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2・主人公はアホの子ではない

 記憶の無いイケちゃんはつい無意識でお金のやり取り=カードで、という図式を頭の中に入れていた。

 しかしここではカードが使えないと言われ逆になんでカードがお金になると思ったんだろう? なんて自分で首をかしげる結果となった。

 しかしそこはたいした問題ではない。

 今一番重要なのは


「金が無ければいかがわしいお店で女の子の乳を揉んだり腰に抱きついたり太ももスリスリとかできんではないか」


 と、言うことである。


 お金が無ければ労働すればいいじゃない、という事で労働すれば手っ取り早いのだが。

 イケちゃんだけでなくエイエイオーの関係者は基本的に飲まず食わず休まずで労働できる上に体力も生物以上のレベルなので労働力としては最高レベル、イケちゃん自身が働いたら負けと思ってたりする訳ではないので働くことは吝かでは無い。


 しかしイケちゃんはふと思ったことを口にする。


「技術提供とかでは金にならんかね?」


 と。


 実際エイエイオーに使われている技術は現在のこの世界においては有り得ないレベルである。

 ドラゴンエンジンは伝説やお伽噺にすら荒唐無稽すぎて使われることの無い無茶な技術であり、装甲に使われているメチャカタイ合金も解析や分析すらしようのない不思議な金属としか言いようの無い物質なのだ。

 イケちゃん自身が技術の出し惜しみをするような性格ではないので技術公開に対して忌避感を一切持っておらず、積極的に放出して良しという気分だったりする。


 だが原始時代にパソコンを一代持っていったとしても使いようが無いように、エイエイオーの技術は世界の水準と比べて高すぎるために、仮にエイエイオーをそのままポンと渡されても彼らには手の出しようが無い。


「駄目かなぁ」


 そういうことでイケちゃんが八方塞に悩んでいると部下の内の一体が手を上げて


「自分がある程度こっちの技術に合わせて指導しますが」


 と、言い出した。


「おいおい、記憶喪失でも俺知ってんだぞ。お前らを作ったのは俺だろうからな。お前らは俺ができない事はできないはずだ」

「はい、我々はイケちゃん様に作られた者だと思われます。過去は思い出せませんが船に関する作業を一手に任せるように作られたのだと思われます」

「だろ? お前らはエイエイオーの操作以外できまい」

「いえ、それがどうやら船に関する事なら大概はできるようで……自分でもなんでそんなことが出来るのか不明なのですが船に関することであれば世界の技術水準に合わせた知識を持っているようなのです」

「……なんで?」


 イケちゃんはちょっと混乱した。

 自分が作ったという事は自分の認知内の存在でしかないはずだ。

 辞典を作る人も自分の知らない知識を辞典に書けないように。

 なのに、イケちゃんの子分であるエイエイオーのクルー達はイケちゃんができない事……今の世界の技術水準に合わせた技術の提供が出来るという。

 なんで? と思わざるを得ないことであった。


 一応言っておくとイケちゃんはアホの子に見えるが丸きりアホというわけでもなくエイエイオーに使われている技術くらいはどういうものかを理解しているし、自分がやることじゃないとは言え壊れた時の修理法だって知っているのだ。

 やらないだけでやろうと思えば大概の事は自分でできる。

 だがこの世界の今の技術レベルに合わせて何かを教えるというのは難しく感じている。

 技術格差が大きすぎて。


 それを子分ができるというのはなんでだろう、それが不思議でならなかったのだ。

 まぁ出来るというのなら出きるのだろう。

 そういう訳でイケちゃんもフーンと言う位に感心していたらその事を知った空港の人が


「マジすか! だったらちょっと技術屋とか呼んできますんでご指導お願いします!」


 なんて大興奮。

 イケちゃんは一応


「技術指導をするって事はそっちの技術とかもこいつらが見ちゃう形になると思うけど大丈夫なのか?」


 と、聞いたがイケちゃん達の技術のほうが圧倒的に上なのでイケちゃんたちにここの技術を盗むメリットは無いと言いきれるので技術提供された旨みだけをこの島……というか国が得られるという事らしい。



「ま、何でもいいや。うちの技術提供は金になると思っていいのだな?」

「それはもう。出来れば首都の方からも技術者を呼んで徹底的に……」


 やたらと盛り上がってる人たちを見てイケちゃんは偉いグダグダになってきたのう、とボンヤリ他人事のような気分である。



 そうして一月が経つ頃にはあれやこれや。


 最初はエンジンの形状や使われている金属やらの素材による限界。

 その後は新しい金属の精製や燃料用の魔術触媒の開発。

 そこから発展した今の世界の人間の魔術に対する理解の足りなさへの指摘、あるいはイケちゃんサイドの今の世界に対する知識不足による齟齬からの新しい発見など。


 さまざまな意見交換を交わすイケちゃんの配下達とこの島の技術者達。



 その間イケちゃんだって暇を持て余してただけでなくそれとなく周りから一般常識というものを学んでいたのだ。



 例えば現在の世界では無数に存在する島々、そのいくつかの群島を一まとめに国として成り立っているのが殆どであること。

 彼らが知るだけでも世界には大小合わせて100を超える国家があるが諸事情……モンスターなどの異常増殖による国の滅びや国内の派閥の意見の食い違いから来る内乱などで減ったり増えたりとしていて正確な数はわかっていないらしい。


 ちなみに陸地のサイズで言えば北海道くらいの面積があれば大陸と言われるらしい。

 大きい大陸となると本州を少し上回るほどの島もあるとか。

 さらにここ1000年ほどは今までに陸地が無かったはずの、雲海しか見えなかったはずのポイントにも下から盛り上がったとしか思えない陸地がチラホラと見え、その新しい陸地を発見すると言うのが一時期ブームになっていた時期もあるらしい。



 他にも魔道士や魔術師のことなど。


 魔道士とはどちらかと言えば学者、研究者の側面が強く魔道士の技はそのものの才能の差異はあれど理屈の上では学べば誰でも同じ事ができるものである。

 魔道士の作るものは様々で、ただの物理現象を起こすだけのアイテムもあれば魔術の触媒に使われるものを代表とされる異常な現象を起こすものまである。


 魔術師とは魔術と呼ばれる力を使うことが出来る者。

 この世界は目には見えないが世界中のどこもかしこもが異世界と重なっているとされており、魔術はその違う世界から力を引き出し超常現象を起こす者、と言われている。

 その能力は生まれつきの才能に左右されすぎるもので種族に関わらず才能の無いものではどれほど努力をして肉体改造に手を染めてもたいした魔術は使えないとされている。


 魔道士と魔術師は細かい分類では違うものとされているが、本人達、特に魔術師側からはそれ程呼び名に拘っていることは無いようで、魔術を使える者でも魔道士を名乗るものも少なくない。

 それは元からして生身の、身一つで他の世界との境界をなくし異世界から力を引っ張り出し奇跡の技を使おうにも、個人の力ではたいした力が出せないからである。

 魔術師が大きな奇跡を起こそうとするのなら魔道士の開発、調合する触媒を使い他の世界との境界をゆるめ、そこから更に境界を広げる作業を自分の精神力で行い、広がった世界のゆがみから異世界の力を呼び出すと言う工程を踏むので、彼らからすれば結局は強い力は魔道士の技術で起こすもの、と言う認識になっているかららしい。


 もっとも国によっては魔術師の力をこそ信仰の対象として敬われている所もあるらしいので旅を続けていると魔術師と魔道士を混同して相手の機嫌を損ねることもあるかもしれないので気をつけないといけないとも学んだ。


 さらに魔術師の亜種で超能力者という者もごくまれに存在する。

 彼らは魔術師と違い他の世界から力を引き出すのではなく、自分達の内面から力を引き出し奇跡を起こす。

 それだけ聞くと魔術より凄いのかと思われるが実際のところは一人分の内側から出る力でしかなく、その出力は鍛えたところで低い。

 そして超能力とは突然変異のようなもの、一代限りの能力で終わってしまうものが普通なので大して人々に見向きされていないらしい。


 魔道は学問であり学べばそれを力に出来る。

 魔術は才能に左右されすぎるとは言え、技術でありこれも経験を蓄積し後の世代に残すことで少しずつでも発展をさせることが出来る。

 それに比べて超能力は一代限りでしかないので、仮にその者がどれほどの高みに到達しようと次に続かないのであまり意味がないというのも超能力者の地位の低さに繋がるわけだ。



 ちなみにイケちゃんの空間跳躍や、エイエイオークルーが使う言葉などもどうやら超能力に分類されるものであるらしい。

 本来は魔術に比べショボイ奇跡しか起こせないはずの超能力で魔術師や魔道士以上の奇跡を起こしてはいるが、それはあくまでイケちゃん及びエイエイオークルーが凄いだけで、他人が参考に出来る技術ではないということでこの国の魔道士や魔術師の人々なんかは


「ふーん凄いですね。でも我々にとってプラスになるわけじゃないですよね」


 と、結構ドライな反応であった。



 エイエイオーのクルー達の魔道士的な部分の技術は彼らにとって実りのある物であったようで、船の製造業だけでなく魔道士だけに留まらずありとあらゆる技術者達が日夜押しかけあれやこれやと盛んに技術教諭を受けている。

 それに対してイケちゃんは邪魔にならないようにと隅っこのほうに追いやられバナナをむしゃむしゃ食べる日々である。


「俺の扱い悪くね?」


 イケちゃんがそういうのも仕方ないことであろう。




 外国人であるイケちゃんがこの国で大手を振って歩こうとすればそれなりに手続きが必要である。

 仮にどこぞの国に所属している信用の有る人物、などであればそれほど長い時間を拘束されずに自由にお外を歩きまわれるのだが、イケちゃんは記憶喪失な上に持ち物がエイエイオーだけという超不審人物である。人ではないが。


 そんなイケちゃんが空港で足止めを食らうのは仕方の無い事で、数日くらいならば空港の職員や押しかけてきた技術者達と話を弾ませて暇をつぶせたが、それもそろそろ限界となりつつある。

 イケちゃんは飽きてきたのだ。


 なにせ空港の職員とは基本的に外からの不審者や危険物が島や町の中に流出しないようにと食い止めるのを生業とする人々である。

 男ばっかりだ。

 押しかける技術者達にいたっては男だらけ以前にやたらと目がギラギラした知識欲旺盛な老人だらけである。

 若いのもそれなりに居るのだが鼻息が荒くやたらとアクティブに動き回ってギャーギャー騒いでるのが老人なのでそちらに目がいってしまう。


「男ばっかでここもう飽きたー、町にいってイケメンの俺を見た女の子達にキャーキャー言われたいよー」


 そんな事を言ってゴロゴロ転がるイケちゃんの姿は到底イケメンといえるものではない。

 流石にそれを不憫に思われた……と、言うわけでもないのだが。

 イケちゃんがこの島をそれなりに自由に動ける権利はそれからすぐに下りた。


 イケちゃんは喜び勇んでミイちゃんを従え町に繰り出したが彼は知らない。

 島内を自由に動ける許可が下りたのはイケちゃんに対してというよりは、イケちゃんの子分であるエイエイオークルー達に対してのおまけ的な扱いであるということを。


 エイエイオークルーのもたらした技術の検証や実証、新たな実験をするためにも彼らをいつまでも空港なんかに縛り付けるよりも研究施設の有る大きな町に入ったほうがいいと言うことになり、そのオマケで


「そういえば彼らの上司のイケちゃんって人いたっけ、あの人どうする?」

「適当に金もたせてぶらつかせとけば良いでしょ。そんな悪い奴じゃなさそうだし問題は起こさないと思うしさー」


 と言った按配である。


「おっしゃー、いこうぜミイちゃん!」

「かしこまりました」


 そんなことは知らずに暢気なイケちゃんであった。




 ちなみに自分の主と別行動になってしまうエイエイオークルー達だが


「お前ら町に行かないの? 旅の醍醐味でお土産買ったりナンパしたりすればいいのに」

「我々はとりあえずこれからの旅を快適にするためにもここで技術を提供しつつさりげなく我々に足りない一般常識を学ぶことに専念しておきます」

「ふーん」


 てなもんであった。

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