ればそりゃまぁ何が起こったかはアホでもわかる。
「ちっ」
やっぱり客に付いたりなんかせずにちゃんと店全体に注意を向けていればよかった! と、ミツキが舌打ちして立ち上がろうとしたら
「まぁ待て」
と、ミツキの手を引いて引き止めるアホ男。
遊んでる場合じゃないってのに! と毒つきたくなるがそんな事よりも店の子の方が重要だからと店に詰めている黒服を呼ぼうとしたのだが
「すぐ収まるって」
何でも無い事のようにアホ男は言った。
そして
「止まれ」
気付いたらアホ男が連れていたアンデッドがいつの間にかにエルフ客の後ろを取っていた。
「え?」
さっきまで確実にあんな所には居なかった筈なのに。
いつの間に動いたのかと言うのも気になるし、そこそこ離れた距離でアンデッドの声は低く渋い声で抑え目のそれ程大きな声ではなかったはずなのにやけにハッキリと聞こえたことも不思議だった。
それだけではなく、ゴロツキっぽいエルフ客が動かない。
アンデッドが何かしたのだとしてもそれならもう片方の客が何某かの反応をしそうなものだが、それもない。
二人を相手に何かをしたという事だろうか?
「イケちゃん様、どうなさりますか?」
「ふむ……なぁ嬢ちゃん。一応客商売って事はあんま痛めつけたりして追い返すと角が立つだろうし適当に酒飲んで楽しんだ記憶でも植えつけて店の外に放置させていいのかね? それともああいうオイタする客はこの店の暴力担当がボコボコにして二度と来たくなくなる様に調教するのか?」
「あ? え、ええと……」
言葉に詰まる。
嬢ちゃんって呼ぶな、とかのツッコミすら出来そうにないが。
「あー、ええと……普段は客の暴れっぷりに対して対応を変えちゃうけどあの子も突き飛ばされただけっぽいのかしら? 怪我をしてなさそうだし……」
黒衣のアンデッドが見た目の印象と違い優しげな手つきで倒れたオークの娘を立ち上がらせ怪我をしてないかを調べているのが見えるが、顔が腫れてる訳でもないので突き飛ばされただけだろうか? と思われる。
できればちゃんと見てあげたいけど。
「もしウチの子の顔に怪我でもあればボコボコにしてたけどそうでもないなら……まぁ『ちょいと問題はあったけどウチの暴力担当に軽く注意された後は行儀良く楽しくお酒を飲んで帰りました』って思わせる事とか……できるの?」
自分で言っててそんな都合良い事できるわけねー、なんて思ったものだが
「だってよ。ミイちゃん適当に頼む」
「かしこまりました。では……娘よ、この店で一番安い酒を」
アンデッドは自分が立ち上がらせた娘にそう支持すると軽く腕を挙げ指をクイッと折り曲げる。
するともう立っていたエルフ客と座っていたエルフ客が意思のない人形のような動きでノロノロと歩き出しアンデッドの前に並ぶ。
「よーしお前ら催眠術が効いたな。ゴロツキマンよ、浮けー!」
「は、はい……ゴロツキマン、浮きます」
そしてアンデッドが無茶な命令をするとまるで糸で釣られているかのように二人のエルフ客がフワーッと浮かび上がった。
これには店中のほぼ全員が絶句した。
驚いていないのはそのアンデッドの主人のアホ男くらいだ。いや、あんなアンデッドの主人をただのアホと言っていいのだろうか?
そんな驚きを知ってか知らずか、アンデッドはエルフ客を再び地に立たせると娘に持ってこさせた安酒の瓶の飲み口を指で切り取り、その酒を二人の男に交互に半分ほど飲ませ残り半分を頭からぶっかけた後
「お前達はこの店で多少羽目を外して暴れそうになったがこの店に勤めている男から威圧的な注意を浮け自重を覚え、それからは酒を飲みながら楽しく散在して千鳥足で店を出た後、通りをいくつか過ぎたあたりの路地裏で寝たのだ。いいな?」
「は、はい……俺達は酒を飲んで暴れかけたけど店のヤクザが怖いので酒を飲んでもあんまり調子に乗りすぎ無い事を覚えてイイカンジに酔っぱらって店から出た後いくつか通りを過ぎた先の路地裏で寝ます」
「ふむ、そして領収書は貰っていないが金に見合う分は楽しんだな?」
「は、はい……散財したけどとても楽しいひと時でした……」
そんな会話を繰り広げた。
エルフの客二人は懐から財布を取り出しかなりの額をそれぞれ相手をしていた娘に握らせると肩を組み合ってフラフラと入り口まで歩いていき、そのまま店から出て行ったのだった。
「な、なにあれ……」
「催眠術の一種だな。それなりに強力なものだからもし本来の記憶を引き出させようとすれば脳に負担がかかって運が良くて廃人、まぁ下手なやり方だと脳味噌が爆発すると言ったところだろうよ」
あまりに不可思議かつ滅茶苦茶な光景に思わず出たつぶやきは別に説明を期待していたわけでもないのに丁寧な説明が入った。
この男は従者のアンデッドでさえそんな無茶な技が使えるというのか。
学もなく魔術やら魔道というものに疎いミツキでもそれは異常なことだと思った。
思わずに男の顔を凝視すると
「惚れんなよ? いや、やっぱ惚れろ」
それは無いわー、と、冷静になれた。
しかし
「キャー!素敵!」
「かっこいい!」
「超クール!」
「イカスー!」
「抱いてー!」
と、店の子は冷静になるどころかお熱になったみたいで凄く盛り上がっている。
黒衣のアンデッドの周りで。
辺りを見回すと、他のテーブルに付いていた子達まで自分の客をほっぽってアンデッドの周りに群がる始末。
お客さん怒るんじゃ……なんて心配もしたが自分の指名した子がそんなになってるというのに客たちのほうも
「ほっほっほ、大した御仁じゃわい」
「フッ、あんたにゃ負けたぜ」
とかとか、どうやら納得しちゃっておられるようでミツキはホッとした。
「あ? ……あ? なんでミイちゃんがモテてんの? 俺のほうがイケメンで指示を出すだけで自分は動かないクールっぷりも発揮したのに……あれ? あれ?」
一方、ガタガタ震えてうろたえている自称……いや、実際に整った顔をしたイケメン男。
店の子達に群がられても丁寧な対応をしてやんわりと仕事に戻りたまえとか言ってるアンデッドに比べてカッコ悪いところを見せる男を見て
「プーくすくす」
ついつい笑いが漏れてもきっとそれは仕方が無い事だろうとミツキは思った。